[経団連] [意見書] [ 目次 ]

平成12年度税制改正提言
「21世紀を展望した税制改革を求める」

第1部 21世紀における税体系のあり方


  1. 経済・社会の活力を維持し、向上させるための改革
  2. 少子・高齢化が諸外国に例を見ない規模とスピードで進みつつある中で、中長期的な労働力人口の減少、社会保障支出の増加等に伴う公的負担の増大が、経済成長力を低下させることが懸念されている。一定の経済成長がなければ、財政の健全化や社会保障制度の維持も困難であり、少子・高齢化社会のもとで、いかに経済の活力を維持・向上させるかが、21世紀における最重要課題である。
    加えてメガ・コンペティションの時代においては、公的負担の水準や形態が、経済活動に大きな影響を与えることは必至である。
    経済・社会の活力を維持し、向上させるために、受益と負担の両面において、抜本改革が求められている。

    1. 歳出構造の抜本的見直し
    2. 少子・高齢化が進む中で経済の安定成長を維持していくためには、民間の活力を最大限に活用することが不可欠である。そのためには、国・地方を通じた規制撤廃・緩和、行政改革、歳出構造の見直し等により、効率的で小さな政府を実現することが大切である。
      高齢化社会における社会保障のあり方としては、高齢者層においても支出の内容や水準について自己の判断と責任で選択する自助努力を基本とすべきである。その上で、社会的セーフティ・ネットの視点から、ナショナル・ミニマムとして国民全体が許容しうる一定水準の公的保障を、適切な内容・形態で、政府や自治体が実施する必要がある。
      給付と負担を増大させても、経済成長が鈍化し、賃金の伸びが小さくなってしまえば、国民一人一人の豊かさの実質的な水準は低下してしまいかねない。ナショナル・ミニマムを超える部分については、給付と負担を思い切って抑制していく必要がある。

    3. 直間比率の是正
    4. わが国は、高齢化が同じ程度であるヨーロッパ諸国と比べて、所得課税・資産課税・社会保険料など直接的な負担のウェイトが大きい。経済がボーダレス化し、企業や人が国を選ぶ時代の中で、こうした直接的な負担を引上げれば、設備投資・研究開発投資の減少や企業の海外移転が進み、個人貯蓄の減少や勤労意欲の低下、ひいては優秀な人材の国外流出や少子化の加速すら招きかねない。その結果、経済成長は鈍化し、企業や個人の収入が伸び悩む中で、負担感はますます高まるとともに、雇用にまで悪影響を与える危険性がある。
      また、直接的な負担に偏っている結果、働く世代と高齢者の間で、負担のアンバランスが発生している。現行の仕組みをそのままにして、負担を大幅に引上げるならば、負担のアンバランスによる不公平感は、一層拡大する。
      負担の形態としては、働く世代や企業に過度な負担を課す社会保険料や所得課税などの直接的な負担ではなく、経済や社会の活力の維持・向上という観点から最も望ましい間接税を重視していく必要がある。個人についても企業についても、所得課税や社会保険料などの直接的な負担の増加を回避するとともに、できるだけ国民が薄く広く負担する消費課税で賄っていくことが望ましい。
      したがって、高齢化に伴うナショナル・ミニマムの観点からの社会保障支出の増加等は、先進諸外国で一般的なインボイス方式や複数税率、内税化などの制度整備、さらには個別間接税の整理を図りつつ、消費税のウェイトを引上げ、直間比率の是正によって賄うのが基本方向と考える。基礎年金の国庫負担割合の1/2への引上げについても、消費税の引上げの中で財源確保を行い、できる限り早期に実施するとともに、さらには、全額国庫負担を目指すべきである。

    5. 公平・公正な税制の構築
    6. 21世紀の税制を構築していくにあたって、経済活力を最大限に引き出すとともに、税制の公平性、公正性の確保を強力に進める必要がある。
      所得税においては、課税所得などの捕捉の向上を図ることが重要であり、具体的には納税者番号制度の導入や脱税の罰則強化に取り組む必要がある。これは課税の公平の確保に不可欠であるのみならず、国民の納税意識を高め、国・地方の行財政の効率化、歳出削減に対する監視の目を厳しくしていくことにもつながるものである。
      また、金融課税についても、資産課税の公正化、各金融資産間の課税の均衡化、国際的な整合性等の観点から、納税者番号制の導入を前提とした、利子、配当、譲渡益等の金融所得全般に対する課税のあり方について検討を進める必要がある。その際、金融所得に対する分離課税についても、その是非を問い直す必要がある。

