流通分野における一層の規制緩和を要望する

総 論

1998年 4月21日
(社)経済団体連合会


  1. 流通分野の規制緩和の現況と経団連の対応
    1. 規制緩和の進捗状況
    2. 1995年3月の『規制緩和推進計画』の策定以来、政府・行政改革推進本部や行政改革委員会の活躍もあって、規制緩和は大幅に進展してきた。
      流通分野においても、古物営業法の改正、米穀小売業の自由化、食品関係営業許可の簡素化・合理化、景品規制の緩和、みりん販売免許の新設等、長年の懸案であった課題が着実に実現してきている。
      しかし、内外から強い要望が寄せられてきたにもかかわらず、95年4月から98年3月末までの『規制緩和推進計画』の下では実現しなかった規制緩和も少なくない。例えば、今回廃止の方針が打ち出された大店法による店舗規制は、90年代に入ってから3次にわたり緩和されたものの、『規制緩和推進計画』の下では、それ以上の進展は見られなかった。閣議決定により「廃止の方向に向かうよう努める」とされた需給調整の観点から行われる参入規制についても、酒類販売免許、製造たばこ小売販売許可に係る需給調整条項は未だ廃止されていない。また、事実上の参入規制となっている医薬品販売に係る薬剤師の配置規制についても、若干の医薬品について分類見直しが行われたものの、ほとんど前進はみられない。さらに、地方公共団体におけるいわゆる上乗せ・横出し規制、独自規制については、『規制緩和推進計画』が国の規制を対象としたものであったため、機関委任事務等に係るものを除くと緩和は進んでいない。
      そうした中で、本年3月31日に、新たに『規制緩和推進3か年計画』が閣議決定された。

    3. 経団連の取り組み
    4. この間、経団連では流通委員会が中心となり、会員企業・団体のビジネス・ニーズを踏まえ流通分野における規制緩和策を集中的に取りまとめ、『規制緩和推進計画』に盛り込まれるよう、以下の通り働きかけてきた。

      (項目数は流通関係の規制緩和要望事項数)
      1994年4月意見書『流通分野における各種規制の緩和を求める』(35項目)
      5月意見書『規制緩和の断行を求める』(上記35項目を再要望)
      7月政府『規制緩和推進要綱』を閣議決定
      8月規制緩和要望に関するアンケート調査を実施
      11月意見書『実効ある規制緩和推進計画の策定を求める』(49項目)
      1995年3月政府『規制緩和推進計画』を策定
      9月意見書『消費者志向型の流通システムの確立に向けて』
      (流通分野における構造変化の実態を踏まえ、一層の規制緩和と新たな中小小売業振興策確立の必要性を指摘)
      10月意見書『規制緩和推進計画の改定に望む』(60項目)
      1996年2月意見書『規制緩和推進計画の改定に重ねて望む』
      (上記60項目の内、53項目について再要望)
      3月政府『規制緩和推進計画』を改定
      10月意見書『規制の撤廃・緩和等に関する要望』(39項目)
      1997年2月意見書『規制の撤廃・緩和等に関する再要望』
      (上記39項目を再要望)
      3月政府『規制緩和推進計画』を再改定

      1997年度に入ってからは、98年3月の新しい規制緩和推進3か年計画策定に向け、97年9月の意見書『21世紀に向け新しい規制緩和推進体制の整備を望む』において、新計画の下で達成すべき流通分野の規制緩和の重点課題を指摘した。さらに、同年12月にアンケート調査を実施し、その結果に基づき、98年2月に、新計画に当初段階で是非とも盛り込むべき8項目の規制緩和策を取りまとめ、他分野の要望事項とともに、意見書『規制緩和要望』として建議した。
      本要望書は、新計画の下での実現を期して、この8項目を含め流通分野における規制緩和の重点課題を取りまとめたものである。

  2. 今回の要望書の基本的な構成
  3. 本要望書は、経団連の従来からの要望事項の未実現項目に、1997年12月に実施したアンケート調査による新規事項を追加して取りまとめた。
    『地方分権推進計画』の策定を控え、地方公共団体への権限委譲の必要性が指摘されることが多いが、一方で、現状においても、地方公共団体における行き過ぎた条例・規則・行政指導(要綱等)が流通業の正当な事業活動の妨げとなるとの指摘が少なくない。そこで、本要望書では、国による規制の緩和要望とは別に、地方公共団体による規制の緩和要望も取りまとめた。
    なお、今回のアンケート調査でも、大店法ならびに大店法に基づく地方公共団体の規制について、数多くの緩和要望が寄せられた。しかし、大店法は2000年に施行予定の大規模小売店舗立地法案(以下「大店立地法案」と略す)により廃止が予定されている。他方、この大店立地法案は国会で審議されている状況にあることから、本要望書においては、以下に流通行政のあり方について基本的な考え方を指摘しておきたい。

  4. 転機を迎える流通行政についての考え方
    1. 構造変化に直面する流通業
    2. 1990年代に入ってから、小売業においては、規模別、業態別に両極分化が顕著となってきている。
      規模別では、1991〜97年の間に、従業員規模10人以上の小売業は約2万1,500店(9.2%増)増加したのに対し、1〜9人の小売業は約27万7,000店(15.1%減)減少している。業態別では、同期間に、セルフ販売店は、専門スーパーが11,381店増(54.6%増)、大型総合スーパーが391店増(33.9%増)、コンビニエンス・ストアが12,755店増(53.5%増)等、著増している。一方、従来型の商店は、専門店が169,095店減(16.8%減)、準専門店が75,318店減(16.3%減)等、大幅に減少している。
      個人消費が低迷する中で、出店競争を続ける大規模小売業においては、総合スーパー等を中心に財務体質の悪化も見られる。こうした中、店舗戦略の見直しも進んでおり、大型ショッピングセンターやアミューズメント施設を併設した複合型店舗等への重点的投資も目立ってきている。
      中小小売業では、後継者不足等もあって、転廃業の流れに歯止めがかからない状況にある。このため商店街の空洞化が進み、これがまた中小小売業の減少に繋がるという悪循環が発生している。
      他方、大型専門店や対事業所サービス等も行う高付加価値型専門店等の分野で、外資系流通事業者の対日投資や提携が活発化している。また、外資系ディベロッパーによる、従来のわが国の通念をはるかに上回る規模の超大型ショッピングセンターの建設構想も浮上している。

