[経団連] [意見書] [ 目次 ]

科学・技術開発基盤の強化について

〜次期科学技術基本計画の策定に望む〜

要 旨
1999年11月24日
(社)経済団体連合会

はじめに

  1. 国境なき時代といわれるなか、欧米各国は自国産業の競争力強化、また広く国の魅力を高める努力・取り組み。
  2. 一方、わが国では、競争力を左右する産業技術力、またその基盤をなす科学技術、教育の重要性を今一度再確認すべきとの声が高まる。特に科学技術は、近年、もはや一般社会から離れた独立の存在ではないとの認識が広まりつつある。
    次期科学技術基本計画の策定にあたり、改めて、科学技術の今日的課題とその影響力、また技術開発基盤強化の重要性を広く国民に訴えるべき。同時に、選択と集中、競争と連携、知識の創造と活用の調和、成功に対する賞賛と敗者復活の容認という考え方も盛り込むべき。

I.科学・技術開発基盤の強化に向けて

  1. 最近における科学技術政策への取り組みと評価
    わが国は科学技術創造立国を目指し、科学技術基本計画にある総額17兆円という目標を達成すべく、1996年度以降、科学技術関係予算は着実に拡充。その結果、競争的な研究開発資金が大幅に拡充される等、研究開発の現場が活性化。
    しかしながら、縦割り行政の弊害をはじめ、大学等の施設・設備の老朽化・狭隘化、情報通信基盤・知的基盤の整備が不十分、民間企業の研究開発活動への支援が不十分等の問題点が依然として多数存在。他方、本年における取り組みは評価。

  2. 次期科学技術基本計画における明確な目標の設定

    1. できるだけ国民に分かりやすい目標の設定と実現方策の明確化
      1. 科学技術会議で検討が進められている3つの目標(「知的存在感のある国」、「安心・安全な生活ができる国」、「国際競争力のある国」)、各々について具体的目標とその年次・実現方策を明確化
      2. 技術の創造・融合、評価と伝播・普及、活用・事業化、標準化までに至る技術革新の全過程を視野に入れた政策の迅速かつタイムリーな展開

    2. 欧米諸国の水準を目指した科学技術関係予算の計画的拡充
      1. 予算の効率的かつ効果的な使用を前提に、具体的には、現行の基本計画と同様、計画実施のための必要経費の目標値(例えば、最終年度に対国内総生産比1%の実現等)を明示
      2. 産業技術力強化に資する予算について、国家産業技術戦略検討会で検討されている国家産業技術戦略を踏まえ、総合的かつ計画的に拡充

II.総合科学技術会議への期待

  1. 総合科学技術会議の位置づけ
    1. 与えられた権限に基づき総合調整機能および強力なリーダーシップの発揮
    2. 科学技術政策担当大臣の任命、産学のバランスの取れた議員構成等

  2. 総合科学技術会議に期待される主な役割
    1. 科学技術に対する基本的な政策や重要事項等に対する自発的に、またタイムリーかつ迅速な調査審議、積極的な意見
    2. 重点分野における国として取り組むべき研究開発プロジェクトの調査審議、提案、評価

  3. 総合科学技術会議の効率的な運営に資する事務局の強化
    1. 国家的に重要な科学技術政策を企画、立案し、かつ各省の施策を総合調整
    2. 科学技術政策担当統括官のもと、行政の内外から必要な人材を質・量ともに確保等。とりわけ民間企業人の登用(任期付任用制度の整備)

  4. 総合科学技術会議の下部組織のあり方
    経済社会のニーズや科学技術の発展に対応した弾力的組織。国民各層の声が幅広く反映される委員会・部会等メンバー構成等

III.次期科学技術基本計画に関連する重要事項(科学・技術開発基盤の強化策)

