企業の競争力強化に資する会社法制の実現を求める

〜会社法制の見直しに対する基本的考え方〜

2010年7月20日
(社)日本経済団体連合会

1.はじめに

2006年に会社法が施行されてから、約4年が経過し、企業においても会社法実務がようやく定着しつつあるところである。この間、企業においては、会社法だけでなく、関連する金融商品取引法や証券取引所規則等のルールも踏まえ、適時・適正な開示を心がけつつ、それぞれに適したコーポレート・ガバナンスの在り方を追求し、創意工夫を重ねてきた。

一方、近年、我が国企業のコーポレート・ガバナンスの在り方について様々な提言が内外から寄せられるようになったことを踏まえ、金融庁の「我が国金融資本市場の国際化に関するスタディグループ」において、昨年6月に上場会社等のコーポレート・ガバナンスの在り方についての報告書がとりまとめられた。また、経済産業省の企業統治研究会においても社外役員の設置などを含む法制の在り方について検討され、同じく6月に報告書がとりまとめられた。また、これらの報告書取りまとめに先立って、経団連では昨年4月に提言「より良いコーポレート・ガバナンスをめざして(主要論点の中間整理)」(以下、「2009年提言」)をとりまとめ、経済界としての基本的な考え方を示した。

こうした一連の議論を踏まえ、金融庁では、少数株主の利益を著しく損なうような資金調達等の防止やコーポレート・ガバナンス体制に関する開示を強化するための開示府令の改正が重ねられた。たとえば、一定の個別役員の報酬開示を含む役員報酬の開示の拡大や株式保有状況、株主総会における議決権行使結果の開示の義務付けについて、本年3月期決算から適用開始となっている。

さらに、東京証券取引所をはじめとする証券取引所における規則等の改訂も進んだ。たとえば、東京証券取引所は、濫用的な第三者割当増資が行われた際の上場廃止基準の整備や株主併合等を通じたキャッシュアウトの際に株主の権利の不当な制限がないかどうかの実質審査を行うことにした。また、上場制度整備懇談会での議論を踏まえた「上場制度整備の実行計画2009」に沿って、「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」を改訂し、その尊重を企業行動規範の中で「望まれる事項」として位置付けたほか、独立役員届出制度などの導入を進めた。

こういった各方面での取り組みの進展を踏まえ、本年2月の法制審議会総会において、諮問第91号「会社法制について、会社が社会的、経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から、企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい」という諮問事項が決定された。そこで本年4月から法制審議会会社法制部会において、企業統治の在り方と親子会社の規律を主なテーマとして、検討が開始されたところである。

会社法制の具体的な論点についての議論はこれからであるが、まずは今回の会社法制の見直しにあたって、経済界としての基本的な考え方を示したい。

2.基本的考え方

会社法制は、全ての日本企業の事業活動を支える重要な法的インフラであり、企業の競争力強化を促し、産業の健全な発展に資するものとなることを目指すべきである。

そこで、会社法制の見直しにあたっては、以下の視点について十分配慮しながら検討を進めるべきである。

(1) 会社法制のあるべき姿

会社法制は、全ての会社を対象とする事項について規定する基本法であることを踏まえた検討が必要である。また、会社法制は、それを参照して経営する会社にとってのみならず、広く国民一般にとって分かりやすい法律であるとともに、企業が中長期的な企業価値の増大のために、多様なステークホルダーとの対話が継続できるフレームワークであることが望ましい。

(2) 立法事実の見きわめの必要性

基本法である会社法制の見直しにあたっては、立法事実を十分に見きわめることが必要である。

まず、各方面から様々な見直しの提案が出されているが、どうしてそのような提案がされているのか、提案に至る原因や事実関係にまで遡って、それぞれの提案の背景にある考え方を確認しなければならない。その上で、その問題解決のために法改正が必要なのか、実務的な対応で解決が可能かどうかを確認し、さらには、法律の手当てが必要であるにしても会社法制の見直しで対応すべきなのか、他の法制によるべきなのか、といった必要な対応の整理をすべきである。検討の結果、会社法制で対応することが適切であるという結論になったものについても、改正にあたっては、我が国の実務に与える影響についても事前に十分精査した上で、具体的な改正内容を判断する必要がある。

