提言「住生活の向上につながる成長戦略を求める」

2010年3月16日
(社)日本経済団体連合会

住生活の向上につながる成長戦略を求める
概要 <PDF>     本文 <PDF>

わが国住宅市場は、2009年の新築住宅着工件数が78万戸と実に45年前の水準にまで急激に落ち込んだ。こうしたなか、政府が住宅版エコポイント制度の創設、住宅ローンの金利引き下げ措置の拡大、住宅取得資金等に係る贈与税非課税枠の拡大をはじめ、矢継ぎ早に大規模な対策を講じたことは大いに評価できる。今後、これらの措置が住宅市場の回復に大きな効果を発揮することが期待される。

住宅投資は内需の柱である。住宅産業ばかりか裾野の広い関連産業を含めた経済や雇用に大きな波及効果があり、地域さらには国全体の経済を下支えしている。政府は現下の厳しい経済情勢を一刻も早く打開すべく、引き続き、住宅市場の動向を見極めつつ、必要に応じて適時的確な措置を講じていく必要がある。

他方、住宅は人々が日々の生活を営み、良好な街並みや地域コミュニティを形成するのに不可欠であり、個人資産にとどまらない社会的資産である。わが国の住宅は量的には満たされているものの、質的には国民が求めるレベルに達しているとはいえない状況にある。今後、国民誰もが快適でゆとりある豊かな住環境を享受するためには、良質な住宅ストックを形成し、循環させていくことが重要である。地球環境問題、少子高齢化、国民の安全・安心の確保といった、わが国が持続的な成長を遂げていくために対応が不可避な課題の解決に向けても、良質な住宅が果たす役割は大変大きいものがある。住宅の省エネ化、バリアフリー化、耐震化を促進していくことが重要である。こうした中長期的な視野に立った政策対応も欠かせない。

政府は、2009年12月の「新成長戦略(基本方針)」において、住宅市場の活性化を戦略課題として取り上げた。今後、新成長戦略の具体化作業が進められる。住宅が当面の景気回復とともに、中長期にわたって国の成長エンジンを担い、社会インフラとしての良質な住宅ストックの形成、循環により、住生活・住環境を底上げし、国民が遍く豊かな暮らしを実現できるよう、思い切った戦略の策定と着実な実行が望まれる。政府における戦略の具体化に先立ち、短期及び中長期においてとるべき住宅政策のあり方について提言する。

1.早急に対策を講ずるべき課題

足下の厳しい住宅市場を早期に回復軌道に乗せるためには、引き続き、予算、税制、規制緩和といった支援策を総動員していく必要がある。住宅購入者の負担軽減につながるなど、政策効果や即効性が高いと思われる下記の施策については、遅くとも2010年内に実現すべく早急に措置すべきである。

(1) 良質な住宅に対する重点的な支援

  1. 住宅版エコポイント制度の延長・拡充
    2009年度第2次補正予算により創設された住宅版エコポイント制度は、住宅購入者にとって分かりやすく、住宅市場のカンフル剤として高い効果が期待される。同制度は2010年末までの時限措置となっているが、低迷する住宅市場を着実に回復軌道に乗せるべく、適用期限の延長、予算の拡充を行うべきである。その際、利用実績や使い勝手等を検証しつつ、ポイントの付与対象、付与数(性能基準によるポイントの上乗せ等)、申請書類、手続などについて改善すべきである。
    また、同制度の対象は省エネ住宅の新築、改修に限定されているが、国民の安全・安心の確保、高齢化の進展といった喫緊の課題に対応すべく、住宅の耐震化、バリアフリー化に資する新築、改修などにも対象を拡大すべきである。

  2. 省エネ機器の普及促進
    住宅の省エネ化を進める上で、住宅本体のみならず、太陽光発電、高効率給湯機器、家庭用燃料電池、節水器具、蓄電池、LED照明などの周辺機器の普及促進が欠かせない。環境技術・製品をめぐる国際競争が激しさを増すなか、こうした機器の国内での普及がいち早く進めば、最先端技術の事業化やコスト削減等を通じて、わが国産業が世界市場で優位性を持つことも可能となる。こうした省エネ機器の設置に対する補助制度の創設、拡充及び円滑な運用が必要である。

  3. 住宅の質的向上につながるリフォーム税制の延長
    住宅の長寿命化と質的向上を図るためには、既存住宅のリフォームやメンテナンスを促す措置も必要である。住宅の省エネ性能の向上、バリアフリー化は、地球温暖化防止、高齢化社会への対応といった社会的要請にも資するものであり、2010年中に期限切れを迎える、既存住宅に省エネ改修・バリアフリー改修をした場合に所得税額を控除する特例措置については延長すべきである。

(2) 住宅市場の活性化

  1. 住宅ローンの金利引下げ幅拡大の延長
    2009年度第2次補正予算において、省エネ性能等に優れた優良住宅向けの住宅ローン「フラット35S」について、2010年末までの時限措置として、当初10年間の金利引下げ幅が0.3%から1.0%へと拡大された。
    本措置は低迷する住宅市場のてこ入れのため、住宅版エコポイント制度と並び、非常に効果があることから、3年間延長すべきである。

