「イノベーション立国」に向けた今後の知財政策・制度のあり方

2010年3月16日
(社)日本経済団体連合会

I.基本認識

わが国においては、少子高齢化、資源・環境制約、グローバル化、価値観・行動様式の変化、ICTの深化等による産業構造の変化が発生している。そうした中、成長を続けるアジア市場への対応や、世界的な資源・環境・エネルギー問題の解決に向けた取り組み、あるいはライフ・バイオ・医療分野、コンテンツ、ICTの利活用等を通じ、新しい需要を創出していくことが期待されている。

資源に乏しく人口減少も進展しているわが国が、今後持続的な発展を遂げ、国民生活の向上を図るためには、これらの需要の創出によって成長していくことが重要であり、そのためにはこれまでの経済成長の過程で蓄積されてきた有形・無形の知識・技術等の資産を、従来の延長線上にない手法や考え方も導入しつつ、最大限に有効活用することが必要である。そのためのカギは、イノベーションにある。

シュンペーターの著書「経済発展の理論」 1 において、イノベーションは「新結合」であるとされ、担い手が企業家であること、技術革新のみに限定せず市場や組織等、広い範囲で新機軸が発生するものであること等が説かれていることを、われわれは改めて想起する必要がある。従来、わが国においては、科学技術政策 2 の文脈でイノベーションが語られることが多かったが、市場創造・市場展開までを意識した一貫した取り組みは稀であり、成果も限定的であった 3。わが国がこれまで以上に意識すべきは、知の発見や技術の革新に止まらない、市場創造・市場展開までを意識したイノベーションである。企業はこうしたイノベーションによって国民生活の向上に主体的役割を果たせる存在である。よって今後は、従来の「知の創造」という入口を重視した政策・制度とともに、「市場創造・市場展開」という出口を明確に意識した、企業のイノベーションに関わる潜在力を高めるための政策・制度に溢れた国づくりが不可欠である。本提言では、イノベーション実現環境が整備され、多様な分野においてイノベーションが多く生み出され、それによって成長・発展し、国民がその成果を享受する国を「イノベーション立国」と定義する。

既に各国政府においては、明確な国家ビジョンに基づくイノベーション政策の立案・実行に邁進している。OECDにおいてもイノベーション・ストラテジー 4 がグリーン・グロース(Green Growth) 5 と並んで最重要課題とされ、前者については本年5月の閣僚級会議にて最終報告がなされる予定である。わが国も「イノベーション立国」の実現に向け、他国の取り組みや時代の潮流等をベンチマークしつつ、日本の特徴を活かしたイノベーションのあり方を考える必要がある。

日本の特徴を活かした「イノベーション立国」を考えるにあたっては、以下を意識しておくことが重要である。第一は、ICTの進展に伴うデジタル化・ネットワーク化による世界のフラット化である。われわれは、今やグローバルなエコシステム 6 の一員であり、このエコシステムの中でわが国をどう位置付けるかという視点を有することが必要である。第二は、総合的なソリューション提供の重要性である。従来は、個別の分野や個別の製品を念頭に置いた議論が主であったが、地球温暖化等の複雑かつ深刻なグローバルイシューの顕在化により、最先端かつ分野横断的な知識と技術を用いた総合的なソリューションを提供することが重要となっている。第三は、新しいグローバル・プレイヤーの出現である。BRICsを中心とした新興国が世界市場を牽引し、「世界の工場」と称されてきた中国が研究開発力を身につけ、インドがソフトウェアの開発拠点として一定の地位を固めつつある等、世界経済は大きく変化している。わが国が今後、現在の強みを活かしつつ、グローバルイシューの解決策等を提供するイノベーションの中核となるために、こうした新しいグローバル・プレイヤーとも知のネットワークを創ることが必要である。

本提言では、これらの認識に基づき、わが国が「イノベーション立国」を推進するために必要な方策を示した上、知財政策・制度の将来の方向性を示す。

II.イノベーション立国に向けたイノベーション・ハブ構想

「イノベーション立国」を実現するためには、企業がイノベーションに関わる潜在力を発揮させることが国の経済発展と国民の繁栄に繋がるとの認識の下、イノベーションにより、国を持続的に発展させる明確な国家ビジョンと戦略を策定することが必要である。「イノベーション立国」に向けた政策展開により、世界最高水準のヒト・知識・資金等を内外から惹きつけ、新しいライフスタイル、ソリューション、サービス、製品等を世界に先駆けて発信し、昨今の国際的な低価格競争から脱却した新たな国際競争力を強化することが促進される。本提言では、「イノベーション立国」に必要な措置をより具体的に考察する目的で、将来のあるべき姿として「イノベーション・ハブ」 7 という構想を提示し、あるべき姿から現状を俯瞰したときの課題を明確にするというアプローチを試みている。

