厚生年金基金(以下、基金)は、適格退職年金とともに、わが国における企業年金制度の普及、充実に貢献してきた。しかし、制度発足30余年を経て、少子高齢化の進展、労働市場の流動化、金融自由化など、企業年金制度を取り巻く経済社会構造は大きく変化し、既存の企業年金、中でも基金の代行部分 1 の不安定性が顕在化しており、事前積立を原則とする企業年金の中で運営維持していくことはもはや困難となっている。
代行部分に関して、給付水準、最低責任準備金、予定利率など制度の骨格は全て国が決めており、各個別企業の労使自らが環境変化に応じて柔軟に制度を変更することができない。また、将来にわたり一定の新規加入者があることを前提とする財政方式のため、実際の新規加入員数と乖離が起きると、基金財政が大きな影響を受ける。
資産運用環境の変化
制度発足当時は低成長時代の到来を想定していなかったが、現在、基金の運用利回りは、代行部分の予定利率(5.5%)を大きく下回っている。今後も低金利が続けば、代行部分の存在自体が企業あるいは加入員に過重な負担をもたらしかねない。
企業組織形態の変化
企業が国際競争力を維持・強化するために、企業組織形態の多様化に対するニーズが高まっているが、現在では、適格退職年金から基金への移行しか認められておらず、企業組織再編の阻害要因となっている。
2001年3月期決算から導入される新しい退職給付会計では、代行部分が企業の退職給付債務に含まれることになり、これまで会計制度の未整備や退職給与引当金の圧縮等により計上されていなかった退職給付債務や積立不足が顕在化することにより、企業経営は大きな影響を受ける。
凍結期間中の代行部分返上の選択を認め、その際の返還金額は、凍結措置に基づいて計算された最低責任準備金とする。
いずれも厚生年金本体(国)とする。
市場への影響を極力回避するため、有価証券等の現物による返還、分割返還も認める。さらに、現行の企業年金契約を分割して、代行部分の契約当事者を国に変更する方法などの特別措置の検討も必要である。
各企業労使の判断により、以下のいずれの方法も選択できるようにする。
企業年金制度に関する税制は、拠出時・運用時非課税、受給時課税を原則とし、特別法人税は撤廃する。代行部分返上後の加算部分の税制も、上記原則を基本とするとともに、代行部分返上後に加算部分を適格退職年金や確定拠出型年金へ移行する際には、課税されることなく移行できるようにする。
代行部分返上後の位置づけ、税制上の取扱いなどを整理する観点から、企業年金に関する必要最低限の共通ルールと税制上の支援策のための法整備が必要と考える。
代行部分の返上を契機に、報酬比例部分の今後のあり方について、抜本的に見直すことが不可欠である。
1 厚生年金の報酬比例部分の給付の一部(スライド・再評価部分を除く)を、国に代わって基金が受け取る免除保険料で賄う部分