月刊・経済Trend 2011年10月号 巻頭言

二元論の陥穽

芦田副議長 芦田昭充
(あしだ あきみつ)

経団連評議員会副議長
商船三井会長

経済的なテーマが政治的に取り上げられると、往々にして二元論的な対立の構図でとらえられ、全体最適という大切な点が忘れ去られ、賛成・反対のはざまで身動きが取れなくなる例をわれわれは数多く経験してきた。

環太平洋経済連携協定(TPP)の国内の議論についても、「国内農業保護」対「国際競争力維持」、言い換えれば、「内需セクター」対「外需セクター」という二元論が中心となっている。本来の経済効果に対する冷静な分析なしに、TPPへの参加の是非がそれぞれの立場で短絡的に語られ、政治的な踏み絵のようになっている。誠に残念な状況である。

実態は単純な二元論で割り切れるものではなく、根本でお互いに補完する関係にあるとみるべきであろう。東日本大震災による部品供給の滞りにより自動車輸出に影響が出た事例を振り返ると、外需向けの自動車の部品を生産する企業は、その活動を通して地域の雇用や税収に貢献していた。これが周辺の農業セクターにも還元され、地域の活性化に役立っていたという見方ができないか。

国全体でみると、わが国は金額ベースで世界第5位、先進国では米国に次いで第2位の農業生産国である。2010年度のカロリーベースの自給率は39%にとどまるが、金額ベースでは69%に達する。これは、外需に牽引されて国民の購買力を伸ばしたわが国が、農産物においてもより高付加価値のものにシフトしてきた結果ととらえることができる。外需の恩恵に浴している製造業を窮地に追い込んでいけば、地域経済を疲弊させ農業改革どころではなくなる。

TPPの議論を「農業保護」か「産業の国際競争力の確保」かといった政治的な対立の象徴にするのではなく、経済全体と個別の産業それぞれにおけるメリットとデメリットを定量的に評価したうえで、政府が賢明な選択肢を国民に示すことを切に望むものである。


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