(3) 日本の社会・風土に適合した会社法制を

各方面からの提案の中には、諸外国の法制を参考にしていると考えられるものも含まれるが、諸外国の制度の安易な移植は避けるべきである。諸外国の法制度については、それが拠って立つ基盤となる法体系や関連法制の違い、さらには法制度が実際に活用されている社会・経済の実態の違いなどを十分に踏まえて評価すべきである。たとえば、会社法制に関して言えば、企業とそれを取り巻く環境の違いを十分踏まえなければならない。具体的には、我が国では、多くの企業が経営者と従業員が一体感を持って企業価値の向上に努力し続けているという企業文化も踏まえる必要がある。

(4) 見直しが与える影響への配慮

今般、法制審議会会社法制部会では、「会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点」から会社法制の見直しを行うこととされている。その背景には、一部の企業による不祥事や濫用的な行為により、利害関係者の信頼が損なわれているという問題意識があると考えられる。しかし、大多数の企業においては、現行法制に則って適正にガバナンスを機能させており、そのために、必要なコストをかけて、内部統制をはじめとする法遵守体制を整え、IR活動も積極的に行い、株主・投資家の信頼を得る努力を続けている。一部企業による不祥事などのために、こういった健全な事業活動を行っている企業も含めた企業全体に対して、一律に過重な規制や義務を課すべきではない。必要な程度や範囲を超えて規制を課すことになれば、企業活動を不当に委縮させたり、活力を削いだりすることになり、ひいては日本経済全体の持続的な成長を阻害することになりかねない。

会社法制の見直しにあたっては、こういった企業の競争力への影響だけでなく、ガバナンスに要するコストが最終的には株主等の負担になることや、改正が会社自体だけでなく株主を含むステークホルダーにも大きな影響を与えることになることに十分配慮すべきである。

(5) 会社法、金融商品取引法、証券取引所規則の関係

会社のコーポレート・ガバナンスや市場における行動に関わる法制度としては、会社法のほかに、金融商品取引法や証券取引所規則等がある。

金融商品取引法においては、2008年度から内部統制報告制度がスタートしているほか、冒頭述べたように、2009年度には、コーポレート・ガバナンス体制、役員報酬、株主総会議決結果など企業統治に関する開示規制の強化が実施された。取引所規則についても、先述の通り、一連の改正・強化が行われている。このように、今般、議論の対象に含まれている企業統治や親子会社間の規律に関する問題点については、すでに近年の度重なる法改正や証券取引所規則等の強化によって、既に十分に手当てされている点も多いと考えられる。まずは、導入されたばかりの、これら法規制等が与える効果や影響について、事前に十分に検証する必要がある。

また、今後の法制度の見直しに際しては、それぞれの法律・規則等の目的・役割分担を踏まえ、議論を峻別する必要がある。そして、金融庁や証券取引所も含めて、関係者から見直し案に対する意見聴取の機会を設けるなどのデュープロセスや十分な準備期間の確保に配慮するとともに、各制度間相互の整合性を十分担保し、法令遵守のコストも踏まえた見直しを行うことが不可欠である。

3.企業統治の在り方

企業がゴーイング・コンサーンとして持続的に発展していくためには、適正なコーポレート・ガバナンスの確保が不可欠であることは論を俟たない。経団連では、近年では、2006年、2009年と重ねてコーポレート・ガバナンスの重要性を指摘する提言をとりまとめてきた。ここで言うコーポレート・ガバナンスとは、企業の不正行為の防止ならびに競争力・収益力の向上という二つの視点を総合的に捉え、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みをいかに構築するかという問題であると捉えている。この間、会社法制が、個々の企業のグローバル市場における競争力向上と、我が国産業の健全な発展に資するものとなるためには、国内外の様々なステークホルダーの声を踏まえた各企業の多様かつ自主的な取り組みを尊重するとともに、ガバナンスの向上につながる取り組みを機動的に実施できるような柔軟性の高い枠組みが必要であること、また、形式ではなく実質に着目して、実効性のある取り組みを推進できるような法制を目指すべきことなどを主張し続けてきた。そして、実効性を確保するためには、充実した開示を通じて企業経営の透明性を向上させ、株主や投資家が判断し、選択できる仕組みが適切である。

