経済くりっぷ No.22 (2003年6月10日)

5月27日/信託業法等改正に関する打合会

ニーズに応じた信託業法等の柔軟な改正を求める


日本経団連の昨年10月の規制改革要望などを受け、政府金融審議会第二部会では、秋の臨時国会への法案提出を目途に信託業法等を改正し、受託可能財産の拡大、信託会社の一般事業会社への開放に向けた検討を進めている。そこで日本経団連ではこれら事業に関心の高い企業を中心に信託業法等改正に関する打合会を設けて、考え方をメモとして取りまとめ、金融制度委員会資本市場部会に報告した。以下はその全文である。


ニーズに応じた信託業法等について(メモ)

2003年5月27日
日本経団連経済本部

企業・家計において、近年、多様な資産が認識されている中で、それらの資産を効率的に管理・運用・処分することは国民経済の活性化にとっても重要な課題である。信託は、それら資産(財産権)を最も効率的に活用することのできる仕組みであり、その柔軟な機能に大きな期待が集まっている。
とりわけ企業には、グループ内に散在する知的財産権などの財産権を倒産などのリスクから隔離しつつ集約・管理することや、信託機能を利用した新しいビジネスの創出が期待されている。また信託を活用した新たな魅力ある金融の仕組みが提供されるならば、中小企業をはじめとする資金調達手段の多様化にもつながり、新事業の創出などにも極めて重要な意義を持つ。
既に信託を担いうる新たな主体が現実のニーズをもって登場しつつあり、一般事業法人等の信託業への新規参入を可能にするため、信託業法ならびに金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(兼営法)の早急な改正が求められており、経済界としてこれらの動きを集約して、以下の通り、早期の制度改正を求める。

1.受託可能財産の拡大

信託業法4条は、受託財産の範囲を、金銭、有価証券、金銭債権、動産、土地及びその定着物、地上権及び土地の賃借権に限るものとしている。しかしながら、受託可能財産をこれら財産に限定する理由には乏しく、本来、その内容を特定し、換価することのできる権利であれば、これを受託可能財産としてよいと考えられる。
当面、同条を改正し、現実のニーズとして信託機能の活用が強く求められている、特許権・著作権等の知的財産権、コンテンツ(映像、音楽作品、ゲームソフト等)、建物賃借権(定期借家権等)、抵当権等の担保権などについて受託可能財産に追加するとともに、将来のニーズに備え機動的な拡充が可能となるよう、限定列挙の撤廃を検討すべきである。
また、これら財産についての開示に関する制度の整備についても、あわせて推進すべきである。

2.信託業の一般事業会社への開放

信託業法1条は、本来、一般事業法人も免許を取得すれば信託業務を営む信託会社を設立できることとしているにもかかわらず、その免許基準などの具体的規定が整備されていないため、現実には兼営法により、金融機関のみが信託業務を兼営できることとなっている。
信託を業として営む者は、受託者として、受益者のために財産権を管理する機能、あるいは運用・処分する機能を備えているならば、広くこれを認めるべきである。
そこで、信託業を営む要件を、(1)財産権の受託者として一般的に備えるべき要件、(2)行おうとする受託業務の機能(財産権管理機能あるいは処分・流通機能)に応じた要件に区分したうえで、信託業法においては、(1)に加えて、(2)のそれぞれの要件に応じた必要最小限の規定を置くこととすべきである。

(1) 財産権の受託者として一般的に備えるべき要件
  −受益者その他債権者保護に関する措置

  1. 委託者および受託者からの信託財産の独立性・倒産隔離機能の具備
    受託者に信託財産の分別管理義務を課す。信託財産を開示し、倒産隔離を図ることとする。

  2. ファイアーウォールの設定(利益相反防止義務)
    特定会社の財産等での運用を制限する規制など利益相反防止義務を課す。ただし、親会社から特定の財産権のみを受託し、親会社以外からの出資・投資を受けない信託専業子会社(仮称・例えば企業年金を扱う信託子会社)については、この規定の適用を排除することとする。

  3. その他の留意事項
    本来、信託を業として営む者を株式会社に限定する必要はなく、また会社あるいは営利法人である必要もない。当面、株式会社以外の会社形態での参入を認めるべきである。また、必要な財産的基礎、人的・組織的構成要件等について一般的要件としては設けるべきではなく、(2)で行おうとする受託業務に応じてそれぞれに設定することとすべきである。

(2) 行おうとする受託業務の機能に応じた要件

  1. 専ら受託財産の管理・運用のみを行う場合
    専ら受託財産の管理のみを行う場合、ならびに受託財産の性質を変えることなくその運用のみを行う場合には、受益者その他債権者保護の観点から、信託財産の権利内容・取扱い実務等についての知識(資格者の設置など)、対象財産の利用先の選定能力(組織・体制の整備)などについて、必要最小限の要件を設ける。

  2. 受託財産の処分、信託受益権の流通をする場合
    受託財産の処分を行う場合には、委託者(受託者)からの指図権の有無に応じて、管理・運用だけを担う信託会社と比較して、より強力なリスク管理体制やセーフティネットの整備が必要になるとともに、人的構成要件についても受託業務に応じた要件を付加する必要がある。
    さらに信託受益権の流通化を行う場合には、これらに加えて投資家保護策として、その内容に応じて、証券取引法その他関係業法に準じたディスクロージャーや相場操縦、インサイダー取引などの規制を置くこととすべきである。

3.併営業務の拡大等

信託業法5条は、信託会社が併営できる業務を、保護預り、社債等の振替に関する法律上の口座管理機関として行う振替業、債務保証、不動産売買の媒介または金銭・不動産の貸借の媒介、公債社債・株式の募集とその払込金の受入れまたはその元利金もしくは配当金の支払いの取扱い、財産に関する遺言の執行、会計の検査、これら事項に関する代理事務に限定している(ただし、株式の募集は証券取引法65条で禁止)。
また、兼営法5条は信託業務に係る代理店となることができる者を金融機関と商工組合中央金庫に限定しており、保険会社などには認められていない。
受託財産の拡大に併せて新規に参入する者の業態、業務の実態に即して併営業務を拡大するとともに、代理店となることができる者の基準を緩和すべきである。

4.自己執行義務の緩和

信託法26条は、受託者が信託行為に別段の定めがある場合を除き、やむを得ない場合でない限り、他人による信託事務の処理を認めない「自己執行義務」を定めている。しかし、受託者の業態、業務の実態に応じて自己執行義務を緩和すべきであり、あらかじめ信託行為に定めれば、第三者への包括的委任も可能であること、履行補助などのアウトソーシングが許容されることを明らかにすべきである。

5.今後の課題

信託業法の改正とともに、信託の特長である課税上のパススルー(導管性)が維持されるよう、所要の税制上の措置を講じるべきである。
また、信託法の抜本改正、商事信託法制の検討など、長年の課題となっている事項について、スケジュールを明らかにした上で、着実に改正に向けた取り組みを進めるべきである。

以 上

《担当:経済本部》

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