グリーン・イノベーションによる成長の実現を目指して

−環境分野における新成長戦略等への提言−

2010年3月16日
(社)日本経済団体連合会

グリーン・イノベーションによる成長の実現を目指して
−環境分野における新成長戦略等への提言−【概要】
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世界経済の持続可能な発展を実現する上で、気候変動問題への対応をはじめ、環境・資源制約の克服は避けて通れない課題である。

わが国は、世界で最も優れた環境・エネルギー技術を活かし、国内外で低炭素型・循環型・自然共生型など、環境負荷の小さな社会の形成に貢献していく必要がある。同時に、環境問題への取組みの強化によって新たな需要を創造し、わが国経済の発展や雇用の確保に結びつけることが期待される。

こうした中、日本政府は「新成長戦略」(基本方針)(2009年12月30日閣議決定)を発表し、6つの戦略分野の1つとして、「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」を位置付けた。また、鳩山総理は2009年12月17日、日本の途上国支援の基本方針として、「鳩山イニシアティブ」を国内外に発表している。

そこで、政府による新成長戦略などの具体化に向けた動きに対応するため、企業のアンケート結果などを踏まえ、以下の通り、わが国がグリーン・イノベーションを促進する上での提言をとりまとめた。

1.環境分野の新成長戦略推進に向けた基本的な視点

環境分野における新成長戦略が目指すべきものは、内外の資源・環境制約の克服と、わが国産業の国際競争力の強化および雇用の創出という、環境と経済の両立である。

その鍵を握るのは技術である。2020年までの短・中期のスパンでは、既存の最先端の技術(BAT:Best Available Technologies)および製品・サービスの最大限の普及に力を入れつつ、2050年を見据えた長期のスパンでは、革新的技術の開発・普及に注力していく必要がある。こうした観点から、政府は、省エネ製品の普及促進など環境・エネルギー分野の需要創出に力を入れるとともに、技術開発・普及の担い手である企業の活力を強化するための施策を推進していかなければならない。

その際、環境税、国内排出量取引制度などについては、国際競争力や雇用への悪影響、炭素リーケージ等の重大な問題を内包することから、導入の是非も含めて、総合的かつ慎重に対応すべきである。

また、社会全体・地球規模での環境負荷の低減を目指す上で、産業・民生・運輸など各部門における部分最適の考え方ではなく、製品・サービスの使用段階なども含めたライフサイクル的な視点により、総合的に政策を立案・遂行すべきである。

さらに、天然資源に乏しいわが国としては、資源・エネルギーの安定供給確保という視点を忘れてはならない。安全保障と環境保全と経済性のバランスの取れたエネルギー政策の展開や循環型社会の形成によって、資源を有効に利用していくことが強く求められる。

2.最先端の技術の普及促進に向けた政策

(1)初期需要の喚起

既存の最先端の技術を製品や設備の更新に合わせて最大限普及させていくことが当面の最大の課題であり、官民が協力して取り組む必要がある。他方、環境負荷の小さい製品・サービスは割高であり、特に市場の黎明期においては、時限的かつ集中的な税制や補助金、エコポイントなどによる政策的な需要喚起が必要となる。

具体的には、世界最速の普及に向け、(イ)エコカーの購入・リースに関する減税・補助、(ロ)高効率の家電、太陽光発電、給湯器などの購入・リースへの補助(エコポイントを含む)、(ハ)省エネ住宅の新築、省エネリフォームに関する減税・補助、(ニ)本年3月に開始された住宅版エコポイント制度の拡充の検討、(ホ)BEMS・HEMS(ビル・ホーム エネルギー管理システム)の普及促進に向けたインセンティブ、などが求められる。

さらに、国・自治体によるグリーン調達の拡大も有効である。当面、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)の対象となる物品等の調達に当たって、国・自治体は原則100%、環境物品などを調達することとすべきである。加えて、環境物品等を調達・使用したことによる効果を国民に示し、その普及を促進すべきである。

また、「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」においては、初期需要喚起が必要な環境物品が優先的に購入されるよう要請すべきである。

こうした取組みに当たって、エネルギーの供給安定性、国民負担などに十分配慮する必要があることは言うまでもない。

(2)環境教育の充実

低環境負荷型のライフスタイルへの移行を働きかけていく上で、国および地方自治体が消費者への環境教育を徹底し、消費者が自発的に環境負荷の小さい製品・サービスをより積極的に購入するよう誘導していくことが重要である。

併せて、家庭からの廃棄物のきめ細かな分別を消費者が行うよう啓発することによって、資源リサイクルのコストの低減や生ごみなどのバイオマスエネルギーとしての利用を促進する環境が整備される。

