[経団連] [意見書] [ 目次 ]

電子商取引の推進に関する提言

III.各 論


  1. 電子認証に関する制度的課題への対応
  2. 個人情報の適切な取扱いの確保
  3. 消費者保護
  4. 電子商取引に対応した諸制度の見直し
  5. 課税に関する枠組みづくり
  6. 国際的な関税ルールの策定
  7. デジタル化・ネットワーク化に対応した知的財産権制度の整備
  8. 暗号技術・暗号製品の開発、利用促進
  9. 官民あげての国際的枠組みづくりへの参画
  10. 多様で低廉な通信サービスの実現
  11. 情報リテラシーの向上
  12. 雇用の円滑なシフトの支援

  1. 電子認証に関する制度的課題への対応
    1. 問題認識
    2. 電子の世界は、リアルの世界に比較して成りすましや改ざんが容易であることから、リアルの世界と同等の安心感を利用者に与えるためには、データの帰属、相手方の同一性や情報の非改ざん性を確保するための新たな仕組みが必要になる場合がある。
      このような要請に応えて、暗号技術やバイオメトリクス(個人の虹彩、指紋等の生物学的特徴をデジタル化したもの)などを活用した電子署名や電子認証といわれる新たな技術が開発されている。これらが活用されることによって、電子の社会におけるセキュリティや取引の安定性を高めるとともに、電子認証サービスという新たな事業分野がビジネスとして発展することが期待されている。そのためには、企業や個人が、多様で低廉な電子署名・電子認証を安心して利用できるようにすることが望ましい。

    3. 基本的考え方
      1. 電子署名について、手書きの署名や押印と同等に通用する基盤が整備されることが妥当である。多様で低廉な電子署名や電子認証の開発・利用を可能とし、電子商取引の発展を促す観点から、そのような基盤を整備するに当たって、現時点における課題として、多様なビジネスモデルの発展や技術動向と法制度との間に乖離が生じないようにすること、多様な事業者の自由なビジネス展開を妨げず、技術革新のスピードやユーザーニーズの変化への柔軟な対応を可能とすること、が挙げられる。官民が協調して検討を進め、これらの課題を解決していく必要がある。

      2. 国際的な電子商取引における利用者利便を高める観点から、自国の電子署名が他国でも通用するような仕組みづくりが必要である。政府間、あるいは地域間で、相手国・地域の電子署名が自国の電子署名と同等の法的取扱いを受けることを認める、いわゆる相互承認の枠組みづくりにおいては、民間認証機関同士の合意を最大限尊重するとともに、わが国として、各国政府、地域に対して、外国の認証機関について排他的な制度を採用したり、相互承認の条件として、自国と同程度以上の水準の認定制度の存在を強制することのないよう働きかけることが重要である。

      3. 電子署名や電子認証の制度整備の必要性は、民間部門より公的部門の方が強い。公的部門のサービス効率化、迅速化や国民・企業負担の軽減の観点から、政府は、申請・申告手続や調達等の電子化を進め、電子政府を実現する必要があるが、そのためには公的部門において電子認証制度を早急に確立することが急務である。公的部門が採用する認証の基準については、多様なニーズに対応できるメニューがあり、各省庁が共通して利用可能であることが重要であり、実際の認証業務は原則として民間にアウトソーシングすべきである。

    4. 民事ルールの見直しについて
      1. 手書きの署名や押印については、文書にその作成名義人の署名または押印があるとき、成立の真正性について民事訴訟法上に推定規定が設けられている。また、ある者の印鑑による押印はその者の意思に基づくものであると推定するという判例が存在している。さらに、ある押印がある者の印鑑によるものであることは印鑑証明書によって証明されることが多いため、印鑑証明書によって証明された印鑑による押印のある文書については、その成立を立証することが比較的容易になっている。
        電子署名や電子認証という新しい技術が、手書きの署名または押印と同等の機能を果たすことが可能になっており、電子署名に対して同様の推定を認めることが妥当である。多様で低廉な電子署名や電子認証の開発・利用を可能とし、電子商取引の発展を促す観点から、電子署名が手書きの署名や押印と同等に通用する基盤を整備するに当たって、取引の実態や技術の発展動向と法制度との間に乖離を来たさないよう、産業界と政府とが、密接な意思疎通を図りながら、以下のイ)〜ニ)の懸念を解消する必要がある。

