電子商取引の推進に関する提言

参考資料３：
情報通信委員会 情報化部会
電子商取引の推進に関するワーキング・グループ会合議事概要

米国企業の電子商取引への取組みと日本への示唆について

1998年10月15日

[説明]

日本アイ・ビー・エム
e-ビジネス推進ＥＣソリューションズ担当部長　加古　卓也　氏
（現サービス事業.e-ビジネス・サービス担当 部長）



[説明要旨]

1. これからの経営とe-ビジネスの役割
   ビッグ・バン、技術革新、消費者主導の経済、グローバル化、メガコンペティションといった経営環境の変化が起こりつつあり、これらに対応するため、お客様対応力、スピード、情報活用といった新たな能力が必要になるが、e-ビジネスはインターネットの活用等によってこれを可能とする。
2. e-ビジネスの具体例
   （消費者向け）ネットでの書籍販売、株式売買、車販売等
   （企業間）ネットによる電機部品調達、サプライヤーとの情報共有等
3. 進化するe-ビジネス
   e-ビジネスは、電子メール→ホームページ→電子商取引→バーチャル・エンタープライズ（基幹業務へのe-ビジネスの拡大）へと進化する。
4. 電子商取引の現状と課題
   • インターネットを活用した商取引の変化と新しいビジネス・チャネルの拡大（特に企業間取引）
   • 日本における電子商取引の問題点として、既存の商習慣やビジネス関係の制約を受け、ビジネス革新が進まないことが挙げられる。
   • ネットワークを活用した産業・社会を目指して、護送船団方式、業界共存共栄方式からの脱却、世界に通用する新しい産業の育成（情報知識型産業）、個性を重んじる教育・社会改革が必要。

電子商取引への取組みと課題への対応

1998年12月22日

[説明]

デルコンピュータ株式会社
会長　吹野　博志　氏



[説明要旨]

1. デル・オーダー・マネジメント・システム
   デルでは商品の100％を自社で最終調整・品質管理を行ない、工場からストレートにエンドユーザへ送るというシステムをとっている。
2. デル・モデル

   第1段階：ダイレクト・モデル
   

   顧客からのオーダーによってカスタマイゼーションしたものを生産し、店舗を通さず直接販売している。コンポーネントの自社開発・製造は行なわず、全て外部のパートナー企業から調達、テクニカル・サポートもパートナー企業から提供している。

   第2段階：付加価値サービス
   

   デル以外のメーカーの周辺機器やソフトウェアのインテグレーションをワンストップショッピングでまとめて提供する。

   第3段階：インターネットショッピング
   

   インターネットによるビジネスの展開として、オンラインによるインターネットショッピングを推進する。

   第4段階：バーチャル・インテグレーション
   

   2000年までの完成を目標として、パートナー企業との連携によるバーチャル・インテグレーションを行なう。そのことにより、サプライ・チェーン全体のスピードの向上、在庫の削減、コスト削減等がもたらされる。

3. ホームページの活用
   納期情報は顧客自らホームページで確認できる。テクニカルサポートもホームページを活用する。企業向けには「プレミアページ」を構築し、自動的に見積書作成が可能となっている。日本では内部稟議のためにプリントアウトできるものを提供している。
4. デルの今後の課題
   グローバル展開をしている企業に対してワールド・ワイドなサポートを行なう。2000年には売上げの半分をインターネットを通じて獲得する。
5. 情報化に関する課題
   日本の政府、各社のトップマネージメントが、インターネットを理解し、推進する意識を持つ事が重要である。

NIFTY SERVEを活用した電子商取引(事例と課題)

1998年12月22日

[説明]

ニフティ株式会社
取締役営業部長　北爪　正路　氏
営業統括部営業部課長　大瀧　孝一　氏



[説明要旨]

