[経団連] [意見書] [ 目 次 ]
わが国産業の競争力強化に向けた第1次提言
―供給構造改革・雇用対策・土地流動化対策を中心に―

II.雇用のミスマッチの解消・新規雇用の創出のための対策


産業競争力強化のためには、資本の効率化と同時に、労働生産性の向上を図らなければならない。雇用の創出・安定に最大限の努力を払うことは、企業の社会的な責務である。中長期的には、少子・高齢化の進展に伴い、労働力人口の減少が見込まれるものの、企業内に必要以上に労働力を抱えたまま事業転換を図るという、これまで通りの対応では、世界的な大競争には打ち勝てない。雇用分野においても現下の厳しい情勢に即した対応が必要である。
具体的には、当面する雇用のミスマッチの解消に資する法制度の整備、職業能力の向上を重視した雇用保険制度の見直しなどにより、環境の変化に即したセーフティネットを整備するとともに、雇用機会の増大に向けて、医療・福祉、情報・通信分野など新産業・新事業の創出・育成策や外国企業の誘致・対日投資促進策等を積極的に講ずることが重要である。

  1. 雇用のミスマッチの解消
  2. [1]労働力需給調整における民間活力の積極的な活用

    今国会に上程中の職業安定法並びに労働者派遣法の改正法案の早期成立を図り、職業紹介事業・労働者派遣事業の自由化を実現する。また、関係法令の整備を進め、高齢者・女性等を含むあらゆる層の労働者に対して、雇用機会を拡大する必要がある。具体的には、以下の措置を講ずる。

    1. 職業紹介事業の自由化のために必要な措置

      (有料職業紹介事業)
      • 取扱職業の拡大(国外にわたる職業紹介事業を含む)
      • 許可制の見直し、許可の有効期間の延長
      • 手数料規制の見直し
      • 公共職業安定所の求人・求職情報の民間への提供、
        インターネット等を活用した求人・求職情報の流通と基盤整備
      (無料職業紹介事業)
      • 許可制の見直し、許可の有効期間の延長

    2. 労働者派遣事業の自由化のために必要な措置

      • ネガティブリスト化の実現
      • 職業紹介事業との兼業規制の撤廃

    [2]雇用保険制度の見直し

    バブル崩壊後の長引く不況のなかで、わが国雇用保険制度は、受給者の大幅な増加等に伴う支出増と、企業倒産及び雇用者所得の伸びの低下等を背景とする収入減によって、財政状況が悪化している。他方、完全失業率の高まりなどから、雇用不安が広まっており、社会的なセーフティネットの整備が求められている。
    このように雇用保険制度の見直しは急務であるが、その見直しにあたっては、安易に保険料を引き上げるのではなく、まずもって聖域を設けることなく支出を洗い直した上で、効率的でかつ持続可能な制度として再構築することを目指すべきである。
    具体的には、求職者給付制度など受け身の政策から、職業訓練など将来の産業構造転換にも対応した、雇用促進的な性格をもつ政策に重点を移していく必要がある。

    1. 職業能力・転職能力の向上

      経済活性化に資する産業構造転換を円滑に進めるためには、個人の職業能力・転職能力の向上が不可欠である。政府としてもこれを積極的に支援する仕組みを構築していく必要がある。
      98年12月、政府は、失業等給付のなかに教育訓練給付制度(財源は労使折半の保険料)を導入したが、雇用のミスマッチ解消に資する多様な教育訓練を実施していく観点から、対象者を失業者に限定するかたちで、資格取得と就職を前提とした能力開発訓練制度を創設することを検討すべきである。また、教育訓練における民間活力の最大限の活用(例えば、訓練提供主体の民間委託の拡大)や再就職へのインセンティブ措置の多様化なども効率的かつ効果的な職業訓練を実現する上で重要である。

    2. 求職者給付制度の見直し

      求職者給付制度については、重点化の観点から、失業者の就職の緊要度に応じた給付を行なう必要がある。
      例えば、非自発的失業で扶養家族をもつ中高年層の失業者と自発的失業で扶養家族を持たない若年層の失業者との間で、給付(期間、基本手当等)に格差を設ける、等の措置を講ずべきである。
      また今後、失業者の増加等に伴い財源面での手当てが必要になる際には、求職者給付制度をはじめとする雇用保険制度全体を見直す必要が生ずるが、雇用情勢がさらに危機的な状況に陥った場合には、まずは、給付に要する費用の14%に引下げられている国庫負担率を本則の率まで引上げることで対応すべきである。

