経済くりっぷ No.23 (2003年6月24日)

経済法規委員会企画部会(部会長 西川元啓氏)

破産法・倒産実体法の改正案の審議が大詰め

−今秋の臨時国会に法案を提出


法制審議会倒産法部会では、破産法・倒産実体法の改正要綱案について本年秋の臨時国会提出に向けて大詰めの議論を行っている。日本経団連経済法規委員会企画部会では、要綱案取りまとめを前に、法務省民事局の小川秀樹参事官から検討の概況をきいた。

○ 小川参事官説明要旨

1.破産法等の改正の対象

現在審議している改正事項は、

  1. 法人に対する破産手続、
  2. 個人に対する破産手続・免責手続、
  3. 倒産実体法、
  4. その他(罰則の整備、破産法の現代化)、
に分けられる(検討事項全体については「経済くりっぷ」No.6(14頁)参照)。日本経団連の主な関心事項の審議状況は以下の通りである。

2.賃貸借契約に関する倒産手続の効力

賃借人が破産した際に、賃貸人が解約の申入れをすることができるとした民法621条を削除する。ただし、経済界から懸念のあった倒産解除特約の効力は否定されない。たとえば、オーナーが破産したテナントに対し約定の解約申入権や賃借人の債務不履行等に基づく解約を申し入れることはできる。
賃貸人が破産した際に、現行法では破産管財人が契約を解除するか、継続するかの選択権を握っている。この場合、賃借権やその他使用・収益を目的とする権利を設定する契約について、賃借権者がその権利を登記・登録等の第三者に対抗できる要件を備えているときは、破産管財人は解除権を行使できない。経済界では、ライセンス契約の対象となる知的財産権が登録制度等を備えていなかったり、秘密保持等の理由で登録されなかったりすることから、ライセンス契約に基づく権利の解除権を制限すべきだと主張している。しかし、知的財産権等についても換価を前提とする破産手続において、譲受人に対抗できない権利の解除権を制限し、賃借権者等の保護を図ることを困難と考えた。

3.請負契約に関する倒産手続の効力

発注者が破産し、破産管財人が契約の解除をした場合には、請負人は損害の賠償につき破産債権者として権利を行使できるようにする。経済界からは請負人の側からの契約解除の場合にも同様の効果の付与が求められているが、請負人が既にした仕事に対応する部分は、それが先履行である以上、その信用リスクは請負人が負うべきであり、制度化は困難である。
請負人が破産した場合の請負人の仕事完成義務等を定めた破産法64条は削除する。

4.その他債権に関する倒産手続の効力

履行期を異にする複数の債権・債務を一括清算し、破産時の残額債権を一本化することを予め定める「一括清算ネッティング条項」をデリバティブ取引以外の相場のある商品取引でも利用できることとする。
電気・ガスなどの継続的給付を目的とする双務契約では、受給者が破産した際、供給側は破産申立て前の請求について弁済がないことを理由に破産宣告後の義務の履行を拒むことはできない。破産申立て後破産宣告前の請求権は財団債権(抵当権などの別除権に次ぎ優先順位の高い債権)とする。
破産宣告前の原因に基づく租税債権で、破産宣告の日後またはその前の一定期間内に納期限が到来するものは財団債権とし、それ以外のものは優先的破産債権に改める。
破産宣告前の退職手当の請求権は、退職前の一定期間の給料の総額等に相当する額を財団債権とし、優先的地位を引き上げる。
債権者と債務者との間において破産手続における配当の順位につき劣後的破産債権に後れる旨の合意(劣後ローン)は、これまで契約ベースで行われてきたが、破産法上、有効であることを位置付ける。

5.否認権の整理

破産法72条の否認権制度(破産管財人が破産債権者のために、破産宣告前の一定の状況下での破産者の財産処分を否認する制度)について、(1)狭義の詐害行為(例:本来の価値よりも低い価格での財産の売却等)に関する否認と、(2)偏頗行為(特定の者への弁済)に関する否認について、その効果の要件と内容を整理した。(2)については「支払不能」後(一定の場合支払不能の30日前まで)に認めることができる。また、担保の提供は(1)にあたらないこととし、救済融資が否認されないよう手当てした。
不動産等を費消・隠匿が可能な財産に代える行為については、(1)破産債権者を害する行為に当たりうるとして否認の対象とするが、適正価格による不動産等の売却等に対する萎縮的効果を除去する観点から否認の要件を限定する考え方と、(2)「実質的担保価値の減少」を否認の対象とし、金銭等と実質的担保価値の異ならない財産の適正価格による売却は否認の対象としないとする考え方の2つがあり、さらに検討を要する。
詐害行為の否認の効果は、対象となる財産権の処分を無効とし、取り戻すことである。相手方は、財産返還に伴い、対価等の返還を請求する方法や、あるいは差額の償還をすることを請求する方法により、否認による影響を低減することができる。なお、前者の場合の債権は財団債権となる。

6.民事留置権

占有する物に関して生じた債権の弁済を受けるまでその物を留置する権利である民事留置権は、現行では破産時には効力を失う。そこで (1)商人間に認められる商事留置権と同様の特別の先取特権とする、(2)別除権とする、(3)留置権としての効力を存続する、という効力強化案を検討している。

7.相殺禁止の範囲

現行法では支払停止前の相殺は可能であるが、相殺禁止の範囲を拡張し、支払停止前であっても一定の場合は「支払不能」後であれば、相殺を禁止する。

8.破産管財人による任意売却と担保権の消滅

破産管財人が破産財団に属する財産について、強制執行によらず、任意に売却したうえで一定額を破産財団に組み入れることが債権者一般の利益に適合する場合には、担保権を消滅することができる。この制度を導入した場合の担保権者と他の債権者との利害調整手続について検討中である。

9.自由財産

自由財産のうち金銭については金額を引き上げる。現在国会審議中の担保・執行法制において、金銭の差押禁止財産は50〜60万円となる見込みであるが、中小企業の経営者等の再起促進等の観点から、破産法上の自由財産をさらに拡大するべきかどうかを検討している。

《担当:経済本部》

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