月刊・経済Trend 2007年12月号 巻頭言

GDPからGWPへ

畔柳副議長 畔柳信雄
(くろやなぎ のぶお)

日本経団連評議員会副議長
三菱UFJフィナンシャル・グループ社長

環境問題が待ったなしである。人類の急速な発展に対し、地球の資源・環境が、その許容度の限界を示しつつあるといえる。

50億年に及ぶ地球の歴史のなかで、わずか20万年程度の歴史しか持たない人類が、生物種族として斯くも繁栄したのは驚異的である。人類発展の驚異の要因には諸説あるが、個人的には、ふたつあると思う。

ひとつは、何といっても技術革新である。太古における火の発見や狩猟・農耕技術の発明から、動力技術の革新を中心とする産業革命、さらに近年のIT革命へと至るイノベーションこそが、人類繁栄の原動力といえる。

さらに、忘れてならないのが、社会的な生産体制の革新である。自給自足の経済から物々交換や貨幣の流通によって生産分業へと移行したことで、効率化が進み、生産量が飛躍的に拡大した。そして、社会・共産主義の崩壊など政治体制の変革も経つつ、世界規模で分業の利点を徹底的に追求した結果、技術革新を生み出すに最適と思われる、現代のグローバリゼーションに至ったと整理できる。特に、ベルリンの壁崩壊以降のグローバリゼーションは、人々の予想を超える経済成長をもたらした。

だが、物量的な発展に成功したからこそ、人類は地球の資源・環境の限界に急速に直面している。もはや生産量や人口の増加をもって成功とする考え方そのものを見直さざるを得まい。その際に考えるべきことは、人類の発展に必要な技術革新と、それをもたらす社会的生産体制が何を目標とすべきか、その方向性の問題ではなかろうか。途上国では引き続き量の確保も必要としても、特に先進国では、技術革新の目標を量の拡大から質の向上へ、「生活の安全」へと切り替える必要がある。それには、技術革新の推進力であり自由資本主義経済の原点でもある市場経済メカニズムにおいて、「利益」の概念に加えて「安心・安全」や「welfare」(福利、厚生)の概念を取り込んだ数値に基づき競争が行われるシステムを工夫する必要がある。GDPからGWP(Gross Welfare Product)へ、人類の叡智が待ったなしで試されているといえよう。


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