経済くりっぷ No.21 (2003年5月27日)

5月12日/意見書

「日タイ経済連携協定の早期交渉開始を求める」を発表


日本経団連では、昨年1月、小泉首相が提唱した日・ASEAN包括的経済連携構想を支持しており、その実現のためには、まずわが国にとって特に重要なタイとの経済連携を進めるべきである。そこで、アジア・大洋州地域委員会(共同委員長:茂木友三郎氏、石津進也氏)が日タイ貿易経済委員会(委員長:安居祥策氏)や貿易投資委員会(委員長:槙原 稔氏)と連携を図り、標記意見書を取りまとめ公表した。以下はその全文である。


日タイ経済連携協定の早期交渉開始を求める

2003年5月12日
(社)日本経済団体連合会

I.ASEANとの包括的経済連携実現のためタイとの交渉を推進する

日本経団連では、2003年1月、「活力と魅力溢れる日本をめざして」と題するビジョンを発表し、2025年度を見据えたわが国経済社会のグランドデザインを示した。その中でわれわれは、わが国の経済水準を維持・向上させるためには、ASEAN+3を中心とする東アジア自由経済圏を早期に構築すべきであり、そのためにはわが国自らが、モノ、ヒト、カネのさらなる自由化による第三の開国を進めることで、リーダーシップを発揮すべきことを主張した。
一方、2002年9月には、「日・ASEAN包括的経済連携構想の早期具体化を求める」と題する意見書を発表し、東アジアにおける中国の比重が高まる中で、ASEANとの経済連携を強化することにより、バランスある発展をめざすべきことを主張した。
今後、わが国がASEAN諸国との包括的経済連携を実現していくためには、日本企業にとって特にプライオリティの高いタイとの二国間交渉を、シンガポールに続き、スピードをもって的確に進める必要がある。

II.日タイ経済連携協定の交渉を開始する

ASEANには、過去40年にわたるわが国企業のオペレーション経験による人材の厚みや部品産業からアセンブリーまでの幅広い産業集積がある。過去5年の直接投資額は、2兆6,194億円にのぼっているが、そのうちタイへの直接投資額は7,088億円であり、対ASEAN投資の27.1%を占め、最大の投資先となっている。その多くが製造業であり、1,300社以上の日系進出企業が、約38万8千人を雇用しているなど、わが国にとってタイは、ASEANにおける生産及び販売活動の拠点としての重要性を一層増しつつある。
一方で、中国経済の影響力も増大傾向にある。安価で良質な中国製品が市場に出回る中で、わが国企業としては、製造業を中心に、中国とASEANとの直接投資のバランスを取りつつ、タイを含むASEAN諸国における最適地生産を追求している。タイの事業環境を早急に改善しなければ、対中投資の誘因が増し、わが国企業のタイにおける事業展開の見直し、ひいては、事業の再編を迫られることにもなる。結果として、東アジアにおける共存共栄は難しくなり、日本企業の事業環境も厳しくなる。
日系企業は、グローバル市場においては、自社グループ内の企業も含めて中国を拠点とする企業との競争に直面している。同時に、タイに進出している他国の企業との競争にも直面している。特に米国は、タイ米修好経済関係条約で投資に関する内国民待遇を認められており、既に日系企業は米系企業に比べて不利な状態にある。加えて中国は、タイを含むASEANとの経済連携に向けた協議を進めている。今後、他の国々がわが国に先んじてタイとの経済連携を進めれば、日系企業は更に不利な状況におかれることになる。
現在、タイは、日本、中国以外に、オーストラリア、インド等との経済連携も検討しているが、特に、国の方針として、日本との経済連携を双方の障害を克服して推進しようという機運が強い。こうした機運も捉え、2002年5月から進めてきた日タイ経済連携の予備協議および作業部会における成果を活かして協定成立への道筋を立て、できるだけ早く交渉に入るべきである。まずは6月に予定されている日タイ首脳会談において交渉入りが合意されることを期待する。
特に、交渉の難航が予想される農産物の関税引き下げについては、基本的には農業構造改革による競争力強化で対応すべきであり、自給率維持のために必要な農業政策のあり方を検討すべきである。交渉の結果、コメなどのセンシティブ品目を例外とする、あるいは実施時期を遅らせるなどの配慮も必要となろうが、この点はタイ側も必要性を認めている。その場合でも、GATT及びGATSの関連条文を満たす必要がある。
他方、タイの平均関税率が2割超と高いことに加え、外国人事業規制法に象徴される規制が維持されている現状に鑑み、タイに対しては、伝統的なFTAによる関税の撤廃はもとより、サービス・投資分野の自由化及び貿易円滑化の具体策を強く求めるべきである。

III.タイとの経済連携を重層的通商政策の一環に位置づける

以上のことから、早期に、わが国と深い経済関係にあるタイと経済連携協定を結び、その成果を他のASEAN諸国との経済連携強化に活かしていくことが重要と考える。現在、フィリピン、マレーシアとの協議も進んでいる。われわれとしては、こうした国々との経済連携も積極的に進めることが、ASEANとの包括的経済連携、ひいては東アジア自由経済圏の構築にとって重要と考える。
日本経団連としては、マルチ、バイ、リージョナルなどの重層的通商政策の重要性を主張している。わが国政府は、タイとの経済連携協定の交渉を、韓国やメキシコとの二国間協議と並行して積極的に推進すべきである。

以上

《担当:国際経済本部》

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