経済再生に向け規制緩和の推進と
透明な行政運営体制の確立を求める
これまで国民の老後生活の大きな柱となってきた公的年金は、少子・高齢化の進展、経済社会構造の変化により、保険料負担の抑制と給付水準の見直しが避けられなくなっている。今後は公的年金だけでなく、国民の自助努力による私的年金の充実を促し、老後生活の安定を確保していくことが不可欠となってくる。
現在、来年の財政再計算に向けて、公的年金制度の改革が議論されているが、サラリーマンの老後生活を支える企業年金制度の抜本改革についても、一体で進めるべきと考える。
具体的には、確定拠出型企業年金制度の導入、運用規制の撤廃、制度運営に関わる届出制度の見直し等、労使合意に基づく自由な制度設計・運用が可能となるよう、規制緩和・撤廃を要望する。
医療費の総額を抑制し、保険財政を健全化させるとともに、国民の多様なニーズに合わせた医療・福祉サービスを提供するためには、医療・福祉の分野でも規制の撤廃・緩和を推進し、本格的な競争原理を導入することが必要である。 具体的には、次の3点について、規制緩和を推進すべきと考える。
大競争時代の内外の構造変化に対応し、今後、活力に富み、豊かで魅力ある日本を築くためには、自己責任の下に主体的に行動する創造的な人材の育成が急務である。経団連では、この認識の下に、現在の知識・学歴偏重を是正し、誰もが自分の目標を実現する上で相応しい教育や進路を選択でき、その能力を最大限に発揮できる人材育成システムの実現を求める「創造的な人材の育成に向けて−求められる教育改革と企業の行動」と題する提言を96年3月に取りまとめた。
同提言では、創造的な人材育成の環境作りに努めるために、各企業に対して、学校名不問や公募制などによるオープンかつフェアな採用、通年採用や中途採用の拡大による採用方法の多様化などの自己改革を7つのアクションとして提示した。また、新設した創造的人材育成協議会では、各企業へ自己改革への働きかけを行なうと共に、その変わる企業の姿を98年4月に「変わる企業の採用行動と人事システム―教育改革に向けての企業からのメッセージ」事例集(42社)として公表し、その周知・広報に努めている。
一方、同提言では、創造的な人材を育成するためには「複眼的」な評価による、「複線的」選択機会を提供できる人材育成システムが望ましいとの観点から、教育界・行政・家庭に対して、以下の5つの提言を行なった。
そして、上記提言での教育分野における規制緩和の必要性を踏まえ、96年10月及び97年2月に経団連の規制緩和要望の一環として、能力・個性に相応しい教育、選択できる多様な教育、新たな環境に対応した教育の観点から、教育分野における以下の9項目の規制緩和を要望した。
現在、21世紀を展望したわが国の教育のあり方については、中央教育審議会等の各審議会において精力的に検討され、各種答申が出されるとともに、逐次具体化が図られている。ゆとりの中で生きる力を育むとの理念の下に一人一人の能力・適性に応じた教育を行なうための種々の改革方策は基本的にはわれわれの提言の考え方と一致しており、われわれの要望した教育分野における9つの規制緩和要望中、8つについては緩和にむけての取組みが開始されている。
しかし、グローバル化、高度情報化、少子化・高齢化等、環境は急速に変化している。そこで、今般、従来の取組みが不十分な事項と経団連会員企業からの規制緩和要望を踏まえて、新たな環境変化に柔軟に対応した教育改革をさらに推進するとの観点から、以下の教育分野における規制緩和を要望する。
世界的な大競争時代が到来しつつある今日、わが国は、企業の国際競争力を引き続き維持、強化していくために、従来の右肩上がりの経済を前提とするキャッチアップ型システムを転換し、企業活力を引き出すための法制度の整備・構築が必要である。例えば、企業が自らの創意工夫で事業を切り開いていくための支援措置、リスクを厭わない起業家の支援、成功者が正当に報われる制度、環境変化に合わせて企業組織・事業を機動的かつ柔軟に変更していく制度等必要である。また、企業活動に過度な重圧を与えている税制、金融システム、社会保障を抜本的に改革し、持続可能な制度に移行していくことが前提である。
企業活動を律する現行諸制度は、必要に応じた抜本的見直しが先延ばしされてきたことから、変化の激しい今日、制度と実業界のニーズの乖離はますます広がりを見せている。そこで、企業活力を引き出すという明確な目的を掲げ、諸制度の抜本的見直しを中長期的に進めることが必要である。また、見直しを完成させるまでの間の短期的な緊急避難策を併せて講じる必要がある。政府がその整備に取組む姿勢を示せば、起業家精神を昂揚させ、ビジネス・チャンスに対する企業の積極的取組みを引き出すことにつながり、現在の経済低迷からの脱却と景気浮揚に貢献するものと期待される。