        イ)
        わが国の場合、現時点で、取引成立のために、電子認証に支えられた電子署名があるときの推定について法律に明文規定を設けることのニーズは現実にはまだあまり顕在化されていないのが実態である。将来的に電子認証が必要とされる完全にオープンな電子商取引が出現する可能性はあるが、それがどのような姿になり、どのような認証機能が必要とされるのか、現時点で予測することは難しい。

        ロ)
        電子署名や電子認証に関する制度は特定の技術を利することなく、技術中立的であることが望まれる。しかし、電子署名に関する技術は発展途上であるため、現時点で技術進歩の動向を見越して完全に技術中立的な立法を行なうことは困難である。にもかかわらず、一定の技術を前提とした立法を行なうと、技術に致命的な問題が生じたり、革新的な技術が登場した場合、電子署名の法律上の取扱いやそのための認証のあり方も見直さざるを得なくなる可能性がある。認証のあり方や想定されている機能が異なる電子署名が主流になった場合、法律そのものが機能しなくなる惧れもある。

        ハ)
        手書きの署名や押印については、推定規定の適用を受ける「署名」あるいは「押印」を定義したり、その範囲を限定する規定は設けられておらず、電子署名についても同様の取扱いがなされることが望ましい。しかし、手書きの署名や押印については、明文の規定がなくても、社会的な慣行に照らして、これに当たるものと当たらないものとの区別が明確になっているのに対して、電子署名・電子認証の範囲については社会的なコンセンサスが得られているとは言えないため、わが国の場合、現時点で推定規定を設けようとすると、社会一般のコンセンサスに替えて、その規定の適用を受ける電子署名や、それを保証する認証機関について、国が一定の基準を定め、それ以外の電子署名や認証機関と区別することが考えられる。しかし、その場合、制度そのものは任意的なものであっても、基準を満たしているという証明を受けていない認証機関が不適切な認証機関であるとの認識が広がるおそれがあり、その結果、利用者から信頼されず、実質的な参入規制となる懸念がある。

        ニ)
        ハ)のように、推定規定の適用を受ける電子署名や認証機関に一定の基準が設けられた場合、技術的基準や資格要件について、機動的、弾力的な見直しを行なえる仕組みをどうやって構築するか、という問題を解決しなければならない。より柔軟な対応を可能にするため、法律そのものではなく政省令や告示で規定することとしても、技術革新のスピードやユーザーニーズの変化に完全に対応することは困難である。また、行政裁量に委ねられる範囲が大きくなる場合、事業者からみて制度の透明性や予見可能性が低下する。さらに、国の基準を満たすために、認証機関の負担が重くなると、認証サービスのコストが上昇するおそれもある。

      2. いずれにしても、民間部門において電子認証ビジネスが発展するためには、何よりも認証機関が、セキュリティ対策の重要性と、認証サービスの有効性に関する利用者の認知度を高めていくことが基本である。併せて、電子認証に対する利便性と信頼性を高める観点から、認証機関間による相互認証の確立と、認証機関に関する格付けや保険等の関連ビジネスの展開が期待される。

    5. 電子署名・電子認証の国際的な有効性の確保
    6. 国際的な電子商取引において、自国の電子署名が他国においても通用するような仕組みが必要になってくる。したがって、諸外国の認証機関が発行した証明書を自国の認証機関が発行したものと同等の取扱いを認める国際的な相互認証を進める必要がある。国際的な相互認証を進める方法として、民間ベースで進める方法と、国家間、あるいは地域間で協定を結び、相手国または地域の電子署名に対して自国の電子署名と同等の法律効果を与える、いわゆる相互承認が考えられる。民間ベースで進める場合、基本的には双方の認証局運用規程を受け入れることによって成立する。
      政府ベースで相互承認を進める場合には、民間事業者間の相互認証に関する合意を尊重し、他国の証明書について、他国の認証機関である、あるいは自国と同様の法制度が存在しないという理由だけで法的取扱いを異にするといった排他的な取扱いを行なわないよう、わが国としても働きかけを強めていくことが肝要である。証明書の発出国で有効な証明書を受け取った国でも有効とみなす協定を締結することも一案である。また、国際間の取引においては、予め契約で裁判管轄と準拠法について合意しておくことによって、他国の電子署名や証明書の有効性についての問題も解決可能になる。