  2. 新築住宅に係る固定資産税の減額措置等の延長・拡充
    平成22年度税制改正大綱において、新築住宅に係る固定資産税の減額措置については、優良な住宅ストック重視の観点から今後1年間で見直しを検討することとされた。
    本措置は、安心・安全で良質な新築住宅の供給を通じて、優良な住宅ストックの形成を図るための支援税制として中心的な役割を果たしてきた。また、2000年以降、住宅取得費や借入金の年収倍率が年々上昇するなか、住宅取得の初期段階での負担軽減にも大いに貢献してきた。
    このように同措置が国民の住宅取得・保有の負担軽減に長年貢献してきた経緯に鑑み、同措置については恒久化すべきである。さらに、今後の優良な住宅ストックの形成を誘導すべく、省エネ性、バリアフリー、耐震性などに優れた良質な住宅を対象に、減額期間を延長するなど措置の拡充を図るべきである。
    併せて、2010年度で期限切れを迎える住宅に係る登録免許税の軽減措置、不動産売買契約書等に係る印紙税の軽減措置についても、同様の理由から延長すべきである。また、登録免許税については手数料化も含め検討すべきである。

  3. 世代間の所得移転を通じた住宅購入者の負担軽減
    平成22年度税制改正大綱では住宅取得等資金の贈与に係る非課税措置の拡大が決定された。世代間の所得移転を通じて、住宅市場の活性化を図る上で当該措置が大きな役割を果たすことが期待される。当該措置は2011年までの2年間の時限措置となっているが、1,400兆円の個人金融資産の半分に達する高齢者の金融資産を住宅投資にまわすためにも期限を延長すべきである。
    また、多くの高齢者に快適な住環境を提供するためには、高齢の親が居住する住宅について、省エネ、バリアフリー、耐震等の改修工事を子が支援した場合の税制上の特例措置を創設すべきである。

  4. 建築確認申請・審査手続の円滑化
    2007年6月の改正建築基準法の施行に伴い、建築確認審査手続に構造計算適合性判定が導入された結果、審査期間が長期化している。
    これに対して、政府では確認審査の迅速化、申請図書の簡素化、厳罰化の観点から建築基準法の見直しの検討が進められている。2010年1月に国土交通省から「建築確認手続き等の運用改善の方針について」が公表され、6月に施行される予定である。まずは本方針に基づき、各自治体、審査機関毎の運用に差異が生じないよう、周知徹底を図りつつ、手続の簡略化や審査期間の迅速化が早期に実施されることを期待する。これらの実施及び今度の制度の見直しに向けて、特に事業者の要望が強い以下の点に留意する必要がある。
    具体的には、構造計算適合性判定について、審査件数に見合う形で適合性判定の体制を早期に拡充するとともに、その対象についても、構造の変更確認も含め実態を踏まえた形で見直すべきである。また、大臣認定、型式適合認定について、基準の合理化、認定手続・変更手続の簡素化・迅速化、標準処理期間の明示を行うべきである。さらに、住宅建設の際、建築確認、住宅性能評価、長期優良住宅認定、住宅瑕疵担保責任など様々な申請手続が必要となっており、申請書類の簡素化とともに、申請、審査のワンストップ化を行うべきである。

  5. 住宅瑕疵担保履行法の見直し
    住宅瑕疵担保履行法の供託金制度は、制度上の問題により、結果的に住宅購入者の負担の増加をもたらしている。同一事業者が建設業と宅建業を兼業している場合、請負住宅と分譲住宅の請負・販売戸数を合算した戸数をもとに、供託基準額を算出すべきである。また、住宅メーカーが販売代理店方式を採用している場合、メーカー傘下の代理店の販売・請負戸数を合算した戸数をもとに供託基準額を算出すべきである。

2.中長期的に解決すべき課題

わが国の住宅政策は量的拡大から質的充実への転換が進んできているものの、住環境は国民が期待する水準まで到達しているとは言い難い。国民が安全・安心で豊かな生活を送るためには、優良な住宅ストックの形成を進め、その総体として良質な街並みをつくりあげていく息の長い取組みが必要である。新成長戦略において、社会的資産としての良質な住宅ストックの形成、循環に向けて、住宅の新築、改修、建替え、流通、賃貸といった各方面から中長期的な視野に立った戦略を構築し、今後4年以内に着実に実行していく必要がある。

(1) 社会インフラとしての優良な住宅ストックの形成促進

中長期的にわたって、社会インフラとしての優良な住宅ストック形成を促進するとともに住宅市場を活性化していくため、良質な住宅に対する住宅ローン減税及び自己資金・ローンを問わず減税対象とする住宅投資減税について、中長期的に安定した制度となるよう、継続、拡充すべきである。

