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企業年金制度の抜本改革を求める

〜自由な人生設計と豊かな老後のために〜

─ 説明資料 ─


はじめに

当会では、昨年12月、「透明で持続可能な年金制度の再構築を求める」と題する年金改革の提言をまとめた。そこでは、厚生年金保険の積立方式への移行・民営化など、公的年金改革の方向を示すとともに、企業年金については、その重要性がますます高まりつつあるにもかかわらず、硬直的な制度設計、不合理な税制を強いられていることを指摘し、それら問題の解決のため、企業年金に関する法整備を求めた。
企業年金制度については、その後、「規制緩和推進計画の再改定(1997年3月28日閣議決定)」、1997年度厚生年金基金制度・適格退職年金制度の改正を通じて規制緩和の努力がなされてきたことは評価するものの、基本的な問題点は解決されていない。そこで、当会では、今回、企業年金制度の抜本改革を求める意見をとりまとめた。

  1. 企業年金制度改革の必要性
    1. 高齢化と自助努力型社会への対応
    2. 急速な高齢化に伴い、合計特殊出生率の実績値は、1994年度財政再計算時の予測を大きく下回っている。1997年1月に公表された新人口推計を織り込むと、現行厚生年金保険制度を保つためには、保険料率を34.3%(2025年度)にまで引き上げざるを得ないとの厚生省試算が示されている。また、給付と負担も世代間でバランスがとられておらず、このことが、若年世代の公的年金制度への不信感を高めている。
      これら公的年金の問題を解決するためには、給付水準等の見直しが不可避であり、これからの21世紀の高齢社会で国民が豊かな老後を過ごすためには、社会保障制度としての公的年金に加え、一人一人の自助努力により退職後の所得を確保していくことがますます重要となってくる。その意味で、現行制度を抜本的に改革し、私的年金としての企業年金、個人年金制度の充実を促す必要がある。

    3. 経済構造の変化への対応
    4. わが国経済社会のグローバル化、高齢・少子化に伴い、その経済構造、就業構造・雇用形態は、大きく、しかも急速に変化を遂げている。また、国際的な水準に較べて明らかに高い企業の公的負担や、高コスト構造が是正されない場合には、産業の空洞化、人材の空洞化の懸念がますます深刻となる。こうした流れは、21世紀を迎える中で、ますます加速するものと思われる。
      わが国企業とその従業員は、そうした環境変化の中で、新たな活力を生み出すため、懸命の企業努力を重ねている。企業年金についても、そうした経済構造の変化に迅速に対応できるよう、柔軟な制度設計、制度変更を可能にしておくことが、企業、従業員双方にとって望ましい結果をもたらすことになる。

    5. ライフスタイルの多様化への対応
    6. 国民の間の価値観の多様化により、一人一人が望むライフスタイルも多様化している。このような経済社会にあっては、退職後の所得のあり方にも多様な選択肢を備えておくことが、国民の豊かな生活を保証することにつながる。
      企業年金の積立金は、企業と従業員の長い間の努力の結果であり、その果実は、従業員一人一人のニーズに合わせた形で還元されるべきものと考える。

  2. 現行企業年金制度の問題点
  3. このような時代の要請が高まっているにもかかわらず、現行の企業年金制度については、次の通り、多くの問題点が指摘されている。

    1. 制度設計・資産運用の不自由さ
    2. 企業年金の制度設計、資産運用に関しては、先に述べた通り、規制緩和の努力はなされてきたものの、依然として多くの規制が残されている。企業年金制度の経営戦略上の位置づけや将来の展望は、個々の企業の事情によって異なるものであり、その制度のあり方は、仔細にわたり一律に決められるべきものではない。企業年金の充実を促すためには、企業と従業員の協力により、自己責任原則のもとで自由な制度設計を求めることが基本となるべきである。

    3. 年金制度全体における位置づけの曖昧さ
    4. 公的年金のうち、厚生年金制度には、1階部分の「基礎年金部分」と、2階部分の「報酬比例部分」があり、厚生年金の上の3階部分として企業年金制度がある。この3階部分については、本来、私的年金として位置づけられるべきものである。ところが、厚生年金基金において代行部分を有すること等から基金全体が公的性格を持つものと見なされ、純粋な企業の上乗せである加算部分も含め、様々な規制が課されてきた。このように企業年金の位置づけが曖昧になっていることから、結果的に企業年金に様々な規制がかけられることとなったと考えられる。

