産業競争力を維持、強化していくためには、製造業を中心とした供給側の構造改革が不可欠である。そのためには、新たな環境に企業が迅速に対応していくことができるよう、企業組織や企業グループの再編に係る法制、税制の構築を、政府が計画的・統合的に進めていくことが不可欠である。
世界的な大競争時代において、わが国企業が、経済・社会環境の変化に迅速、適切に対応して経営の再構築を進めていくためには、会社分割、分社化、株式交換・株式移転、合併等を通じたグループ化・共同化や、その再編、あるいは、新たな事業形態の活用が必要であり、そのために、企業法制、税制の一体的かつ迅速な整備が必要である。
企業組織の再編、グループ化、新規分野への展開等の開拓、グループの再編・再構築を進めるために、会社分割法制の創設、分社化法制の整備、ならびに関連税制の整備が必要である。
会社分割法制については、法制審議会商法部会において、検討が着手されたところである。会社の資産・負債を二つ以上の会社に分割するとともに、その手続中で新設される会社の株式の全部または一部を、被分割会社の株主に分配する会社分割に加えて、新設される会社の株式を既存会社が保有する方式による分社化の整備についても一体のものとして審議を迅速に進め、所要の法律改正を行なうべきである。
会社分割法制の創設【商法改正の提案】
いわゆる「大陸型の包括的な分割制度(直接分配方式)」について、その主要な規定は、合併に準じて以下の通りとすべきである。
株主の保護
債権者の保護
財産(消極財産を含む)の包括的移転を可能とする。
その他
現行商法の手続に準じた方式により会社分割が可能となる、いわゆる「米国型の株主への子会社株式の分配(間接分配方式)」について、以下の法制を整備するとともに、既存子会社の株式を活用した現物配当、有償消却についても可能とすべきである。
一旦、100%子会社を設立した上で、当該子会社の株式を現物配当として、既存会社の株主に交付する方式(アメリカにおけるスピン・オフと同様の方式)。
一旦、100%子会社を設立した上で、既存会社の株主に対し、当該子会社の株式を対価とする株式の有償消却を求める方式(アメリカにおけるスプリット・オフと同様の方式)。
会社分割法制に係る税制措置【税制改正の提案】
会社分割法制の創設に際して、既存会社の株主に係る株式の譲渡益課税を繰り延べること、ならびにみなし配当課税の廃止が必須の条件である。加えて、資産の移転に係る登録免許税・不動産取得税・消費税の課税の特例の創設、引当金の引継ぎ等の容認を求める。
分社化法制の整備【商法改正の提案】
分社化を、より活用し易くすることが必要であり、会社分割と併せて既存の分社化法制を、以下の通り整備すべきである。
分社化に係る税制措置【税制改正の提案】
既存の分社化法制(現物出資、財産引受、事後設立)について、以下の税制措置を整備すべきである。
世界的な大競争に対応していくため、企業のスケール・メリットの追求あるいは、業界再編が必要であり、合併、合弁、M&A等、企業結合法制の一層の整備が必要である。
株式交換・株式移転制度の早期導入
株式交換・株式移転制度については、関連の商法改正法案が今国会に上程されており、公布後6か月以内に施行される予定であるが、その早期成立・施行を求める。
独占禁止法の見直し
経済のグローバル化の進展に伴い、企業は、国際競争力を維持・強化するために、国境を超えた企業結合の形成や、大胆な業界再編を行なうことが必要となっている。国際的な市場における競争を考慮するなど、独占禁止法における企業結合規制の見直し、ならびに運用の一層の弾力化が必要である。
合併(第15条)・営業譲渡(第16条)・株式取得に係る規制(第10条)の一層の弾力的運用が必要である。
大規模会社の株式保有規制(第9条の2)を撤廃する。
M&Aに係る法制の整備
企業の事業力強化や経営の機動性を確保し、また業界再編を進める上でも、M&Aは重要な手段であり、法制上の制約は速やかに解消しなければならない。
その他の法制上の問題
企業結合を円滑に進めるためには、各種業法等による許認可が合併、営業譲受けにより、新たな手続を要することなく一括的に承継されることが求められる。
また、合併により、企業年金制度の統合が必要となる場合があるが、厚生年金基金から税制適格年金への移行ができない等の問題がある。
会社の業績と取締役・使用人の報酬を連動させるストック・オプション制度は、株主重視の経営を促し、企業の活性化をもたらすものとして、多くの企業に普及しつつあり、これを一層、使い易いものとする必要がある。
現行法制では、ストック・オプションを付与できるのは、自社の取締役・使用人に限られているが、子会社の取締役・使用人についても付与できることとするよう、商法を改正すべきである。