    3. 雇用調整助成金のあり方の検討

      事業主から拠出された保険料を財源とする雇用調整助成金制度は、雇用の安定等に一定の役割を果たすことが期待されているが、一方で、構造的に業績が悪化し続けている業種に対しても長期的かつ継続的に支給が行なわれることから、非効率分野を温存し、産業構造転換を妨げるという指摘も聞かれる。このため、その対象を業績悪化が短期的かつ急激に発生した業種に限定することなど対象業種の指定などを含め、制度のあり方や運営方法を再検討する必要がある。

    [3]賃金体系等の見直しと確定拠出型年金の導入

    賃金体系(退職金、年金を含む)については、労働の移動を円滑にするとともに多様化を認めていくとの観点から、見直す必要がある。
    特に、確定拠出型年金については、ポータビリティの確保、人生設計に応じた運用、退職金制度の見直しの受け皿になること等の利点から、2000年度にその導入を図るとともに、税制等必要な法制度を整備する必要がある。

    【確定拠出型年金法創設に関する提案】

    1. 拠出方法
      事業主、従業員の拠出額、拠出割合は、労使合意に基づき自由に設計できるものとする。また、退職一時金や既存の企業年金からの原資の移行を認める。

    2. 「従業員勘定(仮称)」、「個人勘定(仮称)」の設置
      個々の従業員毎に管理される「従業員勘定(仮称)」を設ける。また、従業員勘定の資産の一時的受け皿または自営業者の拠出先として「個人勘定(仮称)」を設け、ポータビリティを確保する。

    3. 受給権の賦与
      従業員拠出分の受給権は拠出時に賦与する。事業主拠出分の受給権は、運用リスクを従業員が負うことを考慮して、できる限り早期に賦与する。

    4. 従業員教育等
      事業主は、加入者に対して、資産運用についての投資情報の提供その他の教育を行なう。

    5. 資産運用
      運用対象は、労使合意に基づき、複数の選択肢を用意する。資産運用のリスク・リターンは従業員に属する。また、従業員は、運用商品・運用額を中途で変更できる。

    6. 受給形態
      従業員(個人)の選択により、年金・一時金いずれの形態でも受給できることとする。

    7. 税 制
      受給時課税を原則とする。事業主拠出分は全額損金算入とする。従業員(個人)拠出分は一定額まで所得から控除できることとする。積立時の運用益、積立金は非課税とする。
      また、退職一時金(退職給与引当金)、既存の企業年金(厚生年金基金、税制適格退職年金)の原資の一部または全部を確定拠出型年金に移行する際、課税されないこととする。

  3. 新規雇用の創出
  4. [1]高齢者介護、障害者介護サービスにおける人材の確保

    2000年度から介護保険制度が実施される。現在、政府では、介護サービス確保のために、新ゴールドプランを推進しているが、その目標を達成したとしても、特に在宅介護サービスのための基盤整備は大幅に不足する見込みである。
    高齢者介護、障害者介護に必要となる人材等の確保と、その受け皿の多様化に向けて、次のような施策を講じる必要がある。

    1. 介護サービスにおける人材の確保

      1. ホームヘルパー養成研修事業の一部簡素化
        ホームヘルプサービスの入門課程として位置付けられている「3級課程」の研修時間(現行50時間)を大幅に簡素化し、資格を取りやすくして、ホームヘルパー数を増加させる。

      2. 介護福祉士、理学療法士・作業療法士の修業年限の見直し
        高卒者向け介護福祉士養成施設における修業年限(2年)、理学・作業療法士の養成機関における修業年限(3年)について、研修内容の質を確保しつつ、カリキュラムの合理化等の工夫による短期化または短期コースの設置を含め、見直しを行う。
        また、現在、1年1回となっているこれらの国家試験を、1年に2回実施する。

      3. 介護保険対象として配食サービスを追加
        ホームヘルプサービスでは調理、デイサービスでは給食サービスが、在宅介護サービスとして含まれている。これらと同様に、自宅への配食サービスについても、在宅介護サービスとして保険の対象に追加する。

    2. 介護サービスにおける事業主体の多様化

      1. 有料老人ホームにおける介護サービスを施設サービスとして認定
        介護保険法では、有料老人ホームにおける介護サービスは、在宅介護サービスとされている。これを施設介護サービスとして認定することで、有料老人ホームにおける介護サービスを拡大する。

      2. 柔軟な「基準該当サービス」の認定
        在宅介護サービスの事業者は、法人格を有し、一定の基準を満たす必要があるが、それらを完全に満たしていなくても、サービス内容が一定の基準を満たせば介護保険の対象(「基準該当サービス」)となる(例えば住民参加型の非営利組織)。その認定を弾力化する、または現物給付の対象とすることで、在宅介護サービスの拡大を図る。