    5. 制度間の取り扱いの違い
    6. 代表的な企業年金として、厚生年金基金と適格退職年金とがあるが、両者の間には、様々な違いがある。
      たとえば、人数要件、給付水準、給付期間等については、厚生年金基金の方が厳しい要件を求められる。
      一方、給付水準の弾力化に関しては、厚生年金基金について、1997年度制度改正で労使の合意に基づく規定の変更が可能との規定が盛り込まれたのに対し、適格退職年金については「給付減額を行わなければ掛金の払い込みが困難になる等の事由がある場合」との法人税法施行令の規定のもと、より厳格に要件が定められている。
      なかでも、最も大きな違いが税制上の扱いである。特別法人税について、厚生年金基金は事実上非課税になっているのに対し、適格退職年金は、積立金に対して約1.2%の課税となっており、経済界、労働界ともに即刻撤廃すべきと主張している。

    7. ポータビリティの未整備
    8. 経済構造の変化、ライフスタイルの多様化の中、従来のような終身雇用を前提とした諸制度は、企業にとっても従業員にとっても変革を要するものとなりつつある。他方、現行の企業年金制度においてポータビリティが整備されていないことが、従業員自らの判断による転職を阻む一つの要因ともなっている。
      また、企業側にとっても、経営の多角化、新事業・新産業の活性化のための人材確保を円滑に行えないといった問題が起きている。労働力の流動化が進まなければ、経済構造改革に遅れをきたし、日本経済の活力が失われてしまうとの懸念が高まる。

  4. 企業年金制度改革の基本的な考え方
  5. 21世紀の経済社会において、従業員が、社会保障としての公的年金と、自助努力による企業年金、個人年金を支えにして、自由な人生設計と豊かな老後を手に入れるためには、現行の企業年金制度を抜本的に改革する必要がある。
    この改革にあたっての基本的な考え方は、次の3点と考える。

    1. 企業年金制度を私的制度として明確に位置づける
    2. 21世紀を活力ある経済社会とするためには、国民一人一人、民間の各主体が、自己責任原則のもと、それぞれの自由な発想と様々な工夫により自立していくことが不可欠である。そのような発想に立って、企業年金制度を私的な制度として明確に位置づけ、公的な関与は最小限にとどめるべきである。

    3. 自由な制度設計を認めるとともに、必要最低限の共通ルールを設ける
    4. 価値観、ライフスタイルが多様化した今日の社会においては、従業員が必ずしも終身払いを望んでいるとは限らない。また、原資の積み立て方法や資産運用についても、企業の経営戦略や従業員の希望によって、選択が可能となるようにしておく必要がある。このように、これからの企業年金については、可能な限り自由な制度設計を認めるようにしなければならない。
      同時に、企業年金が長期間にわたって運営される制度であることを考えれば、その運営にあたっては、自由な制度設計・運営と資産運用、受給権の確保などを定めた必要最低限の共通ルールを設けておく必要がある。

    5. 税制上の支援策を講じる
    6. 今後とも急速に高齢化が進むことを考えれば、21世紀の高齢社会で国民が豊かな老後を確保するためには、私的年金の充実が喫緊の課題であり、活力ある経済社会を維持するための鍵ともなる。国民の自助努力による退職後の所得の確保、充実を図るため、税制面からも支援策を講じるべきである。

  6. 自由化のもとでの新しい企業年金の枠組み 『新退職年金制度(仮称)』
  7. このような基本的な考え方に立って現行企業年金制度を改革する際、我々が目指す21世紀の企業年金の枠組み『新退職年金制度(仮称)』は、次の通りである。

    1. 労使の合意に基づく自由な制度設計
    2. 21世紀の企業年金は、私的な制度として明確に位置づけ、労使の合意に基く自由な制度設計を原則とすべきである。

      1. 終身・有期・一時金の完全選択制
        企業年金を、終身または有期の年金払いで受け取るか、一時金で受け取るかは、従業員一人一人が選択し、決定できる事項とすべきであり、受取形態によって取り扱いに制限を設けるべきではない。

      2. 給付水準・基礎率等の設定の弾力化
        企業年金の給付水準は、各企業の将来計画や賃金形態のあり方と深く関連するものであり、労使双方の利益となるよう、両者の合意により設定すべきものである。また、給付水準、拠出額の設定に大きな影響をもたらす基礎率の設定についても、労使の合意に基き合理的で自由な設定を認めるべきと考える。

      3. 確定拠出型の導入・選択制
        現行の企業年金の基本設計は、確定給付型のみであり、米国の401(K)プランに代表される確定拠出型は認められていない。企業年金の制度設計に関する選択の幅を広げるため、確定拠出型企業年金制度の導入が必要と考える。また、確定拠出型では、「従業員勘定(仮称)」が設けられることから、ポータビリティを確保しやすいという面がある。
        ただし、確定給付型、確定拠出型ともにそれぞれメリット・デメリットがあり、それらを考慮した上で、どちらの設計を採用するか、または併用するかは、各企業の労使の判断に委ねるべきである。
        さらに、401(K)プランに代表される確定拠出型を導入することにより制度設計の選択の幅を広げてゆくことで企業年金の充実が促される。また、そこから豊かさと活力を生むための社会資本の整備、ベンチャービジネスなど新事業・新産業への資金提供などが行われ、豊かな長寿社会の実現につながる。

