第60回経団連定時総会における豊田会長挨拶

1998年5月26日(火)
於 経団連会館 14階


  1. 会員の皆様方には、ご多用中にもかかわらず、第60回定時総会に多数ご出席いただき、誠にありがとうございます。平素は、経団連の活動に対しまして、ひとかたならぬご支援、ご協力を賜り、改めて厚くお礼申し上げます。

  2. さて、世界各国は、経済のグローバル化の中で、大競争時代に勝ち残るべく、地域的経済統合を深化させるとともに、構造改革を進めて、経済の活性化、経済基盤の強化に努めております。ご高承の通り、いち早く税制改革と規制緩和により、経済構造の改革を進めてきたアメリカ経済は、現在、空前の活況を呈しておりますし、EUも、通貨統合に向けて、痛みを伴う構造改革を実行し、アメリカに匹敵する強大な経済圏としての地歩を、着実に固めております。また、昨年から今年にかけて訪問いたしました南米や、チェコ、ハンガリーなどの中欧諸国、さらに中央アジア諸国もまた、経済発展を図るべく地域の連携を強め、市場経済化を進めており、世界経済は競争を通じた発展の可能性を大きく高めております。その一方で、世界の成長センターとして目覚しい発展を遂げてきたアジアは、通貨・金融危機の発生により、構造問題が一気に顕在化し、停滞を余儀なくされており、世界経済の発展に暗い影を投げかけております。

  3. こうした状況を踏まえ、わが国としても経済基盤の強化に努めるとともに、経済大国として、アジア経済のみならず、世界経済の安定的発展に貢献しなければなりません。わが国に対する世界の期待は、誠に大きなものがございます。私は、経団連会長に就任以来、多くの国々を訪問し、また経団連において、各国の政府首脳や経済界の要人と懇談いたしましたが、その度ごとに、わが国企業の投資や技術移転を強く求められたわけでございます。

  4. しかし、日本経済は、いまだにバブルの後遺症から脱しきれず、国民の間に広がる、先行きに対する不安と閉塞感から、大変厳しい状況にあり、デフレさえも懸念されております。したがいまして、世界の期待に応えるうえからも、まず当面の景気回復に全力を傾けなければなりません。このためには、まずもって不良債権を早期に処理し、機能不全に陥っている金融機能を回復させることが重要であり、この観点から土地の流動化・有効活用を促進し、併せて、経済波及効果の大きい住宅建設を促進することが肝要でございます。

  5. とくに、金融につきましては、世界の金融市場が一体化し、巨額の資金が瞬時に移動することにより、一国の経済に大きな影響が及ぶ状況になっていることを考えると、金融システム改革を速やかに進め、わが国の金融機能を、競争力のある強固なものへと変えていくことが求められます。政府は、すでに金融システム安定化のために、30兆円の公的資金を用意したほか、金融システム改革のプログラムを提示いたしております。各金融機関におかれましては、こうした政策に基づいて、不良債権の迅速な処理と経営の効率化に努めていただくとともに、国際金融市場での中心的プレイヤーとして、積極的に行動いただくためにも、思い切った自己変革に取り組んでいただくよう、お願い申し上げます。

  6. 景気を本格的な回復軌道にのせ、内需主導による、長期かつ持続的な経済活性化を図るためには、ただ今の金融システム改革に加え、税制改革や規制緩和による経済構造改革を実現しなければなりません。税制改革につきましては、将来の直間比率の見直しを踏まえ、法人税、所得税の制度減税を早期に実施し、個人および企業の、やる気と活力を引き出していくことが必要でございます。具体的には、法人の実効税率を国際水準である40%に引き下げること、および国際水準に合わせて所得税の最高税率を50%まで引き下げるとともに累進税率構造を全所得層にわたって緩和することを、重ねて、政府に強く要望したいと存じます。