今回の企業統治の在り方に関する会社法制の見直しにあたっても、ここに述べたような基本的な考え方に沿って判断すべきであると考えている。

(1) ガバナンス機構の在り方

会社法制上、大会社についてはガバナンス機構の選択肢として監査役(会)設置会社と委員会設置会社が用意されている。これらは、監督と執行の分離という観点から、ガバナンス体制として等価値であり、引き続き選択制によってそれぞれの事業内容等に適したガバナンス体制を企業が選択できる環境を維持すべきである。

委員会設置会社については、3委員会それぞれの過半数を社外取締役が占めることが義務付けられている。一方、日本の上場会社の大半を占める監査役会設置会社については、監査役の半数以上を社外監査役とすることが義務付けられているが、社外取締役の設置は義務付けられていない。

取締役が、取締役としての監督機能を十分に果たせるかどうかは、その人が社外取締役であるかどうかといった形式的な要件ではなく、実質を重視して判断すべきである。その取締役が必要な適性と能力を備えているか否かという実質については、開示情報に基づいて役員選任議案への投票行動によって最終的に株主が判断する枠組みが適切であり、そのために株主に必要な情報は、既に開示を通じて十分に提供されている。

ところが、監査役会設置会社についても、その取締役会の構成に関して、社外取締役を義務付けるべきであるという意見がある。社外取締役の一律的な義務付けは機関設計の見直しにつながる重大な問題であり、企業のガバナンス機構の在り方について、一律に形式的なルールを導入することは、各企業の規模・業種・業態に適したガバナンス体制の構築を制約するものである。どのようなガバナンス機構が当該企業の適正なガバナンスを確保する上で有効と考えられるか、あるいは、社外取締役の選任が必要であるかどうか、などについては、各企業の自主的な判断に任せるべきである。

(2) 従業員選出監査役制度について

監査役の一部を従業員によって選出するという提案がされている。提案の詳細は未だ不明であるが、従業員によって選出された監査役は、従業員の利益代表としての性格を持つことになると考えられる。本来、監査役は会社に対する善管注意義務を負うべきであるにも関わらず、特定のステークホルダーの利害を代表する者が監査役に就任することにより、深刻な利益相反を生じ、適正な監査に支障を来す危険がある。従業員によって選ばれた監査役が、他の監査役と同じ責任と義務を負うことができるかどうかについて、疑問を禁じ得ず、制度として適切でない。

(3) いわゆる監査のインセンティブのねじれについて

金融商品取引法上の監査人と会計監査の対象である被監査会社の経営者との間で監査契約を締結し、被監査会社が監査人に対して監査報酬を支払うという仕組みであるために、監査人が経営者におもねるような監査を行い、会計不祥事につながりやすくなっているとの指摘がある。このような状態について、いわゆる「インセンティブのねじれ」があるとの認識から、監査人の選任議案の決定権や監査報酬の決定について、監査役会に対して決定権を与えるべきであるとの意見がある。現行金融商品取引法には、監査人の選任・報酬に関する規定はないが、会社法上の会計監査人の選任議案及び報酬の決定について、監査役等の同意権が定められていることから、会社法の見直しとして提案されている。

この問題についての経団連の考え方については、2009年提言で詳述したとおりである。監査役(会)の権能は、累次の商法・会社法改正によって独立性の強化や権限の拡充がなされてきており、これらの権能強化の趣旨を踏まえ、企業は対応を図ってきたところである。いわゆる「インセンティブのねじれ」として指摘されている問題は、会計監査人自身の職業倫理の強化や既に監査役が持っている権能を監査人と連携しながら十分に発揮することで、利益相反のリスクを排除することは可能となっていると考えられる。具体的には、もし、取締役会がそれまでの会計監査人を解任し、新たに経営陣にとって都合のよい会計監査人を選任しようとする場合など、監査役会が当該会計監査人は適当でないと判断した場合や、会計監査人に対する報酬が適正でないと判断した場合には、当該選任議案や報酬決定に対して監査役が同意を与えないことにより、監査役の意見を反映することができ、取締役会に対する牽制機能となる。さらに、監査役(会)は、会計監査人の選任に関して議案提出請求権も有しており、イニシアティブを取れる立場にある。