ここで提唱する「イノベーション・ハブ」とは、革新的な製品・サービス等を生み出し、それらを市場展開しうる科学的知見・技術的知見・社会科学的知見等、幅広い分野の知恵や技術を有する、企業を中心とするイノベーションの「主役(leading actors)」が集う基盤のことを指す。その基盤上で主役たる企業等がイノベーションに関する潜在力を遺憾なく発揮できている状態が理想型である。わが国をこうした状態にするためには、(1)産業界のイニシアティブによってイノベーションの構想を描くこと、(2)政府によって総合的なイノベーション政策を推進すること、(3)内外の知を惹きつける誘因力(gravity)を発揮すること、の三点が重要である。以下、各々について説明する。

【イノベーション・ハブ構想の全体像(イメージ)】
【イノベーション・ハブ構想の全体像(イメージ)】

(1)産業界のイニシアティブによるイノベーションの構想

「イノベーション立国」推進にあたっては、イノベーションの主導的役割を果たす産業界の意見が、イノベーション関連の政策に直接反映されることが必要である。産業界は、事業活動を通じたグローバルな知識や経験に基づく、官の発想を超えた構想力ある政策提言を行う能力と資質を備えている。ことイノベーションに関連する政策については、産業界がイニシアティブをとって提案していくことが重要である。

そのためには、産業界の意見が政策に反映されるための政府との緊密な対話・連携が重要であり、官民が協働する新しい「場」の構築についても検討することが必要であろう。その際に参考とすべきは、EUの第7次フレームワークプログラム(FP7:Seventh Framework Programme)の下で行われている欧州テクノロジー・プラットフォーム(ETP:European Technology Platform)である 8。FP7は、欧州連合における2007年〜2013年までの研究開発プログラムであり、戦略・基本構想から、市場展開に向けた支援 9 等、実現に向けた手段を含め、一体的に推進されている点が特徴である。ETPは、欧州主要企業を中心に、研究機関、大学、国・地方の諸機関等、欧州における研究開発に携わる関係者が結集し、将来の社会像を描いた上で戦略的研究アジェンダ及び実施プランを策定し、研究開発を実施する体制を構築しており、FP7の推進に向けた重要な手段として位置付けられている。

わが国においても、このETPのエッセンスを基点に、前述の世界のフラット化、総合的ソリューション提供の重要性、新しいグローバル・プレイヤーの出現といった時代の流れや、日本の経済社会風土を勘案した上で、国の発展に直結するイノベーション・システムの実現を追求すべきであろう。

【欧州の知のプラットフォーム】
【欧州の知のプラットフォーム】

(2)政府による総合的イノベーション政策の推進

「イノベーション立国」のためには、政策の連携と実行力の強化によりイノベーション促進に向けた総合力の強化が重要であり、イノベーション実現に向けた府省横断的な政策の連携と実行力が求められる。政府は、民間のイニシアティブを受けて、その潜在力を十分に引き出し、イノベーションを興させるための「促進者(promoter)」としての役割が期待される。

既に欧米の先進諸国では、各国政府が民間の意見を充分に取り入れたイノベーション政策に舵を切っている。米国においては、2004年のイノベート・アメリカ(パルミサーノ・レポート) 10 の影響が大きい。同レポートでは、ナショナル・イノベーション・システムの強化に向け、人材(知識創造、教育訓練、労働力支援等)、投資(研究開発投資、起業支援等)、インフラ整備(情報・交通のネットワーク、知財保護等)につき提言しており、こうした考え方は、オバマ政権の2009年のイノベーション戦略に色濃く影響を与えている。欧州では前述の通りFP7が機能しているほか、ドイツをはじめとする各国においてもイノベーションに資する政策・制度や拠点の整備等が行われている。

こうしたイノベーション政策には、(1)自国の現状と将来の課題を、世界とのベンチマークの中で冷徹に分析し、自国の位置づけの強化を狙っていること、(2)決して自由放任主義ではなく、民間の意見を充分に取り入れながら、国家の主体的関与の度合いも強めていること、(3)科学技術政策を基本に据えつつ、他の政策(含:人材育成、知財等)も視野に入れた政策としていること、(4)野心的な予算確保を表明していること等の共通点がある。

更にアジアにおいても、各々中長期計画の下で自国に相応しいイノベーション政策・戦略の立案・実施に努めている。例えば、中国では「科学的発展観」に基づく「国家中長期科学技術発展計画」を推進しており、韓国も「低炭素・緑色成長ビジョン」で新しい成長のビジョンと経済発展戦略を実施している。そのほか、シンガポール、インドにも同様の動きがある。

翻ってわが国の現状は、経済成長戦略、科学技術政策、知財政策等が各々存在し、総合力が発揮できていない。政府には、強力なイノベーションの司令塔 11 を確立し、その下で入口から出口まで見据えた一貫性のある「総合的イノベーション政策」を立案・実行することが求められる。「総合的イノベーション政策」には、多くの重要な関連政策・制度が関わってくるため、府省横断的な全体構想の下での国を挙げての戦略的な展開が期待される。

なお、とりわけグローバル展開を念頭に置いた場合、政府の重要な役割は、各国の制度が普及の阻害要因とならないよう、政府レベルで相手国と交渉することや、わが国の優れた製品・サービス・ソリューションをトップセールスによって需要喚起・普及することにもあることを強調しておきたい。

