提言「PFIの推進に向けて」
−市場原理を活用した社会資本整備と構造改革の実現−

2.PFIの推進にあたって必要な条件整備と今後検討すべき主な課題


去る5月に国会に提出された「PFI推進法案」は、おおむね上記の「基本的な考え方」が反映されており、基本的に評価したい。今臨時国会において本法案を早期に成立させるべきである。

しかしながら、今後の運用次第では、PFIが、ケースによっては問題が指摘されている第三セクターの二の舞になることも懸念なしとしないことから、PFIの趣旨に照らして適切な運用が行われるよう、PFIの推進にあたって必要な条件整備を行うべく、政府はさらに次のような課題について具体的な検討を行い、その検討結果を内閣総理大臣が策定する「基本方針」等で明らかにしていくことが必要である。

  1. 事前の契約(協定)による官民のリスク分担の明確化
  2. PFI事業の経営は民間主導で行うものであり、当然、民間事業者が事業遂行に係る主要なリスクや責任を負わなければならない。但し、法制度の変更によるリスク等は基本的に民間事業者が負いきれるものではなく、官がリスクを負担すべきである。

    PFI推進法案では、「選定事業は事業計画や協定に従って実施されること」が規定されており、協定において想定されるリスクの負担関係を明確化することが必要である。各事業毎に、予想されるリスクに関して、官・民どちらが責任を負うのか、官民間で事前に契約(協定)により取り決めることが不可欠である。リスク分担を規定する契約の締結は、PFIの主な資金調達方法となるプロジェクト・ファイナンスをわが国に定着させていくためにも必要である。

    リスク分担はわが国ではあまり馴染みのないことであるため、まず、政府が、イギリス等の事例を参考に、想定されるリスク事例を列挙するなど、リスク分担に係る参考モデルを提示すべきである。但し、リスク分担のあり方は個別の事業毎に異なるものであり、モデルを参考に、柔軟に対応することが求められよう。

  3. 公平・透明な手続の確保と情報公開
  4. (a)社会資本の整備計画の策定、(b)PFI事業計画の策定、(c)民間事業者の選定、(d)PFI事業の実施といった一連のプロセスを通じて、市場原理と国民によるチェックが機能するよう、公平・透明な手続と積極的な情報公開が行わなければならない。

    1. 統一的な評価・選定基準の明確化
    2. PFI推進法案においては、「公共施設等の管理者等は、特定事業の選定並びに民間事業者の選定を行うにあたって、客観的な評価(当該特定事業の効果及び効率性に関する評価等)を行い、その結果を公表しなければならない」ことが明記されており、法の趣旨に基づいて、公平・透明な手続を確保する観点から、今後、特定事業の選定や民間事業者の選定に係る統一的な評価基準について、可能な限り「基本方針」で明らかにすべきである。

      なかでも、「公共施設等の管理者等」が特定事業の選定を行う際の具体的な評価基準として、VFMの徹底が重要である。VFMは、全事業期間にわたる政府支出の現在価値を計算することによって測定されるが、社会資本の整備事業を従来の公共投資手法とPFI手法のどちらで行った方が効率的なのか、また、官はどの程度支援措置が可能なのか等を判断する際に有効な基準である。政府は、従来の公共投資手法による場合のライフサイクル・コストの算定方法の確立を図るとともに、VFMの測定に係る基本的なモデルを提示すべきであり、また、VFMを用いて判断する専門家を置く必要がある。

      また、法案において、民間事業者の選定にあたっては公募の方法によることを基本とされたことは、公平・透明な手続の担保につながる。海外の事業者にも開かれたものとすべきである。一方、発案企業のアイデアや技術・ノウハウの流出を防ぐ観点から、例外的に随意契約も認められてよいと考えるが、その場合においても透明性を確保するための措置を講じることが必要である。

      さらに、1998年3月に実施要領が策定され、建設省所管の公共事業に関して、新規事業採択時に総合的な評価を行うこととされたが、従来の公共投資手法で行うにせよ、PFI手法で行うにせよ、そもそも、これから取り組むべき社会資本整備は何かについて、費用便益分析により、官が責任を持って判断することが重要である。

    3. 実施手続等
    4. PFIは新しい社会資本整備の手法であり、現段階ではPFIに対する理解が官民ともに必ずしも十分でない。そこで、PFIを推進し、公平・透明な手続きを確保する観点から、PFI事業に係る実施手続や契約のあり方等について、政府は具体的な検討を行い、「基本方針」もしくは別途作成が求められる事業分野毎のガイドラインにおいて、広く一般に提示すべきである。

      また、国・地方自治体が計画中の社会資本整備事業に係る情報公開を充実するなど、民間事業者の発案が行いやすい制度づくりや環境整備を行うべきである。さらに、地方自治体のPFI事業について、住民同意や議会の承認手続を円滑に進めるための方策についても、早急な検討が必要である。

  5. 官の関与ならびに公的規制を最少限に
  6. 事業の遂行にあたって、民間事業者の自主性・創意工夫が発揮されることが重要であることから、民間が相当のリスクを負う一方で、「民主導の経営」を進めやすいよう、官の関与ならびに公的規制は最少限にすることが必要である。また、より多くの事業分野にPFIを導入するためにも、規制緩和の推進など法制上の措置を講じていくことは必要不可欠な課題である。