    7. 電子政府推進に向けた認証制度の確立
    8. 電子署名や電子認証の制度整備の必要性は民間部門より公的部門の方が強い。現在、公的部門のサービス効率化、迅速化や国民・企業負担の軽減の観点から、政府は、申請・申告手続や調達等をはじめ、行政手続を情報ネットワークを通じて行なうことが期待されている。政府自らが電子署名・電子認証を利用することは、電子署名・電子認証に対する国民・企業の認知度を向上させるとともに、政府と民間とのインターフェイスの部分において、民間側も電子署名・電子認証を利用するため、結果として民間分野における電子署名・電子認証の普及にもつながる。
      したがって、早急に、政府が電子署名・電子認証を利用することを可能にするための条件を整備するとともに、政府側、民間側双方の負担を極力抑える観点から、各省庁が共通して利用可能な基準を策定すべきである。公的分野における認証のニーズは多様であるため、基準については、本人確認や原本性の確認の厳格性、セキュリティの強度など、用途に応じて多様なメニューから公的サービスの事業主体が選択できるようする。また、透明性が高く、内外無差別なものとすべきであることは言うまでもない。公的サービスへの公平なアクセスが重視される分野においては、あらゆる利用者が使いやすいシステムを用意することにも留意すべきである。
      実際の認証サービスについては、専門的なノウハウを有する民間事業者に原則としてアウトソーシングすべきである。

  2. 個人情報の適切な取扱いの確保
    1. 問題認識
    2. 電子商取引に伴って収集される個人情報について、適切な取扱いが確保され、消費者が安心して電子商取引に参加できるようにするとともに、電子商取引を利用した様々な事業がより一層発展するよう、個人情報の適切な取扱いを担保することが必要である。

    3. 個人情報の適切な取扱いのあり方に関する基本的考え方
    4. 消費者の電子商取引に対する不安感を払拭し、電子商取引の利用を拡大するためには、企業(事業者)が自主的・主体的に個人情報の適切な取扱いを確保するための対策を講ずるとともに、技術的な対応を進めることが基本である。
      企業の自主的取組みとしては、1980年の「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関するOECD理事会勧告(OECDプライバシー8原則)」(*)の遵守を旨として、その具体化を図ることが求められる。
      政府においては、個人情報の取扱いに対する社会全体の認識を深め、消費者の自主的取組みを促していくとともに、消費者の不安感を払拭する目的の範囲内で、必要最低限の公的基盤を整備することが求められる。その際、政府による規制の内容が具体的で判断が容易でないと、企業の負担が過重になる可能性があり、結果として、電子商取引の利用が抑制的になる懸念があることに留意する必要がある。

      * 参考
      「プライバシー保護と個人データの国際流通についての
      ガイドラインに関するOECD理事会勧告」 8原則
      • 収集制限の原則
      • データ内容の原則
      • 目的明確化の原則
      • 利用制限の原則
      • 安全保護の原則
      • 公開の原則
      • 個人参加の原則
      • 責任の原則

    5. 企業の役割
      1. 個人情報取扱方針の策定と公表
        企業は、OECDプライバシー8原則を踏まえた個人情報取扱方針を確立し、ウェブサイト等で公表するとともに、それを遵守すべきである。消費者の自主的対応を喚起する観点からも、企業が個人情報取扱方針の策定・公表や個人情報の取扱方法に関する情報提供等を継続的に行なっていくことが求められる。消費者の選択のための判断材料として、現在実施されている個人情報保護に関するマーク、シールの取得や、個人情報保護のための遵守プログラムの管理システムとしての要求事項を定めたJIS規格への適合等も、事業のニーズやコストに応じて選択が行なわれるであろう。
        さらに、個人情報取扱方針を実行するための遵守プログラムを定め、それが確実に履行されるよう、管理主体を明らかにするとともに、遵守状況を把握し、点検・改善を行なっていくことが求められる。その際、第三者による評価を求めることも選択肢の一つである。