会計監査人の選任や報酬決定を含め、取締役の業務執行に対する監査役による監督機能の充実・強化を図る必要があるとすれば、現行の法制について改正を加えるよりも、むしろ、監査役が既に与えられている権能を十分に発揮できるように、監督機能を担う機関である取締役会と監査役会が協調して、体制整備や社内連携の強化等に取り組むなどの、一層の企業努力が重要である。たとえば、各企業による実務改善の工夫としては、監査役の業務をサポートする監査役室など事務局体制の充実や、内部統制部門との連携体制の整備など、情報伝達体制及び社内体制の一層の整備が挙げられる。この点について、日本監査役協会は、内部統制システムや会計監査人等に関する監査役監査のベストプラクティスをとりまとめており、制度改正について議論する以前に、まずはこれらの着実な実践を図ることが重要であると考える。

4.親子会社に関する規律

親子会社に関する規律については、親会社株主保護や子会社の少数株主・債権者保護などの指摘があることから、今般、見直しのテーマとして挙げられている。しかし、親子会社、グループ企業と言っても、その関係性は多種多様であり、これらに対する規律の在り方について、一律に論じることは困難な側面がある。

現行の会社法制は、たとえ親会社・子会社の関係にあっても、それぞれの会社については別個の法人格として、法的には独立の存在であることを大前提としている。そして、親会社であっても、子会社から見た場合には、株主であり、他の株主と同様の有限責任を負っている。

親子会社の規律について検討する際には、まず、親子会社の関係において、具体的にどういった問題が生じているのか、現行法制では解決できない問題なのか、といった点を慎重に見極める必要がある。その上で、親子会社について、法律上は別法人であることを前提に様々な法理が形成されていることを踏まえ、これらと不整合を生じないよう、理論的かつ多面的な検討が必要である。

(1) 親会社の株主の保護

子会社が行う重要な行為について,親会社の株主による監督権限が不十分であり、親会社株主に子会社役員に対する代表訴訟提起権を付与すべきであるという提案がある。

しかし、この提案については、以下のように既に現行法制によって親会社株主の権利保護が図られており、これを超える制度対応は不要であると考えられる。まず、子会社の経営は、一義的には子会社役員の責任であり、親会社は、株主としての権限に基づいて、重要事項について株主総会における議決権行使等を通じて、子会社を間接的に監督している。子会社役員による善管注意義務違反行為等により親会社に対して損害が生じているにもかかわらず、当該親会社取締役がその任務を懈怠して子会社役員に対する会社法上の訴えを提起しない場合には、それ自体が善管注意義務違反を構成するものとして、親会社株主は、当該親会社取締役に対して株主代表訴訟によって責任を追及することができる。

また、これに関連して、子会社の重要な意思決定について、親会社株主総会の承認を要するものとすべきであるとの指摘がある。しかし、親会社の取締役による子会社に対する株主としての権利行使(子会社株主総会での議決権行使など)に問題があれば、親会社株主は親会社取締役に対して責任追及することができる。これを超えて子会社の重要な意思決定について、親会社株主総会の承認を要することとされれば、子会社における機動的な意思決定が阻害されることになる。

(2) 少数株主・子会社の債権者の保護

親会社が存在する企業においては、支配株主である親会社と子会社の少数株主や債権者との間で利益相反関係が生じえるために、少数株主や債権者を保護するための何らかの措置が必要であるとの指摘がある。

子会社の役員が特定の株主である親会社を利するような行為を行うことによって会社の利益が損なわれる場合には、現行法制の基本的枠組みでは、子会社の少数株主は、子会社役員に対して責任追及することとなるが、このような現行法制の枠組みで不十分な点があるのか、検討が必要である。

たとえば、親会社と子会社の間の取引など、重要な関連当事者取引については、既に計算書類等における開示規制が存在している。そもそも、特定の株主に対する利益供与は、会社法上禁止されている。会社法の枠組み以外でも、たとえば、法人税法上、寄附とみなされるほど時価と異なった価格での取引については、その差額については寄附金として取り扱われる形で規制されている。これらの現行法の規制の枠組みを超えてさらに会社法制上の対応が必要かどうかについては、慎重な検討が必要である。

