月刊・経済Trend 2009年3月号 巻頭言

日本の気概

原副議長 原 良也
(はら よしなり)

日本経団連評議員会副議長
大和証券グループ本社最高顧問

主要な経済指標が、昨年秋以降、日本に限らず世界的に、かつて誰も見たことがないスピードと広がりと深さで落ち込んでいる。まさに米国金融危機という激震によって発生した津波が世界経済に一気に襲いかかっているかのような状況である。

しかし、経済は生き物であり常に動いている。よく見渡せば100年に一度の危機の中にも先行きの回復につながる変化が出ている。第一は今回のグローバルリセッションを加速させた国際的な短期の金融機能が異常な不全状態から徐々に脱し始めていることだ。経済活動の血液である流動性が改善すればやがて今のパニック的な状況は収まってくるはずである。第二は昨年11月のG20で自由貿易と景気浮揚策の必要性が確認されたことだ。中国は4兆元(約52兆円)の景気刺激策を打ち出し、米国も減税とグリーンニューディールを柱とする財政出動を決めた。日本も景気対策の早期の実行が待たれる。そして、第三は特にわが国の場合、円高と資源価格の下落によりマクロの交易条件が改善していることだ。物価高と景気後退の同時進行という最悪のリスクは払拭されている。年後半になれば徐々に景気に薄日が差してくる条件は揃いつつある。

しかしながら、わが国の将来が決して楽観視できる状況でないことに変わりはない。年金・医療・介護、地方再生、環境制約・資源制約の克服、厳しい財政状況など、以前から指摘されている課題はいよいよ待ったなしである。加えて、今後の世界経済は中国、インドなど新興国の比重がますます高まり多極化が進む。こうした言わば混とんとした時代において政治が果たす役割は大きい。長期的な針路を国民に示し将来に対する安心と希望を与えることが重要である。同時にわれわれ産業界の責任も重い。日本には環境技術をはじめ優れた技術力、おもてなしの心に代表されるきめ細かいサービスの提供力、豊富な金融資産がある。これらを総動員し、課題克服に向けた具体的行動を起こすことが責務である。今こそ気概のある日本を世界に向かって示すときである。


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