経済くりっぷ No.3 (2002年8月13日)

7月31日/経済法規委員会企画部会意見

当事者の納得が得られる、迅速な審理を求める

−法務省に民事訴訟法改正要綱中間試案に対する意見を提出


経済法規委員会企画部会(部会長:西川元啓氏)では、法制審議会民事・人事訴訟法部会が取りまとめた「民事訴訟法改正要綱中間試案」(9頁参照)について法務省の意見照会に応じ、企画部会としての意見を取りまとめ、法務省に提出した。以下はその全文である。


『民事訴訟法改正要綱中間試案』についてのコメント

2002年7月31日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会企画部会

第1 計画審理

1.裁判所及び当事者の責務

計画審理の推進に賛成する。ただし、当事者の事情に配慮し、当事者双方に納得性のある計画の立案と適宜の修正がなされるべきである。

2.審理の計画を策定すべき事件

「事件が複雑であるなどその適正かつ迅速な審理の実現のために審理の計画を定める必要があると認められるとき」に加え、「一方当事者からの申立てがあったとき」にも審理の計画を策定することとすべきである。

3.審理の計画の内容

審理の計画において「判決の言渡し時期」は、計画審理の要である分かりやすさの面において重要である。司法制度改革顧問会議における首相の挨拶で「裁判の結果」が必ず2年以内に出るように改革したい旨が表明されており、和解のように実際に判決に至らないケースがあるとしても、判決の言渡しを含めた裁判の終結時期を目安として示すべきである。
また、計画の変更については、相手側の攻撃方法をみて初めて対応の必要性が判明する場合等、裁判所がやむを得ないと考える場合は認められるべきである。さらに、当事者の申出による場合でも、当事者双方との協議・合意を前提として、当初計画の変更を認める柔軟性が必要である。

4.審理の計画の効力

そもそも時機に後れた攻撃防禦方法の却下に関する一般規定(民事訴訟法157条)が機能してこなかったことが問題であり、審理の計画の有無にかかわらず、157条の積極的な活用をすべきである。その上で、審理の計画を策定した事案についてはA案の採用を検討すべきである。

第2 証拠収集等の手続の拡充

現行法の証拠保全を必要とする範囲を超えた、訴えの提起前における証拠収集手続の創設については、強く反対する。
当事者の関心事は紛争の発生から終結までの期間の短縮である。提訴前に試案の示す証拠収集を行えば、司法制度改革の目標にあるように提訴から判決までの期間は短縮される可能性はあるが、かえって紛争全体の長期化を招くおそれがある。現行の任意手続、弁護士会の照会手続、提訴後の当事者照会手続、証拠保全手続で証拠収集に十分であり、裁判所の関与しない段階で一方当事者に義務を負わせるような新たな制度を設けることは当事者間の公平を害する。特に、通知に示される事実関係が不明確にならざるを得ない可能性が高い中で、被通知者側では初期調査のための費用・工数を負担させられることとなり、リーガルコストの増大を招く。
特に問題となる個別の内容への反対理由は以下の通りである。

  1. 提訴予告通知制度については、請求の特定性や具体性を欠く、法律上の基礎を欠く、他の不当な目的で使用される等の濫用の懸念を払拭できない。誠実な請求者との間では、現在でもきちんと争点整理がされ訴訟提起前にADRを活用したり和解したりすることも多い。不誠実な訴訟を起こす者、裁判外の嫌がらせを目的とする者に対しては、提訴予告通知のみでは実効性のある濫用防止手段とはならず、通常は訴訟に至らないようなケースにまで相手方の負担を徒に増やすだけである。
    また、(注4)で必ず弁護士を予告通知の代理人とすることが挙げられているが、濫用防止には逆効果となることもありうる。
    なお、濫用の防止について触れられているが、(注1)(1)(2)(注2)(1)(2)に掲げられた措置に加え、たとえば、(1)提訴予告をしたにもかかわらず正当な理由なく相当の期間内に訴えを提起しない者、不当な意図により提訴予告をしたことが判明した者は、提訴予告により被通知者に生じた損害を全て負担することとする、(2)証拠収集手続の利用の際には相当の担保の提供を必要とする、(3)情報収集者が提訴しなかった場合、収集した情報の利用及び第三者への提供を禁止する(罰則付)などの措置を実効性あるかたちで講じない限り、効果がないと思われる。

  2. 当事者照会については、照会が延々と続き、争点とは関係のない照会も多くなる可能性が払拭できない。被通知者が照会に応ずるとの書面による同意をすることを要件とすることは当然であるが、回答拒絶事由(予告通知が具体性を欠くなど)を定めなければ受け入れることはできない。

  3. 文書の送付の嘱託等の証拠収集手続については訴訟に直接関係のない第三者への嘱託も考えられるが、その必要性について争点整理前に裁判所に的確、公平な判断がなしうるのかとの懸念がある。また、裁判所の決定については当事者の不服申立てを認める必要がある。

第3 専門訴訟への対応の強化

1.専門委員

専門委員の導入には賛成する。特に、特許等の侵害訴訟においては、技術的な論点を知的財産権法の要件に適用しなければならず、技術的な要素と法律的な要素が密接不可分の関係にあるため、技術に関する専門家が、証人・当事者等に発問するなど、専門技術的見地から裁判に積極的に関与する新たな制度の導入が不可欠である。
しかし、裁判官の心証への影響などに配慮すれば、専門委員が証人、当事者本人、鑑定人に対して発問する場合や和解に関与する場合には、事前に当事者の同意を得ることを要件とすべきである。またその場合には両当事者も各々専門家を活用し、専門委員に対する応答などができることとすべきである。専門委員の公平性・中立性を確保するため、除斥・忌避については、裁判官のそれに準じるものとすべきである。
なお、特許侵害訴訟における調査官制度については、制度の拡充を図りつつ、引き続き活用すべきである。

2.鑑定

試案の考え方に概ね賛成する。
ただし、鑑定手続が証人尋問の手続に準じているのは、鑑定が証拠調べのひとつだからであり、「尋問」を「質問」とすることで、鑑定の証拠力が落ちるという問題が生じたりするおそれがないようにしていただきたい。

3.特許等に関する訴えの専属管轄化

試案の考え方に概ね賛成である。訴訟の遅延を招かないよう、人員の増強等をしていただきたい。
特許裁判の専門性の担保と迅速化を図り、東京・大阪両地裁の専門部を実質的に「特許裁判所」として機能させるため、特許権・実用新案権だけでなく、知的財産全般の訴訟事件について、東京・大阪両地裁の専属管轄とすべきである。その一方、必ずしも高度な専門性が伴わない事件については、当事者の利便性も考慮しつつ、両地裁の判断による移送を柔軟に認めるべきである。
控訴審については、専門的裁判官や裁判所調査官という人的資源を集中的に投入し、判断が区々になることを事実上防止するため、知的財産全般に関する訴訟事件の控訴審は東京高等裁判所の専属管轄とすべきである。これにより米国の連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が果たしている機能と同様の効果を挙げることができる。

第4 簡易裁判所の機能の充実

試案の考え方に概ね賛成である。ただし、和解に代わる決定について、分割払いの決定をする際には債権者の意見を十分に斟酌するための手続を設けることが必要である。

第5 裁判所への情報通信技術(IT)の導入

試案の考え方に概ね賛成である。ただし、プライバシーの保護には留意すべきである。

第6 その他

試案の考え方に概ね賛成である。

《担当:経済本部》

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