    3. 流通政策の転換に関する評価
      1. 歴史的使命を終えた大店法を中心とする流通政策
        従来の大店法を中心とした流通政策は、このような流通業の構造変化に対応しきれず、むしろ、構造変化に伴う摩擦を深刻なものとした面が大きい。
        具体的には、大規模小売業においては、立地の制約が厳しい既存の商業集積地を避け、非商業地区や郊外に立地する傾向が目立っている。また、大店法の調整による店舗面積の削減、調整期間の長期化等のため投資効率が悪化しており、既存市街地の店舗を中心に不採算店舗を撤収する動きも加速している。この両者が相まって中心市街地の空洞化にますます拍車をかける結果となっている。
        また、中小小売業を見ると、消費者ニーズの変化やモータリゼーションの進行等の環境変化への積極的な対応より、さし当たって大規模店舗の出店阻止や店舗規模の縮小に商店街単位で力を注ぐ姿勢に傾きがちである。こうした風潮の中では、自己革新により活路を開こうとする意欲と能力ある中小小売業者が、例えば大規模店舗と協力・補完し合って新たな事業展開を行おうとしても、極めて難しい状況となっている。
        さらに、大店法は対日進出を目指す外資系流通事業者にとって深刻な投資障壁となっている。大規模店舗を主な流通チャネルとする対日輸出業者からの反発も強く、大店法はWTOルールに抵触するとの国際的な指摘もある。
        このように現行大店法はさまざまに問題があり、その廃止は遅きに過ぎたとの指摘もある。しかし、大店法の廃止には強硬な反対論も多かっただけに、今回の廃止の決定は画期的な政策転換と評価できよう。経済的規制の象徴ともなってきた大店法の廃止は、規制緩和の進展を内外に示すものであり、わが国の行政改革の歴史の上でも特記すべき第一歩となろう。

      2. 大店立地法等新制度についての考え方
        大店法に替わる制度として提案されている大店立地法の制定ならびに都市計画法の改正等をめぐってはさまざまな議論がある。新制度の下では、地方公共団体によっては、大店法以上に厳しい大規模店舗の出店規制が行われる惧れも指摘されている。
        とりわけ、大店立地法案については疑問が多い。例えば、

        1. そもそも大規模店舗のみを対象とした新たな立地法が必要か、
        2. 実質的に中心となる「指針」を行政立法に委ねることは立法政策として妥当か、
        3. 「指針」を実現する手段を「勧告」という行政指導に求めることは、行政不服審査や行政事件訴訟の道を事実上閉ざすことにならないか、
        4. 行政指導に従わなかった事業者に対する「社会的制裁」としてその旨を公表することは、経団連意見書『規制の撤廃・緩和等に関する要望』(1996年10月28日)で指摘しているように、「相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない」という行政手続法第32条第2項の趣旨を逸脱するものではないか、
        等々が指摘されている。
        また、大店法の下でも、地方公共団体の上乗せ・横出し規制が多く、調整処理の不透明性・長期化が指摘されてきたところであるが、大店立地法案のように調整を全面的に地方公共団体に委ねた場合、こうした事態がさらに深刻化するのではないか、という懸念もある。
        他方、都市計画法の改正についても、地方公共団体の運用次第で、特別用途地区制度が需給調整を目的として使われる惧れがある。
        したがって、新制度が成立した場合は、これらが形を変えた大店法とならないよう、政省令ならびにその運用においてこうした懸念を払拭することが期待される。
        なお、大規模小売事業者としても、大店立地法案の目的に示されるように、出店が地域の生活環境に及ぼす影響が注目されている事実を重く受け止め、従前にも増して交通渋滞・交通安全、駐車・駐輪問題、騒音、廃棄物等の対策に積極的に取り組む必要がある。

      3. 今後の流通政策の課題
        上記のように、新制度については問題とされる点が多く、成立した場合には、適正な運用に努める必要がある。
        先ず、通産省は、大店立地法の「指針」を、数値等により客観的かつ分かりやすいものとするとともに、通常、広域展開を前提とする大規模小売業の特性に鑑み、地方公共団体間の取り扱いに過度に差が生じることがないよう裁量の幅を極力限定したものとすべきである。
        地方公共団体は、大店立地法案第13条(「地方公共団体は、小売業を行うための店舗の立地に関し、その周辺の地域の生活環境を保持するために必要な施策を講じる場合においては、地域的な需給状況を勘案することなく、この法律の趣旨を尊重して行うものとする」)の遵守は当然のこととして、大店法廃止の趣旨に即して、特別用途地区制度や中心市街地活性化関連法案の運用を含め、むしろ積極的に大規模店舗を活かして地域の経済社会の活性化を図っていく姿勢が望まれる。
        また、関係行政機関が、大規模小売事業者の負担軽減を図る観点から、大店立地法による調整期間内に、建築確認、食品関係営業許可、医薬品販売許可、酒類販売免許、たばこ小売販売許可等の手続きを同時並行的に処理するよう協力することが望まれる。


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