月刊・経済Trend 2010年10月号 巻頭言

新たな時代における企業の社会的責任

佃副会長 佃 和夫
(つくだ かずお)

日本経団連副会長
三菱重工業会長

本年5月から企業行動委員長を仰せつかった。企業に対する国民の監視の目は厳しさを増しており、法令遵守は当然として、法人として強い倫理観が求められる。当社は過去に独占禁止法違反で世間から大きな批判を受け、当時社長であった私以下全社をあげて信頼回復に取り組んだことがあり、そうした経験がお役に立てればと思っている。

企業は事業を通じて雇用や所得を生み出すものであり、企業の活性化があって国民生活が豊かになることに異論はなかろう。企業にとっては、まず本業に全力を尽くすことこそが社会に対する最大の責任である。しかしながら、「本業だけに徹しておればよい」との企業側の考えは、一般社会にそのまま受け入れられないことも確かであり、われわれ企業の存在価値・主張を認めてもらうために、社会との円滑なコミュニケーションの重要性が増している。そのため、各企業はそれぞれの事業活動を通じてより広く、あらゆるステークホルダーとの良好な関係を築くべくさまざまな取り組みを行っている。当社でも、事業所近隣の小中学校で出前理科授業を行うなど、できるだけ身近でわかりやすい内容の活動を心がけている。

こうした取り組みの成果もあって、経済広報センターによる会社員・主婦層・学生等を対象としたアンケート調査では、「企業は信頼できる」との回答が毎年少しずつ増えてきている。しかし、食品安全等をはじめとする消費者問題、それに対応する行政の動きを鑑みるに、まだまだ企業は国民からの信頼感を十分に得ているとは言い難いのではないか。日本人には陰徳の美学があるが、ことCSRに関しては、国民の視点からみてわかりやすい責任ある活動を、企業側がより積極的にアピールしていく必要がある。

労働法制等の法令改正や企業活動のさらなるグローバル化など、企業を取り巻く環境は大きく変化しており、今般、日本経団連の「企業行動憲章」を6年ぶりに改定した。今月は、日本経団連の「企業倫理月間」である。各社におかれては、改めて企業倫理徹底をお願いするとともに、改定された憲章を踏まえ、新たな時代における企業の社会的責任について考える機会としていただきたい。


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