1. ニフティが行なう電子商取引の事例
   1. 企業間：「早い・安い・簡単」、オンラインによる受発注
   2. 消費者向け：(1)オンラインショッピング、(2)デジタルコンテンツ販売（データベース販売）、(3)金融サービス、(4)予約サービス、(5)コンピューティングサービス
2. オンラインショッピングの仕組みと特徴
   ニフティは場所貸しをしているだけで、モノの売買、配送の責任、代金回収の責任というのは出店者側にある。ニフティが関与するメリットは、ワンストップ・ソリューションという付加価値の提供と、有料顧客から成る会員制が採られているという点である。
   物品販売の売上げが多いのは、パソコン／周辺機器、チケット、書籍、電子本、模型、一般通信販売、音楽等である。
3. デジタル情報販売
   書籍ダウンロード販売、音楽（ライブ、カラオケ、楽譜等）、フリーソフト、シェアウェア（送金代行）、商用ソフト流通等
4. 今後の方向性
   オープン市場での展開（代金代理回収サービス等）
5. 課題
   知的財産権（著作権についてはＪＡＳＲＡＣと最近合意）、アダルトコンテンツの取扱い（ニフティは一般より厳しい基準）、安全性、無料コンテンツとの関係（ニフティは有料にすることによって優良なコンテンツを育成）

渋谷電子マネー実験について

1999年2月8日

[説明]

ビザ・インターナショナル
日本総支配人代理　近藤　均　氏



[説明要旨]

1. 渋谷実験の概要
   渋谷で行なわれているのは、電子マネー実験というよりは、むしろ現在のクレジットカードインフラをＩＣカードインフラにおきかえるための実験である。98年７月から99年10月にかけて行なう。発行カードには、ビザキャッシュのDisposable型、Reloadable型、ＩＣクレジットカードとの複合カード、銀行キャッシュカードとの複合カードがある。渋谷スマート・カード・ソサエティー（カード会社、銀行、メーカーで構成）では、ビザキャッシュ（stored value card）とスマートクレジット（暗証番号、カード／端末間相互認証を行なう）の実験を行なっている。
2. なぜ今ＩＣカードか
   セキュリティの向上（磁気ストライプ・インフラの限界を克服し、本人確認、カード認証・データ認証、信用照会を可能にする）と運用コストの削減（オンライン・インフラの限界を克服し、小口取引利用の増加に対応し、システム／ネットワーク投資や通信料／請求書発送コストの増嵩をおさえ、顧客の待ち時間短縮を図る）ことがＩＣカードを利用する目的である。
3. 今後の新技術導入の方向性
   1. クレジット、デビットカード、電子マネーを総合的に展開（端末の共通化）
   2. 国際互換性を重視（国境を越えた取引に対応。インターネットでは特に必要）
   3. 既存のインフラを最大限利用

セブンーイレブン・システムの紹介
〜サプライチェーン・マネジメントの領域

1999年3月2日

[説明]

セブンーイレブン・ジャパン
取締役情報システム本部長　碓井　誠　氏
情報システム本部営業システム部総括マネジャー　佐藤　政行　氏



[説明要旨]