かかる認識から、下記事項の重点的な規制緩和を要望する。
規制緩和推進計画が策定されて以来、流通分野においても着実に規制緩和が進められており、特に、1998年に入ってからは、経団連が長年にわたって要望し続けてきた大店法廃止の方針が固まった。
他方、98年3月末までの規制緩和推進計画の下では実現しなかった規制緩和項目も少なくない。例えば、閣議決定により「廃止の方向に向かうよう努める」とされた需給調整の観点から行われる参入規制についても、酒類販売免許、製造たばこ小売販売許可に係る需給調整条項は未だ廃止されていない。また、事実上の参入規制となっている医薬品販売に係る薬剤師の配置規制についても、若干の医薬品について分類見直しが行われたものの、ほとんど前進はみられない。さらに、地方公共団体におけるいわゆる上乗せ・横出し規制、独自規制については、『規制緩和推進計画』が国の規制を対象としたものであったため、機関委任事務等に係るものを除くと緩和は進んでいない。
需給調整や資格制度に関わる事業の参入に関する規制をなくしていくべきである。また、免許・資格制度に関わる同業者組合・事業者団体に委託された業務の運用に際しては、新規参入制限とならないよう注視するべきである。
なお、大店法廃止により施行することが予定されている大規模小売店舗立地法に対しても、会員企業・団体から多くの意見が寄せられた。しかし、これらについては、現時点で、一方は廃止が決まっており、他方についてはまだ規制の具体的内容が明らかになっていないため、今回の規制緩和要望には含めていないが、地方公共団体によっては、大店法以上に厳しい大型店の出店規制が行われる惧れも各方面から強く指摘されている。大型店出店に関わるこれらの法的枠組みが、需給調整や商業調整のために恣意的に運用されることのないよう、調整処理の透明性を担保することが必要である。大店立地法第13条の規定通り、「地域的な需給状況を勘案することなく」法を運用することを強く求める。
日本の経済社会は大きな転換期を迎えている。深刻な財政赤字、高齢化の進展、国際的な大競争時代の到来など厳しい時代の変化にあって、わが国は、内外からの投資を呼び起こすような魅力的な経済社会づくりに取り組み、その確かな基盤に立って真に豊かで、活力ある市民社会を築いていく必要がある。
そのためには、国民の多様なライフスタイルを可能にする質の高い居住空間を形成する必要があり、良質な住宅を整備し、適正な土地利用を推進していくことが求められる。
また、活力ある市民社会の舞台となる都市は、そこで活動する人々が機能性、利便性に加え、美しさや健康、安全性、快適性などを享受できる場でなくてはならない。このような理想の都市づくりに向けて、土地が有効利用され、最も有効利用しようとする主体が土地を容易に取得できるよう、土地の流動化が促進されるべきである。
このように、土地政策、都市政策、住宅政策は、農業政策、金融政策などとも領域を重ねながら総合的、一体的に展開される必要がある。経団連の土地・住宅分野に関する規制の撤廃・緩和、合理化に向けた要望は、このような総合的な土地・住宅政策を確立する見地に立って、魅力ある都市・居住空間づくりを目指すものである。
昨年、国土利用計画法の規制が合理化され、土地取引の事前届出制度を事後届出制度に転換した。この措置は「事前から事後へ」という規制緩和の流れに沿うものであり、高く評価できる。しかし、「公有地の拡大の推進に関する法律」によって、一定の要件に係る土地を譲渡しようとする者は都道府県知事に届出を行なわなければならず、一定期間売買契約等が締結できない。これは国土利用計画法の「事前から事後へ」という規制合理化の趣旨を損ねるものであり、公有地の拡大を妨げない範囲で、公有地の拡大の推進に関する法律の合理化を早急に行なうべきである。
国・地方自治体を通じて厳しい財政事情にあるなかで、効率的な社会資本整備を推進していく観点から、わが国においても新しい社会資本整備手法であるPFIを推進していくことは重要な課題である。PFI事業の遂行にあたっては、民間事業者の自主性や創意工夫が発揮されることが重要であることから、官の関与ならびに公的規制は最小限にすべきであり、また、多様なPFI事業を可能とする観点から、行政財産の私権設定等に係る規制等を見直すべきである。