      2. 個人情報の利用目的の開示と本人の同意
        企業が個人情報を収集、利用、提供する際には、直接個人に対して、その目的を明確に伝え、同意を得ることが原則である。その際、個人情報の利用目的に加えて、提供しない場合の結果等を開示する必要がある。電子商取引においては、様々な技術により情報収集を自動的に行なうことが可能であるが、その際にも、個人を識別できる形態で個人情報を収集する場合には、収集時に、予め個人に対し、その内容や目的を明確に伝え、同意を得るようにすべきである。また、第三者に移転する場合についても、収集時あるいは提供前に同意を得ておくことが必要である。
        ただし、契約の履行や履行の準備行為については、契約締結そのものに対する同意が、自動的にそれらに対する同意となるため、改めて合意を得る必要はないと思われる。

      3. 本人からの開示・修正・削除要求への対応
        原則として、電子商取引に関連して個人が提供した情報自体について、本人から開示・修正・削除要求があった場合には、企業としても、合理的な範囲内で応じる必要があり、そのための手続、体制を整備することが求められる。

      4. クレーム処理窓口の整備
        消費者からの意見や要望を受け付け、改善のための措置を迅速に行なえる体制を整備することが消費者の信頼醸成のために必要である。個別企業が個別に対応することは当然であるが、個人の私生活への影響度合い、消費者の便宜、ノウハウの蓄積、体制整備に要するコスト等から、さらに、業界ごと、あるいは業界横断的に体制を整備することが望ましい場合もある。

    6. 政府の役割
    7. 企業の自主的取組みによって個人情報の適切な取扱いの確保を図っても、悪意の者によって個人情報が不適切に取り扱われる可能性は否定できず、その場合、個別の企業や業界ごとの自主的取組みによる実効性や、アウトサイダーに対して適切な取扱いを求めることには限界がある。現時点では、個人情報の不適切な取扱いに関する法的な救済・回復に関しては、名誉毀損等の場合を除けば、不法行為の一般論等に拠っているのが実態である。このような状況で、悪意の者によって個人情報の不正な取扱いが行なわれ、個人に被害が生じると、電子商取引全体に対する消費者の信頼が失われかねない。消費者が安心して電子商取引に参加できるようにするためには、悪意の者を排除するとともに、被害を救済するためのセーフティネットとして、電子商取引の利用促進に資するような公的基盤を設ける必要がある。

      1. 必要最低限の法的枠組みの構築
        企業が所有している個人情報については、営業秘密としての性格を有することが多いと思われるため、不正競争防止法による保護が可能な場合も考えられるが、営業秘密に該当しない場合、個人の権利が保護されない可能性がある。また、不正競争防止法では、事業者にしか差止請求権等が認められていないという面もある。
        ただし、どのような行為が個人に不利益をもたらすかが曖昧なままで規制が行なわれると、企業の負担が必要以上に過重となる可能性があり、電子商取引への取組みそのものが萎縮しかねない。また、明らかに機密性の高い情報を取り扱う一部の業種を除けば、企業の行動を事前規制的に拘束することは、悪意の者に対する実効性を持たないのみならず、徒に善意の事業者の負担を重くし、機動的、弾力的な企業活動を阻害しかねない。
        そのような観点から、当面は、企業の自主的取組みを第一義として、補完的に現時点で個人の利益侵害に直接結びつくおそれの強い行為について規制を行なうことが考えられる。
        個人情報の取扱いについて、現在、消費者が最も懸念しているのが、消費者が知らないうちに、転々と個人情報が移転し、その結果、トラブルが発生する危険性が高まっている点である。そこで、現時点での規制対象としては、