(3)内外の知を惹きつける誘因力(gravity)の発揮

「イノベーション立国」を実現するためには、世界最高水準のヒト・知識・資金等を内外から惹きつける誘因力(gravity)を発揮する存在でなければならない。民のイニシアティブと官のプロモートを得てイノベーションを実行するにあたり、わが国の特徴である、世界水準の企業が密集する高度な産業集積力、先進的な国内ユーザーによって鍛錬された製品開発力、公害問題や石油危機等で培われたソリューションの経験力を基礎としつつ、今後は、分野横断的な異業種連携や、先進的ではない各国の現地ローカルなユーザーニーズに応える多様な階層的機能の製品開発を進めるとともに、製品、サービス、システム・オペレーションの一体化による統合的ソリューション力を高めることが誘因力を高めるカギとなるものと思われる。

【日本の優位性】
【日本の優位性】

従来、わが国におけるイノベーションの議論の多くは、基礎科学分野や研究開発段階という入口の議論までであった。事実、わが国の科学技術予算は、例えば米国と比較して、出口に責任を有する省庁への配分が少なく、出口を必ずしも意識しない基礎研究に重点が置かれている 12。近年、国内の企業・大学等を念頭に置いた産学連携に向けた取り組みが政策的にも行われてきたが、大規模な需要を創出するというイノベーションの実現につながった例は見当たらない。民間企業は連携先として必ずしも国内の大学・公的研究機関だけを視野に入れておらず、自ら海外に連携先を求める例は多数ある。

わが国特有の「イノベーション・ハブ」を構築する観点からは、国の予算配分を抜本的に見直すとともに、国内の志と潜在力のある大学や公的研究機関はもちろん、海外からの英知もわが国に入って来やすい制度整備に努めた上、出口、しかもグローバルな出口までを視野に入れ、企業の潜在力を活かす基盤を実現する政策体系への移行につき議論を進めていくことが必須である。

とりわけ今後、業種横断的あるいは企業連合型のソリューションの重要性がますます高まるとの観点から、複雑かつ大規模な課題の解決に向け、国の目指す方向性とも整合性をとりつつ複数の内外異業種企業が「チーム」として協調・連携しやすくなるような各種制度設計を図ることが重要となる。

【個別企業間の競争から「チーム」による課題解決へ(イメージ)】
【個別企業間の競争から「チーム」による課題解決へ(イメージ)】

また海外からの英知が集まるポイントは、日本が提供するソリューションが、国内のみならず海外にも存在する課題の解決に資することを示すことである。わが国企業にとっても、自らの研究開発によるソリューションがグローバルな市場展開につながることは、さらなる研究開発投資のインセンティブとなる。

わが国の「イノベーション・ハブ」が効果的に機能すれば、国内の閉じたシステムからグローバルなレベルで多様な知が関わり交わるシステムに進化することが可能であり、その方向で進化させていくべきである。

III.イノベーション立国に向けた知財政策・制度

入口から出口までの一貫したイノベーション実現に向けては、前述のとおり「総合的イノベーション政策」の下、様々な政策・施策が戦略的かつ有機的に展開されることが重要である。具体的には、研究開発段階における国家プロジェクト予算の拡充、研究開発促進税制、開発特区、海外研究人材受け入れや、需要の創出・拡大に向けた規制緩和、政府調達、購買刺激策、実証特区、更にグローバル展開を睨み、政府開発援助(ODA)の活用、海外モデル事業展開、移転価格税制、EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)/FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)、トップセールス等が必要となるであろう。

特に本章では「イノベーション立国」推進に向け、企業の潜在力を活かすインフラとしての知財政策・制度 13 に焦点をあてる。イノベーションは「創造」「実現・普及」の両段階を経て創出されるという認識に立ってみると、グローバルな英知を集約した上で新たな製品・サービス等による解決策を創り出す「創造力の強化」と、その解決策を実際の課題解決に速やかに展開していく「実現・普及の加速」があわせて達成されるように知財政策・制度を構築することが重要である。

その際、守るべき権利をしっかり守ることを基本としつつ、併せて(1)企業が自らの選択によって「競争」と「協調」の戦略の使い分けが可能となる、選択肢ある政策・制度の整備、(2)内外のあらゆる知、とりわけ海外から知の参画を求めるにあたり障害となる国内の政策・制度の是正、(3)企業のグローバル展開、とりわけアジア展開を睨み、新興国等におけるイノベーションの障害となっている政策・制度の是正や望ましい政策・制度の構築への協力、(4)各国を巻き込む魅力ある新しい枠組みの提案、等を推進する必要がある。

より具体的には、国内については、各種制度の見直しや新制度創設の提案、グローバルについては、アジアの国々への協力、いわゆる南北問題への対応、民の構想による技術移転の仕組みの提案等を、本提言における提案事項とする。

以下、これら提案を、イノベーションの入口における「創造力の強化」と、出口における「実現・普及の加速」の二つに分け、後者については更に「国内展開」「グローバル展開」に分けるかたちで、具体論を整理して提示する。

