G8ビジネス・サミット共同宣言

(仮訳/英文正文<PDF>
2011年4月8日

4月8日、G8各国の最も代表的な経済団体で構成されるG8ビジネス・サミットがフランス経団連の主催によりパリで行われた。

会合の主な目的は、安定した国際経済環境を実現し、各国において雇用創出を伴う景気回復を実現するための方策を討議することにあった。

世界経済は回復の途上にある。G8・G20は、経済活動の一層の落ち込みを回避するにあたり重要な役割を果たした。今こそ、なお一層の勇気ある決断と行動が求められる。政府は、成長のための明確なロードマップを提示し、市場、企業ならびに国民に対し、長期的な視野に立った前向きなシグナルを送らなければならない。

政治家と企業は、成長と雇用の創出という目標を共有しており、持続的な経済成長の実現に向けて協力しなければならない。そうすることが財政赤字の計画的な削減の主な必要条件である。

企業こそが成長の条件を満たし、雇用水準の改善を実現することができる。

最近起こった国際的な出来事、即ちエネルギーをめぐる議論に新たな次元を与えることになった日本における自然災害、ならびに中東・北アフリカにおける民主化の波は、G8・G20は緊張状態にある時こそ市場に対して強力な政治的シグナルを送るという重要な役割を担っていることを改めて強く認識させる。世界規模の課題に取り組むにあたって、国際協調・国際協力はこれまで以上に不可欠となっている。協調こそが世界経済を持続的な成長軌道に乗せ、あの厳しい世界経済危機の再来を防ぐことができる。

G8経済団体は、政府に対し、また、G8・G20の議長国であるフランスに対し、決意と野心をもって上記の緊急課題に取り組むことを求めるものである。それら課題の解決に向けて前進するには、代表的なステークホルダーとの建設的な対話が不可欠である。

以上のような問題意識に立って、ここにG8ビジネス・サミットとして提言するものである。下記提言が、G8サミットの対話に資するとともに、強固かつ民間主導の経済環境の実現や雇用の創出に向けた行動を促すことを期待する。

1.雇用創出を伴う景気回復の道筋

一貫性のあるグローバル・ガバナンス改革

経済環境を安定化させるにあたって、G8、G20は重要な役割を担っている。経済環境が安定化すれば、金融市場に対する信頼が回復し、民間部門が将来計画を立て、投資を行うことができるようになる。市場参加者は、あらゆるレベルのG20のプロセス−即ち首脳会議、財務大臣会議、その他G20首脳の指示に基づき行われている国際機関の作業−において、調和のとれた一貫性のある横断的な政策が採られるよう、議長国フランスが作業の合理的な速度や方向性の設定にリーダーシップを発揮することを期待している。G8ビジネス・サミットとしても、議長国フランスの指導の下で、銀行の自己資本・流動性や会計監査に関し適切なルールや基準が設定されるとともに、信用市場の拡大や証券化の促進のための措置が講じられることを切に望んでいる。これら全ての措置は緒についたばかりの民間部門の回復を妨げることのないよう運用されなければならない。雇用創出に大きな影響のある中小企業には特別な配慮が払われなければならない。

金融部門の改革

全ての主要な事業金融へのアクセスを確保することが、あらゆる金融改革の最終的な目的でなければならない。政策立案者は、バーゼルIIIを含む全ての規制提案を評価し、特に中小企業に対する信用供与や貸付への影響を見極めなければならない。改革の一環として、貿易金融、信用保険ならびに資金調達の国際化を通じて世界のインフラ・プロジェクトへの参加を促進することによって、民間企業の生産性や雇用創出機能の向上にも取り組まなければならない。

財政の再建

政府は、企業増税を行うのではなく、歳出の合理化、行政の効率化、官民パートナーシップの活用によって財政規律を回復しなければならない。そうすることは、投資を促進し、民間主導の成長を促進・維持する上で不可欠である。財政規律を回復するための政府の枠組みは、明確かつ体系的で首尾一貫しており、企業の中長期的な資金計画や投資活動に不可欠な金融市場の安定につながるようなものでなければならない。企業は、イノベーションを起こし、良質の雇用を創出し、社会福祉に貢献しているが、特に法人税の増税や雇用に伴う社会保険料の引上げを通じて企業に負担を課すことは、そのような企業の活力を著しく削ぐことになる。

