わが国産業の競争力強化に向けた第２次提言

－「産学官共同プロジェクト」構想の推進とインフラの整備を中心に－

１９９９年７月６日
(社)経済団体連合会

はじめに－基本的な考え方－

大競争時代が到来するなかで、企業や個人に選ばれる魅力ある国づくりを進めることが急務となっているが、その鍵となるのは、産業の生産性の向上である。もとより、産業の生産性向上は、供給構造の改革や産業のイノベーション、新産業・新事業の創出など、民間企業の主体的な取り組みによって実現されるものであり、経団連では、今後ともこれらの課題の実現に取り組んでいく所存である。
今日、欧米各国は、国をあげて様々な産業技術力強化のための施策を講じているが、わが国では、企業の技術開発力に陰りが見え始める一方、関連する制度や政策の枠組みの改革は遅々としている。このような状況を打破するため、生産性の向上、競争力強化に向け、具体的な目標を定めた省庁横断・産学官共同の「プロジェクト」構想を推進するとともに、関連する制度・インフラを含む環境整備に早急に着手する必要がある。加えて、あらゆる産業活動の基盤をなす物流の円滑化・効率化に資する交通インフラ等の整備を進めるべきである。
重要なことは、市場の活力を最大限活用するとともに、産学官それぞれの主体が、取り組むべき分野、課題についての認識を共有し、それぞれ資源を投入することを通じて、産業競争力の強化を実現していくことである。この考え方を基本として、戦略性、重点化、スピードを重視した政策を立案し展開していくことが不可欠である。「選択と集中」を基本理念とした戦略的政策の確立に向け、「体制」「計画」「予算」「法制度」の各面において、新たな取り組みを求めたい。