国や地方自治体は、義務教育や社会教育における環境教育の一層の充実を図るとともに、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回すことが求められる。

また、消費者の製品・サービスの適切な選択に必要な情報を提供する観点からは、使用段階等も含めた環境負荷を表す、信頼性の高いLCA(Life Cycle Assessment)原単位データが不十分である現状に鑑み、政府はまず、国内のLCA原単位データの整備に取り組むべきである。こうしたデータは、ライフサイクルに着目した社会全体・地球規模での環境問題の解決に資する政策の展開にも寄与するものである。

(3)規制改革の推進と環境モデル・プロジェクトの実施

環境分野では、需要側の刺激策に加え、規制改革など供給面での強化策が不可欠である。

例えば、低炭素・循環型社会を構築する上で、環境負荷の少ない街づくりは重要な課題となるが、容積率等の都市計画法の規制や複数の省庁にまたがる多岐で複雑な規制体系が、環境負荷の少ない街づくりの障害となっている。

そこで、特区制度等を活用し、思い切った規制緩和に加え、補助金・税制・金融の支援措置、PFI(Private Finance Initiative)、PPP(Public Private Partnership)などの各種スキームをパッケージにしたモデル・プロジェクトの推進を検討すべきである。具体的には、低炭素・循環型社会モデル、エコ・コンパクトシティ・モデル、日本版スマートグリッド導入モデル、燃料電池自動車・水素供給インフラ整備普及モデル、電気自動車インフラ普及モデルが考えられる。

こうしたモデル・プロジェクトの推進にあたっては、都市経営のトータル・コーディネーションという観点も踏まえ、企画段階から運営・管理段階に至るまで、民間の知恵を導入、活用していくことが望まれる。このような国内での取組みが成功し、民間にノウハウが蓄積されれば、街づくりをシステムとして一体的に海外に展開することも可能となり、地球規模の環境負荷の低減に貢献することも期待できる。

さらに、廃棄物リサイクルの分野では、廃棄物処理法の広域認定特例制度における対象拡充ならびにパソコンなど情報通信機器における自社製品以外の回収の容認、アジア圏における資源循環の推進に向けた廃棄物輸入手続きの緩和措置など、行政手続きの簡素化・迅速化が求められる。

(4)国際貢献・海外市場開拓に向けた取組み

わが国の優れた環境・エネルギー技術を活かし、経済成長と国際貢献を同時に達成するため、高成長を続けるアジアをはじめ海外市場の開拓に向け、以下の取組みが重要である。

  1. 環境物品・サービスに係る貿易の自由化
    現在わが国は、WTO(世界貿易機関)ドーハ・ラウンドにおいて、電気自動車やLED(発光ダイオード)など環境負荷の小さい物品・サービス10分野53品目の貿易の自由化を提案しており、早期の実現が図られるよう、一層の努力を期待する。

  2. 海外での温室効果ガス削減への新たなインセンティブの検討
    新成長戦略の基本方針では、「日本の民間ベースの技術を活かした世界の温室効果ガス削減量を13億トン以上とすること」が目標として掲げられている。
    わが国のクリーンな技術、製品、インフラなどの海外展開を促進するため、現在様々な問題点が指摘されているCDM(クリーン開発メカニズム)を補完する制度として、わが国の技術による海外での温室効果ガス削減分を、わが国の貢献分として評価できる独自の制度を新たに構築することを検討すべきである。具体的には、二国間協定などに基づき、一定の要件を満たした温室効果ガス削減プロジェクトの実施や、省エネ機器・設備などの輸出等について、削減分を定量的に把握し、わが国企業の貢献としてカウントできる仕組みを創設することが考えられる。その際、温室効果ガス削減プロジェクトの可能性調査(フィージビリティ・スタディ)のODA(政府開発援助)による実施、案件形成・実施への円借款充当も検討すべきである。

