月刊・経済Trend 2008年9月号 巻頭言

電子行政が問い直す「この国のかたち」

古川副会長 古川一夫
(ふるかわ かずお)

日本経団連副会長
日立製作所社長

先進各国を中心に電子行政の推進が加速している。電子行政とは単に政府・行政部門におけるITの利活用を意味するのではなく、それらも重要な契機として社会の豊かさや国の競争力そのものを大きく再構築していく作業と捉えている。日本の経済社会が直面する諸課題を考えるならば、今こそ原点に立ち返り、官民手を携えて日本の電子行政を加速させるべき時である。その際、以下の三つの視座を基本に据える必要がある。

第一はグローバル競争が加速する中での「国の競争力」である。日本を企業にとって魅力的な投資先とするためには効率性、利便性の観点から政府・行政部門の国際競争力向上が不可欠であり、電子行政もそのための基盤として、国内の視点で満足することなくベンチマークを世界に求めなければならない。

第二は高齢化が進展し財源が限られる中での豊かな経済社会実現である。電子行政はサービスの利用者であり費用負担者である国民の視点に立ち「うれしさが実感できるサービス」を提供するための基盤である。引越、出産などライフイベントに対応したワンストップ行政手続は電子行政先進国では今や常識である。これらサービスの実現を喫緊の課題である行政の信頼回復につなげなければならない。

第三は「見える化」、すなわち政府・行政部門の透明性向上である。透明性向上は官と民、中央と地方が一方的な依存関係を脱し、相互の緊張関係の上に立って新たな経済活力を生み出していくための基盤となる。さらに、成熟した民主主義国家として、国民の合意の下、個人・企業等のそれぞれが適切にサービスを享受できていて、義務も果たせていることを、プライバシー保護を前提に確認できる「電子社会の戸籍」の仕組み構築も検討課題となろう。

このように電子行政の推進とは、中長期的視点での「この国のかたち」を問い直す営みであり、政治の強力なリーダーシップが求められるのはもちろんだが、企業や国民も自律的な経済主体として積極的に参画すべきものである。


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