途上国の経済開発に加え、地球規模問題や体制移行への貢献の総合的・具体的な方針の策定、日本の人材・技術・経験を活かせる枠組み作り、経済協力の研究体制の整備を推進する必要がある。日本としても、東アジアの経験を活かし、人材育成、制度作り、技術協力等を通じて途上国の発展のための基盤整備を支援するような総合的援助政策を推進すべきである。
民間部門(企業、NGO、学界等)の幅広い参加と自由な意見交換を通じ、官民連携による21世紀に向けた経済協力ビジョン(日本の平和外交推進、地球規模問題への貢献、環境と調和した経済発展、民間部門の重視等)の作成を進めるべきである。そのためには、内閣総理大臣の諮問機関である対外経済協力審議会をより活性化し、民間部門の委員を大幅に増やすなど、経済協力に新たな息吹きを吹き込むべきである。
「政府開発援助大綱」の策定、途上国との政策対話の推進、要請主義の見直し、地球環境問題への積極的取り組みに見られるように、日本の経済協力も新たな方向性が従来よりは見えるようになってきた。しかし、実際のODAの政策決定過程、財政、実施体制の大宗は旧来のままである。財政構造からの制約(ODA予算における一般会計と財政投融資の比率)や省庁別の予算による縦割りの問題があり、新しい方針への対応が遅れている。このような硬直化・固定化したODAのあり方を、新たなニーズに対応するという視点から抜本的に見直す必要がある。
特に、ODA担当官庁の縦割りの弊害を排し、海外経済協力基金の資金協力と国際協力事業団の技術協力を連携させ、ODAの効果と成果を上げるよう努力する必要がある。さらに、政府特殊法人の見直しも視野に入れつつ、海外経済協力基金と日本輸出入銀行との業務分担の調整についての問題を解決し、民間と公的資金の連携を妨げている要因を排除すべきである。
円高が円借款受入れ国に与える影響、民間部門によるプログラムの発掘・形成との関係も含め、円借款中心のODAのあり方、円借款の適切な量的水準、無償資金協力や技術協力の増加などについての検討が不可欠である。
特に、地球規模の環境問題やアフリカなどの後発開発途上国への対応では、無償資金協力に加え第二世銀(国際開発協会)の実施している貸付条件の緩やかな借款(例:無利子、返済期間50年)の提供を検討すべきである。また、技術協力、無償資金協力と貸付条件の緩やかな借款の組み合わせなどの援助方法の創出を検討すべきである。
経済開発に加え、地球環境問題および体制移行への協力を日本の経済協力の“新たな顔”として推進し、多国間の枠組み作りにリーダーシップを発揮すべき時代を迎えている。その場合、資金協力だけではなく、日本の人材、技術、経験等が直接活かされる枠組みを整備するとともに、ODAとOOF(輸出入銀行融資などODA以外の政府資金の流れ)を弾力的に活用し、民間部門との連携を強化していくべきである。
わが国として、経済協力のビジョン提示能力を高めるため、大学における開発研究・教育の充実および国際開発高等教育機構(FASID)などの開発関係のシンクタンクの育成・強化を推進すべきである。また、国や援助実施機関で個別に行われている研究を集約し、その成果を実際の援助政策に反映させるプロセスを確立する必要がある。なお、このような研究成果については、国民が容易にアクセスできるような形で情報開示を進めるべきである。
さらに、新たなニーズに適切に対応できる援助専門家の育成が急務であり、ODAによる援助人材の育成を一層推進すべきである。
途上国の援助受入れ能力を高める観点から、途上国の経済政策の立案・実施に対するアドバイザーの派遣、産業政策・外資政策の立案、法整備、金融制度、中小企業育成等の制度および機構作りへの協力を行い、途上国の投資環境改善、市場メカニズムの整備を推進すべきである。
また、産業レベルにおいても、ODAおよびOOFにより、技能訓練機関の設立・運営の推進、人材トレーニング・プログラムの日本あるいは第三国での実施の一層の拡充、途上国民間セクター(中小企業、民間経済団体等)の育成のための施策を一層拡充することが望ましい。
環境保全と経済開発を両立させていくという地球規模の新しいニーズに対し、途上国の政府、国民の理解を得る必要がある。そのためには援助国や国際機関としても、政策対話の強化や被援助国の国民への教育・広報の推進が必要である。内外に理解を求めるためにODAの広報予算を大幅に増やし、“顔の見えるODA”を目指すべきである。