1. 変化への対応と基本の徹底
   流通を取り巻く主要な変化として、売手市場から買手市場への変化、消費・経済構造の変化、国際化・規制緩和による競争要因の変化、小売業態の変化と流通主導権の構造変化、ＥＣの拡大と情報技術の進展、環境問題への対応等が挙げられる。
   業態の基本コンセプトとして、地域密着性とコンビニエンス性などがあげられるが、最近、ワンストップサービスのプラットフォームとして公共料金の支払や宅配便サービスなどの利用も増加している。
2. セブン-イレブン総合情報システム
   グループウェアを通して各種の情報の共有などができるということが特徴であり、店舗へ情報発信するとともに、店舗から送られたPOSデータをメーカーと共有し、次の商品の開発に繋げる。
3. 発注システムとの業務連携
   発注システムは、サプライチェーンの組み立ての入口となるため大変重要である。発注情報を正確に伝達し、他の業務が支障無く遂行できるようにすること、関係者にきめ細かに情報を提供すること、データベースに結び付けていくことが重要である。
4. 取引先（ベンダー・センター・メーカー）総合システム
   ベンダー・メーカー等取引先との間のシステムをトータルなパッケージとして開発しつつある。
5. 生産管理システム
   仕組みだけではなく、従来以上の業務連携の中で生まれ、また連携を生み出すのが、いわゆるサプライチェーンマネジメントであり、それによって、利益の源泉、競争力、品質が創り出される。
6. デマンド・チェーンの必要性
   一方で、逆にお客からニーズを吸い上げて、お店を経由してサプライ側に伝えていくチェーンが必要である。店舗に情報を提供したり、情報を登録できる仕組みを作り、ＰＯＳデータで返ってくる実績と比較している。
7. まとめ
   サプライチェーン・マネジメントの基本は、業務連携を可能にすること、情報共有によって商品開発に結びつけることが重要である。今のオープン化されコストパフォーマンスのよい新しい技術・アーキテクチュアを利用すれば、そのサービスレベルを高くすることができる。

ＪＥＣＡＬＳ活動状況

1999年3月24日

[説明]

企業間電子商取引推進機構
プロジェクト推進部次長　榎本　晃　氏



[説明要旨]

JECALS はJIPDEC（日本情報処理開発協会）の中のひとつの組織であり、98年に設立され、企業間電子商取引に焦点を当てた基盤整備に取り組んでいる。

1. 活動目的
   1. 企業間電子商取引のユーザ主導による実用化推進
   2. 国際標準化活動の推進強化
   3. 産業界への普及促進
   98年度補正予算で実証活動を行なうプロジェクト等と連携し、その成果を広く国内の産業界に還元し、電子商取引の普及・定着を図る。
2. 推進体制
   ビジネスモデルＷＧ、企業間情報共有ＷＧ、インフラ整備ＷＧを設置して具体的活動を行なっている。
3. 各産業界のＣＡＬＳへの取組み
   自動車、電子機器・部品、船舶、航空機、宇宙、鉄鋼ＥＣ、建設ＣＡＤ、プラント、鉄鋼設備、電力等

先進的情報システム開発実証事業
「商流・物流統合ＥＣの構築及び岐阜県内磁場産業での実証」

1999年3月24日

[説明]

セイノー情報サービス
取締役企画推進部長　臼井　功　氏
マルチメディア事業推進部次長　鳥居　保徳　殿



[説明要旨]

1. 事業の背景
   消費者向け・企業間電子商取引において、受注時の在庫確認や受注後の出荷・納品作業を効率的に行なうことが顧客サービスの重要な要素であり、商取引における決済と物流は欠くべからざる両輪である。ＥＣ技術を有効に活用して一貫して物流の情報化を図っていくことが求められる。物流ゲートウェイサービスとＩＴＳを利用した商用車効率化システムを地場産業の参加を得て99年９月から実証実験を開始する。
2. 現状の問題点
   (1)中小企業（商流・物流）の情報化の遅れ、(2)商流と物流での二重作業、
   (3)環境・交通問題、(4)需給バランス（回数減になると需要減につながる）、
   (5)物流ニーズの増大（配達回数増等）等がある。
3. 物流ゲートウェイサービスシステム
   通信、受発注、保管、配送、試算・分析部門等のユーザーニーズに対応できるゲートウェイを提供し、受注代行業者、流通加工業者、梱包業者、倉庫業者、運送業者、統合型ＩＴＳ端末利用運送業者がこれらを共有できるようにする。企業間のビジネスプロセスを改革し、流通経路と物流を変えるとともに、情報共有を図る必要がある。
4. 荷主インターネット端末の普及（カンガルー・マジック）
   インターネットを情報基盤とした出荷業務および販売業務を支援するシステムを提供する。
5. ＩＴＳを利用した商用車効率化システム
   ＩＴＳを活用して、配車支援、運行・安全モニタ、運行管理、最新交通情報の把握を可能とする。