I. 産学官共同による「プロジェクト」構想の推進 戦略的な産業技術政策の展開 わが国が直面する産業競争力の危機に適切に対応し、国民に将来への明るい展望を指し示し、新たな産業の創出を図るためには、付加価値の高い産業構造の実現を先導する有望かつ中核となる分野を選択的に育成し、強化していく必要がある。 先導的役割を期待される新規・成長事業分野は、製造業、非製造業を通じて少なくないが、高度な技術の集約を必要とする分野から、知的財産政策を含む戦略的な産業技術政策を集中的に展開することにより現れてくる可能性が高い。 具体的には、 情報通信、バイオテクノロジーなど、今後急速な発展が期待されるが、米国等に遅れをとっている分野、 環境、高度医療・福祉、エネルギー・原子力、航空宇宙・海洋など、国が先導して取り組むべき分野、 新素材・新材料、新製造技術など、各産業を支える分野、 などが挙げられる。 そのなかでも、情報化、高齢化、環境など、今後の経済社会ニーズに対応した領域と密接に関連する高度な技術の集約を要する分野から、新たな未来市場が開かれる可能性が高い。また、情報通信、バイオテクノロジー等、各領域に横断的な共通基盤技術は、各産業への展開を通じて、わが国競争力の強化に大きく貢献することが期待される。 これらについては、国としてのしっかりとした産業技術戦略を持ち、産学官が役割分担を明確にし、一体となって取り組む必要がある。つまり、市場原理に従い、民間企業が研究開発を主導する。その際、大学は、その人材と研究開発成果を積極的に市場に提供することが望まれる。 また、政府は、民間企業等の研究開発活動や国際標準化活動を積極的に支援するとともに、知的基盤の整備（生物資源・化学物質・標準物質等に関連する科学技術データ等）や関連インフラを含む未来市場形成のための環境整備に省庁横断的に取り組む必要がある。とりわけ、国の研究開発成果の民間帰属と市場化を促進することにより、研究開発成果が新たな財・サービスとして広く国民一般に享受されるよう、その環境整備に努めることが重要である。具体的には、 米国のバイ=ドール法の例に見られるように、国の資金提供による研究開発から派生する知的財産権を民間に帰属させる制度を整備すること、 大学からの特許出願を促進するため、出願のための十分な予算措置を講ずるとともに、学内選定手続等の運用の硬直性を改め、大学内でスムーズに特許を生み出す仕組みを構築すること、 技術移転機関(ＴＬＯ)、産学共同研究センター等の整備を進め、それらの機能の強化を図ること、 等が必要である。 以上のような、産学官が一体となった取り組みにより、新たな事業・産業が創出され、ひいては産業全体の競争力強化につながることが期待される。 具体的な「プロジェクト」構想の提案 現在、求められているのは、そのような有望かつ中核となる分野に根ざした「未来への架け橋」となる「産学官共同のプロジェクト」であり、国は具体的な枠組みとなる構想を早急に打ち出すべきである。 そこで、「産業競争力会議」において、小渕総理大臣からご要請があった情報化対応、高齢化対応、環境対応の３領域において、横断的共通基盤をなす情報通信、バイオテクノロジー等の技術的側面からの取り組みについても考慮に入れて、それらの技術融合および事業化促進も含め、民間企業の研究開発努力を一層促し得る「産学官共同プロジェクト」構想を提案する。 各構想の速やかな実現のため、総理のリーダーシップの下に、目標年次の設定、省庁横断の推進方策等が早急に検討されることを期待したい。なお、これらの「プロジェクト」構想の実現のためには、従来の各省庁別の予算とは分離し、総理のリーダシップにより予算が優先的に配分される仕組みが必要である。その際、関係する複数の省庁が相協力して、国庫債務負担行為や継続費制度を活用しつつ、５年程度の期間にわたり継続して実施するプロジェクトを優先することなどを通じて、単年度予算制度の見直しを図るべきである。加えて、官民の関係者が各構想の具体的な検討に参画できる場を設けることが重要である。 デジタル・ニューディール構想(仮称) －知識社会の構築－ 【情報化対応】 急速な革新を続ける情報通信技術の可能性を最大限に発揮させるためには、情報通信市場における自由かつ公正な競争の実現を通じてサービスの低廉化や利便性向上を促すとともに、リーディング・ユーザーとしての公的分野の情報化を推進し、これを原動力として、情報通信市場が大幅に拡大することによって、さらに一層優れた情報通信サービスの開発や料金をめぐる競争が進展する、という好循環が形成される必要がある。そのため、2003年までに最も進んだ情報通信社会を実現し、その成果を雇用機会確保、生活水準の向上など国民の利益に結び付けるための省庁横断的な情報化推進構想（仮称：デジタル・ニューディール構想）を、総理自ら打ち出すことを提案する。