  3. 官民の一体化・連携の戦略的推進

    1. (イ)日本の優れた技術の普及を図る観点からは、明確な役割分担の下、官民が一体化・連携しつつ、EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)やODA、OOF(その他政府資金)などの仕組みを戦略的に活用していくことが重要である。具体的には、円借款・無償資金協力はもとより、国際協力機構(JICA)による投融資、国際協力銀行(JBIC)による投資金融、日本貿易保険(NEXI)による貿易保険などの手段を有機的に組み合わせることが求められる。
      わが国のODAは要請主義を基本としているが、環境分野については、アジア諸国を中心に、ODAに関する二国間の政策対話を積極的に申し入れながら、相手国が低炭素・循環型社会を形成するためのビジョンや相手国の抱える課題に対するソリューションを一緒になって作り上げていくことが重要である。鉄鋼、電力、セメントなどの業界がアジア太平洋パートナーシップ(APP)で培った経験はこうした支援に役立つものと期待される。また、現地の実情に合わせ、複数のプロジェクト(水、エネルギー、農業、廃棄物・リサイクルなど)を柔軟に組み合わせ、取り組むことも検討すべきである。
      その上で、例えば円借款については、可能な限りSTEP(本邦技術活用条件)により実施すべきである。また、プロジェクト受注競争が激化する中、機動的な対応を可能とするため、実行の速い無償資金協力の枠を時限的に大幅に拡大するとともに、1件当たりの供与限度額を数十億円規模に増額することが重要である。さらに、JICAの海外投融資を再開し、例えばPPPの上下分離方式における民間投資部分に活用することなどが求められる。現地での事業促進に向け、財政負担の少ないJBICの活用も期待される。例えば、民間金融機関だけでは対応できない案件について、JBICの投融資資金を機動的に活用できるよう、制度を整備することも求められる。
      一般的に、途上国は、常に最先端の技術を求めているわけではない。しかし、最先端の技術を備えていない機器や設備がひとたび導入されれば、更新までの間、より多くのCO2が排出され続けるという問題が生じる。そこで、例えば超々臨界圧型石炭火力など、新型の高効率エネルギー設備を海外に設置する場合など、従来製品との価格差程度を公的機関が融資し、燃料費節約やCO2クレジットなどで返済を得る仕組みも検討すべきである。
      インフラや関連施設などの導入が遅れている途上国の場合、官民が連携して、低環境負荷型の都市整備、関連産業の育成、人材養成(日本での学習・研修も含む)などを支援していくことが有効である。また、省エネルギー、エネルギー安定供給、廃棄物処理・リサイクル、公害防止など、わが国の知見や経験を活用して、途上国における環境・エネルギー対策に関する法制度整備、事業企画などを支援することも重要である。
      なお、クリーンコール等の低炭素化技術、石炭やバイオマスの多角的利用、安全性の高い原子力発電の着実な新増設や高稼働率の実現、核燃料サイクル等の実績を国内で着実に積んでいくことが、国内の環境負荷低下のみならず、海外展開の大きな力となることにも留意する必要がある。

    2. (ロ)他方、「世界省エネルギー等ビジネス推進協議会」をはじめ、民間ベースでもビジネス・マッチングなどに積極的に取り組んでいるが、海外での展示、現地政府関係者とのコミュニケーションなどについて、政府の支援が期待される。とりわけ在外公館やJETRO(日本貿易振興機構)などにおいて各国の事情に関する情報収集・提供等の支援機能を一層充実することが望まれる。

    3. (ハ)こうした取組みの一環として、総理大臣をはじめとする政府首脳級が、政治的主導の下、トップセールスも含め総合的に民間ビジネスを後押しすることが期待される。

    4. (ニ)以上のような取組みが望まれる分野としては、石炭火力関連技術、原子力関連技術、水ビジネスなどが考えられる。

  4. 知的財産権の適切な保護
    わが国が有する優れた環境・エネルギー製品・サービス・技術を安心して海外へ展開していくためには、知的財産権が適切に保護されることが不可欠である。そこで、政府は多国間・二国間の場で、法制・執行両面における知的財産権の適切な保護を求めていくべきである。なお、気候変動交渉では、新興国・途上国より、知的財産権の強制的な実施許諾や買取を認めるべきとの主張が展開されているが、技術開発を阻害し、温暖化防止に逆行するため、認めるべきではない。

3.グリーン・イノベーションの促進に向けた戦略的取組み

イノベーションの実現には、中長期的な視点が欠かせない。政府はまず、国家的な議論の下にわが国が目指すべき中長期的な低炭素・循環型社会のビジョンとロードマップを描き、産学官で共有することが重要である。

その上で、イノベーションの種(技術シーズ)の創出、育成、実現(市場化)といった、一連の流れを産学官の適切な役割分担と連携の下に円滑化していく必要がある。

(1)イノベーションの種の創出

イノベーションの萌芽の研究段階においては、大学や公的研究機関が担い手として大きな役割を果たすことが期待される。

主要国が科学技術予算を拡充する中、わが国全体の研究開発投資における政府負担割合は、諸外国に比べ見劣りしており、対GDP(国内総生産)比1%の水準を安定的に確保する必要がある。

さらに、わが国が目指す低炭素・循環型社会などのビジョンを実現するために克服すべき課題と、課題解決に必要な研究開発のポートフォリオを産学官で議論し、明確化した上で、公的資金を重点的かつ戦略的に投入する必要がある。その際、基礎研究を実用化に結び付けていく過程における、いわゆる「死の谷」を克服するための研究開発分野への支援がとりわけ重要である。