公共工事分野については、正当な競争を抑制し、効率的な公共事業の実現を阻んでいる各種の規制の緩和・見直しが求められる。具体的には、入札における最低制限価格制度、官公需法、共同体企業制度の見直し等が挙げられる。
また、不良不適確業者の排除等に留意しつつ、監理技術者や一般競争入札に関する資格・検査制度を改善していくことが求められる。
廃棄物分野については、産業界は従来より、廃棄物であれば一律に規制するという制度を改め、再利用されることが明らかな廃棄物については、二次原料として一次原料と同等の扱いとし、リサイクルを推進すべきであると主張してきた。
このような産業界の要望を受け、97年6月の廃棄物処理法の改正により、省令で定めた廃棄物の再生利用については、その内容が生活環境保全上支障がない等の一定の基準に適合していることを国で認定する制度を設け、認定を受けた者については、業及び施設設置の許可を不要とする規定が盛り込まれ、限定的であるが、規制緩和が行なわれたところである。しなしながら、逆有償のものを廃棄物と解釈し、一律に規制する規制のあり方は、「再生資源」として再利用する上で依然として障害となっている。また、廃棄物がどこで排出されたかにより、産業廃棄物と一般廃棄物とに分類し、それぞれ、別の許可に係らしめている体制を改め、性状が同じであれば同一施設で扱えるようになれば、施設規模の拡大が可能となり、適正処理ならびにリサイクルの推進が期待される。さらに、日本版PFIの実現可能性も広がる。
廃棄物(規制対象物)の定義や産業廃棄物と一般廃棄物と区分の見直しは、先の廃棄物処理法改正においてはごく一部に留まり、実質的に見送られた。今後の検討の仕組みとスケジュールを明らかにし、すみやかに取り組むよう要望する。
この他、環境保全分野については、事業者の環境保全への自主的取組を支援するよう、環境ISO14001取得事業所に対する環境関連法規に基づく届出の簡素化、燃料電池に係る届出の簡素化等を要望する。
事故・災害の防止は、技術水準の向上等を背景に、企業の継続的かつ徹底した自主的努力により初めて確保し得るものであり、法の規制によって保証されるものではない。保安・安全にかかる規制は、技術水準の向上や企業の保安レベルの程度、規制目的と費用対効果の実態等に応じて、適宜見直されるべきものである。その点、欧米先進諸国における自己責任原則に則った保安・安全行政は参考にすべき点が多い。ついては、以下の三つの観点から早急に規制の見直しを行い、欧米並み基準の実現を図るべきである。
情報通信技術の高度利用は、時間、距離の制約を克服して、コスト削減、意思決定の迅速化、交流範囲の拡大、グローバルな活動の円滑化や事業機会の拡大等を可能とするとともに、地域の自立、地域の活性化を通じて豊かな国土づくりにも資する。景気低迷が続く中で、経済活力の維持・発展ならびに国際競争力の維持・強化を図り、国民の雇用機会の確保や生活の質的向上を図る上で、情報通信の役割は大きい。今後、情報通信市場の活性化に向けて、情報通信の供給・需要両面の環境整備を進める必要があり、とくに、情報通信に関する規制緩和ならびに産業の情報化のための制度の見直しは急務である。
幅広い産業分野の発展を牽引する21世紀のリーディング産業の中軸として期待されている情報通信産業は、来年のNTT再編成や本格的なグローバル競争時代の到来を控え、通信業界内での合従連衡や多様なサービス開発に向けた動きが強まっており、また、技術革新を背景とする通信と放送の融合も本格化するなど、いわゆる情報通信ビッグバンが起こりつつある。情報通信技術の可能性を最大限に発揮させるためには、事業者が自由な創意工夫により、加速する技術革新の成果を活用するとともにユーザーニーズに迅速に対応できるよう、現行の法制を見直す必要がある。これまでも規制緩和や公正競争条件の整備等が着実に進められてきたが、引き続き、自由・透明・公正な通信市場の構築に向けて、第一種電気通信事業者や第二種電気通信事業者が自由なネットワーク構成を選択できるようにするとともに、第一種電気通信事業者における約款規制の見直しや地域通信市場への参入促進策の断行、さらにはCATVやCSデジタル放送等に関する規制緩和を推進することが求められる。
また、民間の負担軽減、自由な創意工夫に基づく市場ニーズへの機動的な対応が可能となるよう、情報通信関連機器に関する技術基準や試験・検定のあり方の見直し等を行うとともに、電気通信端末機器ならびに特定無線設備について技術基準適合認定・証明の審査についても、審査項目の削減や期間の短縮、手数料の引き下げ等をさらに一層進めるべきである。