【IIIにおける提言の全体像】
【IIIにおける提言の全体像】
拡大図

(1)創造力の強化

イノベーションの入口における創造力の強化のためには、研究開発段階における異業種の連携に資する政策・制度、即ち、知の集約をしやすくする「協調」の視点をもった政策・制度の整備が必要である。以下、国内に特有の政策・制度の見直し、海外にあって日本にない政策・制度の導入、新しい政策・制度の導入等を提案する。

  1. 柔軟な特許制度の設計
    (協調領域に相応しいソフトIPの検討)

    特許制度は、独占排他的な権利を前提とした制度であり、特許権者は特許発明に係る製品を独占的に製造・販売でき、利益を享受することができる。
    特許権が有効に機能している分野は多々あるものの、情報通信機器のように技術が複雑化し、一製品に多くの特許発明が含まれている分野では、いわゆるパテント・トロール(patent troll) 14 の問題に代表されるように、権利者の権利行使によって弊害を及ぼしているケースがある。即ち、そのような分野において企業同士が協調して特許を共同して利用するプラットフォーム的な技術領域については、独占排他性に依拠しすぎる特許権が、出口を重視するイノベーション政策を考える場合には、時として障害になりうることがある。
    従って、技術が高度化・複雑化・多様化している分野のイノベーションを促進するためには、協調領域に相応しい新しい権利体系を検討すべき時代に入っているといえよう。
    例えば、特定の技術に関して、いわゆるソフトIPのような差止請求権のない特許制度を創設すること 15 が一案として考えられる。今後、差止請求権の行使は制限されるが損害賠償はできるというような新しい権利の体系を、既存の権利体系と並存させる「複線型特許法制」の可否 16 や具体的な制度設計等につき、検討を深める必要がある。
    また、こうした新しい権利体系の検討にあたっては、パテント・トロールに対する抑止をどうするかもあわせて考えていくことが必要である。

  2. 特許制度のリスク要因の是正
    (職務発明制度再改定の検討)

    イノベーションの入口では、いかに技術力の高い内外の企業が連携して、発明等を企業の発意に基づいて生み出すことができるかがキーポイントになる。
    そのため、外国企業が日本企業との連携を躊躇するような不透明、あるいはリスクの高い要素が特許制度に内在する場合には、これを改定しておく必要がある。そのようなリスクの典型例は、特許法第35条の職務発明制度 17 である。こうした制度が存在するのは、わが国以外ではドイツ等の一部の国に止まっている。欧米企業は、特許法第35条を発明者とのトラブルのリスク要因(訴訟リスク、訴訟敗訴時の高額支払いリスク等)と捉え、日本における研究開発の投資意欲を減退させていると言われている。近年のわが国から研究所を撤退させる動きとの関連性も指摘されている。同制度については、発明の法人帰属を原則とする、あるいは廃止して自由契約とする等を含め、制度の再改定に向けた本質的な検討を行うべきである。

  3. イノベーションに向けて知の集まる環境の整備
    (出口を意識した産学官連携の推進)

    わが国における産学官連携は、従前に比べれば一定の成果があったと評価されるが、出口を意識したイノベーションの観点からは、需要の創出・誘導を明確にした上で、志と潜在力のある大学等との本格的な連携を模索する必要がある。その際には、公的研究機関の果たすべき役割を含め、産学官の連携のあり方を見直していくことが望まれる。
    今後は、企業と大学が共同研究を行う際の知財権の取り扱いの問題や実務上の障害等の解決に努め、イノベーション実現に向けて内外から優れた知が集まる環境整備を推進する必要がある。こうした中、イノベーションの出口にまでつなげうるような特許の質の向上やTLO 18 の活動のあり方、企業規模の壁を超えた連携方策、ベンチャー支援のあり方等についても、改めて検討を深めることが期待される。

  4. デジタル・ネットワーク社会に相応しい著作権制度の設計
    (複線型の著作権法制の整備)

    デジタル化・ネットワーク化は社会に大きなインパクトを与え、そこでは様々なイノベーションが引き起こされることが想定される。しかし、現行著作権法での限界も指摘されていることから、デジタル・ネットワーク社会でのイノベーションを促進するためには、現行著作権法を基礎としつつ、著作物の利用目的に応じ、産業的に製作される著作物については「産業財産権型コピライト制度」、著作者が自由な利活用を認めた著作物については「自由利用型コピライト制度」とする二つの制度を新たに創設し、「複線型著作権法制 19」とすべきである。

(2)実現・普及の加速

【国内展開】

イノベーションをより効果的に実現するためには、出口における参加者を増やすことが重要である。それには、特許権の独占的な実施を前面に押し出すよりは、実施許諾のしやすい環境を整えることが大事である。即ち国内でのイノベーションの実現・普及を加速するためには、知を広く安心して使える「オープン」の視点を持った政策・制度の整備が必要である。

  1. 多数参加を促進する制度の整備
    (ライセンス・オブ・ライトの検討)