        1. 個人情報の盗取あるいは詐欺的・欺瞞的方法による取得およびその利用、開示、並びに第三者への移転、
        2. 盗取あるいは詐欺的・欺瞞的手段の介在を知った上での個人情報の取得、利用、開示、
        など、明らかに悪質と思われる行為が考えられる。
        その際、法的なアプローチのあり方として、刑事的規制、民事的規制、行政的規制によることが考えられるが、差止めや損害賠償等によって民事的に解決しうる場合には、民事的規制に比べて行政の関与が強い行政的規制を用いる必要はないと思われる。また刑罰を導入する場合でも、極めて悪性が高い行為(例えば、意図的に特定個人に著しい不利益をもたらすことを目的とした行為、継続的または組織的な違法行為等)について限定的に行なわれるべきである。

      2. 救済体制の整備
        個人が被った不利益について企業と個人の間で合意を得ることが困難であったり、第三者が介在している場合など当事者間で解決することが適当でない問題について、政府において、個人の権利が迅速かつ効果的に保護されるような仕組みを整備する必要がある。

      3. 個人情報の取扱いに関する認識の強化
        利便性の高いサービスの享受と個人情報の保護を両立させるためには、消費者が自らの個人情報を守るための知識やノウハウ(例えば、事前に個人情報の利用目的を確認する等)を身につけるとともに、実践することが最も効果的である。政府においては、消費者が自らの個人情報は自ら守るという感覚を身につけ、自己防衛のための知識やノウハウを習得するよう、適切な消費者教育を積極的に行なうべきである。また、児童・生徒や学生等に対する情報教育の一環として、企業の個人情報取扱方針を判断指標として活用する訓練も必要である。さらに、個人情報の提供に関する判断能力が十分でないこどもや高齢者などについては、本人やその家族の個人情報が危険にさらされる可能性があるため、その対策について検討する必要がある。

  3. 消費者保護
  4. 電子商取引を行なうに当たっても、リアルの取引と同等の保護が与えられるべきである。特に、ネットワーク犯罪や詐欺等の違法行為は厳しく取り締まるべきである。ただし、電子商取引の持つ利便性やサービスの多様性を殺がないようにするためには、基本的には企業がトラブルを回避するため工夫を凝らすことを基本とすべきである。
    トラブルを回避するためには、何より、予め消費者がどの程度のリスクがあるかを確認できるよう、企業が情報開示を行なうことが求められる。開示すべき情報の内容は業種・業態や取り扱う商品により異なるが、少なくとも、消費者が問い合わせや確認のために容易にアクセスできる手段を確保すべきである。また、販売の誘引、申し出に関しては、消費者が十分な情報を得た上で購入に関する判断を下せるよう、正確な情報が判断しやすいかたちで消費者に提供されなければならない。具体的には、消費者が負担する全ての金額(関税や税金を含む)、通貨の種類、申込みの有効期間、納品までの期間、支払方法、サービス提供やアフターサービスに関する条件、クーリングオフや返品・交換・取消等に関する条件、準拠法や裁判管轄に関する条件、適用される具体的な法律などが考えられる。
    さらに、消費者が合意を与えるにあたっては、消費者自身が合意内容について理解し、熟慮した上で合意の意思表示を示すためのプロセスを消費者に対して提供すべきである。
    企業の努力と併せて、トラブルを回避するためには、消費者が自己責任原則にのっとって利便性やコスト、リスクを勘案した上で購入するかどうかを選択することが重要である。例えば、十分な情報開示が行なわれていない場合には事前に確認する等の対応が望まれる。政府や企業が消費者に注意喚起を促すことはもちろんのこと、学校教育において、そのような取引におけるリスク感覚を身につけることが重要である。
    さらに、電子商取引に伴う消費者のリスクを軽減するため、第三者による事業者の信頼度の評価・格付けや不測の損害に対する保険といったシステムが、支援ビジネスとして確立することが望まれる。