    [2]情報通信分野の環境整備

    急速な革新を続ける情報通信技術の可能性を最大限に発揮させるためには、情報通信市場における事業者間の自由かつ公正な競争を通じて、サービスの低廉化や多様化を促し、その結果、情報通信市場が拡大し、雇用や設備投資が増大することによって、さらに一層優れた情報通信サービスの開発や料金をめぐる競争が進展する、という好循環が形成される必要がある。

    1. 行政情報の提供の促進

      新しいコンテンツ産業の発展を図る観点から、国・地方の保有する情報(行政情報、地理情報等)について、プライバシーや企業秘密等に関わるものを除き、積極的に一般公開(電子公開を含む)すべきである。

    2. 公的分野の情報化と民間へのアウトソーシングの推進

      公的分野(行政、医療・福祉、教育等)の情報化を推進するとともに、その効率化のため、情報システムの運用管理・活用・情報更新、情報開示等の業務について民間企業へのアウトソーシングを推進すべきである。また、今後、インターネットを利用した、政府への申請・申告及び政府調達、政府からの各種証明の電子化を進めていくため、本人性を確認し、安心してやりとりができるための認証スキームづくりを政府が一体となって進めていく必要がある。

    3. インターネット向け家庭用定額通信料金制度の導入

      通信サービスの低廉化、多様化に向けた取組みが求められるが、特に国民が自宅においてインターネットを日常的に利用できるよう、インターネット向け定額料金制度を導入することが期待される。

    4. 通信法の制定など情報通信法制の抜本的見直し

      デジタル化の進展、通信と放送の融合を踏まえて、利用者の利便性の向上、ならびに情報通信市場の活性化に向け、情報通信法制を抜本的に見直すべきである。例えば、現行の電気通信事業法について、利用者の利益の確保と自由かつ公正な競争の促進を目的とした通信法に衣替えする(一種・二種の事業者区分の廃止、市場支配力を利用した反競争的行為の防止、当局の競争ルール策定、裁定機能の強化等)とともに、NTTに対する規制の緩和、政府保有株式の放出を推進すべきである。

    [3]家庭・企業向けサービス事業、地域密着型事業の振興

    中高年層の雇用吸収を視野に入れて、家庭・企業向けサービス事業や地域密着型の事業を振興する観点から、必要な支援措置を講ずべきである。

    [4]新産業・新事業の創出のための環境整備

    【税制措置の提案】

    1. 欠損金の繰越期間の延長
      新規創業の後5年間に生じた欠損金について、無期限の繰越し控除を、全ての企業に適用する。

    2. エンジェル税制の拡充
      現行エンジェル税制(個人がベンチャー企業に対して行なった株式投資により損失が生じた場合、翌期以降3年間の株式譲渡益との損益通算を認める)に加えて、当該年度における他所得との通算、および株式譲渡益との損益通算期間の延長を行なう。

    3. ベンチャー・キャピタル税制の導入
      ベンチャー企業の資本調達を円滑化する観点から、ベンチャー・キャピタルが起業時や創設後間もない企業に対して行なう出資の額の一定割合について所得控除を認める。

    [5]NPOの社会的基盤の強化

    企業、政府に次ぐ第3のセクターとして、経済社会の改革に大きな役割を果たしているNPOは、米国では、既に就業人口の7%強を占めるなど、独立した経済主体を形成している。わが国においても昨年のNPO法の成立に伴い、98年12月より申請受理が始まっており、福祉、教育、環境保全、地域開発等の幅広い分野における諸課題の解決や、多様なニーズ、潜在的需要の発掘等を通じ、新たな事業創出の一翼を担うことが期待できる。
    NPOセクターの発展を促し、多様な労働市場を形成していくためには、欧米に比して脆弱な財政、人材、組織等の活動基盤を強化するための諸施策を積極的に講ずる必要がある。

    1. 人材の交流・確保
      政府・企業がNPOに人材を派遣する場合、元のポストに復帰できるような策を講じ、各セクター間の人材交流を促進する。また、高い能力と豊かな経験を持つ中高年層に活躍の機会を与える社会的仕組みを形成する。

    2. サポートセンターの育成
      NPOのマネジメント支援やネットワークづくりを行うサポートセンターの育成、さらには行政情報の提供や人材育成事業への支援を積極的に行なう。

    【税制措置の提案】

    特定公益増進法人の認定について、一層の弾力化、迅速化を図る。寄付金の損金算入限度枠・所得控除枠を拡大する。

    [6]外国企業の誘致促進に向けた環境整備

    雇用機会の増大に資する外国企業による対日投資を促進するため、規制の撤廃・緩和を推進するとともに、高コスト構造の是正に取り組むべきである。その際、外国企業の誘致に向けた優遇措置等も検討する必要がある。


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