現在の高度情報通信社会推進本部に、本構想を推進するための専門事務局を設置するとともに、主要予算の配分権限を付与するなど、思い切った推進体制を整備することが望まれる。 豊かな国民生活と企業経営を実現するドリーム・ネットワーク・プロジェクトと制度基盤整備 次世代、次々世代の情報通信の基盤となる技術開発を官民共同して推進するとともに、21世紀のデジタル時代にふさわしい制度インフラの整備を図る。 (1) ドリーム・ネットワーク・プロジェクト（民間と官との共同研究プロジェクト） （具体例） 人にやさしい利用技術 誰もが利用できる入出力（超小型自動翻訳、音声入力・視線入力、高度画像処理等を含む） 高度ネットワーク・セキュリティ技術の開発 個人情報保護、不正アクセス防止等 次世代情報通信技術 スケーラブル・ネットワーキング（情報家電を含むあらゆる機器が、有線・無線を問わずインターネットにつなげる、あるいは相互に制御可能となるような技術開発：スーパー・インターネット等）、スケーラブル・コンピューティング（超分散・超並列処理等）、大容量メモリー、半導体超微細加工・組立等 未来型光ネットワーク技術 光ルータ、光デバイス、光ネットワーク管理等オール光技術で情報伝送を行なえる技術 高度道路交通システム(ＩＴＳ)の推進 ＩＴＳ情報通信技術の開発等 エネルギー高効率利用技術 情報通信機器の省エネ、省電力技術等 情報マイニング技術 膨大な情報の中から必要な情報の獲得・加工等を行なう技術等 (2) 制度基盤（21世紀情報通信フレームワーク）の整備 低廉なインターネット向け定額通信料金制度の導入 情報通信法制の見直し－電気通信事業法等 情報化に対応した制度整備－デジタル化・ネットワーク化を想定していない制度の改革（訪問販売法、学校教育法、測量法、その他経済・社会制度等） 2003年に向けて世界最高水準の電子政府の実現(スーパー電子政府) 情報通信技術をフルに利用して、効率的で質の高い行政サービスを実現するとともに、行政コストの削減を図る。その際、民間企業へのアウトソーシングを積極的に行なう。 〔課題〕 政府調達、政府への申請・申告、政府の各種証明、歳出・歳入手続等の原則100％電子化 オープン・データ・ポリシーの確立、行政情報の原則電子公開 政府部内の文書交換の原則100％電子化 国、地方公共団体などの全ての公的機関によって共用され、行政の電子化基盤となる総合的なネットワーク構築と、質の高いサービスの効率的提供 国及び地方公共団体の全ての電子化に向けた具体的な数値目標とスケジュールの設定 〔トリガー・プロジェクト例〕 今後３年間、各省庁において、２つ以上の象徴プロジェクトを選定し、電子申請、電子調達（手数料納付の電子化及び政府側認証システムの体系的構築を含む）といった完全電子化を実現する 今後２年以内に、中央省庁内・間の文書処理、文書交換、公開文書を原則100％電子化する 地域情報、地理情報、文化遺産等について、デジタル・アセットとしての整備、ネットワークによる公開を推進する ＩＣカードを活用し、行政サービスの電子化、ワンストップサービスの大規模実証実験を実施する（当面公務員から実施） 医療・福祉の情報化（健康保険証のＩＣカード化、カルテ・レセプトの電子化、国公立病院の電子化等） 2000年３月までに国民の情報リテラシーの飛躍的向上を図るための 教育情報化の基本戦略（情報リテラシー憲章）の策定 21世紀において、広く国民が情報通信技術のメリットを享受できるような能力を醸成し、かつ国際競争力のある情報通信社会を担う人材を育成するため、教育の情報化を核とした基本戦略を策定し、大胆に推進する。 〔課題〕 世界最高レベルの教育情報化の実現 教育ツールとしての情報通信技術の活用 学校の課題解決へ向けた情報通信技術の活用 教育の情報化に関する具体的な数値目標、実現に向けたスケジュールの策定 先端的な情報通信技術の開発、利用を担う人材の育成 〔トリガー・プロジェクト例〕 全「教室」へのインターネット導入、小・中・高校のアクセス回線の低廉化・大容量化、モバイル等無線技術の活用 地域の人材の活用、教育のアウトソーシング 全学校におけるホームページの立ち上げ、電子メールの活用（教師と生徒、学校と家庭との間、学校間で密接な意思疎通、国際交流等） 公立学校教育情報化のための費用の特別交付税化 教育情報データベースセンターの整備 大学・研究機関間の高速情報ネットワークの拡充 高齢者、障害者等の情報通信社会への参画を支援する制度の整備 ヘルシー＆セーフソサイエティ構想(仮称) －活力ある長寿社会の実現－ 【高齢化対応】 わが国は、2015年には、65歳以上の高齢者は４人に1人という、世界に例をみない、本格的な高齢化社会の到来が予想されるが、高齢化社会の進展の中にあって、高齢者を含めて国民1人1人が生きがいとふれあいを感じる豊かで活力に満ちた社会を形成する必要がある。 