  5. 電子商取引に対応した諸制度の見直し
    1. 各種業法の見直し等
    2. 現行の商取引においては、主として消費者保護や取引の安定性確保の観点から、契約条件等を記した書面の交付を義務づけたり、対面による説明を義務づけるなど、書面や対面による取引を想定した規制が行なわれているものがある(旅行業法、訪問販売法、割賦販売法、証券取引法等)。利用者の利便性向上の観点から、電子的手段による契約内容や説明書等の提供も可能とすべきである。
      また、利用者にとって利便性の高さと価格の安さが電子商取引の大きな魅力となることに鑑み、多様な事業者の参入を可能とし、自由な競争を可能とするための規制改革の促進が望まれる(酒類販売の需給調整要件廃止の早期繰上げ、酒類通信販売の品目制限の廃止、書籍等の再販制度の見直しなど)。

    3. 契約ルールの明確化
    4. 契約成立時(意思表示の効力発生時期)、契約・意思表示の有効性、成りすまし等無権限者による契約による場合の取引相手の保護、データ伝送過程におけるエラー(データ化け等)への対応、等について現行民法ルールをそのまま解釈・適用するのか、新たなルールを策定すべきかについて議論がある。この点が明らかにならないと、契約の締結・履行に際して当事者の予見可能性が損なわれる可能性があるため、政府としての見解を早急に明らかにすることが求められる。

  6. 課税に関する枠組みづくり
  7. 電子商取引のグローバルな拡大により、各国の課税主権が衝突する場面が増える可能性がある。国際課税のあり方に関して、OECDをはじめとする国際的なルールづくりにわが国としても積極的に参画すべきである。
    また、いわゆるインターネット課税のような、電子商取引に対する差別的な課税は行なうべきでなく、リアルの世界で課税されていない商品・サービス等について、電子商取引であることを理由とした新規の課税は行なうべきではない。電子商取引が未だ揺籃期であることにも配慮が必要である。
    リアルの取引と同様、公平、透明、中立の原則にのっとり、国際的にも整合のとれた課税ルールを構築する必要がある。

  8. 国際的な関税ルールの策定
  9. 電子商取引の健全な発展を促す観点から、現在、非関税措置が採られている情報財(デジタルコンテンツ)のインターネット取引について、WTOの次期ラウンド交渉において、非関税措置の継続に関する国際的合意が得られることを強く希望する。
    なお、電子商取引について、サービス取引かモノの取引かの分類の明確化を図る必要があるが、全ての電子商取引を一括してモノかサービスかに分類すべきではない。個々の取引を従来形態の取引に照らし合わせ、当該取引がモノの取引かサービス取引か、更にサービス取引であればどのようなサービス取引に分類されるかを判断した上で、それぞれGATT及びGATSの枠組み内で関税交渉や自由化交渉を進めるべきである。また、こうした分類が困難な取引についてのみ新たなルールを検討していくべきである。

  10. デジタル化・ネットワーク化に対応した知的財産権制度の整備
  11. 電子商取引によって、デジタルコンテンツがネットワークを介して国際的に流通する状況では、基本的に有体物の形での国内流通を想定した既存の知的財産権の法的枠組みでは対応できない問題が発生し始めており、このままではデジタルコンテンツの利用を阻害しかねない。
    新たに生じている問題としては、第一に、デジタル化・ネットワーク化に伴い、質的に劣化しない複製物が、短期間に大量に拡散する可能性が高まるため、複製権を中核とする著作権制度の有効性が減衰しているとの指摘がある。このような状況下では、デジタルコンテンツの制作者は違法複製を怖れて、ネットワークに自己のコンテンツを安心して流せず、また、利用者もネットワークから入手したコンテンツが真正なものであるか判断出来ず、安全に利用できない等の問題が生じている。第二に、ネットワークを通じて著作物の国境を越えた流通可能性が高まったことから、国境を前提とした法的規整が形骸化している。
    これらの問題を解決し、安定的なコンテンツ流通を確保するため、時代の流れに応じた著作権法をはじめとする法制度の変更が不可避となっている。

    1. 安定的・効率的な法制度の整備
    2. 電子商取引の主要な担い手となる産業の健全な発展を図るとともに、安定的・効率的な著作物の流通取引を可能にし、広く国民全体による著作物の活用を図るという観点から、著作権法による保護のあり方を根本的に見直す必要性が高まっている。以下の方向で早急に検討を開始すべきである。

