- 21世紀に向け民主導・民自律型の経済社会を
わが国経済が戦後最大の危機に直面し、企業を初めとする経済社会が厳しい改革を迫られる中、国民は雇用情勢の悪化、年金不安など将来への不安を強めている。
21世紀を迎えるにあたって、これらの課題を克服し、豊かで活力のある経済社会を引き続き維持していくためには、その構造を明治以来の官主導・官依存型から民主導・民自律型に転換し、個々人が安心して個性や創意工夫を発揮できるようにすることが不可欠である。そのためには、硬直化し既得権益を擁護するための体制と化した従来の規制の枠組みは大胆に改革し、消費者利益や環境保護との調和を図りつつ、自己責任原則と市場原理に基づく自由で公正・透明な新たな規制制度を築き上げなければならない。
なお、その際重要なのは実現までのスピードである。既得権益を失うことに対しては様々な政治的圧力が予想されるが、情報を開示することによって国民の理解を得つつ進めることが肝要である。
- 規制緩和から規制改革へ
本年4月にOECDから出された規制改革対日審査報告書においても指摘されたとおり、狭義の規制に留まらず、競争政策、消費者政策、情報公開、雇用政策などの諸政策も総合した、国際整合化の視点に立った規制制度改革が重要性を増している。たとえば、わが国の街並みが色や高さなど雑然としていることはつとに指摘されるところであるし、インフラ整備の遅れの原因の一つに土地収用がなかなか実施できないことが挙げられている。また、セキュリティーに関連した制度の不備、金融や雇用分野等におけるセーフティーネットの整備の遅れ等も指摘されている。規制の撤廃・緩和の一方で、21世紀にふさわしい新たなルールの確立が必要である。政府は、本年4月、規制の緩和、撤廃にとどまらず事後チェック型行政への転換に伴う新たなルールの創設や、競争政策の展開などを重視する規制改革を推進するため、規制緩和委員会を規制改革委員会と改称したが、その成果に期待したい。
一方、規制に安住し、自己革新努力を怠った企業が、国内外の市場の信任を得られず、市場からの退場を余儀なくされている。企業も、グローバルな視点に立って自助・自立・自己責任の貫徹を自らに厳しく課し、行政への依存体質から決別するとともに、企業倫理を確立し、消費者や国民から信頼される企業を目指す必要がある。
- 規制改革推進の視点と課題
1990年代前半からのこれまでの数々の取り組みにより、規制緩和は経済分野を中心にかなり進展し、それに伴って新たな産業や雇用が創出されるとともに、消費者の利便も大幅に向上した。しかし、依然残された課題も多く、今改めて、下記の視点に立った大胆な規制改革が求められている。
- 経済活性化のための規制改革
我が国の喫緊の課題である経済の活性化のためには、様々な事業分野に存在する規制、特に自由な事業活動を阻害する参入・設備・価格等に関する規制を全面的に撤廃・緩和し、市場原理に基づき、企業・個人が自由に市場に参入し創意工夫を発揮しうる基盤を整備することが最も重要である。
需給調整の観点から行なわれている参入規制については、繰り返し「撤廃の方向で見直す」と閣議決定されてきたにも拘わらず、未だに酒類の製造・販売(卸・小売)業、製造たばこの小売販売業、タクシーをはじめとする運輸業、通関業等に残されている。また、トラックの営業区域規制、銀行の店舗設置の認可制、あるいは保険商品の認可制等、自由な事業活動を阻害する規制も残されており、これらについては原則として早期に廃止すべきである。
同時に、公共施設の設置・運営や検査・検定等、これまで民間企業の参入が規制されてきた分野についても、小さな政府の実現、当該分野の活性化、そして競争を通じたサービスの向上とコスト低減のため、民間参入を促進すべきである。
- 産業競争力強化、高コスト構造是正のための規制改革
わが国産業の競争力を強化し、経済の活性化に資するとともに、安価で良質の製品・サービスの提供を可能とするためには、産業の活動の制約やコスト・アップ要因となっている規制を見直していかねばならない。小麦・砂糖の価格支持等の原料調達にかかわる規制やエネルギー関連の規制、車両諸元をはじめとする物流に係わる各種規制、住宅・駐車場付置義務や水道事業等の土地・住宅に係わる規制等の整理・合理化を早期に図るべきである。また、わが国企業が、世界市場において欧米等の強大企業に伍して競争していくため、現行の競争政策の見直しも必要である。
- 経済社会環境の変化に対応した規制改革
雇用形態の多様化・流動化、少子高齢化の急速な進展、リサイクル社会の実現への要求、情報化の進展等、経済社会環境の変化等に対応し、これまでの国民や企業の行動様式や活動範囲を前提とした各種規制も見直しが迫られている。例えば、労働移動の円滑化を妨げている雇用・労働関係の規制、福祉・医療の効率化を妨げている規制、リデュース・リユース・リサイクルの視点が十分に反映されていない廃棄物関係の規制、今後の進展が期待されるいわゆるインターネット取引等の電子技術の活用を阻害している各種業法等における規制などは、時代の要請の変化に対応して柔軟に見直し、制度の改革を進めていくことが必要である。
なお、地方自治体による許認可等の手続や運用が現在の狭い行政区域の下で区々のままでは、企業や国民に無用な負担をかけることになるので、国がガイドラインを示す必要がある。
- 具体的な規制改革要望
- 経済の活性化に役立つ規制改革
- 研究成果の社会的還元を促進する国立大学教員の兼業規制の緩和
- 映画館建設に係る用途地域規制の緩和、個別許可制度の適正化
- 臨港地区の工業港区における倉庫業、通運事業等立地の是認