わが国としては、高齢者が健康で活力を維持しつつ、多様な形での社会参画をすることを可能とする活力ある長寿社会の実現を目指し、このため、高齢者の(1)健康の維持・増進、(2)自立と積極的な社会参画、(3)安心できる生活空間の創造の３つの観点から、対応を図る必要がある。これにより、わが国経済社会の活力の維持・向上を図るとともに、世界における高齢化社会のモデルを目指すことが重要である。 健康の維持、増進－要援護老人を減らす－ 高齢化社会においても、引き続き、わが国社会の活力を維持するためには、例えば、1993年に高齢者の12％を占める援護(介護等)を要する高齢者(約200万人：厚生省推計)を2015年に現在の３分の２程度に減らすことを目指すなど、国民の健康の維持・増進を図る必要がある。 〔課題(1)〕 病気の発生メカニズムの解明(バイオテクノロジーを用いた医療・医薬等の研究開発等) 疾病に対する予防、診断、治療を進めるためには、病気の発生メカニズムの解明に向けて、遺伝子暗号の解明(ゲノム解析等)や、発病機構の解明(バイオインフォマティックス技術(生命情報処理技術：ゲノムの塩基配列情報や蛋白質構造情報を電算処理、利用する技術))等の開発、さらには骨粗しょう症、アルツハイマー等、老人性疾患の予防・対策に向けた研究開発等に、産学官が加速的に取り組む必要がある。 政府としては、それらを加速的に進めるため、ゲノム塩基配列の解析・機能解析等による基盤整備を進める必要がある。また、知的財産の適切な保護、生物資源の収集・保存・提供体制の強化、規制・体制の見直し・改善(新薬承認期間の短縮、臨床試験体制の整備等)等が求められる。 〔課題(2)〕 高性能の医療機器、生体機能代替材料等による治療 遺伝子診断・治療の研究開発(ＤＮＡチップ、糖尿病・肥満・癌・高血圧等の疾患への対策に有効なＳＮＰ(一塩基多型)研究等)を進めることにより、例えば、個人の特性にあった診断・治療やオーダーメードの創薬等が可能になる。また、マイクロマシンを用いた医療機器、ＭＲＩ(磁気共鳴診断装置)診断・治療統合システム等、高性能な医療機器の開発、人工臓器・皮膚・骨等生体材料の開発等により、疾病に対する予防・診断・治療の高度化が期待される。これらの実現に向け、研究開発を進めるとともに、治験体制の整備等、実用化に向けた環境整備を図る必要がある。 〔課題(3)〕 安全で安定的な食糧の確保 安全で安定的な食糧の確保を目指し、とりわけバイオテクノロジーを活用した、無農薬・高収量・耐寒性等の作物(品種改良)、機能性食品(アレルギーフリー等)の開発等を進める必要がある。ただし、それらの推進・普及には、とりわけ、安全面、倫理面での消費者の理解と受容性の確保が極めて重要である。そこで例えば、中・高等教育や社会人等を対象にバイオ関連教育を進める等、正しい理解の向上のために産学官が協力して取り組む必要がある。 なお、バイオテクノロジーは、医療(遺伝子治療等)・医薬(バイオ医薬等)等にとどまらず、情報(遺伝子情報解析技術、ＤＮＡチップ等）、環境（バイオ環境修復等）、農林水産(無農薬・高収量、耐寒性等の作物、バイオ加工食品、機能性食品等）等、非常に幅広い活用が期待される技術である。そこで、新たな市場の創出(2010年約25兆円）に向けて、民間企業の開発努力はもとより、関係各省庁・大学は一丸となって、技術開発と事業化に取り組む必要がある。 そのためには、例えば、先般、日本バイオ産業人会議(世話人代表：歌田勝弘・バイオインダストリー理事長)が提唱したバイオ技術産業化国家戦略(21世紀を生命の世紀として目指す「ヘリックス計画(仮称)」)も参考にして、バイオテクノロジーに関する国家戦略を早期に策定し、実行に移すことも重要である。 高齢者の自立と積極的な社会参画－全高齢者に社会参画機会を提供できる社会の構築－ 高齢者の自立と社会への参画は、高齢化社会の形成にとって不可欠であり、またこれらは、高齢者の生きがいを産み出し、ひいては、それが健康の維持、増進につながる面が極めて強い。そのためには、高齢者の自立支援、生活の質の向上に向け、情報ツールの活用を含め、積極的に社会参加しやすい仕組み作りを進める必要がある。 〔課題(1)〕 高齢者の自立支援 高齢者の寝たきり等を防止し、機能回復を図るためには、それを支援する機器や、高性能の医療機器、生活支援ロボット等の開発を行うことが重要である。そのためには、高齢者の身体機能等のデータベース等の基盤整備や機器導入のための支援が求められる。 また、政府は高齢者の積極的な社会参画を支援する観点から、独立ベンチャーの経営面における企業退職者等の活用やＮＰＯ活動への支援等、高齢者の就労・社会参画のための情報提供等が必要である。 〔課題(2)〕 高齢者が活用できる情報ネットワークの促進等 今後急速に拡大することが予想される情報ネットワーク社会において、高齢者が情報を収集・活用しやすくすることにより、社会への関心を維持し、生活の質の向上に努めることが期待される。