産業構造審議会 知的財産政策部会 技術情報の保護等の在り方に関する小委員会 営業秘密の管理に関するワーキンググループ
「営業秘密管理指針の再改訂(案)」に対する意見

2010年3月18日
(社)日本経済団体連合会
知的財産委員会 企画部会

近年、企業活動においてオープンイノベーションの動きが活発となっており、他者との協働の中においてもいかに営業秘密を保護するかが重要な課題となっている。

このような状況の中、昨年不正競争防止法が改正され営業秘密侵害罪の範囲が拡大されたことは、国境を越えたオープンイノベーションを進める観点から評価できる。また、かかる法改正を受け、企業実務における営業秘密の管理のための明確なガイドラインとして、今般営業秘密管理指針の再改訂に向けた検討がなされていることも基本的に評価したい。

営業秘密の保護については、本再改訂指針をもとに、各企業、各業界団体において、既になされている自主的な取り組みを尊重しつつ充実されることが望まれる。同時に、個別の秘密漏洩事案への対処にあたり、法曹関係者が本再改定指針の趣旨・内容等を踏まえつつ不正競争防止法の解釈・運営にあたることに通じ、我が国の産業競争力の源泉である営業秘密に対する法的保護の実効性が一層高まることを強く期待する。

ただし、今回の管理指針案の内容については、以下の点につき、さらに検討が行われるよう要望する。

1.営業秘密管理指針について

(1)23頁

※ なお、上記【図利加害目的に当たらない事例】は、営業秘密侵害罪には当たらないが、場合により別途民事的な責任追及等につながる余地があることなどから、社内規程等にも留意すべきである。

(2)25頁

※ なお、上記【領得に当たらない事例】は、営業秘密侵害罪には当たらないが、場合により別途民事的な責任追及等につながる余地があることなどから、社内規程等にも留意すべきである。

(1)(2)は、それぞれ営業秘密侵害罪の要件における「なお書き」として記載されているが、これらの事例が社内規定等に必ずしも違反しないとの印象を与え、ひいては営業秘密の漏えいを誘発しかねない。趣旨をより明確に示すためには、本文上に記載することが望ましい。
仮に「なお書き」として記載する場合には、(1)(2)の記載を下記のように変更することを検討願いたい。

(1)

※ なお、上記【図利加害目的に当たらない事例】は、営業秘密侵害罪の構成要件としての図利加害目的に該当しないということにとどまり、各企業における社内規定の違反行為とされたり、民事救済の対象行為の要件を充たしたりする可能性があることは別論である。

(2)

※ なお、上記【領得に当たらない事例】は、営業秘密侵害罪の構成要件としての領得行為に該当しないということにとどまり、各企業における社内規定の違反行為とされたり、民事救済の対象行為の要件を満たしたりする可能性があることは別論である。

2.参考資料1(営業秘密管理チェックシート)について

営業秘密管理チェックシートについては、中小企業を中心とした企業を対象として、営業秘密を守るための取り組みを支援するものとして評価できる。但し、点数方式を採用することによって「満点あるいは一定の合格点を目指さなければならない」「高得点に到達しなければ営業秘密の法的保護が一切受けられない」といった誤解が生じることは回避する必要がある。また、個別の配点の根拠や複数の項目に跨って一つの配点がなされている場合の採点方法等に不明な点が見られることから、本指針が「不当に高い基準」となる懸念もある。

点数方式を採用するのであれば、こうした点に配慮し、既に記載されている本チェックシートの位置づけ等に加え、配点の趣旨・根拠、採点上の留意点、結果として得られた点数の意味・活用方法等を、本改訂指針の中、もしくはチェックシートの近傍に、可能な限り明記することを検討願いたい。併せて、今後の運用状況や裁判例の傾向の分析等により、将来さらなる改善を図ることを希望する。

3.参考資料2(各種契約書等の参考例)について

(1)第6 取引基本契約書(製造請負契約)(抄)の例:19頁、20頁

第○条(知的財産権等)
  1. 1.甲乙の共同研究により取得した知的財産権の帰属は、甲乙協議して定めるものとする。
  2. 2.目的物の製作に関する設計上の考案・設計図面・製作情報に関する知的財産権は、原則として乙に帰属する。(*2)

(*2)目的物等の価格に乙が業務の過程において創出等した情報の対価を含めたり、甲から製造方法に関する情報や図面などが提供されることによって情報の創出に対する甲の寄与度が著しく高いと考えられたりする等の事情により、乙が業務の過程において創出等した情報を甲に帰属させることについて合意がなされている場合においては、
第○条(知的財産権の帰属等)第2項については、
「2.目的物の製作に関する設計上の考案・設計図面・製作情報に関する知的財産権は、甲に帰属する。」
第○条(目的物等に化体された秘密情報の帰属等)については、
「目的物・成果物に化体された秘密情報は、甲に帰属する。」等と定めることが考えられる。

(2)第7 業務委託契約書(抄)の例:22頁

(*4)本契約の履行を通じ、乙の創意により新たに作成された情報の帰属について、以下のような定めを設ける例もある。
第○条(乙が創出した秘密情報の帰属)
  1. 1.本契約の履行にあたり、乙が創出した秘密情報は、乙に帰属する。
  2. 2.甲は、当該示された秘密情報の秘密性を保全し、○○に用いるためにのみ使用することができる。
  3. 3.甲は、当該秘密情報を第三者へ開示する場合又はその複製を作成する場合には、乙の事前の承諾を得るものとする。
  4. 4.その他当該秘密情報の取扱いについて疑義が生じた場合には、甲乙協議することを要するものとする。

知的財産等の権利帰属については、個々の契約内容や契約に至る事情等により異なるのが実情であるが、(1)(2)においては、知的財産権等の権利が(*で他への帰属の可能性も認めているとはいえ)、請負人等に帰属することが原則であるかのような記載になっていることから、一般に請負人等に権利が帰属することが適切であると説明しているものととられかねない。

ガイドラインにおいて権利帰属につき記載する際には、(1)請負人等に帰属するとされるひな型があくまで参考例であって個別事案の事情に十分に配慮しなければならないこと等をひな型の文頭の留意事項でより明確にすること、(2)本文上の請負人等への帰属を規定する箇所に、注文者等への権利の帰属及び契約当事者の共有を規定する文言を併記すること(例えば「…原則として(a)甲に帰属する、(b)乙に帰属する、(c)甲及び乙の共有とする。」)、(3)ユーザーに誤解を与えないよう周知活動を実施すること、を検討願いたい。

以上

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