経済くりっぷ No.29 (2003年10月14日)

9月25日/意見書

政党の政策評価の尺度となる「優先政策事項」等を公表


「優先政策事項」と「企業の政治寄付の意義」について

2003年9月25日
(社)日本経済団体連合会
  1. 日本経団連では、本年5月12日に「政策本位の政治に向けた企業・団体寄付の促進について」を公表した。その中で、政党の政策評価を基に企業・団体の自発的な政治寄付を促進するとの方針を明らかにした。

  2. この方針に基づき、日本経団連では、会員企業・団体ならびに外部有識者の意見を聞き、政策評価の尺度となる「優先政策事項」を取りまとめた。ここで取り上げた政策は、本年1月に公表したビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」に掲げた民主導・自律型の経済社会を実現するため、緊急かつ重要な項目を列挙したものであり、各政党の真剣な取り組みを期待する。この政策評価を契機に、様々な機関が独自に政党を政策で評価し行動する気運が高まることを希望する。

  3. 「優先政策事項」とあわせて、企業の政治寄付の意義に関する考え方を改めて整理し、取りまとめた。企業の政治寄付は、(1)政策本位の政治の実現への貢献、(2)議会制民主主義の健全な発展への貢献、(3)政治資金の透明性向上への貢献の3点から極めて重要であると考える。

優先政策事項

日本経団連では、本年1月「活力と魅力溢れる日本をめざして」と題するビジョンを発表した。日本の政治・経済・社会システムは、少子・高齢化の進展、グローバル競争の激化といった環境変化に、迅速に対応できなくなっている。そこで、ビジョンでは、従来の官主導型の成長モデルを転換し、民主導・自律型の経済社会のグランドデザインを示した。即ち、われわれが目指すのは、個人や企業が自由に創意工夫を発揮し、個々の多様性に根ざした活力を全体の発展に結びつける経済社会である。
このためには、政治が強いリーダーシップを発揮し、経済・産業の活性化、資産デフレの克服と、簡素で効率的な政府づくりを目指した改革を強力に推進していかなければならない。
このような観点から、当面、下記の10項目の政策の推進が極めて重要であると考える。

  1. 経済再生、国際競争力強化に向けた税制改革
  2. 将来不安を払拭するための社会保障改革
  3. 民間の活力を引き出すための規制・行政改革
  4. 科学技術創造立国の実現のための環境整備
  5. エネルギー戦略の確立と産業界の自主的取り組みを重視した環境政策の推進
  6. 心豊かで個性ある人材を育成する教育改革の推進
  7. 個人の多様な力を活かす雇用・就労形態の促進
  8. 活力とゆとりを生み出すための都市・住環境の整備
  9. 地方の自立を促す制度改革と活性化対策の推進
  10. グローバル競争の激化に即応した通商・投資・経済協力政策の推進

優先政策事項[解説]は次項に掲載

企業の政治寄付の意義

1.政策本位の政治の実現への貢献

グローバル化が進む中で、各企業は国際競争力強化に向けた懸命な自助努力を続けている。しかし、規制改革、税制改革、通商協定の締結といった民間企業の活力を引き出すための制度改革は、政治が責任をもって実現すべきである。「官」から「政」に政策決定の重心が移動する中で、改革断行の政策立案から実行に至る過程で政党の果す役割は大きい。企業も、政党の政策立案・推進能力の強化に貢献する観点から、資金面でも応分の協力をすべきである。政策評価に基づく企業寄付は、政党間の政策を軸とした競争を加速し、政策本位の政治の実現に貢献する。

2.議会制民主主義の健全な発展への貢献

議会制民主主義は、民間との幅広いコミュニケーションを通じて民意を吸い上げ政策を立案、実行するというコストのかかるシステムである。その維持・発展に必要なコストについても、制度の趣旨からいって、本来、民間が主体的に担うべきものである。企業も法に則り、「良き企業市民」としての社会的責任の一端を果す観点から、応分の負担を行なうことが期待される。政党交付金の導入以来、主要政党の多くは公的助成への依存度を大幅に高めているが、民主主義の根幹である政党の自立性・主体性の確保の上から、企業を含む民間の自発的な寄付の意義を再認識する必要がある。

3.政治資金の透明性向上への貢献

政党本部への寄付は、個別の利益誘導とは無関係であり、現在、政治資金ソースの中で最も透明度が高い。これを充実させることは、政治資金全体の透明度の向上に寄与する。使途についても、企業の政治寄付を政策立案・推進のために充てるよう求めることによって、さらに透明度を高めることができる。

以上


優先政策事項【解説】

1.経済再生、国際競争力強化に向けた税制改革

雇用の維持・創出、国民生活の安定のため、経済の再生と企業の国際競争力強化に資する税制改革を進める。
世界的に割高な法人実効税率を少なくとも欧州主要国並みに引き下げるとともに、租税負担と社会保障負担を合わせた企業の公的負担を抑制する。また、2004年度税制改正において、欠損金の繰越・繰戻制度の拡充、減価償却制度の見直しによる設備投資の刺激、速やかな事業再生に向けた税制措置、証券市場の活性化のための税制措置、新事業・新産業の創出を支援するエンゼル税制拡充などを実施する。