電波に関する規制についても、民間の負担を軽減するとともに、国民、企業が今後の技術革新の成果を迅速に享受できるよう、より一層の緩和が期待される。例えば、マルチメディア通信向け利用ニーズが大きいミリ波に関する規制の緩和、電波利用料の無線局の区分の見直し等を行すべきである。
わが国企業は、競争力の強化や新たな事業機会に対応の観点から、生き残りをかけて、企業内にとどまらず、企業や業界の枠を越えて情報化を推進しているが、書面や対面によるやり取りを前提とした現行の法規制の存在や行政手法等が、情報化によるコスト削減効果を減殺したり、新たなビジネスの創出を妨げている。したがって政府は、産業の情報化の動きに遅れをとることのないよう、法律による保存義務づけ書類の電子化、行政への申請・申告・報告等の手続きの電子化、歳出・歳入手続きの電子化やそのための会計法制の見直し、さらには行政情報の電子公開など官と民との接点の情報化を推進すべきである。
また、民間の負担軽減の観点から、建築等の面で電子的なワンストップサービスの実現に向けた取り組みを始めるとともに、地方自治体毎に様式が異なる固定資産税、住民税徴収データなどについて、事業税のように全国統一フォーマット化を行うことが期待される。書面交付や対面取引を強制している制度も情報化に対応して早急に見直すべきである。
経済のストック化、人口の高齢化等に伴う効率的資産運用に対するニーズや、企業の資金調達手法の多様化に対するニーズといった、金融の高度化に向けたユーザーサイドのニーズが高まっている。
諸外国においては、グローバルで強力な金融機関が出現してきているが、わが国においてもこうした強い国際競争力を持つ金融機関が必要であるとのサプライサイドのニーズも高まっている。
このような状況下、98年4月の改正外為法施行を皮切りに、2001年のビッグバン完成に向けて諸制度の整備が具体的にスケジュールにのぼってきている段階であるが、内容を詳細に検討すると、従来規制色が強かった分、多くの無用な規制や今後の発展を阻害するような規制が未だ残されている。
経団連としては、金融業界における競争の促進によって、利用者利便の向上と、金融業の競争力強化が実現できるとの観点から、更なる規制の緩和・撤廃が必要と考える。
経済活動のボーダーレス化、グローバル化の進展により、わが国経済は本格的な大競争時代を迎えている。このような中で、高コスト構造を是正する観点から、物流の効率化がわが国経済にとって最重要課題のひとつとなっている。物流の効率化を進める上で、物流インフラの重点的、優先的な整備、公租公課の軽減のみならず、規制緩和は不可欠の課題である。引き続き、物流のコストアップにつながっている規制について緩和、撤廃を進め、また運賃・料金に係る規制の最小化を図るなど、わが国産業の国際競争力の強化を図る必要がある。
輸送事業者のコスト低減に資する規制緩和を進めることは重要な課題である。トラック等営業用車両には整備管理者の選任が義務づけられており、自家用自動車以上に日常の車両管理が十分に行われている。トラック等営業用車両について車検期間を最大限延長するとともに、点検整備に要するコストが必要最小限となるよう法定点検を見直すべきである。
加えて、環境対策や交通渋滞の緩和といった社会的要請に応える観点からも、運行効率を向上させる必要があり、運転免許範囲の拡大や駆動軸の軸重制限の見直し、車両の高さ・幅制限の緩和等を実現すべきである。
物流効率化のためにはモード間の有機的な連携が重要であり、陸上輸送と海上輸送の結節点である港湾の重要性は極めて高い。また、近年、アジアにおいて大型かつ利用者ニーズに対応した使い勝手のよい港湾の整備が進められており、わが国港湾の国際競争力の低下が現実のものとなりつつある。
このような中で、港湾の利便性を向上させ国際競争力を強化するためには、ソフト面の対応として、港湾の利用料金の低減や情報化の推進、夜間入港等の面での規制緩和により、港湾利用の効率化を促すことが必要である。とりわけ、輸出入、出入港等に係る各種行政手続の連携一体化、簡素化のための措置を早期に実現すべきである。
同時に、港湾運送事業について、運営の安定化に配慮しつつ、効率化、活性化を図ることが重要である。昨年12月、政府の行政改革委員会より現行の免許制、料金認可制を見直す基本的な方向が示され、現在、政府の関係審議会において具体的な検討が進められているが、検討結果を踏まえ、早期に現行規制を緩和すべきである。