もし、これらの規制にもかかわらず、子会社取締役が、親会社の利益に沿った行動をとることによって、自らが忠実義務と善管注意義務を負う対象である子会社に損害を与えるようなことがあれば、その子会社取締役は子会社の少数株主・債権者からの責任追及を免れ得ない。

また、大規模な第三者割当増資によって、既存株主の十分な関与がないままに、支配株主が移動したり、既存株主の権利が一方的に縮減されたりするといった問題点が指摘されている。しかし、この問題については、既に、証券取引所規則等の改正・強化により、濫用的な第三者割当増資が規制されており、少数株主の保護が図られている。

同様に、親子上場には利益相反が生じうることを問題視する指摘がある。しかし、この指摘は、親子上場固有の課題ではなく、支配株主の存在する会社に共通する課題である。そして、そのような利益相反が生じないよう、証券取引所規則等において、上場会社が支配株主との間で行う事業の譲渡や株式交換などの重要な取引等について適時開示の対象とするなど、弊害を排除するための取り組みが進められている。

この点について、証券取引所規則と会社法との役割分担を踏まえ、証券取引所規則を超える対応が必要かどうかについて、検討すべきである。

子会社の債権者保護についても、現行法制以上の対応が必要かどうか、慎重に見きわめた上で議論を進める必要がある。

5.その他の論点

会社法制を見直すにあたり、企業統治の在り方や親子会社の規律などのほかに、見直すべき論点を以下に例示する。必要に応じて検討を進めていただきたい。

  1. 株式買取請求権を行使できる株主の範囲の見直し
    たとえば、簡易組織再編の場合(特に完全支配関係がある法人間における無対価組織再編の場合など)には、存続会社の株主への影響は軽微であるため、株式買取請求権を与える必要性は乏しい。また、組織再編等について、案件公表後に株主となった者は、組織再編等の内容を知っていた又は知り得たにもかかわらず、あえて株主になったものであり、そのような者に株式買取請求権を付与する必要性はないと考えられる。この点について、見直しをしていただきたい。
    併せて、関連する論点として、買取請求権を行使した者については、買取対象となった株式の振替法による振替を制限して、振替口座簿上の減少記録を許さないこととし、買取請求の対象となっている株式を売却することによる買取請求権行使の事実上の撤回を行えないようにすべきであると考える。
    なお、現行の株式買取請求権の制度は、企業再編事案に反対の株主に対して円滑な退出を可能とする仕組みとして有効に機能している部分も少なくないと考えており、制度の見直しは現行制度において過剰な権利が与えられている部分や濫用的に用いられている部分の改善にとどめるべきである。買取請求制度を大幅に見直して差止請求制度に代替していくべきという意見もみられるところであるが、組織再編行為の差止請求については、それによって企業再編を事実上ストップさせる効果を持つものであり、企業経営に甚大な影響を及ぼすものである。差止請求制度の在り方については、その拡大の必要性及び企業経営に与える影響を踏まえ慎重に検討すべきである。

  2. 企業再編時のブランド保護
    現行法制では、類似商号規制が廃止されたことに伴い、同一地番・同一商号でない限り、第三者による登記が妨げられず、必要であれば会社法や不正競争防止法などで他者による濫用的な商号使用を排除しなければならない。例えば、商号の仮登記制度が復活されれば、少なくとも、同一地番・同一商号の範囲においては、仮登記制度を利用することにより事前に商号の使用権を確保することが可能となり、かつ、商法や不正競争防止法による商号使用排除の観点からも、事前に仮登記を行っておくことで、他者による不正目的での商号登記に対する抑止効果となり、ひいては商業登記制度の信頼性を高めることが期待される。

  3. 企業組織再編等により子会社の手元にある親会社株式の継続的保持
    子会社が合併等をした際に、合併の相手方が親会社の株式を保有していた場合には、その親会社株式を子会社が取得し、保有することになる。現状、会社法では、子会社が取得した親会社株式を継続的に保有することは認められておらず、相当の時期に処分しなければならないとされている。この「相当の時期の処分」については、損をしてまで親会社株式を処分する必要はないとの解釈・運用になっているが、子会社が取得する株式の数量や事由等に鑑み、この保有規制を柔軟化していただきたい。

以上

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