1999年12月28日 経団連 産業本部 情報・新産業グループ |
21世紀に向け、国民生活の質的向上やわが国産業の活性化を図るためには、今後の経済社会の最も重要なインフラである情報通信の民間主導による拡充と低廉で利便性の高いサービスが求められる。経団連では、昨年4月にとりまとめた「自由・公正・透明な情報通信市場の実現に向けた提言」においては、わが国が目指すべき情報通信市場の姿を提案するとともに、その実現に向けた基本的考え方を示した。
わが国が目指すべき情報通信市場の姿とは、利用者ニーズに対応して事業者が自由に創意工夫を凝らして安価で利便性の高いサービスを機動的に提供し、その結果、情報通信ニーズが飛躍的に拡大して産業の競争力強化、新産業の創出が進展し、雇用機会が増大する一方、それが情報通信産業のより一層の成長と活性化をもたらすという好循環が形成され、国民生活の質的向上、産業全体の活性化が実現していくというものである。
このような情報通信市場を実現するためには、事業者の自助努力とともに、自由で公正な競争が可能となる環境の整備、ユーザーの利益を重視した公正で透明な行政の確立が必要である。とくに規制緩和と市場支配力を利用した反競争的行為の防止、従来の事前規制型から事後チェック型への転換、さらには通信と放送の融合に対応した制度・政策の見直し等について、基本的考え方を述べた。
インターネットの爆発的普及、通信と放送の融合など、情報通信をめぐる環境変化は急ピッチで進んでいる。このような動向を的確につかみ、最近の情報通信市場の課題を整理するとともに、今後、わが国が講ずべき具体的方策のあり方について掘り下げた検討を行っている。
情報通信市場をマクロ的に俯瞰すると、本格的な高度情報通信ネットワーク化の進展、インターネットの急速な拡大などにより、従来の電話からIP(インターネット・プロトコル)による情報伝送・データ通信へと需要構造が大きく変化している。情報通信事業者においては、IPネットワーク構築を含め環境変化に対応した新しいビジネス・モデルの形成が急務となっている。情報通信の潜在的なニーズは大きく、情報通信サービスの料金、利便性次第では、情報通信そのものや情報通信を利用した各種のサービス需要が爆発的に伸び、情報通信事業者やそのユーザー産業の成長、新産業の創出やそれに伴う雇用の拡大が期待されている。民間の活力が十分発揮されるように、情報通信のあらゆる分野において、自由で公正な競争環境を整備することが重要である。
国内通信市場においては、本年7月1日のNTT再編成、短期間で固定電話に肉薄してきた移動体通信の急成長、外資系企業の活発な参入など、新たな局面を迎えている。こうした中で、長距離通信、国際通信、移動体通信等の分野では競争が着実に進展している。地域通信市場においては、地域通信事業者による本格的な電話サービスの開始、GC接続の開始、CATV事業者による電話サービスの提供などにより競争が始まっており、今後、市内通信市場も含めて本格的な競争が進展していくことが望まれる。
一方、国際的には世界の巨大通信会社による国境を越えた、大型M&Aなどによる合従連衡・提携が進展している。情報通信事業のグローバル化が進展する中で、わが国情報通信産業の国際競争力の強化、ならびに国際事業展開の推進が求められる。また、各国制度、手続き等の違いが大きな問題となる場合があり、行政面での国際的な整合性、とくに自由かつ公正な競争の実現に向けた規制の改革が必要である。そのためにも、国内において自由かつ公正な競争が可能な環境を整備し、徹底した競争を通じて合理化・スリム化ならびに事業ノウハウの高度化を図ることが基本である。
CSデジタル放送に続くBSデジタルデータ放送の実現、CATVのインターネット接続サービスへの進出、光ファイバーを利用したCATV事業、いわゆるインターネット放送、IPマルチキャストサービスなど、デジタル化などの技術革新を背景に、通信・放送の融合型のサービスが出現している。同時に、伝送技術の革新や端末機器の高度化など情報通信技術の発展により、ネットワークやサービスは融合しつつある。創造的な事業展開が可能となるよう、通信と放送の融合への抜本的な対応策を打ち出す必要がある。
情報通信をめぐる環境が大きく変化する中で、現行の情報通信法制は、下記のような問題点が顕在化しており、豊かな生活を求める国民や、生き残りをかけて競争力強化、新産業・新事業の創出に取り組んでいる企業ユーザーのニーズに対応できる仕組みが整備されているとはいえない。
現在の情報通信法制には、利用者の利益・利便性の確保と市場における自由かつ公正な競争の確保という目的観が欠如している。事業者への認可・届出などの手続の規定が中心となっているが、行政手続・行為の実質的な公正性、意思決定等の透明性を担保するための規定が必ずしも十分には整備されているとはいえない。苦情申立て制度は現行法制にも設けられてはいるが、制度改革、政策見直しに関する申立てへの対応などの面では、必ずしも十分に機能していない。
