(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

留学生活からしか得られない経験

工藤 さくら (くどう さくら)
2013年度奨学生
東北大学大学院からネパール/ランジュン・イェシェ・インスティチュートに留学

大学にて、RYIフェアウェルにてシュローカを披露する学生、筆者右から2番目
調査地にて、ネワールの新年、民族衣装を纏う女性たちとともに

私は2013年夏から2年間、経団連国際教育交流財団の奨学生としてネパールを訪れ留学生活を終えたばかりだ。ネパールでの留学生活は、日本では当たり前のものが“ない”の連続で困ったことも多かったが、世界中からこの場所を訪れる多くの人々との刺激的な出会いから学ぶことのほうが他のマイナス面を覆すくらい大きなものに感じられた。私は、首都カトマンズに伝統的に居住するネワール族の信仰形態を研究する過程で、ネパールへの長期留学を希望し、博士の学生として渡航する機会を得た。留学先は、ランジュン・イェシェ・インスティチュート(以下RYI)という、カトマンズ大学付設の仏教学を専攻する研究所で、ボダナートという仏塔で有名な世界遺産のすぐ近くにキャンパスがあった。ユニークなのはそのキャンパスがチベット仏教の僧院内に置かれていることで、授業を受ける教室も普段は学僧たちが仏教を学ぶために使われている。そのため、授業中にどこからともなく読経が聞こえてきたり、学校帰りに何かの儀礼を目にしたりすることがよくあった。RYIの学生、教員とも西洋人が多く授業進行は英語で行われる。教師陣は名門大学で学位を得た人々ばかりで授業の質は高く、私たち非英語話者にも容赦ない。そんな学生の肩の力が緩むのは食堂で、学僧たちベジタリアンのために配慮されたメニューに舌鼓をうちつつ会話を楽しんだりリラックスして課題に向かえる。時に課題が満足に終わる頃にはあたりが真っ暗になっていて、トーチライト片手に勉強する学生の姿が風物詩になった。ネパールでは首都ですら水・電気・ガスなどインフラが整っていない。電気の来た時間にあわせ洗濯をし、日の出ている暖かいうちにシャワーを済ませる。学生生活はこういった生活水準に慣らすところから始まる。はじめの頃は電気が消えるたびに声をあげていた学生たちも、1ヶ月ほどで慣れはじめ急に電気が切れても誰も動じなくなる。生活に慣れてくるだけでなぜかとても自分たちが力強くなっていく気がした。

RYIで過ごす以外は、自分の研究テーマのための調査に時間を当てた。必要言語はネパール語だ。言葉や習慣に慣れてくると今まで見えていなかったことが徐々に理解できてきて文献を読む何倍もの情報を得ることができ研究意欲を刺激した。またこの2年間に得られた国内外の研究者、ネパール人とのつながりが今後の研究人生に有益に活きてくることを確信している。そして、留学中に経験した未曾有の大震災もいずれ私の人生の糧になるに違いない。

このように貴重な経験と学びの機会は、経団連国際教育交流財団の助成なしには叶わなかった。研究者として、これまでの人生において大きな節目となる経験を積むチャンスをくれた同財団の関係者の皆様には感謝してもしきれない。

(2016年2月掲載)

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