    7. 国際競争力の強化
    8. わが国の企業が経営の効率性を追求し、国際競争力を維持・強化していくためには、今なお諸外国と比べて不利となっている税制を抜本的に見直すことが不可欠である。
      平成11年度税制改正において、法人税基本税率の30%への引き下げ、法人事業税率(標準税率)の9.6%への引き下げが行なわれた結果、国税・地方税を合わせた法人税実効税率の40.87%への引き下げが実現した。
      経団連では、昭和62年の税制提言において実効税率40%を明示して以来、十数年にわたり法人所得課税の国際的イコール・フッティングの最大の課題として税率の引下げを求めてきたが、今回の改正によって、実効税率は米国並みの水準をほぼ達成し、改革は大きく前進した。
      しかし、これで、わが国の法人税制改革が全て完結したわけではない。引き続き、連結納税制度の早期導入や、減価償却制度の改革をはじめとする法人税制の抜本的改革を進め、国際的イコール・フッティングを実現する必要がある。
      また、資金と金融取引を自国内に取り込もうとする内外の金融資本市場の競争がし烈化する中にあって、わが国では金融・資本市場の整備の遅れを取り戻すべく懸命の金融システム改革が進められている。このような中で、税制のみが国際的な標準から乖離し、わが国金融・証券市場再生の足枷となり、ひいては円の一層の地盤沈下をもたらすことが懸念されている。金融商品・金融取引に対する税制を、国際的な整合性に即したものに改めることも、21世紀において、わが国が生き残るために喫緊の課題である。

  3. 個人所得課税のあり方
    1. 所得税・住民税の恒久減税
    2. 平成11年度税制改正においては、当面の景気浮揚策として、個人所得課税の最高税率(65%)を50%まで引下げるとともに、期限を設けない定率方式の減税とを組み合わせた減税が実施された。
      しかし、わが国の個人所得税制のあるべき姿を踏まえるならば、累進構造の一層の緩和、さらにはフラット化を目指し、最高税率だけでなく各所得階層の税率引き下げを含めた制度減税を、恒久的な制度改革として行なう必要がある。
      各種控除については、国民生活の安定・向上や資産形成への効果に配慮しつつ、公平・公正の観点から整理し、簡素な税制を目指すことにより、課税最低限の上昇を当面抑制しつつ、将来的に見直しを図るべきである。
      なお、住宅税制については、景気対策としての効果を確実なものとするため、当面、景気を支えつつある現行の住宅ローン減税について、平成12年末までの居住要件を契約締結要件に改めるとともに、中長期的には、恒久減税としての住宅購入にかかるローン利子の所得控除制度の導入を検討する必要がある。

    3. 金融・証券税制の改革
    4. 昨年12月の金融システム改革法の施行により、わが国市場を国際金融市場として再生すべく、金融資本市場の抜本的改革が推進されている。わが国金融証券市場を内外の投資家にとって魅力あるものとし、企業への円滑な資金供給と高齢化社会における個人金融資産の効率的運用を実現するため、税制においても、所得税体系の抜本改革の一環として、資産課税の公正化、各金融資産間の課税の均衡化、国際的な整合性等の観点から、金融・証券税制全般の改革が必要である。
      また、平成12年度から順次導入が予定されている金融商品の時価会計に対する税制上の措置を整備する必要がある。

      [1]配当に係る二重課税の排除
      配当は法人税が課税された後の利益から支払われ、それを受取った個人の段階でも所得税が課されることから利益に対して二重課税となり、株式投資への適正課税の点から問題を生じている。現行制度では、個人段階で配当額の一定割合を税額控除することによって調整を図っているが、完全に二重課税を排除してはいない。
      個人株主育成と証券市場活性化の観点から、ヨーロッパ諸国で一般的なインピュテーション方式(受取配当に対応する法人税額を個人株主の所得に加算して所得税額を計算し、その所得税額から先に加算した法人税額を控除する方式)をも念頭において検討を進める必要がある。
      一方、法人株主が受取る配当についても、持株割合が25%未満の法人からの配当の場合には受取配当額の20%が受取法人側の益金に算入され二重課税が生じており、全額益金不算入とする必要がある。

      [2]有価証券譲渡益課税の見直し
      株式等の譲渡益課税は、平成13年3月末までの経過措置期間を置き、源泉分離課税が廃止され申告分離課税(所得税20%+住民税6%)に一本化される予定となっている。他の金融所得との整合性や直接金融市場の充実の観点から、当面、申告分離課税における税率の軽減措置が必要である。なお、申告分離課税への移行に当たり、取得原価が不明な場合のみなし取得原価の計算方法につき適切な措置が必要である。
      また、諸外国では、証券投資を促進するための譲渡益課税に税制上の優遇措置が図られている。わが国においても、潤沢な個人金融資産を資本市場で円滑に循環させるため、長期保有株式に係る譲渡益課税の軽減、翌年以降への譲渡損失の繰越制度を導入すべきである。

