月刊・経済Trend 2009年5月号 巻頭言

経済のグローバルチェーン再構築を

宮原副議長 宮原耕治
(みやはら こうじ)

日本経団連評議員会副議長
日本郵船会長

今世界で起きていることは何なのか、と考える。この半年余の間に、世界のあらゆる地域で生産も消費も大幅に落ち込み、これを支える流通や輸送の活動も大きく縮小した。「金融」という血流を失って、経済のグローバルチェーンが機能不全に陥り、かつて経験したことのない事態が現出したのである。

顧ればここ数年、異例ともいえる世界同時好況が続いた。先進国と途上国を繋ぐチェーンは絶対的に強固なものに思えたが、アメリカ発の金融危機の突発によって、もろくも寸断されかかっている。昨年9月の危機発生以来、世界各国はそれぞれ自国経済の崩壊を防ぐために、さまざまな政策を打ち出している。需要創出のための財政出動、銀行への資本注入による金融安定化等、各国為政者の眼中にまずあるのは、自国経済の救済である。現に、中国やアメリカなど広大な国内市場を持つ国々は、交通網や公共設備などインフラ投資、さらには代替エネルギーや環境関連投資への大胆な助成などの明確なビジョンを自国民に示しながら、経済再建、雇用創出に着手している。

問題は、このような動きが得てして内向きの保護主義に向かうことである。ひとたび保護主義が蔓延し、世界経済がブロックごとに分断された場合は、わが国のような通商国家が窮地に陥ることはいうまでもなく、ぜひともそのような事態を回避しなくてはならない。

そのためには、何といっても主要国との対話と協調である。G8、G20などの場で対話に次ぐ対話を重ね、国際協調による打開策を見出すとともに、縮みかけたヒト・モノ・カネ・情報の国境を越えた移動を拡大するために、WTOのドーハラウンド交渉やFTA/EPA交渉を加速化することが重要ではないか。わが国は、今こそこうした国際協調行動の先頭に立ち、わが国が生きていくために必須であるグローバルな経済チェーンの再構築に全力を投ずべき時であると思う。


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