- SPC法(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律)、不動産特定共同事業法の一層の緩和【新規】
- PFI推進のための行政財産への私権設定制限の緩和
- 保安分野における民間検査機関への参入規制の撤廃【新規】
- 銀行店舗の設置等に関する認可制度の撤廃
- 社債に係わる源泉徴収制度の撤廃【新規】
- 保険商品の認可・届出制の見直し
- サービサー法(債権管理回収業に関する特別措置法)における対象債権規制(特定金銭債権)の撤廃【新規】
- 酒類卸売業免許における需給調整要件の早期廃止
- 一般酒類小売業免許に係る需給調整要件の繰り上げ廃止と人的要件の緩和
- 製造たばこの小売販売の需給調整規制の廃止と小売価格の自由化
- 医薬品販売(薬局以外における一般大衆薬の販売)に関する規制緩和
- トラック営業区域規制の見直し
- 農業生産法人要件のさらなる緩和による農地保有に係る規制緩和
- 通関業者の営業区域制限の撤廃
- 郵便事業への民間参入の速やかな実現
- 産業競争力の強化、高コスト構造の是正に役立つ規制改革
- 保安四法(高圧ガス保安法、労働安全衛生法、消防法、石油コンビナート等災害防止法)の国際整合化及び国内一元化
- ISO規格国際海上コンテナ積載車両の「高さ」制限の緩和
- ISO背高海上コンテナ積載車両が通行可能な道路においては特殊車両通行許可を不要とすること
- 分割不可能な単体物品に限定されている基準緩和車両の積載条件の緩和
- 輸出入貨物に限定されているISO規格国際海上コンテナ積載車両通行許可規制の緩和【新規】
- 分割可能貨物の一括輸送に係る総重量の緩和
- 港湾運送事業に係る規制の見直し
- 内航海運暫定措置事業の早期終了
- C重油の関税の見直し【新規】
- 企業結合規制の国際競争を踏まえた運用【新規】
- 電気用品安全法(2001年4月施行予定)における電気用品の技術基準適合検査方式・記録保存の規制緩和【新規】
- 電気用品の表示方法の見直し【新規】
- 電気用品取締法に係る認証システムの見直し【新規】
- 大規模小売店舗立地法の適正運用(上乗せ・横だし規制の排除)【新規】
- 大規模小売店舗立地法の適正運用(届出書類等の簡素化、同時並行処理の推進等)【新規】
- 共同住宅の建て替えを円滑にするための都市再開発法手続の採用【新規】
- 麦類、砂糖の価格支持政策の見直し
- 経済社会環境の変化に対応した規制改革
(雇用の拡大・労働移動の円滑化)
- 有料職業紹介事業の取扱職業の拡大
- 有料職業紹介における求職者からの自由な料金徴収
- 労働者派遣法における派遣期間の制限の運用緩和【新規】
- 有期労働契約に関する規制緩和(現行の1年から最長5年へ)
- 裁量労働制の適用職種の大幅な拡大
(年金・医療・福祉分野の改革)
- 厚生年金基金の代行部分の返上
- 確定給付型企業年金(厚生年金基金、税制適格年金)の過去勤務債務の償却方法の弾力化【新規】
- 確定給付型企業年金(厚生年金基金、税制適格年金)に超過積立(コントリビューションホリデー)を認める【新規】
- 税制適格年金における特例掛金制度の導入
- 確定給付型企業年金(厚生年金基金、税制適格年金)におけるハイブリッドプランの導入【新規】
- 営利法人による病院の経営
- 営利法人による施設介護サービス(特別養護老人ホーム、老人保健施設)の経営
- 社会保険診療報酬支払基金から保険者に対して送付するレセプトのデジタル化【新規】
- レセプトの一次審査に関する保険者の自主的管理の許容
- 健康保険に関する各種届出のペーパーレス化
(教育改革)
- 大学の自己責任による時代のニーズを先取りした学部・学科の設置
- 情報化時代の多様なメディアを活用した遠隔教育の本格的実施
(リサイクル社会の実現)
- 再資源化促進の観点からの廃棄物の範囲・区分の見直し
- 広域処理促進の観点からの廃棄物の収集運搬資格の見直し
- 広域処理促進の観点からの地方公共団体における廃棄物に関する指導要綱の統一化
(情報化社会の構築)
- 電気通信事業法による事業区分の見直しと競争ルールの整備
- 申請・申告手続きの電子化の拡充(オンライン化)
- 指定電気通信設備以外の接続に関する協定の認可の廃止
- 包括免許に係る電波利用料額の見直し【新規】
- 端末機器の複合機器に対する技術基準適合認定等手数料の見直し【新規】
- 「特定無線設備」および「端末機器」に対する自己宣言方式の導入
- 旅行取引に関する取引条件書や約款等の電子的手段による交付の実現
- その他
- 株主総会の見直し(定足数、決議事項、株主提案権行使期限の繰り上げ、招集手続の簡素化等)
- 株主代表訴訟制度の見直し
- ストックオプション制度の改善
- 異業種の現金自動設備利用による預金の引き出し
- 投資信託の買い付けの際に交付する目論見書の見直し【新規】
- 銀行・保険業に付随する業務としての資産運用アドバイス業務の解禁
- 自賠責保険における政府強制再保険の廃止
- 食品添加物の許可基準の国際標準化【新規】
- 医薬部外品の輸入・販売許可申請に関する外国試験データ転用の許可または受入範囲の拡大【新規】
- 化粧品ラベル表示方式の変更(販売業者名のみの記載へ)
- 輸出貿易管理令第5条「許可を要しないもの」に関する確認の廃止
- 輸出貿易管理令別表第一15該当品目(VSL)の輸出許可制度の見直し【新規】
- 64ビット超の鍵の長さを有する暗号製品に関する輸出規制の緩和
- 再販制度の見直し