半導体・電子部品のグローバル・サプライチェーン基盤整備（ＥＣＡＬＳ２）

1999年3月24日

[説明]

ＥＣＡＬＳ２コンソーシアム
事務局長　稲葉　浩作　氏
幹事長　志方　洋一　氏



[説明要旨]

ＥＩＡＪ（電子機械工業会）会員を中心にＥＣＡＬＳ２コンソーシアムを設置した。今回のＥＣ化は、「売り手」と「買い手」の間で、半導体・技術情報やその標準化を含めたやり取りを対象にしている。

1. 課題
   電子部品は約60アイテム、300万点ある。そのうち、約30万点の部品情報の電子化が必要だが、中小企業は対応しにくい。また、各社バラバラのフォーマットになっており、情報の収集が行ないにくい。ＣＤ−ＲＯＭなどではコンテンツの鮮度も落ちるという問題がある。
2. 目的
   半導体・電子部品の技術情報のＤＢ作成と、中堅企業による技術情報発信の促進により、グローバルな設計・営業サプライチェーンの基盤を確立する。
3. 課題
   技術情報の標準化、情報交換の標準化、ならびにシステム開発を進めているが、実用化に向けては自助努力が行なわれることが求められる。

トヨタ情報３ヶ年計画と今後の進め方

1999年6月10日

[説明]

トヨタ自動車
情報システム部門付ＢＲ・ＥＣ推進室長　蔵永　泰彦　殿



[説明要旨]

1. ねらい
   分野ごとに業務の見直しを行なって一元化されたデータベースを再構築し、ネットワークを介してアプリケーションは基本的にユーザー側に委ねる構造にした。
2. 開発〜生産準備プロセスの改革
   高度情報技術を活用したＣＡＤ／ＣＡＭやＣＡＥシステムを通じて、情報の電子化・共有化によるコンカレント開発の展開を進め、施策回数の削減（２回→１回）による開発期間の短縮（従来のリードタイム24ヶ月を19ヶ月に）を実現した。
   1. 受注から納車プロセスの改革
      カスタマーイン（受注によって生産プロセスが回り出す）の視点による販売、生産の仕組みを改革することによって、顧客への納期保証を確実にする。これにより、計画業務の早期化が図られ、新鮮な市場情報に基づく素早い計画策定が可能になる。今後は海外も含めた水平展開を進める。

      〔具体例〕

      かんばんの電子化、受注情報の工場展開、輸送の事前計画化、新車点検の改善等

   2. 管理・間接業務プロセスの改革（例：調達業務等）

      〔具体例〕

      調達業務（図面・見積書の電子化、電子帳票の共有化）、情報インフラの改革（専用線、ＶＡＮ、イントラネットによって、国内グループ790社／820社のイントラネット化、海外36社／288社の電子メール可能化）

自工会の電子情報化活動推進状況

1999年6月10日

[説明]

トヨタ自動車
情報システム部門付ＢＲ・ＥＣ推進室長　蔵永　泰彦　殿



[説明要旨]

1. ＡＮＸとは
   米国の大手自動車メーカーが展開しているＡＮＸは、電線（通信回線）レベルの共通化を目指した業界エクストラネットのことを指しており、電線を伝わるアプリケーション・データ（ＣＡＤ、ＥＤＩなど）の共通化は別の活動で展開している。
2. 自工会の検討体制
   自工会では、電子情報委員会を設置し、その下に企画部会（部会長　蔵永室長）、ＣＡＤ部会、ＥＤＩ部会が設置されている。
3. ＪＮＸ推進の目的
   企画部会では、ネットワークコスト削減のため、日本版ＡＮＸ（ＪＮＸ）を推進する。ＪＮＸにより、自動車メーカ、部品メーカ双方にメリットがある。

   [自動車メーカ側]