    第一に、現在、公物管理法上、社会資本の様々な分野において、国や地方自治体、公社・公団等が行う管理についての規定が置かれている。これら社会資本の整備にあたって、民間事業者の円滑なPFI事業の推進が法的にも可能であることを明確にすべく、周知徹底や規制緩和など必要な措置を柔軟かつ迅速に講じるべきである。

    第二に、行政財産の利用に関しては、国有財産法並びに地方財産法上、厳しい規制が課せられている。特に、地価の高いわが国では、既存の公有財産を積極的に活用していくことが重要であろう。普通財産と行政財産の区分の仕方、民間利用のあり方を含め、行政財産の利用に係る規制を緩和することが必要である。また、公有財産の積極的な利用とPFI推進の観点から、公有財産(特に低未利用地、遊休地)の今後の利用計画等を定期的に公開していくべきである。

    PFI推進法案においても、「民間事業者の技術の活用及び創意工夫の十分な発揮を妨げるような規制の撤廃又は緩和を推進する」と明記されており、法の趣旨に則って、様々な規制の撤廃又は緩和を図っていくべきである。

  7. 民間事業者の参入を促すための措置
  8. PFI事業を立ち上げるためには、官にとってはVFM基準が満たされ、民にとっては採算見込みが成り立たなければならない。社会資本の整備事業は、一般的に、投資コストの回収に長期間を要し、収益性が比較的低いことに鑑み、PFI事業への民間事業者の参入を促すためには、あくまでVFM基準に反しないことを前提とした上でその範囲内で、採算が見込まれるラインまで支援措置を講じる必要がある。

    支援措置を講じるにあたっては、個々の事業毎に、官民両者の基準(VFMならびに採算見込み)が成り立つ範囲内で、財政・金融・税制上の支援措置ならびに事業の複合化(収益性の低い公共事業と収益性の高い事業との組み合わせ)等とのベストミックスを官民の間で模索する必要がある。また、PFI事業はタイムスケジュールに沿って進められることが重要であり、土地収用の迅速化も重要課題である。

    1. 税制上の措置について
    2. そもそもPFI事業は、これまで官が公租公課を負担することなく実施してきた社会資本整備を民間事業者が行うものである。既存の公共事業と事業条件がイコール・フッティングとなるよう、公共施設と同等の扱いとすることを基本として、特に、PFI事業の遂行に係る税制については、整備施設の種類にかかわらず原則非課税とすべきである。具体的には、PFIの対象となる施設に係る登録免許税、不動産取得税、事業所税、特別土地保有税、固定資産税を非課税とすべきである。また法人税に関し、設備等の特別償却、割増償却制度の創設や事業終了時の無償譲渡により生じる損失に備えた準備金制度の創設など、軽減措置を講じるべきである。

    3. 金融上の措置について
    4. 各事業の状況に応じて、政府・地方自治体並びに政府系金融機関による低利・無利子融資制度が受けられるよう、制度の充実を図るべきである。

    5. 財政上の措置について
    6. 現行法の下では、民間事業者に対する補助金制度が確立されていないため、PFI事業の選定事業者に対する直接的な補助金交付の仕組み作りが必要である。その際、補助金交付主体の一本化など、可能な限り簡易な仕組みとすべきである。

      また、PFI事業に対する地方自治体のインセンティブを確保する観点から、当面、PFI事業の実施が既存の補助金や地方交付税の交付に対して中立的となるような工夫を講じる必要がある。より根本的には、PFIを通じて地方自治体の行財政の効率化に向けた努力がインセンティブとして働くようにすることが必要であり、地方財政のあり方の見直しに向けた検討を行っていくべきである。

      多様なPFI事業の展開を図っていく観点から、政府・地方自治体が出資する形態のPFIもありうるが、民間主導の経営、官民の役割分担の徹底の観点から、民側の姿勢として、安易に官の出資を求めるべきではないと考える。

  9. 「民間資金等活用事業推進委員会」等第三者機関の機能の強化
  10. PFIを推進するとともに、公正・透明な手続が確保されるよう、事業等の客観的な評価や官民の利害調整等を行う、強力な第三者機関が必要である。

    PFI推進法案では、「民間資金等活用事業推進委員会」を設置することが明記された。本委員会の構成メンバーに金融や法律の実務専門家を選任するなど、本委員会が的確かつ機動的に機能するよう環境整備を行うべきである。

    また、地方自治体のプロジェクトに関しても、同様の機能を担う全国的な組織を設置すべきである。

  11. プロジェクト・ファイナンスの普及などその他の環境整備
  12. PFIを推進するためには、事業会社の参入を促すための措置のみならず、資金の供給者として重要な役割を担う金融機関が参加しやすいことも重要な課題である。その観点から、PFIの主要な資金調達手段となるプロジェクト・ファイナンスがわが国においても行われやすい環境整備が必要である。

    そのほか、新しい手法であるPFIをわが国に定着していくためには、PFI事業が破綻した場合の対応、政府ならびに地方自治体におけるPFIを専門とする人材の養成、官における会計制度の見直しなど、検討を要する事項は多い。

    また、PFIは新しい社会資本整備の手法であり、PFIの理念等について、国民の理解を促進する必要がある。PFIは社会資本整備の効率化を求める手法であり、本来の目的に照らして必ずしも必要としない付加的施設の整備等は要求しないなど、国民への啓蒙活動も重要である。


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