月刊・経済Trend 2008年2月号 巻頭言

日中韓協力で渤海の再生を

岡副議長 岡 素之
(おか もとゆき)

日本経団連評議員会副議長
住友商事会長

最近中国を訪れて感じるのは、環境に対する全般的な関心の強まりである。昨年も北京、天津で地元政府の幹部、経営トップ、大学関係者らと面談する機会があったが、そこでも常に話題の中心となったのが環境問題であった。従来のような経済成長重視の姿勢を改め、資源節約や環境保護、貧富や地域間の格差是正を図ることで、調和のとれた社会を目指すという胡錦濤総書記の「科学的発展観」が早くも浸透し始めているのを実感した。

天津市の経済顧問を務めていることもあってたびたび同地を訪れるが、市の悩みのひとつが渤海湾汚染である。ご存じの通り渤海は遼東半島と山東半島に囲まれた中国唯一の内海だ。一時は「魚の宝庫」、「海洋公園」とも呼ばれるほどクルマエビ、ハマグリ、ヒラメ、イシモチ、スズキ、イカなどが豊富に獲れていたが、今ではこれらの魚種は一切姿を消してしまったという。九州の約二倍の面積の渤海の汚染が広がれば周辺海域にも影響はないとはいえず、これは日本や韓国にとっても他人事ではない。

昨年十月に経団連会館で日中韓三カ国の経済人によるビジネスラウンドテーブルの会合が開催され、環境・省エネ問題についての真剣な議論が行われた。政府レベルでも、今後は日中韓首脳会議をアセアンとの会合とは別に開催し、共通の課題である環境問題についての三国間協力を一層推進することが合意されている。環境への関心の高まりが従来以上に共通のテーマとなっている今、三国が協力して渤海浄化を考えてはどうだろうか。三国それぞれの役割はあろうが、かつて公害汚染が広がっていた東京湾や水俣湾を甦らせた経験を活かした協力が日本の立場になろう。渤海の浄化が決して容易でないことは想像に難くないが、だからこそ今後の日中韓の新しい協力体制の幕開けを象徴する戦略プロジェクトとして相応しいのではないだろうか。三国の協力により、いつの日か渤海にも多くの魚が戻ってくることを期待したい。


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