      4. 代行部分のあり方の見直し
        厚生年金基金制度発足時(1966年)から30余年を経たいま、厚生年金基金を取り巻く環境は大きく変わっており、「労使合意に基づく多様な選択肢を認める自由な企業年金を指向する」という流れのなかで、調整年金として発足した基金制度の見直しが必要となっている。すなわち、社会保障としての公的年金に加え、自助努力による私的年金を充実させていくことが求められている。その場合、自由な制度設計の原則のもとでは、代行部分(「最低責任準備金」相当)は、労使の合意に基づき、返上を選択できるものとしておく必要がある。

    3. 自由化の前提としての受給権の確保
    4. 労使の合意に基づく自由な制度設計・運営の裏付けとして、各企業年金において、受給権の確保が図られる必要がある。我々が目指す21世紀の企業年金の枠組みである『新退職年金制度(仮称)』においては、以下の項目を整備することにより、受給権は十分確保されるものと考える。

      1. 外部拠出
        企業年金のための積立金は外部拠出するものとし、将来、母体企業の経営状況に左右されないよう保全するものとする。

      2. 従業員への情報開示
        労使の合意のもと自由な制度設計とし、企業と従業員の自己責任原則で年金を運営していく以上、企業年金の運営、管理に関する情報(たとえば制度の概要、財政・資産状況など)は、できる限り詳しく従業員に開示すべきである。

      3. 積立基準(確定拠出型では不要)
        確定給付型では、積立金が十分確保されているかどうかを不断に検証しておく必要がある。厚生年金基金では、既に1997年度より、時価評価、解散基準による財政検証が導入されている。21世紀の企業年金においても、時価評価、解散基準により算定した積立基準をクリアしておくことが必要と考える。
        なお、確定拠出型においては、事業主拠出分も含めて個々の従業員毎に管理される「従業員勘定(仮称)」への繰り入れがなされ、その運用成果が給付原資となるため、確定給付型のような将来の給付に必要な負債という考え方が存在せず、積立基準を適用する必要はない。

      4. 制度終了のためのルール設定(確定拠出型では不要)
        厚生年金基金では、1997年度制度改正により解散認可基準が明らかにされ、制度終了のためのルールが示された。
        しかし、制度終了は、政府が一律の基準を設けて認可を下すという類のものではない。また、母体企業の経営状況や、賃金体系の変更、社会環境の変化の中で、制度終了を含めて柔軟な対応ができるようにしておくことも必要である。
        新しい枠組みである『新退職年金制度(仮称)』においては、積立基準額を確保したうえで、労使の合意を条件に、任意に制度を終了することができることとする。なお、確定拠出型では、前述の通り、積立基準の適用がないので、労使の合意さえあれば、任意に制度を終了できるものとする。

      5. 受託者責任の明確化
        米国のエリサ法では、受託者責任を定めている。その主な内容は、

        1. 忠実義務(受託者は専ら受益者の利益を図らなければならない)
        2. 善管注意義務(プルーデントマン・ルール)
        3. 分散投資義務
        である。
        注)プルーデントマン・ルールとは、「当該状況下で、同様の立場で行動し同様の事項に精通している思慮深い人(プルーデントマン)が、同様の事業の運営にあたり行使するであろう注意、技量、思慮深さ、勤勉さを用いること。」
        21世紀の企業年金においても、自己責任原則を全うできるような環境整備を図るため、民法、信託法等既に受託者責任を規定している現行法との整合性に配慮しつつ、企業や金融機関など制度の運営、資産の運用・管理に関わる受託者の範囲とその責任の内容を規定することが必要である。

      6. 支払保証制度は不要
        受給権確保を目的に、企業年金に支払保証制度への加入を義務づけるべきとの議論がある。しかしながら、現在、厚生年金基金が任意に加入している支払保証制度でも、保証の対象となるのは代行の上乗せ部分であり、その上限も設けられている。また、適格退職年金については支払保証制度そのものが存在しない。企業年金はあくまで私的年金であり、その運営は自己責任原則を貫くことが不可欠である。支払保証制度を義務づければ、必ずモラル・ハザードの問題、不必要な所得移転が発生する。
        従って、新しい枠組みである『新退職年金制度(仮称)』において、支払保証制度は不要と考える。一方で、支払保証制度を不要とする以上、企業年金についての企業サイドの責任は重く、企業は制度の健全性を維持することに努め、従業員と投資家に対して積極的に情報を開示していくことが求められる。

