[経団連] [意見書]

総合的な宇宙開発・利用政策の確立と
宇宙産業の基盤強化・産業化の推進

1999年7月6日
(社)経済団体連合会

1.はじめに

科学技術創造立国を目標とするわが国にとり、宇宙開発・利用政策の積極的な推進は、科学技術および新産業創出の基盤強化のみならず、通信・放送、気象観測、測位等の広範囲の実利用に代表されるように、陸・海・空に次ぐ「第4のインフラ」として国民生活の質的向上や情報社会の一層の進展に大きく貢献してきている。さらに、宇宙開発・利用へのニーズは、地球環境問題の解決や災害監視、国家としての情報収集基盤の強化等多様な領域に拡大しつつある。
このような宇宙開発・利用の持つ将来性と科学技術及び産業技術としての戦略的重要性に鑑み、国家戦略としての総合的な宇宙開発・利用政策を早期に確立し、必要な政策資源を重点的かつ効果的に投入することにより、遅滞なく具体的な宇宙プロジェクトと必要な施策を継続的に展開することが求められる。プロジェクトの推進にあたっては、官民の役割分担を踏まえ、透明かつ公正な官民の協力関係を築いていくことが重要である。
また、中央省庁の再編と来年度予算の編成においては、以下の2つの基本的考え方に基づき、宇宙開発・利用体制の整備に取組む必要がある。

2.基本的考え方

  1. 宇宙開発・利用に関する総合的な戦略と実施体制の確立
  2. 中央省庁再編においては、宇宙開発及び利用に関する政府の基本方針の策定と様々な省庁に亘る政策を、産業界の代表が参画する形で総合的に企画、審議するための機関を明確に位置づけるべきである。その際、その機関の役割について、

    1. 先端的科学ミッションの追求、
    2. 国家科学技術戦略に基づく宇宙インフラの継続的な追求、
    3. 産業化支援の視点からのプロジェクトの創造と研究開発支援、
    等の視点を踏まえて、統一的に整合させるべきである。
    さらに政府部内の一層の連携強化を図り、施策の円滑な実施と政策資源の有効活用に努めるべきである。

  3. 次代の産業基盤としての宇宙産業の育成・支援
  4. 宇宙産業は、典型的な創造的知識集約産業であり、宇宙開発の過程あるいは宇宙利用により新たに生まれる技術成果のスピンオフを通じ、わが国の技術水準や産業競争力の強化のための基盤を提供することが期待されている。
    例えば、99年1月に発表されたInternational Space Industry Reportによると、移動体通信サービス等の衛星利用産業の全世界的な産業規模は、1997年の総額2兆円弱から2007年には17兆円に拡大することが見込まれている。
    1997年5月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画」においても、宇宙産業は将来的にわが国経済を牽引し、新規市場の創出や拡大につながる産業の一つとして位置づけられている。
    欧米においては宇宙産業の育成は国家的課題となっており、重点的・戦略的に施策を展開している。わが国としても、このような宇宙産業の特性を踏まえ、官民が一体となってオリジナリティのあるプロジェクトを積極的に生み出すとともに、政府においても実用衛星を積極的に活用することによって宇宙産業の基盤強化を推進し、宇宙開発・利用の技術成果を産業化につなげるための施策を講じることが重要である。
    また、厳しい財政状況下においても、将来性のある宇宙開発・利用を継続的に推進し、宇宙産業の育成を図るために、国家プロジェクトとしての宇宙開発・利用の意義や経済・社会全般に及ぼすメリット、開発努力の実態を積極的に広報し、広く国民の理解と支持を得る必要がある。

3.推進すべき重要課題

宇宙開発・利用を推進し、わが国宇宙産業を育成・支援するとともに、国際競争力の維持・向上を図るため、以下の施策を重点的に推進することが望ましい。

  1. 情報収集衛星と従来からの宇宙開発プロジェクトの両立
  2. 昨年12月に情報収集衛星の導入が閣議決定され、本年4月に国内自主開発の基本方針が出されたことは高く評価される。情報収集衛星の開発については、国家の安全保障上の必要性から従来の宇宙開発予算とは別枠で十分な予算措置がとられるべきことは論を俟たないが、同時に、従来からの宇宙関係予算についても引き続き維持・拡充し、国として必要な宇宙開発・利用の基盤強化を遅滞なく推進する。