   既存の複数ネットワークの集約化とＴＣＰ／ＩＰ化によって専用線から公共ネットワークへの移行が図られ費用削減を実現。

   [部品メーカ側]

   自動車メーカごとに異なるネットワークに加入していたのを標準ネットワークへの加入のみですむようになり、回線接続に伴うコストやハードウェア、ソフトウェア費用等が削減可能。

4. 検討状況
   現在、自動車工業会は、部品工業会とともに、日本版ＡＮＸ実地検証コンソーシアムを設置して検討を行なっている。今年度は実地検証を行ない、2000年６月頃までには実地検証結果をまとめ、2000年後半以降、本番稼動開始を目指している。
   今後の課題として、実地検証の詳細計画の立案、本格稼動時のコスト／効果把握、本格稼動時の運用体制の検討、国際接続の検討、業界を越えた連携の検討等が残されている。

ソニーのサプライチェーンプロセス改革

1999年6月10日

[説明]

ソニーコーポレートISソリューションズ
バイスプレジデント　佐藤　和朗　氏



[説明要旨]

1. ソニーの概要
   ソニーは売上高の７割以上が海外であげられている。
2. 業務プロセス改革
   需要と供給のバランスをとることが重要である。売り逃し、過剰在庫を避けて、市場の変化に供給が柔軟に対応することが必要であるため、リードタイムの短縮と製品在庫の低減が目標であり、その実現に取り組んでいる。
   [95年〜]販売会社と事業所を直結し、カンパニーはモニタリングと製販戦略に特化することにより、戦略とオペレーションとの分離、取引の簡素化を実現した。売れた分だけ商品の補充を行なうプル型プロセスに改革した。さらに、物流拠点を減らし、事業所と顧客・ディーラーを直結（ダイレクト化−中抜き）した。
3. 生産革新
   92年から製販会議で生産計画を毎回確定するのではなく、タイムフェンスを設けて計画の熟成を行なうよう変更した。生産計画エキスパートシステムを整備し、多品種少量計画変更を実現した。93年から生産革新を行ない、ベルトコンベア式からセル方式に転換した。
4. 情報システム改革
   1. 業務の課題：納期達成100％をキープ、欠品による生産遅れをなくす、ミニマム在庫の実現、更なるリードタイムの短縮が目標である。
   2. システムの課題：より効率的なグローバルサプライチェーンの構築、情報処理のリアルタイム化、サプライチェーンのスコープ拡大が課題となっている。
   3. サプライチェーン改革の視点：ソニーグループ以外のサプライチェーンとの情報共有、商品後とに適したサプライチェーンの選択、リアルタイム処理とモニタリングの充実が挙げられる。従来、カンパニー、販社、事業所のサプライチェーンだったものを、ディーラーや顧客、ベンダー協力会社にまで拡大し、さらにE-Commerce、ダイレクトデリバリーの拡大、電子調達にまで拡大することを目標としている。
   [具体例]
   1. インターネット活用による部品調達、部品情報データベース（ＰＡＤＩＣＳ）を構築し、設計、試作、製造、サービス部品のデータベース間の同期化を図り、24時間リアルタイム処理、設計情報の早期開示（生産準備段階の業務効率向上）、全世界のソニーグループでの利用を可能にする。
   2. カムコーダーのサプライチェーン改革を行ない、リードタイムの短縮（９週間→４週間）、在庫の低減、実売情報に基づいた製販、飛行機活用によるダイレクトデリバリーを実現した。
   3. 営業支援システムとして、ＳＯＤＩＣＳを整備し、特約店情報端末から商品情報検索、業務系システム（発注、在庫照会等）へのアクセスを可能とした。インターネット利用のほか、その他のメーカー等と高速受発注システム（ＫＪ−ＮＥＴ）を構築している。
5. ＳＣＭが目指すものは、商品ごとに適したサプライチェーンの選択でなくてはならない。できるものから実践することが重要である。在庫の削減と納期達成率の向上が目標である。プロセス改革、機構改革、情報システム改革があいまって実現する。

