財務報告に関わるわが国開示制度の見直しについて

2010年7月20日
(社)日本経済団体連合会

企業のグローバルな事業活動・資金調達活動は一層の拡がりを見せており、会計基準の国際化の動きが益々進展している。わが国でも、金融庁が「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を昨年6月に公表し、2010年3月期から連結財務諸表における国際会計基準(IFRS)の任意適用を認めると同時に、2015年ないし2016年からの強制適用を2012年を目途に判断することとされた。

国際的に統一化された会計基準の活用は、財務諸表の比較可能性を通じて、投資家の利便性を向上させるのみならず、企業経営ツールの共通化によってグローバル経営の効率化にも資するものである。また、わが国金融・資本市場の国際競争力強化の観点からも、国際的に整合性のある市場インフラを整備し、魅力的かつ信頼性のある市場を維持・強化していく必要があり、強制適用の判断にあたってはIFRS導入に向けた環境整備がこれまで以上に強く求められている。

一方、わが国の開示制度を巡っては、ディスクロージャーの信頼性確保に係る社会的要請が高まる中、内部統制報告制度や四半期報告制度が導入されるなど、上場企業の財務報告に係るコストは上昇の一途を辿っている。また、IFRSが強制適用となった際には、注記事項なども含め、開示実務に大きな影響が及ぶことも予想される。各国の制度と比較しても、わが国の開示制度は過剰であると考えられ、IFRS導入に向けた環境整備の観点から、開示制度全般に対する抜本的見直しを実施する必要がある。

こうした中、政府が2010年6月18日に公表した「新成長戦略」において、「取引所における業績予想開示の在り方の検討」、「四半期報告の大幅簡素化」、「会計基準・内部統制報告制度等の見直し」といった開示制度に関連する複数の方針が謳われている。これらの方針は基本的に経済界のかねてからの要望事項であり、その着実な検討・実現を強く期待するとともに、より包括的な開示制度全般に対する見直しの方向性に関しても、以下の通り、経済界の基本的考え方を示すこととする。

1.取引所における適時開示制度

金融商品取引法上の法定開示と取引所における決算短信(通期/四半期)については、その役割分担に関する整理が必要である。欧州をはじめとする諸外国との開示情報作成負担の公平性確保の観点などからも、適時開示制度全般や決算短信(通期/四半期)そのものに関して、柔軟かつ迅速な見直しが期待される。

また、業績予想開示については、わが国では既に四半期決算短信や四半期報告に基づくタイムリーな実績情報の開示がなされていることから、従来のような有用性はなくなっている。業績予想開示の今日的意義とそのための実務負荷を総合的に勘案し、廃止あるいは完全な自主開示化および決算短信の様式の見直しを検討すべきである。

2.金融商品取引法上の法定開示

<個別財務諸表>

米国をはじめ、証券市場におけるディスクロージャーのグローバル・スタンダードは連結財務諸表であり、経済界としても、かねてより連結財務諸表をベースとした開示、個別財務諸表の簡素化を求めてきた。国際的な整合性の観点も踏まえ、連結財務諸表にIFRSを強制適用する際の金融商品取引法上の発行市場・流通市場における個別財務諸表の開示は、廃止も含め抜本的に簡素化することが必要である。

<四半期報告制度>

また、四半期報告についても、取引所における適時開示との重複項目や整合的でない項目にも配慮した大幅な簡素化・効率化等が望まれる。検討に際しては、四半期決算短信の内容と極力統一し、四半期報告の負荷を大幅に削減するような抜本的な方策についても検討すべきである。特に、第1四半期および第3四半期については、国際的な整合性の観点からも、一段と踏み込んだ簡素化が必須である。また、以下の項目についても検討を進めるべきである。

  1. 決算短信との整合性を踏まえ、累計期間のみによる開示を認めること
  2. 内訳表示や注記項目等を簡素化すること
  3. 非財務情報を簡素化すること

<その他>

なお、臨時報告についても、取引所における適時開示との役割分担を含め、提出要件の整理や数値基準の見直しを行うべきである。

3.内部統制報告制度

内部統制報告制度については、導入後2年が経過しこれまでの実施状況から様々な経験・課題が蓄積されている。制度の実効性を担保しつつも企業に過度の実務負荷がかからない効率的かつ有効な制度となるよう、これまでの実施状況を踏まえた更なる簡素化・効率化等を要望する。内部統制監査は、経営者評価の範囲の検証等を除き、財務諸表監査と一体となって実施され、同一の監査証拠を相互に用いるなど、効果的かつ効率的な監査の実施が求められている。諸外国の制度を勘案すれば、経営者評価に対する検証を行わないなど、財務諸表監査に加えて、内部統制監査を実施することをそもそも不要とするような制度設計も考えられるところであるが、まずは、現行制度において、内部統制監査のあり方につき、レビュー方式の採用の可能性も含め、コスト削減の程度も検討しつつ、今一度の整理が必要である。また、次に掲げる項目についても、簡素化等が求められる。

  1. 内部統制の評価対象範囲の更なる絞り込み
  2. 持分法適用会社の評価のあり方の見直し
  3. 「重要な欠陥」の用語の見直し
  4. ITに係る内部統制監査の簡素化
以上

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