そのような観点から、ハード・ソフトの両面で、高齢者が使いやすい情報端末機器やコンテンツの開発を進めることが重要である。あわせて、そのための導入支援や高齢者世帯と商店等のネットワーク化、世代間のネットワーク化等を進めることが求められる。 安心できる生活空間の創造－全生活空間のユニバーサル化(バリアフリー化)－ 本格的な高齢化社会を迎えるにあたり、高齢者をはじめ、誰もが安心して生活できる生活空間を創造するため、全生活空間における物理的な障壁を除去するユニバーサル化（バリアフリー化）を推進するとともに、高齢者をはじめ、国民の多様な生活ニーズに対応する必要がある。 〔課題(1)〕 生活空間のユニバーサル化(バリアフリー化)の推進 生活空間のユニバーサル化については、誰もが利用する公共施設(主要駅、空港等の交通ターミナル、歩道、官公庁等)、住空間等のユニバーサル化を進めることが重要である。例えば、低床式バス等のユニバーサル化製品の開発・普及とともに、高齢者にやさしい移動システム開発、ＩＴＳの活用による経路案内、危険防止等歩行者支援等の開発を進めることが必要である。 また、高齢者が使いやすい住宅、生活用品の開発を進めるとともに、ユニバーサル化推進の前提として、高齢者身体機能のデータベースの整備・標準化等が重要である。 〔課題(2)〕 迅速化・多様化するニーズへの対応 今後、高齢者の迅速化、多様化するニーズに適切に対応していくことが求められている。そのために、例えば、遠隔・在宅医療技術を進めるとともに、医療ネットワーク機器の開発が重要であるとともに、高齢者の健康管理のための技術・システムの開発を行うことも必要となる。政府としては、在宅ケアの推進・充実のために、福祉サービス選択のための環境整備(サービス・機器の評価、標準化等)を進めるとともに、緊急連絡・通報システム等、在宅推進のための住環境の整備を進める必要がある。 エコ・ハーモニー構想(仮称) －経済と環境を両立させる社会の実現－ 【環境対応】 わが国が産業競争力を維持しながら、環境調和型社会を実現するためには、経済と環境を両立させる21世紀の環境戦略が必要である。そのためには、(1)費用対効果を配慮した環境政策の推進、経団連環境自主行動計画の着実な取り組み等企業の自主性の尊重、(2)世界の環境保全に資する次世代技術の開発・普及、(3)技術開発等を核とする産業の環境化、環境の産業化の推進、(4)地球規模での環境改善のための国際協力の推進、の４つの視点が重要である。 資源循環型社会の推進－大量廃棄社会から循環型社会への転換－ わが国は、資源面の供給構造の脆弱性に加え、環境面においても、最終処分場残余年数が、一般廃棄物で8.5年、産業廃棄物で3.0年とされ、今後、処分場の逼迫に伴う処理コストの高騰が予想されるなど、資源・環境面の制約から、経済活動が阻害される惧れがある。産業界としても、廃棄物問題に積極的かつ自主的に取り組んでいるが、廃棄物の減量化・再資源化・廃棄物処理施設の整備促進を図るなど、資源循環型社会の推進が重要な課題である。 〔課題(1)〕 製品ライフサイクル全体にわたる廃棄物、有害物質の最小化 製品の製造にあたっては、ライフサイクルを通じて環境負荷低減を図るという視点に立ち、廃棄物の発生抑制、再利用やリサイクルの促進、処理の容易性等を念頭に置いた製品開発（技術開発）を行なう。例えば、構成部品の削減や構成部品の一体化を図るなど製品ライフサイクル全体に係る設計・生産プロセスの開発を進める他、リサイクルが容易な素材（スーパーメタルのような単一素材や生分解プラスチックの生産技術等）の開発が必要である。政府にあっては、こうしたインバースマニュファクチャリング(リサイクル工程から発想して、生産とリサイクルを一貫させたモノづくりを行うこと)関連技術の開発や設備の整備にあたって、各種のインセンティブ措置を講ずることが期待される。また、公共調達を拡大することで、新素材等の普及に寄与することも期待される。 〔課題(2)〕 使用済み製品の回収・リサイクルの促進とそのための環境整備 使用済み製品の回収・リサイクルの促進に向けて、リサイクル製品の用途拡大のための技術（カレットの軽量骨材化技術等）や、素材毎に廃棄物を自動識別・分別するための技術（プラスチックの近赤外線分別計等）が必要である。また、製造工程等から排出される廃棄物減量化のため、工程内での再利用に加え、業際間連携による副産物の原料化のための技術開発（鉄鋼スラグや石炭灰等の土木・建設分野での利用等）を行なうことが重要である。政府にあっては、使用済み製品ならびに製造プロセスから排出される副産物の回収ルートやリサイクル施設を確保するために、廃棄物処理の業の許可ならびに施設設置に係る許可の緩和、広域処理の促進、ストックヤードの整備、情報ネットワークの整備、物流・輸送施設の整備、といった、ハード・ソフト両面での整備が期待される。