電子商取引をめぐる国際的議論の動向ついて

1998年12月17日

[説明]

外務省経済局審議官　近藤　誠一　氏



[説明要旨]

1. 電子商取引には、ビジネスやテクノロジーの他に、外交的側面がある。即ち、(1)新しい取引のルールをいかにハーモナイズするか、(2)国家の役割というものをどう考えるか、(3)市民の懸念にどう答えるのかという3つの点のそれぞれにおいて、どこにどういうバランスを置くかという点で、日米欧それぞれ国の対応とにズレがあり、それが外交問題に発展する可能性も否定できない。
2. グローバリゼーションの下で、関税賦課権等の国家の主権をどのように維持するのか、市民を「成りすまし」やプライバシー侵害などの被害からどのようにして守るか、ということが政府の大きな課題である。また、新しいルールを政府がつくるのか、民間の自主規制に委ねるのか、その中身についても法的拘束力のある厳しいものにするのか、緩やかなルールで消費者の選択に任せるのか、ということも決めなくてはならない。
3. ルールのあり方をめぐって、市民社会の声が日本でも高まることは必至である。消費者からの声も高まっていくことが予想されるため、ビジネス側から見たルールのあり方について、もっと声を高くあげるべきであると思う。

ABAC（APEC BUSINESS ADVISORY COUNSIL）における電子商取引の検討について

1998年12月17日

[説明]

松下電器産業
国際関係部長副理事　五味　紀男　殿



[説明要旨]

ABACがAPECに対して行なった答申のポイントは、

1. 電子商取引の発展は民間部門主導であるべき、
2. 電子商取引は中小企業に対して大きなビジネスチャンスを提供する、
3. 電子商取引に関する法的枠組は最低限にすべき、
4. 国境を越えた消費者保護への対応が重要である、
5. 発展に向けての官民の協力、

ということであった。中小企業については、貧弱なインフラというハンデを負っているので、アジア全体に跨がる中小企業に対しての支援を考えて欲しいということを要望した。中小企業の保護と、個人生活・企業活動に必要な、運輸、医療、電気、ガス、水道等のインフラ、それから中小企業支援に関してのものについて優先的に進めるべき、ということになった。さらに、地域のY2K問題に関して積極的に関与すべしということが追加され、ＡＰＥＣにおいても、Y2Kスペシャルウィークというようなものを設けて、発展途上国への啓蒙に努めることが結論に盛り込まれた。

わが国における認証サービスの課題と環境整備のあり方

1999年4月8日

[説明]

サイバートラスト社長　川島　昭彦　氏



[説明要旨]

1. サイバートラスト社の概要：札幌市を本拠にＧＴＥ、ＢＵＧ、野村総合研究所、ＮＴＴドコモの4社を主要な株主として97年4月に設立された。
2. 認証局の必要性：ドキュメントのデジタル化などに伴い、電子署名の有効性が高まってきている。認証局は電子署名の有効性を担保する役割を担う。
   認証局の種類：認証局には、主体的に証明書を発行し、その内容に対して責任を持つ主体的認証局（ＲＡ：Registration Authority）と、電子認証書を作成してそれを管理する電子認証書作成局（ＣＡ:Certification Authority）という2つの機能がある。ＣＡは技術のみならず厳密な運用要件を満たし、証明書の有効性を担保しなければならない。またＣＡにはＲＡのセキュリティ条件にあった体制で認証書をなるべく安価に発行し、確実なメンテナンスを行ない、事故発生時に迅速に対処することが求められる。
3. 電子認証の事例：ＳＳＬ（セキュアなウェブ接続を行なうための・標準プロトコル。但し、電子署名は含まれない）、ＳＥＴ（ＶＩＳＡ、MasterCard主導で策定されたクレジットカード決済のためのプロトコル。電子署名を使う）、ＦＳＴＣ（Financial Services Technology Consortium。）のEcheckプロジェクト（鍵ペアおよび認証書をスマートカードに格納し、これを用いて電子署名を行う電子小切手を発行）。電子署名が重要になってきている。
4. 認証サービスの課題
   1. 技術上の課題：電子認証書が無効になったことをどうやって関係者に伝えるか、暗号アルゴリズム、鍵管理、Root鍵の配布等
   2. 運用上の課題：認証主体のあり方（権利義務関係を与える権利を持っているところ、国、コンソーシアム、企業、信頼できる第三者など）、階層構造（相互認証の問題）
5. 国の役割：デジタル署名法（デジタル署名の法的有効性の認知、民間ＣＡ局の適格性の判断）、国際的整合性の調整、利用者の義務等に関する国民のコンセンサスづくり、リテラシーの形成(ユーザーの鍵管理等)、国レベルのＣＡ局の民間ＣＡ局へのアウトソーシング

