金融システムの一層の強化のために

１９９９年９月２９日
(社)経済団体連合会

預金等の全額保護（ペイオフ凍結）をはじめ、金融機関への公的資金の注入、長期信用銀行２行の特別公的管理、いわゆるゼロ金利政策等により、わが国金融システムは小康状態を得ている。しかし、世界規模での競争の激化の下、経済社会の活力の維持・発展を図っていくには、速やかにこのような状態から脱却し、安定的なしかも諸外国に比肩できる金融システムを形成する必要がある。
そのため、金融機関等においては不良債権問題の処理に全力を尽くすことが求められる。また、先に大手銀行３行の統合が発表されたが、各分野で一層の再編・提携の活発化が期待される。
同時に、2001年４月からペイオフ凍結が解除され、公的資金の注入や特別公的管理等の措置も基本的に廃止されることを前提に、新しいセーフティネットの整備をはじめ制度・環境を整備するとともに、自己責任と市場規律を基本とした金融システムの制度設計を急ぐ必要がある。政府・与党におかれては、下記の点について、速やかに制度の青写真を提示し国民の理解を深めるとともに、具体化を急ぐことを強く要望する。
なお、金融システムをめぐっては、金融・情報通信技術の高度化への対応、会計制度・開示制度・税制等各面における資本市場の整備、郵便貯金・簡易保険事業を含め財政投融資制度の抜本改革等々課題が山積している。経団連としては引き続き検討を進め、順次、必要な施策を提言していく考えである。

記

金融再編促進のための法制・税制の整備

金融再編の動きは、金融機関等の経営健全化、国際競争力の強化等に資するとともに、利用者の利便向上に繋がり、産業各分野における再編・事業再構築に影響を及ぼすことも期待される。この円滑な進展を可能とするため、次期通常国会において会社分割法制とこれに伴う税制措置、株式移転・株式交換等に係る登録免許税の軽減等の税制措置、保険相互会社の株式会社化に係る法制等の整備を行うべきである。また、連結納税制度を2001年度から確実に導入する必要がある。

新しいセーフティネットの整備等

新しいセーフティネットの整備（詳しくは補論を参照）

2001年４月のペイオフ凍結の解除は、基本的に予定通り実施すべきである。そのため、早期発見・早期是正措置の強化により、金融機関等の破綻をできる限り未然に防止することを前提に、万一の破綻の場合でも、早期処理により迅速かつ最小の社会経済的な費用で処理できるように、新しいセーフティネットを整備することが急務となっている。次期通常国会において、預金者等の適切な保護に当たる預金保険制度を中核として、下記の方向で必要な法制整備を行うべきである。

金融機関等が破綻し預金者等に保険金の支払いを行う場合には、迅速な支払いが可能となるよう条件を整備する。
金融機関等が破綻し、資金援助を行うことにより合併や営業譲渡を行う場合にも迅速性が求められる。そのような観点から、米国のＰ＆Ａ方式を参考に、営業の一部譲渡を司法手続外で行えるよう必要な制度を整備する。
通常の破綻処理は 1. または 2. で行うが、承継先が直ちに見つからない場合や急激かつ大幅な信用収縮が相次いで生じる惧れ（システミックリスク）がある場合等に備えて、暫定的な承継銀行（ブリッジバンク）制度や特別公的管理制度を恒久的な例外措置として整備する。
いわゆるＰ＆Ａを迅速に行い、またブリッジバンクや特別公的管理銀行の承継先を速やかに見つけることができるようにするため、米国のロスシェアリング契約と同様に、承継先の２次ロスについて適切な範囲で損失補填を行う。

ペイオフ凍結解除等に伴う財政措置の明確化

ペイオフ凍結等に伴い、総額60兆円に及ぶ財政面での手当てが講じられているが、この廃止の時期や政府の債務保証の履行条件等が必ずしも明確でない。これらの点は、将来の国民負担や新しいセーフティネットの整備等に重大な影響を及ぼすものであり、速やかに明確にしていく必要がある。

郵便貯金事業の見直し

新しいセーフティネットは、自己責任と市場規律を前提とするものである。郵便貯金事業については、市場メカニズムへの影響を最小とする観点から、官民の競争条件をはじめ事業のあり方を見直していく必要がある。

自己責任原則の確立と市場規律の発揮のための諸制度の整備

金融サービス法の早期制定

自己責任原則を確立していくには、金融取引に伴うリスクとリターンの関係の明確化と透明性の向上を図っていく必要がある。金融審議会では、金融商品の販売・勧誘ならびに集団投資スキームについての制度・仕組みの検討が進められているが、2001年４月施行を目途に、これらの点について必要な法制整備を行うべきである。さらに、より多様で魅力ある金融商品・サービスを生み出していく観点から、既存の業態別法制に替わる包括的な金融サービス法をできる限り速やかに制定すべきである。

金融行政の見直し

金融行政については、事前調整型から明確なルールの設定とそれに対する事後チェック型に転換するとともに、国民負担を含め説明責任を徹底すべきである。また、状況に応じて機動的な対応が可能となるよう、企画立案・検査・監督の一貫性を一層強化する必要がある。