    「オープン」を重視する観点からは、パテントプール 20 を作るような多数参加型の領域に、ライセンス・オブ・ライト(LOR:License of Right) 21を導入することも有効である。但し、LORを宣言した際には、ライセンス料がRAND(Reasonable and Non Discriminatory :合理的かつ非差別)条件に従うものであることや、LORを宣言した際には信義誠実の原則に基づく禁反言の法則に則ることが必要である。

  2. ライセンシーが安心できる制度の整備
    (通常実施権の第三者対抗制度の改善)

    イノベーションの出口においては、特許権者だけではなく、特許権者から許諾を受けたライセンシーも、数多く活動に関与する。イノベーションを持続的に行うためには、これらのライセンシーが安心して活動できる環境を整備することも重要である。
    アメリカやドイツ等では特許権が譲渡された場合でも、第三者に対し契約によって当然に対抗できる当然対抗制度が導入されているが、わが国においては、登録対抗制度が採られており、通常実施権 22 が設定登録されていないと第三者(譲受人等)に対抗できない。このような制度の下では、ライセンシーの立場が不安定となり、イノベーションの推進に適しているとは言い難い。ライセンシーの地位の保全が図れることをはじめ、国際的な制度調和が図れること、特許庁への手続きや契約上の手当て等の実務上の負担が軽減されることから、当然対抗制度を導入すべきである 23

  3. 知財が適切に保護される司法の充実
    (営業秘密に関する刑事訴訟手続のあり方の検討)

    他との連携によるイノベーションを推進するためには、企業が保有する技術やノウハウ等営業秘密が確実に保護されることが重要である。昨年4月、営業秘密の侵害行為の抑制に資するべく不正競争防止法が改正され、営業秘密の不正な取得に対する刑事罰の対象範囲を拡大する等の見直しが行われた。しかしながら、営業秘密侵害罪にかかる刑事訴訟手続に関しては、憲法における裁判公開の原則との関係等もあり、引き続き検討を行うとされた。
    公判審理において営業秘密の内容が公にされることは、被害者である企業にとって二次的な損害を被ることを意味するものであり、そうした懸念が存在しているという事実は、イノベーションの阻害要因になりかねない。刑事訴訟手続については、法務省と経済産業省との連携の下で検討されることとなっており、具体的な対策を早期にとりまとめるべきである。

    (技術的専門性の高い法曹人材の育成)
    イノベーション推進にとって、技術的な判断を含めた司法の安定性が重要である。裁判所が知財問題を扱うにあたり、技術的専門性の高い裁判官の育成・配置の必要性が指摘されてきたが、現状、法科大学院においても技術と法律の双方に知見ある人材の育成が十分に行われているか検証し、必要に応じ改善策を打っていくことが必要である。設立後、約5年が経つ知的財産高等裁判所 24 のあり方についても同様の検証と対応が必要である。

【グローバル展開】

イノベーションの海外への実現・普及のスピードを加速するためには、国際競争力を確保するための戦略を有しつつ、官民一体による市場開拓を進めると同時に、諸外国におけるルール・運用の共通化や、各国が独自で作成するルールがイノベーションの障害にならないか否かを監視することも必要である。

  1. グローバル市場の開拓のための取り組み
    (官民一体での国際標準化の推進)

    イノベーションの出口を考え、グローバル市場の需要を創出・誘導する上では、国際標準は極めて重要な意味を持っている。従来、標準化は品質保証、コスト削減、互換性確保の手段と考えられてきたが、「新成長戦略(基本方針)」(2009年12月)においてアジア経済戦略の一環として位置付けられたように、国際市場における製品・サービス等の優位性を高め、効果的に展開させるための手段として、改めて認識されている。
    標準化活動の基本は、企業自身の経営判断によるべきものではあるが、国にも果たすべき重要な役割がある 25。イノベーションのグローバル展開に向け、国として注力すべき分野を明確にし、研究開発と並行して標準化の検討を行う等、政府のリーダーシップの下、戦略的な取り組みを進めるべきである。更に標準化ではビジネスとしての出口戦略も重要であり、策定された標準を実現するために必要な材料、機器、部品、計測方法 26 等の評価方法の標準化と共に、これを評価する公正で適切な認証システムの構築を目指すべきである。
    また共同研究開発・実証実験やODA等も活用した他国との連携、人材育成 27 等の取り組みについても積極的に進めるべきである。

  2. アジア全体の発展のための取り組み
    (世界共通特許制度実現に向けたアジア共通特許制度の検討)