      1. 競争的・効率的な権利処理機構の整備等も視野に入れ、円滑な流通システムを作り上げることが必要である。
      2. 技術進歩に伴い、新たな問題が発生する都度、権利を新設・付与したり、支分権を細分化していくという対応は、徒に法を複雑にし、法的不安定性をもたらすのみならず、権利者と利用者の利害調整にも時間を要し、円滑な利用には必ずしも適さない。例えば、新たな利用形態に対応して報酬請求権を柱とする新たな法的枠組みを検討することも考えられる。あるいは、行為規制による対応も検討していくべきである。
      3. 新たな法制度においては、ネットワークとその端末である情報関連機器に対して、技術的に過度な義務を課してはならない。また、通信事業者、インターネット接続業者等が、権利者と利用者間の争訟等に巻き込まれることがないよう、法的に配慮すべきである。
      4. 国境を越えた流通を前提とした、国際的に調和可能な制度を構築する必要がある。

    3. 国際的ハーモナイゼーションへ向けたイニシアティブの発揮
    4. 電子商取引が国際的に行なわれることに鑑み、以下の方向で、WIPO、WTO等の国際機関の場におけるイニシアティブや国際的な制度への積極的な関与等を強めていく必要がある。

      1. 技術の国際流通を促進するためには、途上国等での知的財産権保護の仕組みの整備が不可欠である。知的財産権保護が不十分な国に対しては、引き続き、関連法制の整備、適切な権利設定・執行を積極的に働きかけるとともに、制度設計、人材育成に関し必要な協力を行なうべきである。
      2. 知的財産権の活用は国境を越えて広がっており、属地主義を前提とした法的枠組みは限界に直面している。当面、例えば、外国での侵害行為からの救済を円滑に受けられるようにするために、準拠法や裁判管轄の決定の問題等につき、産官学が連携して必要な検討を行ない、働きかけを開始すべきである。

  12. 暗号技術・暗号製品の開発、利用促進
  13. ネットワークを利用した電子商取引においては、利便性の向上と表裏一体の問題として、セキュリティを確保するための対策が必要になる。わが国は諸外国に比較して電子商取引の利用も、それを利用したネットワーク犯罪等も多いとは言えず、一般にセキュリティに対する関心が薄いと言われており、ひとたび犯罪や事故が起こった場合、被害が甚大になる可能性があり、また、セキュリティに対する正しい理解がないために、必要以上に電子商取引の利用を躊躇する惧れがある。セキュリティに対する正しい認識を広めることは、個別企業の取組みでは限界があり、政府による周知・啓蒙が図られるべきである。
    セキュリティを確保するための技術として、暗号技術が注目されている。目的とコストに応じて暗号技術が選択されることが望ましいが、安全保障に関する国際的枠組みのうち、ワッセナー・アレンジメント(WA)に基づき、暗号技術および暗号製品については各国ごとに輸出規制が行なわれており、わが国でも許可制が採られている。昨年12月のWAの見直しを受けて、政府においても規制対象範囲の限定(規制の強度に応じた規制対象範囲の限定、認証及び署名の暗号化目的の製品の除外、個別除外品目の拡大、64ビット以下の強度の共通鍵を用いた暗号製品の市販品の規制除外、個人の使用のための携行輸出の規制除外等)、輸出手続の簡素化(包括許可制度の適用、再輸出の審査簡素化等)が行なわれたところである。今後も、技術進歩の急激な進歩や普及動向を踏まえ、弾力的な見直しを行なうことが求められる。

  14. 官民あげての国際的な枠組みづくりへの参画
  15. 電子商取引はグローバルな拡がりをもっており、国際的な枠組みづくりが活発に進められている。わが国においても、貿易や金融分野において、グローバルな電子商取引の枠組みを民間主導で構築する動きが活発になっている。これらの取組みを一層強化するとともに、他の分野においても、企業が率先してグローバルな枠組みづくりに参画することが求められる。
    また、OECDやWTO、国連等において、電子商取引に関する国際的な枠組みづくりの作業が行なわれている。市場ニーズに基づいて電子商取引を行なう企業が主体的に枠組みづくりに参画していくことが望ましいが、企業がグローバルな活動を展開していくためには、制度面で国際的な整合性を確保することも重要であり、政府が果たす役割も大きい。そこで、政府と産業界が密接な意見・情報交換を行ないつつ、両者が国際的な議論に機動的に対応していく必要がある。例えば、次期WTO交渉に向けて、政府と産業界との常設の意見・情報交換の場として官民の連絡協議会を設置し、この中で、電子商取引も取り上げていくことが考えられる。