電子認証の法的課題

1999年6月16日

[説明]

東京大学法学部教授　内田　貴　氏



[説明要旨]

1. 認証の役割：署名や印鑑が従来から果たしてきた機能は、文書の本人への帰属、本人の同一性の確認、文書の完全性（改ざんされていないこと）の確保の３つがある。
2. 電子認証の技術：デジタル署名が主流であるが、各国の立法の動向は、これ以外の電子署名を含めたものになりつつある。
3. 電子認証をめぐる法律問題
   デジタル署名や電子署名という技術は機能としては認証の３つの機能が想定された技術であることを念頭においておくべきである。日本の法律は契約の成立や証拠について、特段の要件を定めていないが、これは先進性の表れではなく、むしろ取引の実態と乖離した法律である。また、裁判で電子署名の信頼性を逐一証明するのでは企業の負担も大きい。電子署名が添付された場合、日本では、帰属、完全性、同一性に関する推定効を付与するかどうかの問題と、帰属については、なりすましが生じても一定の場合には本人への効果帰属を認めるかどうか（表見代理の特則を設けるかどうか）が問題となる。
4. どのような電子署名に法的効力を与えるか（上級電子署名）
   法的効果にふさわしい電子署名を概念的にくくる必要がある（例えば上級電子署名といった観念で）。ユーザーにとっては、一定のセキュリティのレベルの電子署名が容易に判定でき、当事者が必要に応じて必要なレベルの電子署名を利用できることが望ましい。、そのためには、電子署名のグレードについての認定制度を設け、認定を受けた電子署名に法的効果を付与するための法的手当てが必要ではないかと考える。
5. 法人認証：紙ベースの取引では商業登記が用いられるが、法務省がそれを電子化しようとしており、完成すれば商業登記のデータを電子的に添付して権限を認証することも可能になる。これができれば日本独自の法人認証スキームとして注目されるだろう。
6. 認証機関の扱い：許可制は技術進歩に対応できないので望ましくないが、認証機関の信頼性を一般のユーザーが容易に判断できることは重要なので、任意の申請による一種の認定制の導入を探る必要があるのではないか。
7. 国際的認証をめぐる問題
   外国の認証機関の出した証明証をどのような要件で承認するかに関するルールが必要である。このルールいかんによっては、ライセンス制をとる国があっても、それを骨抜きにして他国の認証機関が自由にビジネスができるようになる可能性もあろう。利用者から見ると、国内の認証機関と同様に、外国の認証機関についても，その信頼性を判断できる必要がある。従って、日本でビジネスを行なう外国認証機関については、国内の認証機関と同様の認可・認定等を取得することを求めることもありうる政策だろう。他方、日本は認証ビジネスを提供する国でもあり、例えばシンガポールやＥＵでどう取り扱われるかということも考えてルールを作る必要がある。

プライバシー保護に関する制度的枠組みのあり方について

1999年7月1日

[説明]

一橋大学法学研究科教授　松本　恒雄　氏



[説明要旨]

