1月14日/意見書
2002年7月に改正健康保険法が成立したが、抜本改革は先送りされた。同改正法・附則には、(1)保険者の再編・統合を含む医療保険制度の体系のあり方、(2)新しい高齢者医療制度の創設、(3)診療報酬の体系の見直し、の3項目について、政府が今年3月末までに「基本方針」を策定することとされている。本問題について日本経団連は、社会保障委員会(委員長:西室泰三氏、共同委員長:福澤武氏)の医療改革部会(部会長:森昭彦氏)が中心となって、昨年9月から検討し、1月14日に「医療制度の抜本改革に関する基本的考え方と『厚生労働省試案』に関する見解」を公表、関係当局に建議した。なお、1月17日には坂口力厚生労働大臣との意見交換で、森部会長が見解の内容を申し入れた。見解の概要は以下の通り。
わが国の公的医療保険制度については、医療の質の向上と効率的なサービスの提供の実現に向けた抜本改革によって、国民の安心を確保する必要がある。
抜本改革の実現には、情報開示を徹底して進めることが不可欠であり、その上で、公的医療保険制度の守備範囲の見直し、老人保健拠出金の廃止と独立方式による新高齢者医療制度の創設、医療提供体制ならびに診療報酬体系の改革、保険者機能の発揮・強化による「選択」と「競争」の促進等に取り組む必要がある。
これら改革によって、経済活力を損なうことなく、長期的に持続可能な制度の構築が図られ、国民皆保険制度に対する国民の信頼を回復することができる。
医療サービスの「質の向上」「コストの適正化」を図る上で、保険者ならびに被保険者・患者のそれぞれにおいて適切なインセンティブの働く機能、仕組みの導入が求められる。
とくに、保険者は、被保険者・患者の立場にたって、医療機関へのチェック機能をもつとともに、被保険者の疾病予防・健康管理を行うなど、医療の効率化を進める上で大きな推進力となる。とりわけ、健保組合は、事業主と一体となって企業の従業員、家族の健康管理を行うことで生産性向上を図るという重要な役割を担っており、その存在意義は極めて高い。
医療制度改革に関する基本理念および年1兆円規模で増大している国民医療費の抑制に向けた抜本改革の具体的な施策が示されていない。とくに、保険者機能の発揮に資するインセンティブを伴った具体策がまったく示されていない。政府は、早急に抜本改革案を示すべきである。
単なる保険者の再編、統合、一元化は、安易な保険者間の財政調整により制度の維持を図ろうとするものである。また、保険者機能が損なわれることが懸念される。
改革の「05年着手、07年完成」では遅すぎるので、急ぐべきである。
被用者保険と国保とは、制度が根本的に異なることから、それらの間の財政調整は行うべきではない。
政管健保の「保険者は現行の形態を基本としつつ、都道府県を単位とした財政運営」の方向では、現状と変わらない。保険者機能の発揮が担保される保険者とすることが不可欠である。
安易な再編、統合、財政調整は、健保組合の自主、自立、自己責任に基づく運営を阻害し、保険者機能を縮減させる。
A案(制度を通じた年齢構成や所得に着目した財政調整)は、財政調整によって制度の維持を図ろうとするもので賛成できない。
B案(75歳以上の後期高齢者に着目した保険制度の創設)は、独立方式の考え方が盛り込まれたことは評価できるものの、後期高齢者のみを対象としていること、現役世代からの財政支援を予定していること等現行拠出金制度と変わらないものとなっており、抜本改革とは言い難い。
新たに、65歳以上を対象とする「シニア医療制度」を創設すべきである。財源は負担能力と受益に見合った高齢者の負担の他に、公費によって国民全体で支える消費税等の間接税によることが望ましい。
老人保健拠出金制度は廃止するとともに、退職者医療制度も「シニア医療制度」創設に伴い、その役割を縮減・廃止すべきである。
臨床実績に基づく客観的データと開かれた論議を通じ、医療機関の機能や患者の病態等に応じた、「分かり易い診療報酬体系」の導入を図るべきである。
入院医療の包括払いの方向は評価できるが、診療所等のプライマリケアを担う外来医療ではコスト意識の働きにくい出来高払い制が基本となっている。医療の標準化を進め、定額化・包括化を徹底すべきである。