月刊 Keidanren 2001年6月号 巻頭言

好機を活かし、今こそ構造改革の断行を

今井会長 今井 敬
(いまい たかし)

経団連会長

 今日、わが国では経済活動のグローバル化、メガ・コンペティションの進展に加え、社会的には少子・高齢化が急速に進行しつつあり、私たちは21世紀における日本の命運を左右する、極めて重大な岐路に立たされております。
 先般行われた自民党総裁選挙の経緯からも明らかな通り、今や日本の現状に強い危機感を抱く多くの国民が、安心して暮らせる将来のため、一刻も早い構造改革の実施に共感と支持を寄せているのであります。
 まさに機は熟した、と申すべきでありましょう。
 政府、そして企業はこの好機を逃すことなく、不退転の決意で抜本的な構造改革を一気に断行し、新たな世紀におけるわが国経済・社会の強固な発展基盤を構築すべきです。

 まず企業には、経営効率の改善・収益力の強化に向けた大胆な改革の実行が求められており、とりわけ最大の課題である不良債権・過剰債務の処理については、断固たる姿勢で取り組まなくてはなりません。日本経済が国際社会から再び信認を得るためにも、これ以上問題の先送りは許されません。さらに、事業の分割・統合や企業組織の再編等に着手し、徹底した競争力向上を図る必要があります。
 企業の更なる経営革新実行のため、新たな時代に対応しうる環境整備が不可欠です。先般の緊急経済対策に織り込まれた金庫株解禁、証券税制の見直しによる証券市場の活性化等に加え、株主代表訴訟制度の見直し、連結納税制度の導入、確定拠出型年金法案の成立等、グローバルスタンダードに合致した法制・税制の迅速な整備が必要であります。
 また、新産業・新事業の創出も私たち企業人に課せられた重要な使命です。規制改革の成果や政府のe−Japan戦略、あるいはバイオ、ナノテク等の新技術を存分に活用しながら、柔軟かつ大胆な発想と叡智により、新たな成長分野の開拓に邁進しなくてはなりません。
 世界に冠たる産業技術力を確立するためには、戦略的・総合的な科学技術政策の遂行が是非とも必要です。内閣府に設置された総合科学技術会議によるリーダーシップの発揮が強く望まれるとともに、産学官連携による研究開発の一層の推進はもとより、大学をはじめとする教育改革についても着実な推進が求められます。

 改めて申すまでもなく、構造改革には痛みも伴います。政府は、社会保障制度改革・歳出構造改革・税制改革を包括した財政構造改革のグランドデザイン策定を通じて進むべき道筋を明らかにし、将来に対する国民の不安を一刻も早く払拭するべきです。高齢者医療制度改革の実現、地方交付税の縮減、公共事業の重点化・効率化等、緊急を要する課題については、スケジュールを明確にして取り組まなくてはなりません。また、改革を進めるにあたっては、さまざまな形で国民との対話を強化し、政策決定の透明性を高めながら、広く理解と問題意識の共有を求めていくことが重要であります。
 加えて、民間主導の活力と創意に満ちた21世紀を築くためには、行政改革・規制改革の推進が不可欠です。行政改革では特に、特殊法人等の事業をゼロベースで見直し、廃止・統合・民営化などを迅速に断行すべきです。規制改革についてはこのたび新設された総合規制改革会議の強い指導力の下、経済社会の構造改革を視野に入れた一層の規制・制度の改革を推進しなければなりません。

 最後に、経団連は来年5月には日経連と完全統合を果たす予定です。新たな世紀にふさわしい政策提言能力と実行力を有する真の総合経済団体として、直面する諸課題に対し従来を大幅に上回る「ドッグイヤー」のスピード感をもって、着実な解決を図っていく所存であります。
 皆様のご理解とご支援を、引き続きお願い申し上げます。


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