  1. 技術の創造・融合と基盤の強化:大学、国立試験研究機関等への期待
    1. 21世紀の科学技術、産業技術を支える教育改革の推進
      従来の教育・研究に加え、近年、産業活動を支える技術革新の起点となる研究開発を行う主体として、その期待は大きい。同時に、大学改革の新しい方向が初等・中等教育にも同時並行的に反映されることを期待。
      1. 競争原理の導入等による大学の活性化
         大学の個性化、活性化を目指した国立大学の独立行政法人化、大学等の研究者の国内外における一層の流動化促進、大学等の若手研究者の活用、大学教官の特許等の取得に対するインセンティブの付与
      2. 技術者の力量の向上と国際的同等性の確保
        実社会とのつながりを重視した実践的教育の充実、大学院大学の強化、技術者の教育、資格、継続教育の一貫した制度の確立(技術者教育カリキュラムの国際相互承認(アクレディテーション)制度、技術士制度の改善)
      3. バイオテクノロジー、原子力、環境等の分野における国民の科学技術に対する理解増進等

    2. 研究環境、知的基盤等研究開発基盤の強化
      大学、国立試験研究機関等における世界水準の科学技術を目指した研究環境の整備
      大学・国立試験研究機関等の研究開発環境、計量標準・生物資源等知的基盤の計画的かつ加速的整備、各大学間、各国立試験研究機関間のネットワーク化の促進等。国立試験研究機関等については、今般の独立行政法人化に際し、各省の所掌範囲内で、国の諸施策に沿って組織を大括りに統合等

  2. 技術の評価と伝播・普及:産学官連携の推進
  3. 大学等の研究成果の社会への還元という観点から、大学等の研究における産業界のニーズの反映と技術移転体制の整備
    産業界の希望するテーマについて大学・企業を同時に支援する研究助成制度の創設、兼業規制の早期緩和、技術移転機関の資金面・人材面の充実とネットワーク整備等。一方、大学側においては、人事・会計制度の一層の弾力化・見直し等

  4. 技術の活用と事業化:産業技術力の強化、ベンチャー企業の創出
    1. 産業技術力強化のための環境整備
      産業技術力の強化は、あくまで民間企業が自己努力。次期基本計画では、競争力ある産業技術の育成に寄与する科学技術を如何にして世界水準に高めるかということを柱の一つとすべき。
      1. 産業技術の実態に基づく政策展開。計画策定に際しては、科学技術会議産業技術WG、国家産業技術戦略検討会での検討内容を十分に踏まえるべき。
      2. 民間企業においてイノベーションを起こしやすい環境整備(特に産学官連携プロジェクトの効率的な推進)
      3. 現場の技術力の再強化、技術者の倫理面の向上等への努力

    2. 大学ならびに大企業における起業家精神の醸成と実践
      1. 大学における研究成果の実践
      2. 中小・ベンチャー企業等の技術革新の推進に資する税制(エンジェル税制等)・兼業規制の緩和等
      3. 大企業においても、挑戦的風土への意識・制度改革、同時にコーポレート・ベンチャーの推進を下支えするストックオプション制度・税制面等の整備
      4. ベンチャー企業の創出は、地域経済活性化の起爆剤、地方分権の牽引役

  5. 技術の標準化と適切な保護
    1. 国際標準確立に向けた産学官の取り組み
      国際標準の帰趨が、国際的な市場における競争力を大きく左右。欧米各国は官民挙げて自国の優位性の確立に向けて政策を展開。
      研究開発のみの戦略プロジェクトではなく、標準化を念頭において研究開発を進めるべき。同時に、企業や大学等において、標準を担う人材の育成・確保、東南アジア諸国等との戦略的かつ多様なアライアンスの構築等が重要

    2. 知的財産政策の積極的展開
      知的財産権は研究開発の成果にとどまらず、ビジネス手法にかかわる特許など、その取得の有無が経済活動に与える影響は大。
      研究成果の民間帰属と市場化の促進、知的財産制度の国際調和の実現、国内外における知的財産権の保護強化、知的財産権に関連する訴訟制度の改革、デジタル化・ネットワーク化等の技術進歩に対応した既存法体系の整備・見直し等

以 上

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