さらに、公共調達を促進しリサイクル市場の拡充を図ることが期待される。 〔課題(3)〕 廃棄物処理施設の整備 環境負荷が低く、しかも効率的な廃棄物処理施設の整備に向けて、再資源化技術の向上、エネルギー高効率回収技術の開発が必要である。こうした技術を生かすためにも、一般廃棄物の処理施設は自治体が整備・運営し、産業廃棄物については排出事業者・処理業者に委ね、別々に処理するという廃棄物処分のあり方を転換し混合処理を認めるとともに、ＰＦＩ手法等を活用して官民が協力して、計画的に、高度な無害化処理や効率的なエネルギー回収を行なうことのできる先駆的な廃棄物リサイクル処理施設の整備（ガス化溶融高効率廃棄物発電システム、ＲＤＦ(Refuse Derived Fuel)施設等）を図ることが必要である。 〔課題(4)〕 化学物質の自主管理の推進 化学物質についても循環を念頭に置き、全ライフサイクルを通じて自主的な管理を進める必要がある。そのため、バイオ活用型素材、環境調和型プロセス技術の開発・活用を進めるとともに、バイオレメディエーション技術、化学物質の測定・管理技術等の開発を進める必要がある。産業界では、法制化に先駆けてＰＲＴＲ調査を自主的に行う等、化学物質の自主管理に取り組んでいるが、政府においては、化学物質の安全性基準等の明確化および測定方法の確立と、リスク評価の充実、有害性データの整備等に努めることが求められる。 中長期的な地球温暖化対策の推進（省エネ・ＣＯ２対策等） 1997年12月に京都で開催されたＣＯＰ３において、日本６％減、米国７％減、ＥＵ８％減を始め、先進国で1990年比約５％の温室効果ガスの削減目標が決められた。産業界としては、経団連環境自主行動計画の着実な実施など自主的な取り組みを進めているが、今後とも中長期的に地球温暖化対策を推進するため、産学官一体となってさらに以下のような対策を実施する必要がある。 〔課題〕 温暖化対策に有効な環境技術の開発・普及 温暖化対策として有効な技術の開発・普及を進めることが喫緊の課題である。今後、重要となる環境技術等としては、次の４つの分野に要約される。技術の開発については、基礎研究と実用化技術等、各段階に応じて国と民間の役割を明確にし、効率的に進めることが必要である。 (1) 技術(具体例) カーボンミニマム（省エネ、燃料転換） コジェネレーション、コンバインドサイクルによる化石燃料の利用効率の改善 都市・産業排熱の回収利用 石炭ガス化コンバインドサイクルなどのクリーン・コールテクノロジーを始めとする化石燃料の高度利用技術の開発・普及 自動車用から分散型電源、中規模電源まで多様な利用が期待される燃料電池の開発・普及 蓄電池の開発・普及 超電導技術の開発・普及 省エネ型製品の開発等を通じた民生部門における温暖化対策の推進 ＬＣＡの視点にたった業際間連携によるエネルギー効率の改善等 カーボンフリー（代替エネルギー） 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの普及 自然エネルギー発電の安定化に資する蓄電技術の開発・普及 原子力発電の安全かつ効率的利用を促進する観点から、バックエンド対策およびそのための技術開発の推進、高速増殖炉の開発等による核燃料サイクルの確立 長期的には、原子力発電に続く基幹電源としての核融合炉（ITER等）の開発、燃料電池用やガス燃料用など多様な可能性を持つ水素エネルギーの製造・利用技術の開発、本格的な国産エネルギーとして期待されるメタンハイドレートの採掘・利用技術の開発等が必要 カーボンストック（ＣＯ２の吸収・固定） バイオ技術等によるＣＯ２の吸収・固定化技術の開発等 その他温室効果ガス削減 代替フロンやメタンなどの温室効果ガスの削減技術の開発・普及等 (2) 温暖化対策の実効ある推進 わが国は世界最高レベルのエネルギー消費効率を既に達成しているため、エネルギー消費量削減の追加的コストは当然のことながら高くなる。そのため、とりわけ、費用対効果等へ十分配慮した政策を実施することが重要である。この観点から、ＣＯＰ３で合意された共同実施、ＣＤＭ(クリーン開発メカニズム)、排出権取引等の柔軟性措置を有効に活用できるよう、政府は、国際的枠組みづくりに積極的に取り組むとともに、官民協力して実験的プロジェクトを実施する。省エネルギー、トップランナー方式の普及のための環境整備等も期待される。 また、温暖化対策を着実に実施し、成果をあげていくためには、産業部門の対応に加えて、特に、民生・運輸部門を中心とした対策を実効あるものとする必要がある。 〔具体例〕 新エネルギー供給ネットワークの整備 エネルギーのカスケード利用 ＩＴＳ等の促進による都市インフラの整備等 ビル・住宅等の省エネルギー化 未利用エネルギーの利用　等