先の通常国会における船舶職員法の改正を受け、外航における日本籍船への日本人船長・機関長2名配乗体制に円滑に移行できるよう条件整備を進める等、海上輸送における国際競争力の強化、コストの低減を進める必要がある。
本年から内航海運暫定措置事業が導入され、船腹調整事業によるスクラップ権の解消に向け一歩前進したが、今後は同事業の適用期限を明示し、早期に終了させ、より利便性が高く魅力的な物流サービスを提供できるようにすることが求められる。
物流拠点はできるだけ効率的な場所に立地する必要があり、高速道路のインターチェンジ付近等、市街化調整区域における物流施設の開発許可の緩和は重要な課題である。本年に入り、開発許可の判断は地方自治体に全面的に委ねられることとなったが、緩和措置の実効をあげるとともに更に規制緩和を推進し、効率的な物流拠点の整備を実際に可能としていくことが求められる。
また、申請等にかかる負担軽減を進めるべく、規制緩和を進める必要がある。
日本は、現在、エネルギーをめぐって、エネルギーの安定確保、エネルギーコストの一層の低減、地球温暖化問題への対応という3つの大きな課題に直面している。これらの課題は、それぞれ補完し合う面を持つとともに、相反する面もある。その取組みにあたっては、経済活力を維持しつつ、それぞれの課題のバランスのとれた解決を図ることが必要である。そのためには、民間の自主的な取り組みを基本にすることが重要であり、規制緩和が果たすべき役割は大きい。特に原子力発電の推進、電力需要設備に関わるコストの削減、自然エネルギー・新エネルギーの活用、電源立地・送配電設備の確保、原油の自主開発、コジェネレーションの促進等に資する規制緩和を推進すべきである。
なお、エネルギー需要業界等からは、特定供給制度等による自家発電余力の一層の活用、石油の民間備蓄義務のあり方、ガスの託送制度の整備などの要望が出されているが、これらの問題については、現在、電気、石油、ガスの各審議会等においてエネルギーの効率的な供給体制の確立に向けて検討されているので、需要家の利益につながる有効な制度が確立されるよう期待したい。
ポスト・ウルグアイラウンド交渉を間近に控え、農業分野でも国際化の影響がますます強まることが予想される中、農業の体質を強化し、生産性の向上を図ることが喫緊の課題となっている。しかしながら、わが国では担い手の減少・高齢化、農地の減少、耕作放棄地の増加など生産基盤の脆弱化が急速に進展している。また、農産物の価格支持政策による原料農産物調達コストの高まりと、製品関税の引き下げに伴う加工食品の輸入との狭間で、国内農産物の重要な需要者である食品工業が、厳しい経営環境に直面しており、空洞化が現実のものとなりつつある。
従来の発想のままでは、わが国農業は加速度的に衰退の道を辿らざるを得ない。自立した国際競争にも耐えうる農業を確立するとともに、食品工業の健全な発展を促進するためには、価格支持政策に偏重した政策体型を見直し、消費者のニーズを把握できる仕組みづくりを進め、原材料農産物の内外価格差を是正していく必要がある。
そうした状況を踏まえ、総理大臣の諮問機関として発足(1997年4月)した「食料・農業・農村基本問題調査会」(会長 木村尚三郎東京大学名誉教授)が、現行の農業基本法に代わる新たな基本法のあり方に関する答申を本年9月にとりまとめた。答申においては、麦、乳製品、砂糖などにみられる価格政策を内外価格差是正、市場原理の活用の観点から見直し、構造改善に向けた農業政策と地域・社会政策としての農村政策を区別するという今後の農政の基本的方向を打ち出した。
また、長年の懸案であった株式会社の農地の権利取得についても、一定の条件を満たせば、認められることになった点は評価できる。今後は、農業分野に労働、資本両面からの新規参入を促進し、多様な担い手を確保していく観点から、農業生産法人制度の諸要件を抜本的に見直していく必要がある。
今回の答申によって、わが国農政は新しいスタートラインに立つことになる。今後の課題は答申をいかに具体化していくことに尽きる。政府は所要の法律案の作成を急ぐとともに、今後5年間程度を展望した政策を具体的にプログラム化していくことが不可欠である。政策のプログラム化にあたって重要なことは、補助金等政府依存の体質から脱却し、自立した農業をいかに確立していくかという視点である。農業分野にも自己責任原則を積極的に導入し、市場原理を活かすとともに、担い手となる専業農家や農業生産法人の活力を引き出す政策に重点化していかねばならない。