また、こうした研究を進める上で、国内の研究拠点に海外から優秀な人材を誘致するため、外国人研究者の在留資格要件などの緩和、生活環境の整備など、受け入れ体制の整備に努めることが求められる。さらに、基盤的な分野においては、国際的な共同研究を推進していくことも重要である。

(2)イノベーションの育成段階

イノベーションの育成段階に対応する政策として、産学官連携の強化が重要である。そこで、EU(欧州連合)におけるテクノロジー・プラットフォームなども参考にしながら、低炭素社会などを実現する上で必要となる基礎研究、技術、国際標準化などに係る戦略を産学官で共有する場(グリーン・テクノロジー・プラットフォーム)を構築し、研究開発上の課題を共有していく必要がある。政府はこうしたプラットフォームの形成を促すとともに、ここから生まれた産学官連携による研究開発プロジェクトを資金面などで政策的に支援すべきである。

同時に、民間企業による実用化を視野に入れた研究を推進するため、研究開発促進税制の拡充・恒久化を図るとともに、ハイリスク研究などを支援することが求められる。

(3)イノベーションの実用化・製品化段階

  1. イノベーションの実用化・製品化を加速するため、ナショナルプロジェクトやモデル実証実験を政府などの主導で行うことが求められる。それらの成果を技術のショーケースとして海外に示すことは、国際的な低環境負荷への取組みを促すことになる。

  2. 同時に、現行のエネルギー需給構造改革推進投資促進税制(エネ革税制)の拡充、グリーンIT(省エネ型IT機器、環境ITソリューション)に着目したIT投資減税の創設、産業活力再生特別措置法(産活法)に基づく特例の拡充など、企業による投資を支援する必要がある。また、金融上の支援策として、今国会に提出されている低炭素投資促進法案の早期成立を図るべきである。さらに、CO2活用技術の革新を促す観点から、原料等として利用したCO2をCO2削減量としてカウントできるようにする措置も、今後検討すべきである。

  3. 国際市場における製品・サービスの優位性を高め、効果的に展開していく上で、戦略的な国際標準の推進も重要である。特に産学官の連携による標準化注力分野の明確化や、政府による環境・エネルギー分野の標準化人材の育成、ODAも活用したアジアとの共同研究開発・実証実験や連携強化、民間の国際標準化活動への支援などを推進すべきである。
    具体的に標準化に取り組むべき分野として、日本版スマートグリッド、建築物の環境性能評価手法(わが国におけるCASBEE:建築物総合環境性能評価システム)、省エネの測定方法、エネルギーマネジメントシステム、低炭素型製品の環境に対する貢献量の算定方法などが考えられる。

  4. また、環境負荷の小さい製品を製造する上での資源の確保も重要である。例えばレアメタルは、次世代自動車のモーター等の製造に欠かせない材料であるが、レアメタル権益の取得は、事業が長期・多額であり、リスクも大きい。従って、ODA資金やJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)、JBICなども戦略的に活用し、多面的な資源ソースの確保に努めるべきである。他方、中国については、EL(輸出業者認定)制度により輸出数量制限や輸出税の賦課などを行っていることから、見直しを求めていく必要がある。併せて、民間企業が行うリサイクルやレアメタル代替技術への研究開発に対する支援を行うことが期待される。

4.終わりに

経団連では、「2050年の世界の温室効果ガスの半減に産業界が技術で中核的役割を果たす」ことを目標に、昨年12月、「日本経団連低炭素社会実行計画」を公表した。同計画と政府の成長戦略が有機的に連携することで、グリーン・イノベーションで世界をリードしていくことが期待される。

他方、温暖化対策は方向を誤れば、経済や雇用に深刻な影響を及ぼすことは、昨年11月の政府のタスクフォースの分析結果からも明らかである。日本の経済や雇用に与える影響を厳密に検証し、提示した上で、国際的な公平性、実現可能性、国民負担の妥当性について国民的な議論を行っていく必要がある。国民の理解と合意なくして、政策を効果的に進めることはできない。

また、わが国が温暖化政策を進める前提として、「公平かつ実効的なポスト京都議定書の国際枠組の構築」と「全ての主要国の参加による意欲的な目標の合意」が実現するよう、わが国として最大限の外交努力を強く期待したい。

なお、主要企業へのアンケート結果等を基に、別添の「グリーン・イノベーション実現に向けた重要技術」 <PDF> を作成した。今後、これを参考に産学官でさらに議論を深め、より良いものとするとともに、共有し、リソースを集中的に投下することが期待される。

以上

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