  7. 規制の撤廃・緩和も、また構造改革の重要な柱であり、規制の撤廃・緩和こそが経済構造改革そのものである、と言っても過言ではありません。これにより、わが国の高コスト構造を是正し、国際競争力を強化するとともに、新しい産業や事業を生み出し、経済活動を活発にしていかなければなりません。規制緩和に経済効果があることにつきましては、すでに政府の試算が発表されております。アメリカでも、情報通信に関する大胆な規制緩和が行われた結果、この分野で多くのベンチャー企業が生まれ、これがアメリカの活況を支えていると言われております。
    幸い、政府も規制緩和を重視し、経団連が強く要望した、新しい規制緩和推進3ヶ年計画を策定いたしましたが、今後は、これをさらに拡充するとともに、規制緩和の進捗状況を監視する、強力な第3者機関を早急に設置することを、強く期待したいと存じます。

  8. こうした構造改革に加えて、経済のグローバル化、高度情報化、少子・高齢化、さらには地球環境の保全といった、時代のニーズに対応したインフラを重点的に整備し、21世紀の確固たる経済社会基盤を確立することが重要でございます。これによって、将来の明るい展望を拓き、活力があり、かつ安心して暮らせる社会を実現しなければなりません。このためには、公共投資の配分の見直しと重点化に加えて、民間の創意と工夫を活かした形で、効率的に社会資本を整備していく必要があると存じます。経済界としても、新たな事業分野として、PFIなどに主体的に参加していくことが望ましいと存じます。
    また、現在の消費不振の原因ともなっている、国民の老後に対する不安を解消するため、社会保障制度の改革を行い、ソフトの面からも安心して生活できる基盤を整備していかなければなりません。例えば、厚生年金保険には、既に490兆円にのぼる積み立て不足が生じ、近い将来、破綻に至ると言われており、社会保障制度全般にわたって、給付と負担を見直し、持続可能な制度に再構築することが必要でございます。
    さらに、今後、科学技術基盤を強化することが、ますます重要になってくると存じます。地球的規模で市場経済化と情報化が進むなかで、わが国の経済力を強化し、かつ地球環境保全の観点を踏まえ、持続的な経済発展を達成するためには、科学技術基盤を強化する以外にはありません。このためには、わが国の科学技術推進体制や教育制度を抜本的に見直すことが不可欠でございます。皆様方におかれましても、研究開発にさらに力を注いでいただくとともに、企業内において、個人の創造性を促す仕組みや制度を構築していただくよう、お願い申し上げます。

  9. 政府の改革も重要でございます。申し上げるまでもなく、市場原理に基づく民間活力の発揮こそ、わが国発展の基盤であり、規制緩和に加えて行政改革を進め、簡素で効率的な政府を実現しなければなりません。昨年末には行政改革会議から中央省庁を半減することが提案され、現在、国会において中央省庁等改革基本法案が審議されておりますが、これを今国会で成立させるとともに、真の意味での小さな政府の実現に向けて、官業の民営化、公的部門への競争原理の導入などの具体策に、道筋をつけていただくことを、政府に要請したいと存じます。
    一方、国の取り組みに比較し、地方の行革は遅々として進んでおりません。地方分権と併せて広域行政を推進し、地方行政のスリム化、効率化を進める必要がございます。
    さらに、こうした国・地方を通じた政府の改革のシンボルとなり、人心一新の契機ともなる首都機能移転を、早期に実現していただきたいと存じます。

  10. 最後に、われわれ経済人は、変革と創造の気概を持って積極果敢に事業活動を展開し、現在の難局を打開していかなければならない、ということを皆様に訴えたいと存じます。すでに政府は、数次にわたり、景気対策を講じたほか、先月には総事業費16兆円にものぼる総合経済対策を決定しており、税制改革を含めた諸改革の方向も示しております。この上は、経済界が自らの力を信じ、創意と工夫をもって、企業経営と経済の活性化に努めることが肝要でございます。
    また、企業がその持てる力を発揮するためには、その存在が社会から信頼されるものでなければなりません。ここで改めて、経団連企業行動憲章の遵守をお願い申し上げて、私のご挨拶とさせていただきます。
    会員の皆様には、今後とも経団連の活動に対し、ご理解とご支援をお願い申し上げます。ご清聴、誠にありがとうございました。

以 上


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