月刊 Keidanren 2000年11月号 巻頭言

日本におけるIT革命

張副議長 張 富士夫
(ちょう ふじお)

経団連評議員会副議長
トヨタ自動車社長

 IT革命への対応は、21世紀の日本経済繁栄の鍵である。

 今後、日本でIT革命を本格化させるためには、高速通信網の構築、料金引下げなどの環境整備だけでなく、規制の撤廃・緩和から、税制の見直し、情報社会を担う人材育成に至るまで、経済構造全般にわたる改革が求められる。

 さて、一八世紀の産業革命にも比べられるIT革命を考える際の視点として、私は、次の二つが重要であると思う。第一は、IT化の「影」の部分への対応である。IT革命には光と影の部分がある。すなわち、IT革命は、新しい産業・製品、雇用の創出や、より便利な生活などをもたらす一方で、いわゆるデジタル・デバイドの問題など、ITの恩恵を享受できなかったり、IT化の進展によってダメージを受けるかもしれない人たちを生ずる可能性がある。私は、IT化の光の部分を発展させるとともに、影の部分をいかに克服するかが重要な課題であると思う。とりわけ、雇用問題への備えは不可欠である。米国では、IT化に伴う労働力のシフトは、空前の好況とともに、柔軟な労働市場の存在がこれを可能にした。日本でも、エンプロイアビリティーの向上と労働移動の円滑化を図っていく必要がある。官民をあげて、企業内外における再教育と職種転換の努力を図るとともに、新規事業への進出により雇用機会を創出していくことが大変重要であり、このような取組みが併せて行なわれることで、経済全体としてIT革命の恩恵を享受できるのではないかと思う。

 第二は、「モノづくり」とITの融合である。日本の強みはモノづくりにある。モノづくり産業がITで武装することで、新しい時代のモノづくりのシステムを生み出すとともに、新しい画期的な製品をつくり出していく必要がある。そして、これをてことすることで、モノづくりの分野と新たなIT事業がお互いに相乗効果を生むとともに、ハードとソフトが有機的に結合した新たな事業領域の展開へと進んでいくことが望ましい姿ではないかと思う。

 今後、日本独自のIT革命への取組みが求められる。


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