  3. 宇宙輸送システムの分野
  4. 国際水準並みの低価格化の実現により人工衛星打ち上げの商業化に弾みがつくことが期待されるH-IIAロケットの開発を促進するとともに、さらなる性能向上による国際競争力強化のため、ポストH-IIAの開発研究並びに安価な小型ロケットについても開発研究に着手する。また、宇宙ステーション補給機(HTV)について引き続き開発を推進する。再使用輸送系の技術基盤育成の一環として、宇宙往環実験機(HOPE−X)の開発を加速する。宇宙空間への輸送コストの大幅削減を可能とする完全再使用型宇宙輸送機(RLV)については、早期に研究を開始する。

  5. 衛星および宇宙科学の分野
    1. 地球観測・地球科学の分野
      地球環境監視や災害対応のための陸域観測技術衛星(ALOS)、環境観測技術衛星(ADEOS−II)の開発を推進するとともに、環境観測技術衛星等の後継機並びに搭載センサの開発研究に着手し、地球観測システムを早急に充実して継続的な運用を図る。

    2. 通信・放送・測位等の分野
      通信・放送分野での次世代技術開発のため、技術試験衛星VIII型(ETS−VIII)およびデータ中継技術衛星(DRTS)の開発を推進するとともに、超高速通信ネットワーク構築のための超高速通信技術衛星(ギガビット衛星)の開発研究に早急に着手する。準天頂衛星通信システム(8の字衛星)およびグローバルマルチメディア移動体衛星通信システム(次世代LEO)の研究を進める。

    3. 月・惑星探査の分野
      科学観測計画、並びに月探査活動を行なうための基盤技術開発等を目的とした月周回衛星(SELENE)の開発を着実に推進する。

    4. 宇宙環境利用の分野
      国際宇宙ステーション日本実験棟(JEM)の2002年からの打上げ開始に先立ち、事前準備を早期に本格化させる。また、民間企業の利用促進のため、本年4月より開始された先導的応用化研究制度の充実を図るとともに、利用分野の拡充を検討する。JEM曝露部でのミッション実施に向け、全天X線監視装置をはじめとする初期利用テーマの実験装置開発を進める。

    5. 人工衛星基盤技術の分野
      ミッション実証衛星(MDS)シリーズの研究開発を着実かつ継続的に進めるとともに、今後の先端的衛星要素技術ミッション機器やミッション選定の公募選定制度については、民間企業が参画しやすい体制を整備する。また、民生部品の宇宙転用を促進する宇宙産業技術情報基盤の整備(SERVISプロジェクト)の開発研究に着手する。

  6. 国際競争力の向上のための施策
    1. 政府や関連機関による衛星通信、地球観測等宇宙インフラの利用の推進
    2. 民生技術(部品・材料ほか)の活用促進等の施策の拡充
    3. 宇宙開発の成果技術の利用に係る規制の弾力的運用および国や宇宙開発事業団の保有する技術の民間への移転促進

  7. 中長期プロジェクトの推進
  8. 全地球観測システム、全地球航行衛星システム(GNSS)、無人プラットフォーム、有人支援型プラットフォーム、大型天文観測衛星、有人宇宙活動、太陽エネルギー利用太陽発電システム等の中長期プロジェクトについては、適切な時期に研究に着手する。

上記プロジェクトの円滑かつ着実な推進および産業化に向けた取組みの強化のため、平成12年度の予算編成においては、情報収集衛星の特別枠のほか、本年度の実績を踏まえ、従前からのプロジェクトおよび中長期計画の研究についての予算の一層の充実を図る必要がある。

以 上

日本語のホームページへ