II. 生産性向上、競争力強化を促進する交通・物流インフラの重点的整備

わが国では、今後、本格的な少子・高齢社会を迎え、財政制約がますます高まっていくことが予想される。そのなかで、引き続き国民が安心して暮らせる社会を実現していくためには、21世紀を見据えて真に必要な経済社会インフラを、目標年限を設定し、戦略的かつ効率的に整備していく必要がある。
このためには、公共事業の総点検を行い、その必要性や妥当性の再検討・再評価を通じて、プロジェクトの見直しや中止を図ることが重要である。加えて、従来の各省庁別の予算とは分離して、総理のリーダーシップにより予算が配分される仕組みを設けるべきである。
特に、わが国産業の競争力強化、高コスト構造の是正のためには、あらゆる産業活動の基盤をなす物流の円滑化・効率化が重要な課題となっており、物流効率化のための交通インフラ整備については、具体的な整備目標を設定し、事業の重点化を図ることが重要である。

基幹的な交通・物流インフラの整備

産業競争力の強化や国民の利便性の向上のためには、成田空港・関西国際空港の拡充、中部国際空港の早期整備、首都圏第三空港の整備、第二東名・名神道路の整備、中枢国際港湾等の整備などの基幹的なインフラ整備を着実に実行していくことがまず必要である。

円滑な交通・物流を阻害しているボトルネックの解消に資するインフラ整備

道路渋滞の解消
主要渋滞ポイントは全国で約3,200箇所あり、年間で約12兆円の経済的損失が発生しているとの試算がある。これらを解消するため、交差点の立体化や河川横断橋梁の整備など、幹線道路の機能強化を図る必要がある。また、緊急的な渋滞解消策として、右折車線の設置などの交差点改良を行うことも有効である。
とりわけ、首都圏は深刻である。圏央道内の主要渋滞ポイントは約600箇所あり、東京23区内における一般国道の平均走行速度はマラソンランナー並みの時速19㎞と、全国平均の約半分でしかない。首都高速都心環状線における通行量の約６割が通過交通であることから、渋滞解消にあたっては、環状道路の整備を行うことが効果的である。東京圏における環状道路整備計画は、主要欧州諸国の首都における整備状況と比較して著しく遅れており、現在計画されている３つの環状道路[首都圏中央連絡自動車道（圏央道）、東京外かく環状道路（外かん）、首都高速中央環状線]の整備を推進すべきである。
差し当たり、今後10年間で整備することとされている、圏央道西側、外かん東側、首都高速３号線以北の中央環状線について、例えば７年間で完成させることを目指すべきである。これにより、年間で約２兆円の経済効果が見込まれるとともに、圏央道内側の主要渋滞ポイントの概ね６割が解消すると見込まれる。
また、同様の観点から、大阪圏では第二京阪道路、第二環状線、京奈和自動車道、名古屋圏では、東海環状自動車道、名古屋環状２号線といった環状道路などの早期整備も重要な課題である。
鉄道貨物輸送の推進
今日、環境負荷が少なく、長距離大量輸送の面で効率の高い鉄道貨物も利用したいとの企業の期待が高まっているが、鉄道貨物に係るインフラが不十分であるため使い勝手が悪く、利用が進まないのが実情である。鉄道貨物に係るインフラ整備はＪＲ貨物が行うことが基本であるが、環境問題への対応といった社会的な要請を踏まえて、政府としても積極的に支援策を講じていくべきである。例えば、京葉線や東京臨海副都心線を活用した貨物ルートの整備、上記ルートと接続される京浜臨海線の貨客併用化、山陽本線において長編成列車の運行を可能とする地上インフラの整備などを推進すべきである。