2.将来不安を払拭するための社会保障改革

少子高齢化に伴う国民の社会保障制度に対する不安を払拭するため、社会保障、財政、税制を一体的に改革する。
潜在的国民負担率を将来にわたり50%以下に抑制できる持続可能な社会保障制度のプランを2003年度中に提示する。この一環として、消費税率の引き上げを検討する。また、2010年代初頭までに、プライマリー・バランスの均衡を目指し、歳出構造改革を進める。

3.民間の活力を引き出すための規制・行政改革

官主導社会から脱却し、個人や企業の多様な挑戦によって新たな雇用や事業を生み出し社会全体を発展させるため、規制・行政改革を推進する。
2004年度以降の規制改革推進体制の柱として、民間人主体による推進機関の設置や新たな推進計画の策定などを実施するとともに、規制改革基本法の制定をはかる。医療・福祉・保育、教育、農業分野への株式会社の自由な参入を構造改革特区での導入を突破口に実施するなど、規制改革を拡充、推進する。さらに、道路公団民営化や郵政事業民営化などの特殊法人・公社等の改革、公務員制度改革など、行政改革を推進する。また、競争政策について、法体系全体と整合した措置体系、適正な審査・審判手続きなどを確立する。あわせて、国際競争力強化に資する商法改正を実現する。

4.科学技術創造立国の実現のための環境整備

科学技術創造立国の実現を目指し、産業の国際競争力を強化する。
バイオ、IT、環境、ナノテクノロジー・材料、航空・宇宙などの先端技術開発とその産業化・普及の促進に努める。あわせて、知的財産政策や国際標準化政策の強化、産官学の連携などの施策を戦略的に進める。

5.エネルギー戦略の確立と産業界の自主的取り組みを重視した環境政策の推進

国民生活や経済活動の安定・繁栄の基盤を強化するため、エネルギー・環境政策を推進する。
安定供給、環境保全、経済合理性を柱とする総合的なエネルギー戦略を確立し、国産の基幹エネルギーとして原子燃料サイクルを含む原子力を活用しつつ、エネルギー源の多様化、ベストミックスを進めるとともに、国際熱核融合実験炉(ITER)の日本誘致を実現する。また、地球温暖化防止のため、省エネ・新エネ・燃料電池の技術開発など産業界の自主的取り組みを尊重した政策を推進する。環境税など安易な強制手段は採用しない。あわせて、二酸化炭素の大排出国である米国や中国などに国際的枠組みへの参加を促す。

6.心豊かで個性ある人材を育成する教育改革の推進

創造性や国際性に富み、心豊かで個性ある人材を育成するため、教育の質の向上と教育現場の活性化をはかる。
思い切った規制改革を進め、教育現場に競争原理と評価制度を導入する。この一環として、株式会社やNPOによる学校設立、インターナショナルスクールの拡充等により、多様な教育サービスの実現をはかる。

7.個人の多様な力を活かす雇用・就労形態の促進

社会の活力を引き出すため、個人の多様な価値観を反映した雇用・就労形態を整備し、円滑な労働移動をはかる。
労働市場・労働基準に関わる規制を改革し、人材派遣の拡充や裁量の幅を持った労働形態の促進をはかる。また、民間による職業紹介、能力開発を大幅に活用して、再就職促進体制を整備する。同時に、雇用保険三事業の抜本的な見直しをはかる。さらに、少子・高齢化に対応し、子育て環境の整備を含め、女性および高齢者の就労を促す体制を整備する。あわせて、専門的・技術的分野や供給不足になる分野を中心に外国人を積極的に受け入れるための体制を整備する。

8.活力とゆとりを生み出すための都市・住環境の整備

社会全体の活力とゆとりを生み出すため、防災の視点も踏まえて、都市・住環境の整備・改善をはかる。
大都市圏の交通・物流など都市基盤を戦略的・効率的に整備し、国際的にも魅力ある都市を実現する。特に、首都圏の空港を整備し、国内・国際線の接続機能強化等を実現する。また、社会資本の整備に当っては、民間の経営ノウハウや資金の活用をはかり、サービスの向上や運営の効率化を進める。さらに、住宅・住環境の向上のため、住宅関連の税負担を軽減するとともに、住宅取得支援税制を拡充する。

9.地方の自立を促す制度改革と活性化対策の推進

日本全体の活性化のため、中央集権・官主導体制を転換し、地域の自立を促し、それぞれが特色を活かして発展できる施策を推進する。
地方の行財政改革を推進するとともに、国庫補助負担金、地方交付税を大幅に見直し、適切な税源移譲により、自立可能な地方財政基盤を確立する。また、州制導入を視野に入れ、地方の税財政の抜本的な見直しや自治体の合併を推進する。さらに、地域活性化に向けて、中小企業の活力を高める。あわせて、観光の振興をはかる。

10.グローバル競争の激化に即応した通商・投資・経済協力政策の推進

グローバル競争の激化に即応して、対外、対内の貿易・投資活動を促進する政策、ならびに経済協力政策を戦略的に進める。
WTO新ラウンド交渉の早期一括合意に努める。また、二国間の経済連携協定について、2003年内に、メキシコとの実質合意をはかるとともに、韓国、タイとの正式交渉を開始する。この一環として、時代に則したわが国農業のあるべき姿を確立し、農業分野の構造改革を進める。さらに、政府開発援助(ODA)を国益重視の視点から活用しつつ、二国間ならびに各地域との政治・経済・社会関係を強化する。

以上

《担当:社会本部》

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