経済くりっぷ No.3 (2002年8月13日)

7月15日/経済法規委員会企画部会(部会長 西川元啓氏)

審理の計画化、専門委員導入で民事裁判を迅速化

−2003年通常国会で民事訴訟法を改正


経済法規委員会(委員長:御手洗副会長)は、このほど新体制発足に合わせて、企画部会を刷新した。その第1回企画部会を7月15日に開催し、法務省の小野瀬厚参事官より、このほど法制審議会民事・人事訴訟法部会が取りまとめた民事訴訟法改正要綱中間試案(2003年通常国会に法案提出予定)について説明をきき、意見交換を行った。なお、企画部会では、本中間試案について法務省に意見を提出した(6頁参照)。

I. 法務省説明要旨

今回の民事訴訟法改正の目的は、昨年6月12日に公表された司法制度改革審議会の意見を踏まえ、民事裁判の充実・迅速化を図ることである。以下、要綱試案を項目に沿って説明する。

1.計画審理の推進

公害事件等の大規模訴訟や医事関係事件等の専門的知見を要する事件など、審理が長期化するおそれのある複雑な事件等について、裁判所に審理計画の策定の責務を負わせることとしている。具体的には、争点整理の期間、証人・当事者本人の尋問を行う期間、審理の終期等を定めることとする。判決の言渡し時期を計画に定めるかどうかは、終期を定めればほぼ自動的に決まることや和解のケースもあることなどを考慮して、今後さらに検討する。
計画を定めた場合に裁判所が定めた提出期間に遅れた攻撃・防禦方法の扱いについて、

  1. 現行法の「時機に後れた政策・防禦方法の却下」よりも強い制限を課す、
  2. 現行法の上記制限を適用することで足りる、
の2案があり、各界の意見を聞いて今後詰めていく。

2.証拠収集等の手続

訴えの提起をしようとする者が訴えの相手方に対して訴えることの予告を書面で通知したときは、通知者と被通知者(通知を受けた者)は、

  1. 訴えの提起前における当事者照会、
  2. 訴えの提起前における証拠収集手続、
を行うことができる。
現行法では、訴えの提起前に証拠を収集する方法として証拠保全手続が定められているが、改ざんのおそれや証拠が滅失するおそれがあるなど予め証拠調べを必要とする事情が存在する必要がある。要綱試案では、こうした要件がなくとも提訴予告通知をした段階で準訴訟状態というべき状況を認め、証拠集めを認めることで、その後の訴訟における争点整理の効率化や審理計画の策定の円滑化を図ることとしている。一方で提訴予告を要件とするだけでは濫用のおそれがあることから、何らかの制限が必要という意見もある。
訴えの提起前における証拠収集手続には
  1. 文書の送付の嘱託(例:病院のカルテ等の送付)、
  2. 調査の嘱託(例:債務の弁済の有無が争われている事案での銀行振込の有無の調査、文書偽造が争われている事案での市町村の印鑑登録の有無の調査)、
  3. 判定の嘱託(例:建築瑕疵をめぐる紛争等の専門的知見が問題となる事件での専門家による意見陳述の嘱託)、
  4. 現地調査手続(例:境界紛争におけるその境界付近の現況の調査)、
というメニューがある。
これら手続を認める場合には、申立てがあった際に、請求の理由の存否に係る証拠であることが明らかであること、自ら収集・調査することが困難であることなどの要件を課すことなどについて、引き続き検討する。

3.専門訴訟への対応の強化

専門的知見を必要とする事件について、審理の充実・迅速化を図るため、これらの事件の審理に当たり、裁判所が専門家の意見をきくことができる専門委員制度を創設することとしている。専門委員の関与の範囲・要件については、なお検討する。
さらに、特許、実用新案権等に関する訴訟の第一審を、専門的処理体制で備えた東京地裁・大阪地裁に専属化することも提案している。

4.簡易裁判所の機能の充実

  1. 利用者の多い、少額訴訟に関する特則(現行は訴訟の目的の価額が30万円以下の金銭支払い請求を目的とする訴え)の額の上限を引き上げる。

  2. 消費者金融事件などで被告が裁判に欠席することがあるが、簡易裁判所が和解的解決が相当と判断したときは、調停に付さずに和解に代わる決定をすることができることとする。

5.裁判所へのITの導入等

インターネットを利用した支払督促の申立て、ITを活用した支払督促の作成等を行えるようにする。電話会議システムを利用した弁論準備手続期日における和解等をすることができるようにしたり、弁論準備手続において受命裁判官が文書の証拠調べをできるようにする。

II. 意見交換

日本経団連側:
企業にとっては、訴訟が提起されてから終結までの期間よりも、紛争に巻き込まれてから解決までの期間を短縮したいとの要望がある。制度の趣旨はどこにあるのか。
法務省側:
基本的に訴訟が提起された後の審理の充実・迅速化を図るものであるが、証拠収集制度の拡充は、結果として話合いによる解決を促進する面もあろう。その濫用の防止のための要件については、今後寄せられる意見をみて検討する。

日本経団連側:
保険金の支払いについて受取人を主張する者からの照会に対応すると、真実の受取人から「なぜ情報を開示したのか」と言われる可能性がある。通知者、被通知者双方の合意があっても情報開示は困難だ。
法務省側:
試案は、現在ある提訴後の当事者照会制度を提訴前でも可能とするものであるが、その要件については、今後、寄せられる意見を見て検討する。

日本経団連側:
(1)専門委員と裁判所の調査官とを一本化してはどうか、(2)特許訴訟については控訴審を東京高裁に統一し、判例を統一化する機能を持たせてはどうか。
法務省側:
(1)は民事訴訟法というよりも知的財産権の保護という枠組みで議論する問題と思われる。(2)については、今後寄せられる意見を見て検討する。
《担当:経済本部》

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