複数の企業が共同して、リスクの高い新規事業に進出するため、あるいは事業の再構築を進めるための手段として、アメリカ各州法におけるLLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー)、LLP(リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ)と類似の、全ての出資者の有限責任と、税制上の導管としての仕組み(事業体の段階では所得課税を行なわず、その損益を出資者の損益と通算)を備えた事業形態を、速やかに創設すべきである。
企業が国際競争力を維持・強化していくために、諸外国と比べて不利となっている税制を抜本的に見直していく必要があり、必要な税制改正を行なうべきである。
なお、法人課税改革においては、経済活力への影響を重視することが必要である。現在、地方財政充実を目的として、事業税の外形標準化が論じられているが、事業税の外形標準課税化は、企業の固定費負担を増大させ経済の活性化を妨げるものとなり、既に同様の税を導入しているドイツ、フランスにおいては、その見直しが進められている。また、税制の簡素化、納税・徴税事務負担の観点からも、事業税の外形標準課税化には基本的に賛成できない。
持株会社の活用、企業会計制度における連結主体の新会計制度の導入をはじめとするグループ経営の進展に対応するために、企業グループを一体とした納税の仕組みを早期に整備すべきである。
連結納税制度については、昨年末の自民党税制改正大綱において2001年を目途に導入することとされているが、その早期導入を図るために、具体的な検討を急ぐべきである。
現行法人税制における欠損金の扱いは、諸外国に比べ著しく不利となっており、安定した企業経営がそこなわれている。
欧米諸国とのイコール・フッティングのために、過去2年分の繰戻し還付および10年間の繰越しの早急な実現を求める。
企業が生産効率を高め、新たな事業分野への進出を進めていくためには、減価償却制度の大胆な見直しが必要である。また、これを通じて民間設備投資が活性化されるならば、日本経済の再建に手掛りを得ることができる。
企業会計制度の改正に合わせて、現在、繰延資産として5年均等償却を要する外部委託によって開発したソフトウエア、ならびに、一定の研究開発用固定資産の取得費について一括損金算入を容認すべきである。
企業が過剰設備・資産を廃棄し、新規事業への転換を進めていくためには、従来の発想にとらわれることなく、大胆な税制上の支援策を、時限的な措置として講じていく必要がある。
翌期以降に設備・資産の廃棄を行う計画を取締役会で決議した場合において、当該設備に係る未償却残額に対し、設備・資産の廃棄を実施する事業年度までに備忘価額までの償却を認める制度を創設する。
合理的な再建計画に基づき、グループ内企業に対する債権を放棄した場合の無税償却の認定の弾力化
長期所有土地から土地等、建物、構築物、機械装置への買換えに係る圧縮記帳の拡充=現行22号買換えについて圧縮割合(平成12年12月31日までの特例として80%)を100%に引き上げる。
自由市場経済の中で、競争に敗退した企業に対して市場からの速やかな退出を促すことは当然である。しかし、その企業の存続が十分に合理的に見込まれ、また業界全体を通じても構造改善が進められる場合には、再建のために必要な環境整備を尽くすべきである。
中小企業、個人事業者を中心とする債務者の自主的な再建手続として法制審議会において検討が進められている新再建型倒産手続について迅速な取りまとめを行い、速やかに立法化すべきである。
株式会社である債務者が債務超過の場合においては、再建計画の中で、資本の減少、定款の変更、新株の発行に関する条項を定めることができるものとし、この場合においては、裁判所による再建計画の認可の決定があれば、商法に定める通常の手続を経ることなく、資本の減少、定款の変更、新株の発行を行なうことができる。
上記の裁判所の認可があったときは、既存株主に送達しなければならず、既存株主は上記の認可について即時抗告をすることができるものとする。
また、債務調整手続において、債務者の事業継続のために必要な資金の貸付け等を行なう場合には、共益債権とすべきである。
債権者・債務者間の個別合意に基づき債務の株式化を活用できるよう、金融機関の株式保有を制限する独占禁止法(第11条)の弾力的運用を求める。また、銀行法(第16条の3)に係る特例の整備が必要である。
上記のような措置によって、再生を図ろうとする企業については、新たな資金の供給が重要な課題となる。民間金融機関による資金供給に加え、日本開発銀行等が、事業集約、事業転換に対する低利融資を拡充することが望まれる。また、中小企業については、事業継続のために必要な資金を得るための公的な信用保証が重要である。