    5. 国際的金融取引と課税
    6. 資金と金融取引を自国内に取り込もうとする内外の金融資本市場の競争がし烈化する中にあって、わが国では金融・資本市場の整備の遅れを取り戻すべく懸命の金融システム改革が進められている。このような中で、税制のみが国際的な標準から乖離し、わが国金融・証券市場再生の足枷となり、ひいては円の一層の地盤沈下をもたらすことが懸念されている。
      金融商品・金融取引に対する税制を、国際的な整合性に即したものに改めることは、21世紀において、わが国が生き残るために喫緊の課題である。

      社債利子の源泉徴収制度の見直し
      わが国の社債利子に対する源泉徴収は、個人投資家・課税法人、非課税法人、非居住者などの投資家の区分によって異なる取扱いがなされており、源泉徴収がおこなわれる個人投資家・課税法人(事業会社)、非居住者が保有する債券は市場で敬遠され、非居住者や事業会社は債券を適時・適切な価格で転売することができず、債券投資を手控える原因となっている。
      そこで、本人確認など一定の要件のもとに、非居住者や事業会社についても源泉徴収の不適用が必要である。

  4. 法人課税のあり方
    1. 法人税の残された課題
    2. [1]欠損金の扱い
      ゴーイング・コンサーンとしての企業にとって、課税上の期間損益の通算は、中長期的な観点から将来を見据えた経営を行なう上で非常に重要である。 しかし、現行法人税における欠損金の扱いは、繰越し控除については5年間に止まり、繰戻し還付については、本則で1年間に限り認められているものの、租税特別措置法により平成12年3月31日まで適用が停止されている。 一方、諸外国においては、例えば、アメリカでは2年間の繰戻しと20年間の繰越し、イギリスでは3年間の繰戻しと無期限の繰越しが認められているなど、わが国の現行制度は明らかに不利な扱いとなっている。 産業活力再生特別措置法に関連して、設備等の廃棄に係る欠損金についてのみ、繰戻し還付1年間と繰越控除7年間の選択措置が導入されたが、欧米諸国とのイコール・フッティングの視点から、法人税の一般的な制度として過去2年分の繰戻し還付および10年間の繰越しの実現を求める。

      [2]減価償却制度の抜本的見直し
      企業が生産効率を高め、新たな事業分野への進出を進めていくためには、減価償却制度が大きな鍵となる。かつて、アメリカと比べて優位にあったわが国全体としての設備ヴィンテージ(平均年齢)は、1996年を境に逆転し、その後、その差は拡がりつつある(日本開発銀行調査)。アメリカの設備ヴィンテージの改善には、税制におけるACRS=加速度償却制度の導入が大きな役割を果たしており、わが国においても、減価償却制度の抜本的な見直しが必要である。また、それにより、民間設備投資の落ち込みに歯止めをかけるならば、わが国経済の再建を確実なものとすることができる。具体的には、以下の改正が必要である。

      1. 現行「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表一及び別表二を大幅に簡素化した上で、耐用年数を短縮すること。
      2. 現行法人税法施行令第61条第1項一号に規定する償却可能限度額を現行の取得価額の100分の95から、備忘価額を残すまでに改めること。

      [3]課税ベースの適正化
      平成10年度税制改正における各種引当金の圧縮・廃止などの課税ベースの大幅な見直しは、国際的な潮流を踏まえた適正化の観点から容認できるものであったが、今後の検討課題とされている以下の項目については、単に税収確保を目的としたものとならないよう、慎重な検討が必要である。

      1. 長期金融商品や金融派生商品
        金融課税さらには金融制度全体のあり方を重視し、国際的な整合性を十分踏まえた対応が不可欠である。
      2. 寄付金
        一般寄付金の損金算入限度の見直しは、諸外国との整合性の観点からも、公益的寄付金の範囲の見直しと合わせて行なうべきである。
      3. 法定外福利厚生費
        法定外福利厚生費の範囲をどう認識するかという問題や、わが国における雇用慣行、労使関係などを踏まえて慎重な検討が必要である。

    3. 地方法人課税の改革
    4. 地方税においては、様々な種類の課税が行われており、納税者としてはそれぞれの関係性が理解できない。また、超過課税が行われているのは、ほとんどが法人関係税であり、徹底した歳出の削減を行わずに、選挙権のない法人に過大な負担を負わせることは大きな問題である。
      税負担、特に固定化された税負担は、企業の製品・サービスのコストとなり、さらなる高コスト構造を招いて、産業の国際競争力に影響を与えるとともに、企業が国を選ぶ時代においては、そのことが地域の経済・雇用に悪影響を及ぼす可能性も有している。
      地方税の見直しについては、従来、国税改正の波及にかかる部分が大きかった。しかし、地方分権に広く国民のコンセンサスを求めようとするならば、地方の自主的な財源としての地方税について、企業の国際競争力や地域経済・雇用に与える影響、税体系の簡素化の観点から、全般的な見直しが不可欠である。


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