(2) 老朽化した住宅の建替え促進

戸建住宅、マンションの老朽化が進むなか、建物の耐震性や耐火性が不足していたり、省エネ化やバリアフリー化に対応していないなど、住民の安全・安心の確保、良好な住環境や街並みの形成といった観点から大きな社会問題となっている。また、地球温暖化対策上、家庭部門からのCO2排出量の削減が急務であるが、省エネ性能の高い住宅への建替えは効果の大きい対策である。しかし、建替えのための資金不足、合意形成の難しさなどにより思うように建替えが進んでいない。

こうした老朽化した住宅を良質なストックへ建替えを推進していくため、規制緩和、補助金等の支援策を強化すべきである。具体的には、借地借家法上の正当事由の緩和、区分所有法やマンション建替え円滑化法上の各種決議要件の緩和、容積率の緩和、建物の解体費用の補助制度の創設、建替えのための融資制度の拡充などの方策を講じる必要がある。

(3) 中長期的な住宅税制のあり方

住宅は、その取得、保有、譲渡の各段階において重層的に課税がなされている。例えば、不動産の取得時には、不動産取得税、登録免許税、印紙税、建物の消費税が課税されている。これに対し、国民の住宅取得支援のための各種軽減措置が長年にわたって講じられ、国民の初期負担の軽減及び住生活の向上に大きな貢献を果たしてきた。こうした趣旨に鑑み、住宅取得支援のための各種の税制措置の恒久化、あるいは重層的な課税体系自体の抜本的な見直しを行うべきである。

また、住宅の取得段階で建物に課税される消費税は住宅購入者にとって負担が大きいため、欧米諸国の多くではゼロ税率や軽減税率といった負担軽減措置が講じられている。今後、消費税の見直しの際には、住宅取得にかかわる消費税については欧米の動向を参考にしつつ、また、住宅購入者への還付制度の創設等をも視野に入れながら検討すべきである。

(4) ゼロエミッション住宅の実現

ゼロエミッション住宅の実現に向け、家庭に導入した省エネ、創エネ、蓄エネ機器をコンピュータで統合・制御する機能を備えた「ゼロエミッション住宅」の普及を図るとともに、社会的コストを十分考慮しながら、「ゼロエミッション住宅」をネットワーク化し、コミュニティ内の省エネ・省CO2を最大化する「まちづくり」にも取組むべきである。こうした取組みに対し、都市政策との連携を図りながら、導入費用の補助制度の創設などの方策を講じる必要がある。

(5) 既存住宅市場の活性化

住宅ストックの有効利用を進めていく上で、既存住宅市場の活性化はひとつの課題である。しかし、現状では優良な住宅ストックが十分ではないなかで、新築住宅から既存住宅へと急激に政策の舵を切ることは現実的ではない。まずは長期優良住宅などの新築支援、省エネ・耐震・バリアフリー等のリフォーム支援を通じて、数多くの優良な住宅ストックを蓄積し、それを循環させていくことが重要である。

その上で、既存住宅市場の活性化に向けては、住宅の現況に関する検査の推進、住宅履歴情報の整備と活用、保証・保険制度の活用が不可欠である。そのために、住宅性能評価制度等を活用した住宅評価基準の明確化、ホームインスペクターの育成、住宅履歴の情報開示と管理制度の整備、取引市場の整備などが必要となる。

また、購入者の負担を軽減するため、一定の優良な既存住宅に対する不動産流通税(不動産取得税、登録免許税、印紙税)の減免措置、住宅金融支援機構等による支援の拡充が求められる。

(6) 住宅産業の海外展開

今後、環境性能、耐震性、高齢化対応等に優れたわが国の住宅を広く海外市場に展開、浸透できれば、相手国の住宅の質の向上に資するだけでなく、地球規模の課題である温暖化問題解決にも寄与することができる。わが国の住宅産業も輸出や投資を通じて相乗的に成長することができる。今後、人口減少、世帯数の大幅な減少が見込まれるなか、中長期的に住宅産業がわが国の経済成長に貢献していくためには、優良な住宅ストックの形成を通じて、国内市場を深化させることに加え、海外市場への展開を積極的に推進すべきである。既に国内の住宅事業者は中国を中心にアジア市場、ロシア、欧米等の世界市場への進出を開始あるいは検討しつつある。国際競争が激化するなか、政府はわが国住宅産業の海外展開のための環境整備を早急に進めるべきである。

現在、わが国の事業者が海外で住宅事業を展開する際、例えば、法規制が不透明で頻繁に変更される、許認可手続が煩雑で時間がかかる、外資に対する参入規制が厳しく事業展開にあたっての制限が多い、法律に基づかず課税が強化される、送金規制により資金移転が難しいなど様々な問題があり、対応が急がれる。こうした各国の規制・政策の早期改善とともに、わが国の住宅の強みである品質や性能等の基準や建築士等の資格の相互認証に向けて、政府はトップ外交、通商交渉、現地の大使館・領事館による折衝など、あらゆるチャネルを通じて各国政府に働きかけるべきである。

さらには、わが国住宅事業者の国際展開を国をあげて後押しするため、総理大臣及び関係閣僚のイニシアティブの下、オールジャパン体制による、省エネ・環境性能を前面に打ち出したまちづくりプロジェクトの構築と各国への売り込みが必要である。

以上

日本語のトップページへ