月刊・経済Trend 2004年8月号 巻頭言

日本の「お家芸」復活を期して

―“モノづくり”を大切に―

庄山副会長 庄山悦彦
(しょうやま えつひこ)

日本経団連副会長
日立製作所社長

いよいよアテネオリンピックが開幕する。40年ぶりに日本も駆け抜けた初の五大陸横断聖火リレーが、発祥の地に辿り着く。日本選手の活躍、特に「お家芸」でのメダル獲得への期待は大きい。

そこで、その決定的瞬間を、ぜひとも臨場感溢れる大画面薄型TVでご覧いただき、その感動シーン再現のためDVDへの録画をお薦めしたい。羨ましくも現地に行かれる方には、生の熱気をデジカメで持ち帰っていただければと思う。わが国景気回復の牽引役となったデジタル家電にとっても、アテネは今後を占う大事なイベントの地となる。

スポーツだけでなく、真剣勝負の世界で「お家芸」を張ることは難しい。かつて日本の「お家芸」と呼ばれた製造業も「失われた10年」に苦しんだ。ところが、その間も地道にコツコツと続けられてきた企業努力や、また、たとえばデジタル開発等が、今花開き実を結んでいる。この経験をいかに本格的な「お家芸」復活につなげるか。

その鍵は、“モノづくり”へのこだわりだろう。80年代後半の過信と90年代の自虐的思考を反省し、自らの“モノづくり”の力を謙虚に信じるべきである。匠の技による“作り込み”と先端技術“創り出し”への挑戦。“物”自体から、価値創造プロセス全体の“モノ”へ。わが社では、そうした意味を込め“モノづくり”にこだわっている。

そこで、人と人とをつなぐ“チームワーク”の力が大切となる。欧米流の個人重視に注目するあまり、日本企業のこの「お家芸」を疎かにしてはならない。周りへの感謝が“個”の真の自信につながり、それで強くなったユニークな“個”をうまく束ねることで、総和以上のパワーが生まれる。このメカニズムを本当に回せれば、国境に囚われず異なる発想の人が加わることで、その相乗効果はさらに高まるはずである。

日本の「お家芸」はどこまでやれるか。新たな「お家芸」は生まれるのか。アテネでの熱戦が、経済界の「お家芸」復活を期すわれわれに元気をくれるだろう。


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