    国際的な知財制度の調和は、イノベーションの実現・普及の加速に大きく寄与する。
    更なる改善が必要とはいえ、わが国は国際的に見れば進んだ知財政策・制度を構築している。アジアにおいて知財制度が未整備、あるいは制度があってもエンフォースメント能力に欠ける国が多数存在している中、今後アジアの成長を活かしてイノベーションを展開するためにも、わが国がアジアの手本となる魅力的な制度を提案し、イニシアティブをもって各国を牽引していくことが重要である。
    具体的には、まずはアジアにおける制度調和を目指し、「アジア共通特許制度」を検討することを提案したい。特許制度は基本的に属地主義であり、各国において個別に手続きが必要であるが、わが国にとってとりわけ重要なアジアにおいて広域に通用する幅広い権利保護、手続の簡素化とコストダウン、特許性の判断基準の均一化等を目指すことは、わが国のみならず関係諸国共通のメリットとなる。わが国からこうした構想を提示し、アジア諸国とともに制度設計の議論を行うことは、イノベーションの観点からはもちろん、外交的にも意義があり、アジアの共同体構築にも寄与するものと考える。また、こうした取り組みは、世界共通特許制度の実現に向けた重要な一歩となる。
    もちろんアジア各国の現状に鑑み、「アジア共通特許制度」の実現に向けても課題は多い。アジアにおける共通特許制度を念頭に置きつつ、その一歩としてODAも活用したアジア各国の法制度整備支援を進めることも重要であり、戦略的に推進すべきである。

  3. 知財無視の違法行為に対する取り組み
    (ACTA等、模倣品・海賊版の対策)

    イノベーションの出口を考える時、そこでの需要の創出・拡大には知財の適正な保護が不可欠であることは論をまたない。
    しかし残念ながら、特にアジアにおいては極めて多くの模倣品・海賊版の横行により、企業の適正な投資回収機会が奪われており、その現状は極めて憂慮される。模倣品・海賊版対策は、民間対応には限界がある。政府間レベルでは、ACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement:模倣品・海賊版拡散防止条約)が、「2010年の可能な限り早期の交渉妥結」に向け、関係各国と協議を重ねているところであるが、実効ある条約の早期締結を強く期待する 28

  4. グローバル展開の阻害要因に対する取り組み
    (行きすぎたローカル・ルールの是正)

    経済がグローバルになったとはいえ、各国の主権の下で様々な法律が定められる。また国家安全に係るセキュリティ規格等は、国ごとに独自の規格が定められている。
    しかしながら一方で、イノベーションの出口を全世界に求めていく場合には、グローバルな相互運用性確保や、国際的な運用の調和を図る必要があり、あまりに行きすぎたローカル・ルールはその障害となる。そのようなケースが顕在化した場合には、国としてその是正に対する働きかけを行うべきである。
    例えば海外の幾つかの国において、ロイヤリティ送金規制 29 等、不合理な知財のライセンス規制が存在しており、これらが適用されることによって、タイムリーな契約締結やそれに基づく技術や知財のグローバル展開が阻害されている。わが国政府には、こうした不合理な規制の撤廃や緩和に向け、相手国政府に積極的に働きかけることを期待する。

  5. 知財を絡めた不適切な主張に対する取り組み
    (生物多様性条約への対応)

    イノベーションは社会に深く関わり合う特質を持つことから、様々な国際条約についてもイノベーションへの影響を考えておく必要がある。生物多様性条約(CBD:Convention on Biological Diversity) 30 もその一つである。
    同条約の理念は尊重されるべきものであるが、その中での「遺伝資源へのアクセスと利益配分」(ABS:Access and Benefit-Sharing)の議論については、特許制度の根幹を揺るがす、あるいは幅広い分野にわたる研究開発を含むイノベーションの阻害要因ともなりうる恐れのある論点も含まれていることから、今後、慎重な検討を求めるとともに、わが国政府についてもそうした懸念を共有した上で交渉に臨むことを強く期待する 31

≪民の構想による新しいスキーム≫

イノベーションのインフラとして、知財制度を眺めてきたが、必ずしも制度だけで入口から出口まで一貫したイノベーションを実現できるとは限らず、むしろ産業界において蓄積されている実務的な知恵からイノベーションを推進する新たなスキームを考え出すことも必要である。以下、その一例を提示する。

地球温暖化の議論において、知財権が途上国への技術移転を阻害しているとの指摘があり、環境関連技術特許については、気候変動に関する国際連合枠組条約第4条5項 32 に基づいて強制実施権を認めるべきとの議論も存在している。知財権が環境技術普及の障害になっているという事実はないが、強制実施に反対するだけでは環境技術の普及は進展しない。

こうした状況を打開するためには、産業界、特に知財関係者の側から新しい環境技術のイノベーションに貢献し、技術移転につなげるためのスキームや将来像を提案することが重要である。その意味で、われわれは日本知的財産協会が提案している「Green Technology Package Program」[概要は別紙参照]の基本的な考え方に賛同する。この提案は、特許権のみならずノウハウや生産設備等までをパッケージ化することを想定しているが、参加についてはあくまで企業の自由意思であり、テクノロジーコモンズへの商品パッケージ投入は任意であることを特徴とするビジネスベースの枠組みである。途上国への技術移転促進の観点からは、この基本スキームにODA資金等を絡ませることが有効であると考えられる。今後、この提案の具体化に向けた詳細な検討が進展する中で、複数企業がチームでテクノロジーパッケージを組成するタイプが出現することも期待したい。

なお、この提案にある「Green Technology Package Program」は、当初日本企業を中心として開始するにしても、幅広く他の先進国等を巻き込みうるものであり、環境技術分野のみでなく、更にはエネルギー、医療等他の課題の解決にも発展しうるスキームであることから、われわれとしても今後とも日本知的財産協会と連携をとって検討を深めていきたい。