    5. 共通の税制と退職年金への支援
    6. 企業年金の給付形態(終身・有期・一時金)、基本設計(確定給付・確定拠出)などの違いにより、税制上の扱いが異なるようなことがあってはならない。また、退職後の所得の確保を促すという意味から、一定の条件のもとに等しく税制上の支援策を講じるべきである。
      このような観点から、我々が目指す新しい枠組み『新退職年金制度(仮称)』に関する税制は、次のような仕組みとすべきである。

      1. 受給時課税への一本化と特別法人税の撤廃
        諸外国の例を見ても、概ね、拠出時、積立時(運用益、積立金とも)は非課税とし、受給時に課税することが原則となっている。自助努力による企業年金の充実を促すため、積立努力、運用努力を阻害するような現行の特別法人税は企業年金制度改革を待つことなく即刻撤廃し、課税は受給時に一本化すべきである。

      2. 積立超過を認める事業主拠出の損金算入枠
        企業にとって、賃金、退職後所得をどのように従業員に支払っていくかは、経営戦略上の重要な課題であり、そのための積立金確保は経営者が果たすべき役割と考える。米国では、この経営者の積立努力を促して原資をより確実に積み立てられるよう、各企業が業績のよい時期に、「完全積立限度額」の範囲内で拠出することができる制度を設けている。これにより、企業業績の悪い時期に拠出を抑制しても積立不足が生じないようにすることができる。
        『新退職年金制度(仮称)』においても、過去勤務債務償却の一層の弾力化や特例掛金制度の全面的導入に加え、一定の範囲内で積立基準を超過する資産の積立が可能となるような損金算入枠を設定すべきである。

    7. ポータビリティの確保
    8. 今後ますます激しくなると予想される経済構造変化の中で、雇用の流動化に合わせ、企業年金のポータビリティを確保することも重要となってくる。そのためには、次の3点が必要となる。

      1. 退職時の一時払い規定
        確定拠出型の場合はもちろん、確定給付型の場合でも、退職時に一時払いで受け取った積立金を、次の就職先の企業年金に持ち込める場合には移管する、または次に述べる「個人勘定(仮称)」に繰り入れる。こうすることにより、転職に伴う企業年金面でのデメリットを最小限にとどめることができる。

      2. 「個人勘定(仮称)」の創設
        一時払いで受け取った積立金の受け皿として、「個人勘定(仮称)」を設ける。この勘定は、

        1. 退職時に一時払いを受けた積立金を繰り入れる
        2. 次の転職先の企業年金に移管されるまでの間の中継ぎに利用する
        などの機能を有するものとする。
        その際、拠出時、積立時の扱いは非課税とし、退職後の所得確保を支援する一方で、一般の貯蓄との区分を明確にする意味で、「個人勘定(仮称)」からの引き出し要件については、一定年齢に達した場合や転職した場合等客観的な基準を設けることとし、その基準を満たさない引き出しに対しては、ペナルティ的な課税措置をとるものとする。

      3. 課税の繰り延べ措置(ロールオーバー)
        上述のような一時払い規定、「個人勘定(仮称)」を通じてポータビリティが高まるようにするため、企業年金間、または企業年金と「個人勘定(仮称)」との間の積立金の移動の際、課税が行われないよう必要な税制措置を講じるものとする。

    9. 企業年金と個人年金の機能分担
    10. 個人年金についても企業年金と同列に位置づけ、一つの制度に包括してはどうかとの考えがある。しかしながら、個人年金は、あくまで個人の自助努力による積立の成果であるのに対し、企業年金は企業の人事政策、経営戦略とあいまって、労使の協調と努力により積み立てるものであり、両者は基本的に全く性格の異なる制度と考える。
      自営業者などについては、国民年金基金制度等の充実や、個人年金に対する税制支援により、引退後の所得の充実を促すべきである。

  8. 『新退職年金制度(仮称)』への道筋
  9. 我々が求める21世紀の企業年金の枠組みである『新退職年金制度(仮称)』は、上述の通り、労使の合意に基づく自由な制度設計、自由化の前提としての受給権の確保、共通の税制と支援策から構成されるものであり、これを具体的に実現し、企業年金の充実に対する労使の自助努力をさらに促すことで、既存の厚生年金基金制度、適格退職年金制度、退職一時金制度等の受け皿になるものと考えられる。
    1999年度に予定されている年金制度改革においては、既存の企業年金制度の手直しにとどまらず、ここに提言した『新退職年金制度(仮称)』を裏付けるような、必要最低限のルールと税制上の支援策のための法整備を行うべきである。

以  上


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