国民の先行き不安感を払拭するためには、金融システムの建て直し、当面の景気対策に加えて、税制改革や規制緩和等の構造改革の実現が急務となっている。そうした構造改革の一環として、情報通信の高度利用を通じて、産業の競争力の強化、国民生活の質的向上、行政システムの改革に取り組む必要がある。
情報化投資は、従来型の公共事業に比べて生産誘発効果が大きく(ある民間シンクタンクの試算では従来型公共事業1.71倍に対し情報化投資2.23倍)、低迷する景気回復の梃子としても期待できる。加えて、情報化は、新事業・新産業の創出、新規雇用の増大、地域経済社会の活性化の効果をもつ(ある民間シンクタンクの試算では情報化投資1兆円により10.3万人の雇用創出効果がある)。
政府の高度情報通信社会推進本部では、95年2月に「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」を策定し、その後、保存義務づけ書類の電子化や申請・申告等の電子化の推進、電子商取引推進に向けた基本原則の確立、行政情報化推進基本計画の改定等を行ってきたことは評価できるが、国全体としての高度情報通信社会づくりという面では未だ不十分である。
産業界は、自己責任原則に則って情報化を推進していくが、政府においては、高度情報通信社会の実現を強力に推進するため、いわゆるバラマキを排し、行政、教育、医療・福祉等の分野での情報化投資を戦略的に思い切って行う「情報通信ニューディール計画」の策定と推進体制の強化を図ることを提言したい。
政府は、行政、教育、医療・福祉など国民生活にとって不可欠な分野について戦略的に情報化を進めることを明確にする必要がある。また、情報化は中長期的な取り組みが必須不可欠な分野であるため、予算の単年度主義にとらわれることなく向こう3ヶ年程度の中期計画を策定する必要がある。
そのため、平成10年度第3次補正予算を含め、向こう3年の間(2001年度まで)に、別添のアンケート調査結果などで指摘されている情報化に対応した行政を確立するための制度改革を推進する一方、次のような公的情報化投資、関連する基盤技術や利用技術の研究開発を集中的に実施することとし、3ヶ年計画(「情報通信ニューディール計画」)を策定することが望まれる。
行政の情報化(「電子政府」の早期実現)
国、地方自治体を通じて行政の情報化が遅れると、企業の情報化のメリットが大幅に減殺される。また、電子政府の実現こそ、民間にとって最も効果の大きい環境整備である。例えば、利用者の判断により各種のニーズに対応できる共通ICカードが行政や医療・福祉利用を軸にして普及すると、社会的インフラとなり、金融、通信、運輸をはじめ多くの民間ネットワークビジネスの活性化につながる。国の行政情報化予算は10年度当初予算ベースで約1兆1400億円計上されているが、うち一般会計分は2300億円にすぎない。電子政府を早期に実現する観点から、次の諸課題の実現を図る必要がある。
教育の情報化の推進
情報ネットワークを使いこなし、日常生活、企業活動、教育分野、行政等に活用できる情報リテラシーは、専門家の特殊技能ではなく、国民の基礎的な能力である。情報リテラシー向上を図る観点から、学校教育等における情報ネットワーク化を推進するとともに、高齢者等の情報リテラシー向上努力を支援することが求められる。
医療・福祉分野の情報化の推進
国民の健康管理、治療、療養、介護などに関する利便性、満足度を高めるため、医療・福祉分野の情報化を総合的に推進する必要がある。
次世代インターネット等の研究開発の推進
次世代インターネットをはじめとする21世紀の発展基盤となる情報通信関連の基盤技術、利用技術の研究開発に関係省庁が一体となって取り組む必要がある。
その他
情報化施策を実行するに際しては、政府は、構造改革を推進するためのツールとして情報通信技術を活用する決意を明らかにするとともに、高度情報通信社会づくりを推進することを国家戦略として明確に打ち出し、内閣が強力なリーダーシップをとって、情報化施策を総合的、一元的に実行していく必要がある。そのため、次のような体制および推進方法が求められる。