(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

英国における研究生活

稲田 奏 (いなた かな)
2015年度奨学生(東京倶楽部奨学生)
早稲田大学大学院からイギリス/エセックス大学に留学

私は2015年から英国エセックス大学の政治学研究科に留学し、博士号の取得を目指して研究活動に従事している。私の研究テーマは、選挙に由来する正当性を有さない政治アクターがどのように選挙で選出された政治リーダーと交渉を行うのか、そして彼らの政治交渉はどのような因果メカニズムで成功あるいは失敗へと至るのかというものである。具体的には、君主制と社会運動団体に主眼を置いて研究を進めている。君主制に関する論文では、政治介入に積極的な立憲君主がなぜ存続を許されるのか、象徴的役割しか果たさない立憲君主と政治介入に積極的な立憲君主とを分ける要因は何なのかを、数理モデルを用いて分析した。一方、社会運動をテーマとした論文では、社会運動団体が政治リーダーに対して発する脅しがどのような条件下で信憑性のある脅しとなるのかを、様々な条件で検証した。現在では上記のテーマに関するワーキングペーパーを5つ抱え、内2つは英語の学術誌への投稿を行なっている。

研究を行う過程において、留学先大学では多くの報告機会に恵まれ、教員や他の大学院生から様々なフィードバックを得ることができた。私と全く同じ研究テーマの教員や大学院生はいないものの、彼(女)らと対話するたびに自らの研究の欠点に気づき、時には自らの研究の意外な応用可能性に気づかされることもあった。指導教員らの熱心に指導と、野心的に自身の研究に邁進していく周囲の大学院生の姿に鼓舞される毎日であった。さらに幸運なことに、共同でプロジェクトを行う仲間を見つけることができた。現在は博士論文の提出に向けて自身の研究に打ち込む傍ら、共同プロジェクトも同時進行させており、エセックス大学修了後もプロジェクトを拡大していく計画を立てている。

留学前に私が抱いていた博士課程に対するイメージは「一人で行う孤独な作業」というものであったが、その印象は留学を経て変わった。大学で毎週開かれる、政治学の最先端にいる研究者を招いてのセミナーでは、研究者同士の討論を通じて現在の研究が洗練化されて行く過程や新たな研究のヒントが生まれる過程を目の当たりにした。大学院生同士のセミナーでも同様であり、互いの研究テーマから激動する欧米諸国の現代政治まで、様々なことを議論した。このように非常に恵まれた研究環境に身を置き、集中して研究できるよう絶えず支援してくださった経団連国際教育交流財団と東京倶楽部の皆様には心から感謝を申し上げたい。

エセックス大学政治学部博士課程に所属する生徒達と夕食に出かけたときの写真(1番右にいるのが筆者)
(2018年2月掲載)

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