IV.今後の課題

本提言では、わが国の進むべき方向性を「イノベーション立国」と名付け、そのために「イノベーション・ハブ」という構想を提示した上、入口から出口までの一貫したイノベーション政策を実行する上で必要な方向性や視点、基本路線、取り組み例について記した。

わが国においては、「新成長戦略(基本方針)」の下、「グリーン・イノベーション」「ライフ・イノベーション」等、新しい成長を模索する動きが本格化しており、個別具体的な分野で、業界の壁を超えて民の力を結集する動きも活発化してきている。日本経団連では、これまでの多くの政策提言を民の立場から行い、政府の政策に反映させるべく努めてきたが、ことイノベーションについては、今後とも民が主役であることを前面に出し、わが国が民のイニシアティブによって「イノベーション立国」となるよう取り組みを続けて行きたい。

とりわけ「イノベーション・ハブ」を実現する上では、制度設計を含め、検討すべき点が多数ある。今後、欧州の事例を参考に幅広い関係者との連携により、その具体化につき検討を深めて行く必要がある。

国のとる政策は、国の国際競争力や魅力を左右する。いま世界は、グローバル化の進展等により、入口から出口までの一貫したイノベーションの実現に向けて国家が他国と政策・制度間競争を行っている。その競争に敗れれば、国内の創造活動の海外流出を招来しかつ市場進出に後れをとる事態となること、逆にその競争に勝てば海外で行われている創造活動を国内に誘致しかつ市場開拓・拡大につなげることができる。そのことをわが国政府が明確に認識し、「イノベーション立国」に向けた改革に邁進することを強く期待する。

以上

【別紙】Green Technology Package Program

〈基本的な考え方〉

〈仕組みの概要〉

〈Green Technology Package Program下での技術移転例(イメージ)〉
〈Green Technology Package Program下での技術移転例(イメージ)〉
以上

