月刊・経済Trend 2009年11月号 巻頭言

義を明らかにして、利を計らず

大橋副会長 大橋洋治
(おおはし ようじ)

日本経団連副会長
全日本空輸会長

現在、世界的な不況の影響や新型インフルエンザの流行などにより、航空業界も苦しい状況が続いている。こうしたなかで私の心の支えになっているのが、郷里・岡山の偉人である山田方谷の言葉である。

山田方谷は幕末から明治期の陽明学者で、備中松山藩主・板倉勝静公に仕え、わずか7年間で藩が抱える10万両の負債を一掃し、同時に10万両を蓄財するという、大胆な藩政改革を成功させた人物である。

その方谷の言葉のなかで、私が特に肝に銘じて大切にしている言葉が「義を明らかにして、利を計らず」である。「利を計らず」というのは、利益を求めないという意味ではなく、正しい理念で経営に当たれば、自ずと利益はついてくる、と私は解釈している。同様の意味で、『荀子』に「先義而後利者栄、先利而後義者辱」(義を先にして利を後にする者には栄えあり、利を先にして義を後にする者には辱あり)という言葉がある。こちらの方に馴染のある方は多いかもしれない。

それぞれの企業には、それぞれの義があると思う。航空会社である当社の義は、「安心・安全」である。これが経営の基盤であり、社会への責務だと思っている。義を肝に銘じて誠実に経営に取り組む、それが、経営者にとって常に大切な心構えではないだろうか。

このことを社内に浸透させるために、経営トップが確固たる志をもって、グループ内のすべての従業員にしっかりと伝えていく。それはいわゆる“暗黙知”に落とし込むことであるから、かなりの時間がかかるだろう。

いま、世の中ではCSRの重要性が説かれているが、まさにこの目に見えない暗黙知をいかに浸透させ、企業文化として育んでいけるかが、日本企業にとってのCSRの真髄ではないだろうか。


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