[目次] [提言骨子] [基本認識]

官民連携による途上国への知的支援の推進を求める

〜途上国の民間経済活動の活性化を目指して〜

基本認識


経済協力は、わが国の国際貢献の重要な柱である。われわれは、94年12月、政策提言"冷戦後のわが国の国際貢献と経済協力の役割」のなかで、世界経済の持続的な安定成長のために、「官民連携による経済協力」の必要性を強調した。

民間部門の発展なくして、途上国における真の意味での持続可能な経済発展は難しい。経済的な離陸を目指す途上国は、開発計画の策定や各種インフラの整備、さらには市場経済化や民営化を進めるにあたり、わが国民間企業の知識や経験に基づいた知的支援を求めている。また、経済的に離陸を遂げつつある国においても、国民経済を牽引する民間部門の人材は依然として不足している。とりわけ、ビジネスに関するノウハウや企業経営の手法の移転などに対する要請は強い。

このような途上国の新たなニーズに応えるため、経団連では、「国際貢献・人材派遣構想」の実現に向けて検討を続けてきた。この構想は、わが国に支援を求める途上国に対して、国際貢献の視点から民間企業の経験、知識$ノウハウを移転することにより、途上国の民間部門の育成を促進し、経済活動の活性化を目指すものである。われわれは、途上国政府および民間部門との政策対話の一層の促進ならびにわが国企業からの人材派遣を通じて、ソフト重視の経済協力を推進し、ひいては日本の「顔の見える」援助を実現したいと考えている。

そこで、本構想の実現に向けて、以下の提言を行う。

  1. ODAの枠組みの有効活用と民間企業参加型の支援体制の構築
  2. 民間活力を引き出し、途上国の国づくりを効果的に支援するためには、経済の発展段階に応じて途上国の多様なニーズを的確に把握した上で、わが国政府と経済界との連携により、民間企業からの人材派遣を推進していくことが重要である。

    1. 現行の専門家派遣制度間の有機的連携の強化
    2. わが国の専門家派遣は、機材供与や途上国からの研修員の受け入れなどとともに技術協力の枠組みの中で一定の成果を上げている。現行のODAによる専門家派遣事業は、複数の所管官庁のもとに異なる制度が存在し、ともすれば相互の連携が不十分なまま実施される傾向にある。民間活力を重視した開発戦略が潮流となっている今日、わが国として途上国の民間活力の活性化を支援していくためには、わが国政府と民間部門とのより一層の連携が不可欠である。
      政府は、既存の制度の改善と弾力的な運用を通じて、制度間の有機的な連携を強化し、民間企業からの人材派遣を今まで以上に推進していくべきである。

    3. 「民間企業人材派遣プログラム」の策定
    4. さらに政府は、途上国の経済活動の活性化に資する民間企業からの人材派遣を拡大していくために、必要な予算措置のもと、「民間企業人材派遣プログラム」の新設を検討すべきである。同プログラムの策定にあたっては、その初期の段階から民間企業の視点を取り入れていくことが重要である。また、途上国からの要請だけではなく、民間企業の経験に基づき、民間部門の育成のためにどのような人材が必要かを正確に把握し、途上国に対してこちらから提案していく工夫が必要である。具体的には、官民が連携して途上国におけるニーズを調査し、そのニーズに合った支援プログラムに基づき、適切な人材を派遣することが肝要である。
      人材派遣の効果を高めるためには、必要に応じて3年以上の長期に及ぶ派遣期間を最初から設定することが望ましい。また、単独での派遣に加えて、数人のグループで派遣する方が、より大きな成果を期待できる場合も多い。さらに派遣先については、民間部門の活性化を重視する視点から柔軟な対応を検討すべきである。
      また、派遣期間中は$派遣者の安全確保に十分に配慮し、業務に関する必要な情報を迅速に提供することが不可欠である。派遣者が不安なく任務を遂行し、生活できるよう、現地の日本大使館、JICA事務所、日本企業の現地事業所などを通じて、支援体制を拡充すべきである。

    5. 無償資金協力案件との有機的な連携
    6. 無償資金協力により施設や物資(職業訓練センター、医療機器、医薬品、化学肥料など)が供与された後、その保守や管理についてのアフターケア等、ソフト面の支援を十分に行うことは、援助効果をより一層高める。そこで、当該協力案件に関与した企業の協力を得て、適切な人材を積極的に派遣していくべきである。

  3. 新しい分野への知的支援の実施
  4. 官民が連携して、民間企業からの人材派遣の推進体制を構築し、われわれは以下の重要分野に新たに取り組んでいく必要がある。

    1. 広域プロジェクトへの総合的な経済協力の実施
    2. 近年、メコン河流域の総合開発など、複数の国にまたがる一定の地域を対象とする経済協力案件が世界的に注目されている。このような広域プロジェクトに対して、わが国としていかに取り組むかが大きな課題となっている。
      広域プロジェクトについては、これまでのような単一国に対する経済協力の手法では、対応に限界がある。有償資金協力、無償資金協力、技術協力を有機的に組み合わせ、インフラ整備等のハード面とともに、人材育成等のソフト面での支援も念頭に置きながら、総合的な開発計画を官民が連携して立案・形成・実施していくことが求められる。わが国としては、関係省庁が一体となり、プロジェクト全体を視野に入れて、効率的に取り組むとともに$効果的に実施することが重要である。

    3. 民活インフラ整備のための人材育成の実施
    4. 途上国の経済活動の活性化を促すためのインフラ整備が不可欠である。今後、公的資金に加えて、民間資金を導入したBOT方式(建設、操業、移転)などによるインフラ整備が増えていくものと予想される。事業資金の融資、施設の建設、機器の供与に加えて、当該事業を効率的に運営するためには、施設の運転、補修、管理を担う人材の育成が必要となる。民間が運営するインフラ事業についても、わが国政府と民間企業が協力して、人材派遣や研修員の受け入れなどを通じて、現地での人材育成を支援していくべきである。

以 上


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