2.景気回復と不均衡是正を阻害している要因

保護主義

OECDやWTOによる前向きな分析結果にもかかわらず、金融・経済危機の最中、多くの国が保護主義的措置(関税・非関税障壁)を講じ、現時点でもそれらが継続されている。こうした状況への最も有効な対抗策は、2011年中にドーハ・ラウンドを妥結させることであり、その他の全てのWTO交渉、とりわけ政府調達協定への新興国の参加について実質的な進展を見ることである。それに向けて目に見える実質的かつ大幅な進捗が求められている。

政府は、対外・対内投資に対しても新たな障壁を設けるべきでない。また、投資資産について高い水準の保護を引き続き与えなければならない。企業にとって真に公平な競争条件を整備するためには、グローバルな投資ルールの策定にも改めて取り組む必要がある。G8および協力国は、外国からの直接投資が依然として資本、流動性、ベストプラクティス、そして成長の主要な源泉であることを明らかにすべきである。外国からの直接投資に対する規制については、真に必要な場合(例えば安全保障上の理由)に限って認められ、経済ナショナリズムのためには導入しないという高い規律を維持すべきである。また、投資先における活動に関して要件(投資受入国のサーバーでのデータ保存、技術移転、輸出等に関する要求)を課すことは、ビジネスモデルを歪める恐れがあり、避けるべきである。

原材料

輸出制限、とりわけ原材料に対する輸出制限は、市場操作と並んで貿易・投資を損なうものである。政府は、グローバルな供給体制を制約し、公平な国際競争条件を歪める輸出税・輸出割当等の市場歪曲的措置を導入すべきではなく、既に導入している措置については撤回すべきである。新たな規制、特に環境・健康・安全に係る規制が導入される場合、目的に対して必要最小限であり貿易制限的にならないようにするため、原材料の輸入者は輸出者との協力に取り組むべきである。また、WTOは、原材料の輸出・輸入制限に関し、より明確なルールを策定すべきである。市場価格の変動を抑えるため、政策立案者は、恣意的な供給制限には反対するとともに、市場の透明性の向上に努めるべきである。また、原材料の最終ユーザーによる効率的な資本投下を促すような政策を展開すべきである。さらに、リサイクルや研究開発を通じた天然資源の責任ある利用の促進についても、G20の枠組みにおいて討議すべきである。

通貨不均衡

グローバルな不均衡が経済・金融の不安定化の一つの要因であることが危機の中で明らかとなった。その是正のためには、サーベイランスを強化するとともに、G20の主要国において持続可能でグローバルな視点に立った経済政策を実行する必要がある。企業にとっては、安定的かつ予測可能で回復力に富む国際通貨システムの実現が必要である。この目的を達成するためには、次のステップとして、適切な政策手段を確立することに加えて、とりわけ不均衡とリスクの所在を特定することによって危機を防止および管理するための仕組みを強化すべきである。国際通貨システムの改革・強化に関する交渉にあたっては、民間部門に対しても照会を行い、意見を聞くようにすべきである。

為替レートについては、市場に委ねることが基本原則であるが、近視眼的で投機的な行動が、経済や金融の安定に対して悪影響を与える為替レートの過度の変動や無秩序な動きにつながらないよう、市場参加者は強い責任感をもって行動することが求められる。

腐敗

賄賂は市場を蝕み、公平な競争を歪曲し、先進国・途上国双方に対してグローバル化がもたらす便益を減じるものである。主要貿易国、特にG20諸国によるグローバルな共同行動が、事業環境の浄化と公共サービスにおける腐敗の解消に不可欠である。G8・G20のプロセスにおいて経済界がしっかり声を上げていくことが、グローバルな市場の改善につながる。

ビジネスリスクと金融デリバティブ

国際的な生産活動を行うには、多様な金融商品を活用して投資に伴うリスクを軽減する必要がある。成長を産み出す投資を促すためには、政府は、所要自己資本額の設定が、堅実なリスク管理に資する一方でリスク緩和のための店頭販売デリバティブの適切な利用を妨げないようにすべきである。

3.新たなグローバル課題、成長のためのイノベーション

インターネットとグリーン成長に係る課題がG8サミットの議題として取りあげられることを歓迎する。情報技術を含む付加価値の高い革新的な分野への投資によって、企業の収益性を高め、雇用を創出し、世界経済の成長を促進するとともに、企業の競争力の強化と環境の保全をともに満たすためには、焦点を絞った長期的な政策がグローバルなレベルで展開される必要がある。政府は、企業の財政上あるいは手続上の負担が増えないようにすべきである。

