月刊・経済Trend 2006年9月号 巻頭言

対日直接投資促進の意義

佐々木副議長 佐々木幹夫
(ささき みきお)

日本経団連評議員会副議長
三菱商事会長

対日直接投資残高は、2001年末の6.6兆円から、2005年末の11.9兆円と、小泉首相の対日投資促進政策のもとで増加傾向にある。しかし、これもGDP比で見ればわずか2%と、英国の33%、フランスの26%と比べれば格段に小さい。言うならば海外の企業には、日本の経済、市場は「さほど魅力的でなく、進出するにあたらない」と映っているのであろう。政府は対日投資会議を開催し、小泉首相が2010年の「対日直接投資残高のGDP比倍増(5%)」を宣言した。

日本の将来を語れば、少子化、高齢化、そして貯蓄率の低下という問題の深刻化が懸念されている。だが、対日直接投資を促進することにより、海外の優れた技術、人材、そして経営ノウハウを導入し、競争原理が刺激され、生産性が高まれば、日本経済の将来の可能性ははるかに広がる。

対日直接投資を促進する手段の一つが経済連携協定(EPA)であろう。WTOにおける自由化促進とともに、EPAを促進し、アジア諸国をはじめ各国との経済関係の緊密化を進めるべきであるとの認識は既に自明の理のごとく拡がりつつある。EPAの促進というと、モノとサービスの貿易自由化が注目されがちであるが、経済連携の概念には、双方向の投資の促進も重要な要素として含まれている。日本から海外への投資が増えるばかりではなく、相手国からの日本への投資が活発化することにより、相互依存的な経済関係の緊密化が長期的にも達成されるはずである。

まだまだ少ない対日直接投資ではあるが、ユニークな事例も見られる。政府は成功例として「豪州人をターゲットとする北海道のスキー場」「米国のビジネスモデルを導入し富士山という観光資源も活用したアウトレットモール」などを挙げている。智恵を使えば、海外から見ても日本の市場が魅力的に映るところもまだまだたくさん残されているのであろう。魅力溢れる日本市場で活躍したいと海外企業が殺到するような環境を整えるという官民挙げての努力が必要であり、それが日本経済の将来に向けての望ましい変化を実現することを期待している。


日本語のホームページへ