以　上

補論　新しいセーフティネットの整備について

基本的な考え方

金融システムの安定化のため、預金等債権の全額保護をはじめ、一連の特例措置が導入されているが、基本的に2001年３月末までの時限措置である。財政負担を含め膨大な社会経済的な費用を軽減するとともに、自己責任と市場規律を基本とした金融システムの実現を推進していく上から、預金者等に自己責任を問いうる環境が整い、預金等債権の全額保護に替わる新しいセーフティネットが整備され、かつ経済情勢の激変など金融機能に著しい障害をもたらす撹乱要因が発生しない限り、特例措置は当初の予定通り廃止することが望ましい。
そのため、2001年３月末までの間に、金融機関等が、不良債権問題の処理に全力を尽くすとともに、合併・提携等も視野に入れて、業務の再構築、自己資本の増強等を強力に推進することが何よりも重要である。また、預金者等が的確な情報に基づき判断できるよう、資産内容、不良債権に係る償却・引当等の状況、自己資本比率等の財務内容その他の経営の状況に係る情報を適切かつ十分に開示する必要がある。
金融監督当局等においても、特例措置を活用し、金融機関等の経営健全化努力を最大限支援・促進していくことが望まれる。
同時に、預金者等の適切な保護に当たることを目的とする預金保険制度を中核とし、金融機能の適切な維持を図る新しいセーフティーネットを整備する必要がある。そのため、市場規律と金融監督当局等による早期発見・早期是正措置の強化により、金融機関等の破綻をできる限り未然に防止することを前提に、万一の破綻の場合でも、早期処理により金融システムへの影響を最小限に止め、迅速かつ最小の社会経済的な費用で処理できるよう制度設計を進める必要がある。

新しいセーフティネットのあり方

保険金支払方式に係る条件整備

保険金支払方式は、破綻金融機関の規模が大きくなるほど保険金支払に時間を要する上、破綻金融機関の営業体としての価値（フランチャイズバリュー）が失われる等の問題があり、適用される場面は限られると考えられる。しかし、破綻処理の先送りの原因とならないよう、実施可能なように条件整備を行う必要がある。
その際、特に保険金支払の迅速化が課題であり、破綻に際して金融機関の預金者等データを預金保険機構の名寄せシステムにスムーズに引き継げるよう、必要な条件整備をできる限り進めることが望まれる。ただし、納税者番号制度が未だ導入されていない現在、名寄せには相当の時間とコストを要することが予測され、当面の間、名寄せの正確性と保険金支払の迅速性とのバランスをとることも必要と考えられる。
併せて、預金保険機構による事前準備のための体制整備や、流動性の確保を図るため、預金等債権の買取りによる概算払いの迅速な実施が望まれる。

一般資金援助方式の改善

保険金支払方式は実務的に利用できる場合は限られており、破綻処理の中心は、合併や営業譲受け等を行う救済金融機関等に対し、保険金支払に要すると見込まれる費用（ペイオフコスト）の範囲内での資金援助を行う一般資金援助方式となると考えられる。しかし、現行制度は、営業の一部譲渡は対象としておらず、また、司法手続を含め法的手続が煩瑣であることから、迅速な処理が困難である。他方、米国で実施されている資産買取・負債継承（purchase and assumption，Ｐ＆Ａ）方式の場合、閉鎖日（金曜日）の翌営業日（月曜日）から営業を開始することが多く、預金者等や借り手の負担が比較的小さなものにとどまっている。新しい預金保険制度においては、日米における法制や金融機関の規模等の違いを踏まえた上で、このＰ＆Ａ方式同様の迅速な処理を可能とすることが望まれる。
このような観点から一般資金援助方式に関しては以下のような改善を中心に関連制度の拡充・整備を行うべきである。

破綻処理の事前準備
金融監督当局が金融機関の財務内容を適時適切に把握し、必要な場合には預金保険機構が営業譲渡等のための事前準備を行える体制を整備する。
金融整理管財人制度の存続
金融機能再生緊急措置法に定める金融整理管財人制度については、下記③に伴う必要な修正を加えた上、引き続き存続させる。
司法手続外における営業の一部譲渡を可能とする措置の創設
司法上の倒産手続の外で、破綻金融機関の一部譲渡（救済金融機関等は資産の全部または一部を、負債については付保対象となる預金等のみを譲受け）を行い、その後、破綻金融機関の譲渡されなかった部分について破産手続で清算することを可能とする。このため、営業の一部譲渡の際にも資金援助を可能とするとともに、債権者からの強制執行を停止する措置を整備する。
預金等債権の買取り制度の拡充
流動性を確保する観点から、付保限度を超える預金を破綻金融機関に残して清算する場合には、預金保険機構が預金者等から概算払い率で付保限度を超える預金等債権を買取ることを可能とする。

例外措置の整備

新しい預金保険制度の基本は以上のようなものと考えるが、急激かつ大幅な信用供与の収縮が相次いで生じる惧れ（システミックリスク）がある場合等については、ペイオフコストを上回る資金援助を含めた例外措置を規定する必要がある。例外措置については、財源措置の必要性が生じる可能性もあり、その発動について国民の納得が得られるよう、厳格な手続き、明確な基準を定めるとともに、決定に係る説明責任の徹底が前提となる。

承継先が直ちに見つからない場合の例外措置
救済金融機関等が直ちに見つからず、しかも破綻金融機関の業務の全部の廃止または解散が行われると、預金者等や借り手の利便に大きな支障をもたらす等の場合が想定される。このような事態に対応するため、金融機能再生緊急措置法に定める承継銀行（ブリッジバンク）制度は、迅速性の確保に伴う必要な修正を加えた上、引き続き存続させる必要がある。
地域の中核的な金融機関が破綻した場合の例外措置
破綻金融機関が業務を行っている地域における融資比率が高率である等の理由により、他の金融機関による代替が著しく困難であるため、地域経済に重大な障害が生ずる場合も想定される。このような事態に限って、特別公的管理制度に準じた公的な管理制度の創設についても検討すべきである。
システミックリスクがある場合の例外措置
破綻金融機関の業務の全部の廃止または解散が行われると、システミックリスクが発生し、経済活動や雇用情勢に甚大な影響を及ぼす場合がありうる。このような事態に対応するため、金融機能再生緊急措置法に定める特別公的管理制度は引き続き存続させる必要がある。