(公財)経団連国際教育交流財団日本人大学院生奨学生留学報告

シェイクスピアの生地に学ぶ

中谷 森 (なかたに もり)
2016年度奨学生(東京倶楽部奨学生)
京都大学大学院からイギリス/バーミンガム大学に留学

エイボン川のほとりに建つロイヤル・シェイクスピア・シアター
シェイクスピア生家の庭にて

2016年五月に逝去した蜷川幸雄の演出作品でも知られているように、ルネッサンス只中のロンドンの演劇界を席巻した劇作家ウィリアム・シェイクスピアは、今日の日本においても演劇の巨匠として名高い。そのシェイクスピアが1564年に生を享けたのが、ロンドンから北西160キロほどのところに位置するストラットフォード=アポン=エイボンという小さな街である。シェイクスピアの生家やロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの劇場を訪れる観光客で日々賑わうこの街の一角に、バーミンガム大学が設置したシェイクスピア研究所がある。今回、経団連国際教育交流財団の奨学生として私は、この研究所で一年を過ごしシェイクスピア研究の修士号を取得した。

シェイクスピア研究に特化した研究所はイギリスでも珍しい。シェイクスピア研究の一線で活躍する研究者たちによる講義や研究への指導を受け、また時には、彼らとパブでビールを楽しんだりと、日本では得難い環境に恵まれた。日本とは異なり、一年間で修了するイギリスの修士課程は信じられないほど忙しく休みがない。秋学期と冬学期にそれぞれ複数提出しなくてはいけないエッセイと、春学期から夏休みにかけて完成させる修士論文の執筆は、英語を母国語としない留学生には時に過酷とさえ感じられた。しかしこうして一年を終えて、エリザベス朝演劇に関する研究調査と英語による論文執筆のスキルが飛躍的に向上したと実感している。

また研究の他にも、この一年のあいだに、様々な形でイギリスの演劇文化に親しむことができた。街の中心にあるロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの公演に足繁く通ったことはもちろん、ロンドンにもしばしば足を運び、シェイクスピアから新鋭のイギリスの劇作家の上演作品まで、様々な観劇に赴いた。そのようにして、日本の演劇界との傾向や観客の反応の違いなど、肌でしか感じることのできないその土地独自の文化のあることを知った。日本では劇作も時に行っている私であるが、冬学期には、同研究所の友人と共同で戯曲を執筆し演出するという、またとない機会にも恵まれた。慣れない文化の中、仲間たちと共に英語で劇作と演出を行ったことは、一生忘れることのない経験となっている。

帰国後の現在は、日本の大学院の博士後期課程に所属しながら博士論文執筆に向けて研究に励んでいる。イギリスでの一年間の経験を生かし、エリザベス朝独自の文化の中で発展したシェイクスピアの演劇と、現代日本の演劇文化との繋がりについてより深く考えていきたい。今回の留学は、経団連国際教育交流財団のご支援なしにはとても実現しえないものであった。心から感謝申し上げたい。

(2018年2月掲載)

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