輸送モード間の物流の円滑化に役立つインフラ整備

長距離大量輸送に効果の高い鉄道・海運の活用に向けて、陸・海・空などの輸送モード間の物流の円滑化に役立つインフラ整備を推進すべきである。例えば、10分以内に高規格幹線道路等のインターチェンジと接続できる港湾施設の割合が欧米諸国の３分の１程度に止まっているなど、空港・港湾と高速道路網とのアクセスは、諸外国に比べて格段に悪い。
そこで、東京貨物ターミナル駅から大井埠頭への引込線の延長や、空港、港湾等へのアクセス道路の整備など、輸送モード間の結節点の整備を推進すべきである。また、内航海運の利用による物流コストの低減や環境問題への対応を進めるため、複合一貫輸送対応の内貿ターミナル整備を進めるべきである。さらに、国際海上コンテナの陸上輸送を確保すべく、トラック輸送ならびに鉄道輸送における橋・トンネルの改修、国際海上コンテナ取扱駅の増設等を行うべきである。

交通・物流の円滑化に資する情報化の推進

ＩＴＳなどの情報化を推進することによって、交通渋滞の解消や安全性の向上、省エネルギー化が可能となる。例えば、高速道路の渋滞の35%は料金所で発生するとされており、ノンストップ自動料金収受システム（ＥＴＣ）を早急に普及させるべきである。また、交通規制の情報などをリアルタイムに提供する道路交通情報通信システムや、将来的には自動運転を目指す走行道路支援システムの導入を図っていくべきである。加えて、ＩＴＳを鉄道や海運にも適用することによって、さらなる輸送の効率化が実現できる。ＩＴＳは、今後20年間で60兆円の市場を創出するといわれており、その早期実現と国際標準化に向け、官民の連携を図ることが重要である。

都市インフラの整備

都市内の交通・物流の円滑化のためには、街路、街区の整備が重要であり、国・地方公共団体には、街路、街区計画を策定し、着実に実行に移すことが望まれる。また、この観点から、例えば、防災上問題となっている木造住宅密集地区などを「都市再生戦略地域」として指定し、官民の連携のもとに重点的に交通・都市インフラの整備を行うべきである。

インフラの効率的な整備

インフラの具体的な整備に当たっては、ＰＦＩ手法を活用するなど、民間のノウハウや技術開発力を活用しながら、官民の連携によって、新しい物流施設の整備と新しい街づくりを一体のものとして進めていくべきである。そのため政府は、都市計画法における用途地域指定や建築基準法における容積率などの各種規制を弾力的に運用するとともに、ＰＦＩ推進のための税制や政策金融支援を積極的に講じていくなど、各種のインセンティブを講じていくことが重要である。

以　　上

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わが国産業の競争力強化に向けた第２次提言

－「産学官共同プロジェクト」構想の推進とインフラの整備を中心に－

はじめに －基本的な考え方－

I. 産学官共同による「プロジェクト」構想の推進

戦略的な産業技術政策の展開

具体的な「プロジェクト」構想の提案

豊かな国民生活と企業経営を実現するドリーム・ネットワーク・プロジェクトと制度基盤整備

2003年に向けて世界最高水準の電子政府の実現(スーパー電子政府)

2000年３月までに国民の情報リテラシーの飛躍的向上を図るための 教育情報化の基本戦略（情報リテラシー憲章）の策定

健康の維持、増進－要援護老人を減らす－

高齢者の自立と積極的な社会参画－全高齢者に社会参画機会を提供できる社会の構築－

安心できる生活空間の創造－全生活空間のユニバーサル化(バリアフリー化)－

資源循環型社会の推進－大量廃棄社会から循環型社会への転換－

中長期的な地球温暖化対策の推進（省エネ・ＣＯ２対策等）

II. 生産性向上、競争力強化を促進する交通・物流インフラの重点的整備