  1. Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung, Joseph Alois Schumpeter(1912年)
  2. 「第3期科学技術基本計画」(2006〜2010年度)では、イノベーションを「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」と定義しており、政策目標のひとつに「イノベーター日本」を掲げている。日本経団連では、「科学・技術・イノベーションの中期政策に関する提言」(2009年12月)において、従来の科学技術政策の限界を指摘するとともに、イノベーションまでを視野に入れた総合的な「科学・技術・イノベーション政策」を展開すべきと提言。
  3. OECDは、日本の研究開発投資は規模に相応しいアウトプットが必ずしも出ておらず、イノベーション・システムの効率性を高めることが成長力強化に不可欠との指摘をしている。
  4. 2007年のOECD加盟国間での合意に基づきプロジェクトが発足。目的は「The goal is to help policy makers improve framework conditions for innovation and trigger a virtuous circle driving growth.」。
  5. 環境調和型の経済成長。
  6. 本来は生物学における生態系を意味する用語。複数のものが協調的に活動して全体を維持・発展させていこうという考え方を示すもの。
  7. 日本経団連では「科学・技術・イノベーションの中期政策に関する提言」(2009年12月)において日本のイノベーション実現基盤の強化を主張。本提言と問題意識を共有している。
  8. 日本経団連では、欧州に調査ミッションを派遣。その概要は「イノベーション政策に関する欧州調査」(2009年3月)として公表している。
  9. FP7の中で特に戦略性が高く、社会に影響の大きいものに対し、民間が50%以上の資金を拠出し、市場展開まで実現する仕組みとして「JTI:Joint Technology Initiative」がある。
  10. 2004年に米国競争力評議会(COC)がとりまとめた「NII(National Innovation Initiative)最終報告書」。IBMのCEOのSamuel J. Palmisano氏の名から「パルミサーノ・レポート」と呼ばれる。
  11. 日本経団連では「科学・技術・イノベーションの中期政策に関する提言」(2009年12月)等において、司令塔機能の強化を主張している。
  12. 米国では、出口に責任を有する省庁に科学技術予算の多くが配分されているのに対し、わが国においては文部科学省が予算の約2/3を有している。この状況は、科学技術基本計画開始当初から見てもほとんど変化がない。
  13. 知財政策・制度は、国際的にも大きな転換期にある。とりわけその代表的存在である特許制度に対しては、産業構造自体の大きな変化に対応できていない、技術開発の重要性の変化に対応できていない、技術開発の形態の変化に対応できていない、オープンソフトウェアの成功により根幹が問われている等の指摘があり、そのあり方について世界的にも百家争鳴の議論がある。EPO(European Patent Office:欧州特許庁)でも2007年にレポート「Scenarios for the future」を発表して問題を提起しており、国内においても、現在の特許法制定50周年の節目を迎え、特許庁において「特許制度研究会」が設けられ、2009年12月に「特許制度に関する論点整理について -特許制度研究会 報告書-」がとりまとめられた。日本経団連では、「『知的財産推進計画2009』の策定に向けて」(2009年3月)において、プロパテント政策からプロイノベーション政策への転換の必要性を提言した。同提言では、イノベーション促進の観点から、「柔軟性」「公正性」「国際的な共通性」といった理念を踏まえた、「競争」と「協調」のバランスのとれた知財政策・制度が必要であると強調した。併せて企業経営の観点からは、国際標準化戦略と経営戦略の一体化の重要性も指摘した。
  14. 一般に、自らが保有する特許権を侵害している疑いのある者を見つけ出し、それらの者に特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする一方、自らは当該特許に基づく製品を製造したりサービスを提供したりしていない者のこと。正当な権利行使との線引きが難しく、実際に定義することには困難を伴う。
  15. こうした考え方は、経済産業省産業技術環境局の「環境・エネルギー技術等の普及に向けた新たな知的財産制度(ソフトIP)研究会」における議論とも問題意識を共有している。
  16. 医薬等、現行特許制度が有効に機能している分野は、現行制度が望ましいものと思われる。差止請求権のない制度を新設するか否かは、権利濫用がどこまで認められるかということとも関連する。その中心的な議論は「公共性」であろう。現行法制下においても、特許法第93条に公共の利益のための裁定実施権制度はあるものの発動された事はない。今後、公共性の高い領域でのビジネス展開は更に増大することが予想される。新しい制度を考えるにあたっては、公共性との関係につき、議論を深めることが必要である。
  17. 裁判所が事後的に介入して「相当な対価」を認定すると予測可能性が損なわれるとの批判を受け、2004年の特許法改正により職務発明制度が見直されたが、裁判所が事後的に介入して「相当な対価」を認定するという基本構造は残され、「対価を支払うこと」が「不合理」と認められる場合には裁判所が事後的に対価を認定することとなった。
  18. Technology Licensing Organization(技術移転機関)の略。大学の研究者の研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、産と学の「仲介役」の役割を果たす組織。
  19. 日本経団連「デジタル化・ネットワーク化時代に対応する複線型著作権法制のあり方」 <PDF> (2009年1月)にて提言。
  20. 特許の複数の権利者が、それぞれの所有する特許のライセンスする権限を一定の企業体や組織体に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセンスを受けるものをいう。
  21. 特許権者が当該特許発明について第三者の実施許諾を拒否しない旨を宣言または登録した場合、これと引き換えに特許維持料を所定割合で減額する制度(「実施許諾用意制度」)。
  22. 権利者の許諾を得て特許発明を非独占的に実施する権利。
  23. わが国に当然対抗制度を導入するためには、民法の一般原則との関係を整理する必要があるとされる。
  24. 知的財産に関する事件を専門に取り扱う東京高等裁判所の支部。2005年4月に設立。
  25. 既に、欧州では域内の標準化の成果を国際標準化に反映することで域内企業の競争力を強化しようとしている。また、米国ではスマートグリッドに見られるように、方向性の決定と同時に迅速に標準化の枠組みを決める動きをしている。中国では、第3世代移動通信サービスのTD-SCDMA等、独自の標準提案を積極的に行っている。
  26. 計測方法の標準化については、高水準の標準が、日本の高品質な製品の国際展開に寄与するという点を踏まえるべきである。
  27. 標準化の推進にあたっては、「標準化プロセスに関わる人材(=国際標準化実務人材)」と「標準化を事業戦略に組み込む人材(=経営企画系人材)」の双方が重要であるが、特に国際標準化実務人材の育成については、スキル、ノウハウの蓄積に時間がかかる点を考慮し、一企業における活用だけではなく、長期的に国として活用する仕組み等を検討すると同時に、重点的に取り組むべき分野を中心として、その育成に対して国による支援を拡充すべきである。
  28. ACTAと併せ、税関協力(情報共有、監視効率化ツールの開発)、再犯防止(罰則強化等)、巧妙化する侵害への対策(インターネット取引等における不正防止の国際的枠組みづくり)等を、各国と連携しつつ共同して実施していくことも重要である。
  29. 国外への資金流出を抑制するための規制の一種で、製造特許料を対象としたもの。
  30. CBDは、生態系の破壊への懸念が深刻化する中、生物の多様性を包括的に保全するとともに、生物資源を持続的な形で利用して行くため、国際的な枠組みを制定すべきとの議論により、1992年「リオ地球サミット」で合意され、1993年に発効した。本年10月、名古屋にて第10回締約国会議(COP10)の開催を予定。
  31. 日本経団連知的財産委員会では、知財の観点から「生物多様性条約における『遺伝資源へのアクセスと利益配分』に対する基本的な考え方」(2010年3月)を表明。
  32. 「…締約国は、他の締約国(特に開発途上締約国)がこの条約を実施することができるようにするため、適当な場合には、これらの他の締約国に対する環境上適正な技術及びノウハウの移転又は取得の機会の提供について、促進し、容易にし及び資金を供与するための実施可能なすべての措置をとる。この場合において、先進締約国は、開発途上締約国の固有の能力及び技術の開発及び向上を支援する。技術の移転を容易にすることについてのこのような支援は、その他の締約国及び機関によっても行われ得る。」

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