月刊・経済Trend 2012年3月号 巻頭言

農業再生への期待

小林副議長 小林栄三
(こばやし えいぞう)

経団連評議員会副議長/伊藤忠商事会長

TPP(環太平洋経済連携協定)など高度な経済連携の枠組みに参加することは、わが国が貿易立国である限り避けて通れない。それは、財政や社会保障あるいは雇用の確保などに資する安定的な経済成長を維持するため、成長の著しいアジアなどとの経済関係を密にする必要があるからである。一方、農業人口の減少や高齢化、耕作放棄地の拡大など、戦後累積されたひずみが膨れ上がっていたわが国の農業は、東日本大震災やその後の放射能汚染によって、さらに多くの重荷を背負うことになった。しかし、わが国は成長と、質量ともに安定した食料供給の確保という、二兎を追い続けなくてはならない。

わが国農業の再生には、保護だけではなく、魅力ある産業に育てていく必要があるが、農業をめぐる議論のなかで極端に保護主義的な意見がみられたのは実に残念なことである。けれども、こうした議論によって国民全体に、食やこれを支える農業の抱える問題、あるいは乗り越えるべき課題が広く認知され、食や農業のあり方が真剣に論じられるようになったことは有意義であったともいえる。

これからは、参入規制の見直しや新規就農支援措置の充実、農地集積促進策の拡充など、あらゆる政策手段を動員して供給サイドの改革を行うと同時に、食の安全・安心や、おいしさを享受し続けるためには、相応のコスト負担が伴うという認識を国民全体が共有すること、すなわち消費サイドの意識改革を促すことも必要である。貿易・投資・サービスの自由化に対応する直接的な国内措置は、限られた財政のなかで行われなければならず、この制約を克服するためにも、賢い消費行動が求められる。わが国の強みは、こうした違いのわかる消費者が存在することであり、日本の農業者は、そうした消費者のニーズに積極的に応えていくべきではないか。

震災で大打撃を受けた農業者にも、塩害に強いワタの試験栽培やハウスでのイチゴ生産に着手される方々が出てきた。産業界もそれぞれの活動分野で協力を惜しまない。われわれは、やればできるという、平成のオプチミズム(楽観論)を持ち続けたい。


日本語のホームページへ