エネルギーに対するアクセス、エネルギー資源の選択肢

最近の日本における惨事は、多くの人々の認識に変化をもたらすとともに、エネルギーの供給と安全保障の重要性を示している。健全なエネルギー政策は世界経済の成長の主要な原動力の一つである。エネルギーに対するアクセス、エネルギー供給量の確保、そして、エネルギー源の多様化は、エネルギー安全保障にとって引き続き重要な課題である。エネルギー安全保障が確保されれば、需要と供給の適切なバランスの確保、エネルギー生産国の安定、エネルギー源の保全にもつながる。エネルギーの安全のみならず、気候の保全にも資するよう、無差別的でバランスのとれたエネルギー・ミックスを促進するため、原子力を含めて、いかなるエネルギーの選択肢も排除されるべきではない。この点、慎重かつ適切な基準に基づいて決定が行われなければならない。政府は、原子力の安全性評価に関する国際的な枠組み作りを行うべきである。

ICT

情報通信技術、とりわけインターネットは、経済成長、企業の競争力ならびに発展にとって重要である。そのプラス面を強化するため、G8およびその協力国は、グローバルなレベルで特に中小企業の利益を考えて、ブロードバンドの整備とデジタルアプリケーションの普及を支援しなければならない。情報通信技術は、エコビルディング、スマートグリッド、生産過程におけるエネルギー効率化、環境に優しい交通手段などエネルギーに関連する多くの分野で活用されており、環境保全、CO2削減に有効な手段でもある。しかしながら、そのような技術の発展と革新を確実にするためには、サイバー犯罪に対抗し、それを根絶するための国際協力の強化が必要である。この点、市民や企業に対して検閲をかけるよりも、グローバルな協力を強化する方が有効である。検閲のような行為は、情報の自由の観点から、制限されるべきであり、厳しく監視すべきである。

インターネット・ガバナンスについては、G8、G20諸国は、国際的でバランスのとれた、政府から独立した、民間を含む多様なステークホルダーによる取組みを目指さなければならない。また、インターネットのグローバルな特性は政府の政策においても尊重されるべきである。

グリーン成長

製造過程、製品およびサービスにおける技術革新が、低炭素経済への移行の鍵を握っている。エネルギー効率の向上(非効率な使用と資源の消費を減らす)には、ある程度の規模の費用対効果の高い革新的な解決策も必要である。それによって、途上国も革新的な技術を開発することが可能になると考えられる。他方、技術移転が知的財産権を侵害してはならない。知的財産が尊重されなければ、イノベーションのインセンティブは失われ、技術移転も実現できない。

政策によって企業に明確な目的を与え、その目的を達成するための方法を示すべきである。長期的な見通しを示すことが投資を促すことになる。低炭素経済に向けた道筋を明確化させることが、各国の政策を誘導し、政策に対する国際的な信頼を醸成することとなる。明確化されるべき低炭素社会に向けた道筋は、また、透明かつ実現可能な内容であって、部門毎の目標や具体的・現実的な目標を設定できるようなものでなければならない。各国政府が、自国の温暖化ガス排出量を、透明性をもって測定・報告・検証(MRV)し、気候変動対策を実行することを推進すべきである。

関係当局(各国政府等)による信頼のおける検証可能なオフセットの認知度を高めるとともに、クリーン開発メカニズム(CDM)を改善すれば、経済界の信頼の維持につながるとともに、先進国および途上国の増加する資金需要にも応えることになる。

模倣品・海賊版への対応

模倣品・海賊版は、企業活動にマイナスの影響を与え、多くの雇用を失わせるだけでなく、特に革新的な分野への投資意欲を減退させるものであり、グローバルな競争と経済成長を阻害する。さらに、模倣品は健康や安全にとっても非常に危険である。模倣品・海賊版によって得た利益は、しばしば組織犯罪の資金源となり、市民社会全体に悪影響をもたらす。模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の批准と早期発効が、増え続ける不法活動へ対抗するための最初の必要な第一歩である。

G8経済界は将来に対して楽観的である。目の前に横たわる課題の大きさを過小評価するものではないが、力を合わせることによって、最近の回復を足場に景気の下降局面での損失を取り戻し、新たな機会を提供することができると信じている。

以上

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