1. 個人情報保護か／プライバシー保護か
   日本の法律用語としては、プライバシーという言葉のほうが先に定着した。個人情報という用語は欧州的から最近入ってきたものであり、広範に規制の枠組みをかけようという意図があるのではないか。事実上の違いはあまりない。
   1. ＥＵのアプローチ：ＥＵでは、個人情報の保護は、一種の基本的人権であり、国家が保護すべきという発想が非常に強く、固定された権利としてみなす静的（static）なアプローチを選択している。ＥＵ指令に見られるように、行政による規制色も強い。
   2. 米国のアプローチ：プライバシーという概念は定着しているが、自由な情報流通の保証や表現の自由も重視している。行政コントロールは極力なくし、民間部門で是正する方がベターという発想である。
2. 電子商取引との関係
   電子商取引に対する消費者の信頼を勝ち取るためにどのような環境整備が必要か、という観点からの検討が必要
3. スタートとしてのOECDガイドライン（1980年）
   1980年のOECDのガイドラインの精神は日本においても完全に受け入れられている。しかし、実効性の確保（実施や救済手段）の面で不十分である。
4. EU指令
   コンピュータ処理に限定して、監督機関・行政機関への通知義務ないし届出義務の規定があり、行政による事前規制を明記している。ただし、情報の種別による除外と、然るべき有資格職員を置いているということによる除外を認める。 司法的救済として、差止め、損害賠償を含め裁判に訴える権利を認容。第三国条項（適切な保護をしていない国に対しては情報を出さない）がある。
5. 米国
   自主規制を推奨している。企業が自ら自社のプライバシーポリシーを開示すれば、後は個人の判断でうまくいくはずだという発想である。情報開示の内容が虚偽であった場合は、FTCが介入する。昨年10月の子供オンラインプライバシー保護法の制定によって、子供向けのサイトに限定して、事前に親の同意を得ることを義務づけた。政府は業界の自助努力が進まなければ、大人向けのサイトに対しても拡大すると予告している。 自助努力の一環としては、BBBによるオンラインプライバシープログラム等が存在する。
6. EU・米国交渉における争点
   米国のアプローチに対して、ＥＵは
   1. 自主規制の実効性確保、
   2. データ主体の権利が侵害された場合の救済手段、
   3. 裁判管轄ないし法律の適用範囲の問題、
   4. 目的外使用への対応、
   5. 間接収集情報の開示、
   といった点で不十分であるとして交渉が継続中である。
7. カナダ：第三のアプローチ
   公的部門の個人情報について、プライバシーコミッショナーという行政機関が設置されている。民間部門については、CSA（カナダ規格協会　Canadian Standard Association）規格を基にして、それぞれの業界がその業界に即したコードを作り、遵守を計っている。政府はCSA規格を法律化することを昨年10月に国会に提案、本年中に成立する見込みである。
8. 日本の対応
   1. 日本の現在のガイドラインというのは、コンプライアンス、エンフォースメント、救済措置を欠いており、明らかに不十分である。
   2. カナダのアプローチを参考に、JISの定着状況をみながら、そのJISをさらに法律的なものに高めていくべきと考える。
   3. JISについても、コンプライアンスを誰がチェックするかという問題がある。
   4. 実効性の確保として、不法行為で処理するだけでなく、もっと明確な制度が必要である。迅速な解決を図るため裁判外処理の仕組みも検討が必要である。
   5. 民事的な救済の手当も必要である。データ主体の司法的な権利、民事的な意味での権利を明らかにする必要がある。
   6. 実体法上の権利を明らかにすべきである。事前に与える同意の範囲が重要となる。
   7. 刑事罰については、不正競争防止法の営業秘密保護の３つの類型が参考となる。
   8. 個人信用情報については、別途の法律が必要と考える。
9. ISO化への動き
   来年5月に京都でISO／COPOLCO（消費者政策委員会）の総会が開催され、プライバシー保護の標準化が議論される見込みである。