情報通信法制の中心をなす電気通信事業法は、設備の設置に着目して規制を切り分けているため(設備を設置する事業者に対してはリセールが、リセールベースの事業者は足回り回線以外の設備設置が認められない。また、設備を保有する場合とリセールする場合とでは、サービスの種類、価格、約款等に関する規制が異なる)、経営判断による参入手段の最適な組み合わせができないなど、実質的な参入障壁となっている。
技術革新により、情報伝送路の共有が可能となり、通信・放送の中間領域的サービスが出現しているが、通信・放送の厳格な区分を維持する一方、通信と放送の定義・解釈が不明確な面がある。融合時代に対応した法制、行政体制が整備されていないことが、事業者の創意工夫による新しい技術がもたらすサービスの迅速な提供の阻害要因となっている。
低廉で高品質・多様な情報通信サービスの提供は、「公衆の利益」(Public Interest)、すなわち通信サービス利用者に利益をもたらし、その結果、国民生活の質的向上、産業全体の国際競争力の強化、新産業・新事業の創出を可能とし、それがまた情報通信産業の発展につながっていく。
利用者の利益・利便性の向上は、情報通信市場における自由で公正な競争の確保により実現する。そこで、情報通信法制の目的として、自由かつ公正な競争の確保を明確に掲げる必要がある。
その意味で、新法では、設備の保有に着目して規制を切り分ける法体系をやめ、競争の状況に着目した体系とする。反競争的な行為の防止に必要な仕組みを整備する。その他については、ユーザーニーズの高度化・多様化や技術革新への迅速かつ柔軟な対応、サービス提供者の自由な創意工夫の発揮が可能となるよう、できるだけ事前規制から事後チェック(立ち入り検査、改善命令を含む)へと移行するとともに、競争の進展に応じて規制を緩和するなどのインセンティブ規制を中心とすべきである。
* 現行法制において、接続約款認可制、接続会計の整理などをはじめ、指定電気通信設備との接続に関するルールが存在する。
他方、NTT法(取締役・監査役認可制、事業計画認可制、新株発行認可制、外資規制、政府保有株式に関する規定など、国が事業・経営の直接関与するようなこと)は廃止する。なお、当面現行の役務別収支の公表を続けるとともに、NTT再編時に際して策定された「NTT再編成に関する実施計画」(営業の独立、顧客情報等の取り扱いの同一性など)の進展状況を透明な形で注視する。
* 「NTT再編成に関する実施計画」のパブリックコメントに対する郵政省の考え方として、NTT再編成後の状況を注視することとされている。
自由かつ公正な競争を通じた利便性の高い設備の円滑な形成ならびに不可欠設備の公平な利用を維持する。設備を設置するサービス提供者に対しては、柔軟に設備を構築することを可能とする権利を付与する。その場合、役務提供義務、相互接続義務等を負う。なお、有線電気通信法は新法へ統合する。
行政が制度、行政措置の見直しの申立て、事業者間の紛争解決に関して、公正・中立的かつ迅速・透明な手続による裁定を行なうことできるような仕組みをつくる。また、行政の透明性の観点から、パブリックコメントの責務、会合および詳細な議事録の公開などを義務づける。
通信・放送の融合への対応ということでは、デジタル技術の発展等により、通信・放送融合型のサービスを提供することが可能となっていることを踏まえ、通信のみならず放送を包含した形で全体を体系づけた法制とする。具体的には、地上放送ならびにNHKが本格的に参入しているBS放送については、当面既存の仕組みを維持する一方で、CSデジタル放送などそれ以外については、通信と放送を区分せず、情報伝送設備、コンテンツ、プラットフォーム/サービスに分けて、事業者が自由に組み合わせてサービスを提供できるようにしてはどうか。音声、データ、映像などの伝送はすべてデータ通信であると考えて、伝送路や割り当てられた周波数は通信・放送に自由に利用できるようにする。
現行法制同様、天災・事変などの非常事態において重要通信のために優先的に通信を確保する。
新法には、技術革新や市場の変化等に柔軟に対応できるよう、定期見直し条項を盛り込む。
* 今後さらに検討を要する主要項目
参入規制、事業区分
* 参入については、どのような規制が望ましいか(許可制、登録制、届出制等)。設備を設置する者、しない者とで差が必要か。
線路敷設
* 現行制度では、線路設置のための土地等の使用権の設定に関し、都道府県知事の許可により協議を求めることができる。
サービス、料金、約款
* 現行のサービスは音声、データ、専用の3種類に区分。
相互接続
* 現行法制において、不可欠設備の保有者による自社を含む接続に係わる利用の公平の確保、接続約款認可制、接続会計の整理などをはじめ、指定電気通信設備との接続に関するルールが存在する。
* 既に実験開始。
行政手続、行政による裁定機能
定期的見直し条項
* 今後さらに検討を要する主要項目
以上はこれまでの情報通信ワーキンググループの議論の方向性を中間的に整理したものであり、詰めるべき点も数多く残されている。また、これまでの検討にご協力いただいた事業者のご意見にも改めて耳を傾ける必要がある。今後、来年春の提言案とりまとめに向けて、さらに掘り下げた検討をしていく。