  16. 多様で低廉な通信サービスの実現
  17. 電子商取引が広く利用されるようになるには、多様で低廉な通信サービスが提供されることが不可欠であり、利用者の利益の確保と自由かつ公正な競争の確保の観点から、情報通信法制の見直し(電気通信事業法等)が求められる。また、サービス、設備の両面から、地域通信市場における公正な競争を確保するため、公共的なケーブル収容スペースの整備や道路等の占用規制の緩和、管路の合理的かつ非差別的な条件による開放など、回線設備の整備に関する環境を整備するとともに、不可欠設備の公正な利用、接続ルールのより一層の充実等を図るべきである。

  18. 情報リテラシーの向上
  19. 今後の経済社会においては、主体的に行動し、自己責任の観念に富んだ創造力あふれる人材が求められている。このような人材に求められる能力の一つが情報リテラシーである。情報ネットワークを使いこなし、生活や企業活動、行政等に活用できる情報リテラシーは、一人一人の生産性を高めるとともに、多様なライフスタイルを実現するための基礎的な能力であり、国の活力の原動力となる。しかしながら、現実には、企業によって情報リテラシー向上への取組みにはばらつきがあり、公的部門においては、市場原理が働かないため、そもそも情報化や情報リテラシー向上に対するインセンティブが働きにくいという問題がある。
    今後、電子商取引の進展に伴って、民間部門、公的部門を通じて情報通信技術を活用できる人材が逼迫し、雇用のミスマッチが生じることも懸念されることから、雇用シフトの支援策の一環としても、国全体の情報リテラシーの底上げを急ぐ必要がある。政府はまず、教育機関における情報化(職員室の情報化、全教室へのインターネット接続)促進や情報教育の拡充を急ぐべきである。また、情報リテラシーの向上のためには、公的分野の情報化をはじめインターネットを日常的に利用できる環境の整備が重要である。さらに、中小企業の情報リテラシー向上を図る観点から、中小企業の情報化や情報リテラシー向上のための支援体制を充実することが求められる。
    さらに、適切な情報の評価および選別が健全なマーケットを育てることにも留意する必要がある。今後、電子商取引に伴う保険や訴訟等によるコストが高くなると利用が進まなくなる惧れがある。そこで、電子署名・電子認証をはじめとする技術的対応や消費者保護策を講じていく必要があるが、情報リテラシーの一環として、消費者・生活者が自らリスクを回避するための能力を身につけていくことによって、商品やサービスの低廉化と利便性のメリットを最大限に享受することが可能になる。特に、電子商取引は消費者にとってもグローバル社会への窓口となるため、他国の文化を含めて、取引に関する様々な情報を適切に理解・評価し対応する能力の向上が求められる。
    企業自らも情報リテラシーのための取組みを強化することが求められる。従来のメインフレーム中心の情報システムでは、情報リテラシーはごく一部の担当者のものでしかなかったが、今後は、例外なく社員全員の基礎知識となり、さらには取引先にも情報リテラシーが求められることになる。企業においては、特に経営層、責任者自らが情報リテラシーを身につけ、その重要性を理解し、社内や取引先に浸透させることが肝要である。

  20. 雇用の円滑なシフトの支援
  21. 電子商取引が進展すれば、機能なき中間媒体が淘汰され、従来の産業構造が変質し、それに伴ない雇用構造が変化することは避けられない。米国においても、2006年頃までには、企業の雇用労働力の半分は情報通信関係の製造業や情報通信技術を活用したサービス業に置き換わると予測している。このような情報通信技術を活用できる人材の育成が急務であり、そのための教育・訓練制度の充実や企業の雇用流動化の支援策が求められる。

以 上

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